順逆無一文

第65回『軽自税が2倍になった日本○○!!!』

 あまりに大幅な増税に対する怒りを少しでも緩和したかったのでしょうか、昨年4月から始まる予定だった新税率実施が一部、1年間延期されて、この4月からひっそりとスタートしました。二輪車の“軽自動車税”増税です。一番生活に密着している乗り物といえる原付などでは、なんと税金が一気に2倍に。公の税金が一気に2倍、などと前代未聞の暴挙ぶりですが、相手がバイク乗りなら何でもあり、が今の為政者の皆さんのお考えなのでしょう。
 
 二輪車の有料駐車場などほとんど存在しなかったというのに、駐禁の取り締まりだけを一気に厳格化して都市部の二輪利用者を絶滅させようとした、2006年の駐車違反取り締まり強化の時とまったく根は同じ。市民生活の実情など歯牙にもかけずに、取り締まりのみを強行したのとイメージがダブります。
 
 事の始まりは、2013年12月12日に自民、公明の両党が取りまとめて発表した「平成26年度税制改善大綱」にあります。自動車に関連する税制に関しても、自動車取得税、軽自動車税、自動車重量税の3税を見直す、というもので、このうち自動車取得税は、2014年4月にスタートする消費税率の引き上げに伴って落ち込みが予想されていた販売面をフォローするため、それまでの5%から3%へと引き下げるとしたのでした(ちなみに消費税率が10%になった時点でこの税は廃止されることが決定しています)。税金が安くなるのはもちろんうれしいですが、当然それだけでは済むわけがありません。税金を安くするには、それによって落ち込む税収に見合った新たな収入源を探さなければなりません。で、狙われたのが軽自動車税というわけでした。
 
 大綱では、2015年4月1日以降に新車登録される車両の軽自動車税を、軽乗用車では1.5倍に、その他の軽四輪車で1.25倍に、という新税率を課すことが発表されました。ここで“策を弄した”と思われるのが二輪車。四輪の軽自動車よりも1年先送りして2016年4月から新税率を実施するというのでした。何故? それは内容を見れば明らかですね。
 
 2016年4月1日以降、二輪を所有するユーザーが負担しなければならない新たな軽自動車税は、

○原動機付自転車(総排気量50㏄以下):これまでの年間1,000円→2,000円
○原動機付自転車(総排気量50㏄超~90㏄以下):年間1,200円→2,000円
○原動機付自転車(総排気量90㏄超~125㏄以下):年間1,600円→2,400円
○軽自動車(二輪)(総排気量125㏄超~250㏄以下):年間2,400円→3,600円
○小型自動車(二輪)(総排気量250㏄超~):年間4,000円→6,000円

(※これらの金額はあくまで標準で、各市町村においてさらに上限1.5倍までの額で課税できることになっています)
 
 ですが、なんと最高で2倍。そしてさら二輪車向けにはもう一つの“作為”が潜んでいました。それは「新車登録される車両に実施される」という文言は四輪に限っての話で、二輪の場合は、新車だけに新税率を適用するのではなくて、それまでの保有車にもすべて新税率を課するというものでした。1年間の猶予という飴を与えておいて、とんでもない仕打ちが控えていたものです。
 
 二輪と四輪で処遇が異なったのは、「二輪は登録車両だけでなく、届け出のみの原付等もあり、新車かどうかの判断が難しい」との、もっともらしい理由なのだそうですが、そんなことはやる気になれば既存の届け出車両と新車の判別方法など、いくらでも考えられるはず。要は「二輪のことなど…」の切り捨て理論が先に立ったのでしょうことは容易に想像がつきます。
 
 当時、スズキの会長さんがことあるごとに孤軍奮闘で“国の暴挙”を諫めていたのが印象的でしたね。軽自動車と二輪車をメインに販売するスズキさんとしては、まさに死活問題だったはずです。「決まった以上はルールに従ってやるしかない。ただ、消費税を3%上げるのに3、4年も議論してきたのに比べ、軽自動車税は50%という大幅なアップがあっという間に決まったことは世間の常識に照らしてどうなのか、考えてほしい。軽自動車は、全自動車の販売の41%にまで成長している。これが落ちることがないよう努力をするというのが、われわれメーカーにとって重要なことだと思っている」(2013年12月、NHK NEWS WEBより)。
 
 消費税増税のために落ち込みが予想される自動車販売、その落ち込みを税金面からバックアップするために引き下げる自動車取得税、そしてそれによって目減りしてしまう地方税の税収を穴埋めするために人身御供とされた軽自動車税、の構図でした。自動車取得税も軽自動車税もともに地方税です。
 
 また、自工会(日本自動車工業会)としても黙って受け入れたわけではなかったのですが。2014年9月17日、二輪車メーカー4社が合同記者会見を開き、2015年度税制改正に向けて、「2輪車にかかる軽自動車税の増税対象を15年度以降に新規取得する新車のみとするよう要望する」との発表を行ってます。
 
「2輪車は日常生活に不可欠。既販車まで対象にするとユーザーに過重な税負担を強いることになるので見直しを求めます。2014年度税制改正は軽自動車税の増税について、軽四輪車は15年4月1日以降に取得する新車のみを対象とした一方、二輪車は既存車両を含むすべての車両を対象とした。ちなみに2013年の国内の二輪車新車販売は約46万台。保有台数は約1,200万台で、新車のみを増税対象とする場合と比べて約26倍の規模に上り、多くのユーザーに影響を及ぼす」と。
 
「たかが1,000円や2,000円くらい…」いつまでもゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ、と思われた方もいるかと思いますが、金額の問題ではありません。二輪車のユーザー、ひいては二輪車というものに対する国の姿勢を問おうとしているのですから。
 
 昨今、“自動運転車”が話題になってますが、あと数年もすれば実用化の段階に入るでしょう。その時に障害になるものがありますよね。そう、バイクや自転車です。自転車は走行レーンを整備(バイクではほとんど手を付けようともしなかった“専用通行帯”を自転車のためならせっせと整備しています)自動運転車と分離するとして、バイクはどうします? これまでの国の発想でいけば、当然「邪魔になるならバイクなんぞ走らせなければいい」となるのでしょう。
 
 二輪車メーカーさんや業界の皆さんたちは、今、一生懸命に“二輪車の復活”を図ろう、“二輪車市場を再活性化”しよう、などと頑張ってくれています。もちろんそれが夢で終わらないことを切に願いますが、自工会のアピールですらこのように、どこ吹く風で無視を通した国です。交通社会の中での二輪車の位置づけや、二輪車も活躍できるよう環境改善しようなどと、考えてくれるはずがないでしょう。いや、それ以上に、今度こそ本腰を入れて“自分勝手”で、“危険”で、“迷惑”な存在の二輪を排除する絶好の機会として利用してくることだって考えられます。
 
“○○二輪車議連”などと一部で活動していただいている政治家の皆さまもいるようですが、これまで何か本当に二輪ユーザーの役に立つ活動をしていただけたのでしょうか。「本当は軽自動車税は1,000円から10,000円にアップされるはずだったのだけど、われわれが活動してそれを阻止、2,000円で手を打ってもらった!?」などという具体的な活動の実績があるなら教えていただきたい。「単なるガス抜き」、「二輪車駐車問題しかり、今回の増税しかり。なんの力も発揮できてないことはあきらかですよね」と言うライダーは一人や二人じゃない。「変に希望を持たせてもらってしまっただけ罪作りだった」とさえ言い切っているライダーもいます。
 
 何も特別なことを要求しているわけじゃない。二輪ユーザーもあくまで交通社会の一員として“普通に”、“人間並みに”扱って欲しいと思っているだけなのですが…。
 
 二輪のこと、もちろん本気で考えていただきたいですが、それ以前に保育園問題をはじめとする社会福祉などの整備、充実は絶対に実行してくださいね。勝手に押し付けられるとはいえ、庶民はきちんと税金払ってるのですから、政治家、そしてお役人の皆さま。あなた方は、こういった諸問題を解決するために存在しているのでしょう。株式会社日本を動かしている社員として、あなた方のこれまでの場当たりに終始する勤務実態じゃ、一般の私企業ならとっくに減給、降格、そしてクビです。
 
(小宮山幸雄)
 

※軽自動車税:地方税法(昭和25年7月31日法律第226号)に基づき、軽自動車や二輪車などに対し、主たる定置場の所在する市町村において、その4月1日現在の所有者に課される税金(地方税・普通税)。
 
※自動車取得税:地方税法(昭和25年7月31日法律第226号)に基づき、都道府県が、取得価額が50万円を超える自動車の取得に対し、その取得者に課す税金。2014年4月からの税率は、自家用自動車が3%、営業用自動車と軽自動車は2%。2009年4月に、目的税から普通税に改正され、使途制限が廃止された。二輪車はなし。消費税10%への増税時にこの税自体が廃止されることに決定。(地方税・普通税)
 
※自動車重量税:自動車重量法(昭和46年5月31日法律第89号)に基づき、検査自動車と届出軽自動車に対して課される。税収の三分の一は、道路関係の費用に使うことを目的とする自動車重量譲与税として市町村に譲与される。二重課税の問題があるとして自動車業界は廃止を求めている小型二輪車は車検ごと、軽二輪車は取得時、原付はなし。(国税)
 
※自動車税:地方税法(昭和25年7月31日法律第226号)に基づき、道路運送車両法第4条の規定により登録された自動車に対し、その自動車の主たる定置場の所在する都道府県において、その所有者に課される税金(普通税)。軽自動車や二輪車の軽自動車税にあたるもの。毎年4月1日現在の所有車両にかかる。(地方税・普通税)

 


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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