オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ750?。
第47回 昨年、欠席にて……越冬2016

 
 平和だ。なんと穏やかな光景だろう。車のフロントガラス越しに見る光景はまるでモニターの映像を見ているように何の不安も感じない。それこそどんなに速度を上げようと(軽トラなんでそんなに上がらないんだけど)それは変わらない。まったく、車と言うのは何とも便利で快適なものだ。今さら言うほどの事でもないがバイクと比べると同じ道を走る乗り物でありながらこれほどまでに緊張感のないものかと呆れ返ってしまう(本当はもっと緊張しないといけないんだけど)。まぁその代償と言うわけではないが面白味には少々欠ける。しかし、この時期に在ってはこの選択による快適さは捨てがたい。時は、冬真っ盛りの年末。2015年のだけど。ふっ、ちっとも寒くない。しかもそんな快適な環境に鎮座しながら向かっている先は南国土佐高知県。そう、年末年始、いつもの年越しだ。いつもと言いながら昨年は東京で紅白歌合戦を見ながら過ごしたオレだがいざいつもの道を桂浜に向かって走るとそんなブランクは感じない。というか自分の中でまったく違和感はないのだが今回はいつものように一週間近くも滞在なんてことはない。年を越してからの元旦に一度、家に帰らなければならない。まぁお家の事情というやつだ。つまりは毎度のごとくダラダラとホームレスのように過ごすわけにはいかない。ゆえにこの種崎ではやる事をいくつかに絞っている。まずはひろめ市場で鰹のタタキを食う、皆で大晦日に年を跨ぐ、そして少しはキャンプっぽい事もやる。バイクを走らせるのはまた別に考えてある。



四国の高速はいつも交通量は少なく快適に走る事ができる。天気も上々。快適ではあるが面白味のない車の運転は眠気を誘う


大抵の集会で存在するフライング部隊。今年の種崎はこの3名。忙しいはずの年末に他にやる事がないとは、何とも幸せな……まぁオレもだけど
四国の高速はいつも交通量は少なく快適に走る事ができる。天気も上々。快適ではあるが面白味のない車の運転は眠気を誘う 大抵の集会で存在するフライング部隊。今年の種崎はこの3名。忙しいはずの年末に他にやる事がないとは、何とも幸せな……まぁオレもだけど

 
 そんなわけで何の苦労もなく昼頃に種崎入りするとすでにテントが3つほど立っていた。今年は全国的にあきらかな暖冬であるが高知はそれに輪をかけるように暖かい。テントの主たちは皆、そんな陽気の中でまだ気持ちよく寝ているようだ。誰であるかはわかっている。がんじーにコージ、そして吉岡氏だ。この3人の事だ、どうせ遅くまで呑んでいたのだろう。オレはその横でテントの設営に取り掛かった。テントを張り終える頃に3人とも起きてテントから這い出してきた。

 そこからは……呑むべし。ひろめ市場での忘年会は翌日に予約をとっているらしい。しかし翌日には九州へ向けて移動する予定でいる吉岡氏が今夜、一人でもひろめへ行くというのでオレはそれに付き合う事にした。翌日? もちろん行くさ。それとこれとは別だ。あたりが暗くなり始めた頃オレ達二人はバスに揺られ高知の街中に降り立った。年末の街呑みももはやそうする事が当たり前のように定着してしまった。もちろん焚火を囲んでの野宴が軸にはなっているが頑張って生きた一年の締めくくりだ、ちょっとくらいの贅沢もいいだろう。ひろめ市場はいつものように多くの人で賑わっていた。毎年、穴場的に空席のあるお気に入りの店(次の日の予約はとっている)もこの日は予約が入っているようだ。翌日のオレ達の予約もあり今や予約なしでこの時期、席を確保できなくなってしまった。なんとか他の店で腰を落ち着ける事ができたがこれがもう2,3人多かったらしばらく路頭に迷うところだった。さてここから年季の入ったバイク乗り二人の深いトークが始まる……はずもなく、しばらくの間はオーダーしたカツオのタタキとあおさ海苔の天ぷらを頬張りながら酒を呑み、この頼んだ二品がいかにすばらしく稀有な存在であるかをくどくどと。まぁそんなもんですよ。特にオレなどは昨年来ていないだけに今年はいつも以上に楽しみにしていたためヒジョォ~に満足である。もちろん他の話なんかもたっぷりとしたよ。深い話もいっぱいした。楽しそうに走り回っているからと言って悩みや問題がないわけではない。誰だっていろいろな事を抱え込んで生きているものなのですよ。明日もここへきて同じものを頼み同じものを食いそれらを同じように称賛するだろう。だが同じような話にはならないだろう。基本的にサシで呑んだ時の会話は他では語ったりしないものだ。ひろめ市場でたらふく呑んだオレ達はいつものようにシメにいつもの屋台で餃子をつつきながらもうひと呑み。そして種崎に戻ってダメ押しの……呑み。きっと明日も同じように大人数がこれと同じ道筋を辿る事だろう。



いつ来ても独特の空気を醸し出しているひろめ市場。中に入ると屋台風な店が立ち並びオープンな空間が広がっている
いつ来ても独特の空気を醸し出しているひろめ市場。中に入ると屋台風な店が立ち並びオープンな空間が広がっている。


他ではなかなかお目にかかれないカツオの塩タタキは肉厚があって食感、味ともに絶品。少々、お高いですが。最後は地元では超有名な屋台の餃子でもうひと呑み


他ではなかなかお目にかかれないカツオの塩タタキは肉厚があって食感、味ともに絶品。少々、お高いですが。最後は地元では超有名な屋台の餃子でもうひと呑み
他ではなかなかお目にかかれないカツオの塩タタキは肉厚があって食感、味ともに絶品。少々、お高いですが。最後は地元では超有名な屋台の餃子でもうひと呑み。

 
 そして翌日。この日を境に続々と集まってくるバイク乗り達。その生息地は広範囲だ。夕暮れ時には先日同様に街呑み参加者全員で市内へ向かうバスに乗る。この日も種崎組の貸し切りといった体であるが昨日は二人で貸し切り状態。そして今日は……ほぼ座席を占領した様な形である。途中に乗車した地元のお客さんは普段見慣れない珍客に少々、戸惑ったのではないだろうか。いや、戸惑ったどころではなかろう。きっと迷惑だったはずだ。路線バスを一台チャーターした様な形でオレ達はひろめ市場へたどり着いた。そして予約した店を丸ごと貸し切り宴会のスタート。先日と比べたらそりゃ、まぁ賑やかなもんですよ。ただひたすらに呑んで食って騒いでと……久しぶりである。しょっちゅうやっていたら我ながらただのアホかと思ってしまうが(しょっちゅうやってた時期もあった)たまにはこういうのもいいものだ。そして前日と同じ屋台へ行き、種崎に戻ってと……案の定、昨日とまったく同じ流れである。だが人数が十倍以上違うと楽しみ方はガラッと変わる。二日連続して同じ行動をとりながら違うシチュエーションを楽しんだオレなのであった。



バスを待つ怪しい集団めがけてパトカーの登場。誰かが通報したのだろうか。いや庵谷、ただの通りすがりだったようです。ふぅ~~~っ!
バスを待つ怪しい集団めがけてパトカーの登場。誰かが通報したのだろうか。いや、ただの通りすがりだったようです。ふぅ~~~っ!


バスをチャーターして貸し切ったわけではない。路線バスの座席半分以上を種崎組が占拠。みんなちょっとした修学旅行気分?
バスをチャーターして貸し切ったわけではない。路線バスの座席半分以上を種崎組が占拠。みんなちょっとした修学旅行気分?


狭い店内にすし詰め状態で種崎忘年会スタート。何だかんだと皆歳とりましたなぁ


狭い店内にすし詰め状態で種崎忘年会スタート。何だかんだと皆歳とりましたなぁ
狭い店内にすし詰め状態で種崎忘年会スタート。何だかんだと皆歳とりましたなぁ。


結局この日も最後は屋台で……しかし人数が多すぎるため店の人がわざわざ店の外に専用のスペースを作ってくれた


前夜、たらふく食ったにもかかわらず昼間に、公園近くのたたき道場でたたき定食を食べる。自分でたたきを作る体験もあってこれはこれでまたウマイ
結局この日も最後は屋台で……しかし人数が多すぎるため店の人がわざわざ店の外に専用のスペースを作ってくれた。 前夜、たらふく食ったにもかかわらず昼間に、公園近くのたたき道場でたたき定食を食べる。自分でたたきを作る体験もあってこれはこれでまたウマイ。

 
 そしてその翌日は種崎3日目の大晦日。この3日間、毎度の事であるがほとんど同じ時間の過ごし方である。この大晦日に限っては深夜0時と同時にみんなで新年を祝って乾杯した。



今年の初日の出は種崎の海岸から。また一年が始まった。今年はどんな年になる事やら……まったく予想がつきません。マジで


今年の初日の出は種崎の海岸から。また一年が始まった。今年はどんな年になる事やら……まったく予想がつきません。マジで
今年の初日の出は種崎の海岸から。また一年が始まった。今年はどんな年になる事やら……まったく予想がつきません。マジで。

 これでひとまずはこの種崎でのノルマをこなしたことになる。そして元旦に撤収。このちょっと早目の撤収はオレの中で過去を振り返るとかなり異例な事である。そう今年はちょっと趣向を変えてみた。前述した通りちょっとした野暮用でもあるがそれに関してはそう時間はかからない。明けて正月の2日。オレはCB750カフェを走らせ再び四国の地に舞い戻った。行き先は新築されたコージ邸のある徳島。種崎の反省会である。まぁほとんど反省などしないのだが。その初日は今回の種崎に来ていた新潟のナッキーと栃木のユウくんが帰り道に立ち寄る事になっている。それに合わせる形で夕方、オレはコージの家を訪れた。新築したというコージの家は2階建て風な平屋のちょっとおしゃれなデザインの造りで立派なガレージを完備している。コージのくせに。ちなみにオレのCBは泊まりの場合、ガレージ付きの所にしか行かない事に決めている。コージの家ではその家庭内にちょっとしたヒエラルキーが存在してその頂点にいるのは2匹の猫だ。その次が嫁のチーちゃんでコージは最下層に位置する。よって家に入るとまずは猫に挨拶する事が義務付けられている。オオカミ男を名乗るこのオレが猫に頭を下げるなど何とも不自然で屈辱的ではあるが仕方あるまい。バカバカしいとは思ったが取りあえず猫に向かって名を名乗りおじゃましますと……見事なまでにガン無視である。まったく猫という生き物は愛想がない。可愛い事は認めるが最近の猫ブームがオレには不思議でならない。オレが到着してほどなくしたところでナッキーとユウ君が到着した。オレ達はコージお薦めの居酒屋へ行き乾杯した。さぁ反省無き反省会の始まりである。今回は集まった面子の中でオレだけが少々、飛びぬけた年長者という事になる。ナッキーもユウくんももう何度も会ってはいるのだがゆっくりと語り合った事はなかった。もちろん大宴会の中であっても話すことはできるし話したこともある。だがそんな時はいつも尻切れトンボで終わる事が多い。そんな理由もあって今回のような場はとても貴重だ。そんな一回り以上も違う世代との呑みは実に興味深いものだった。

 
 さすがに一回り以上世代が離れているとバイクライフからしてそのスタートも過程も大きく異なっている。そのどちらが恵まれていたかは価値観にもよるだろうがやはり80年代を経験したオレ達からするとその選択肢が多かった事や今に比べて縛りが緩かった事などでオレ達の世代の方が幅が広く多くの経験ができているように思う。片やブームに乗っかり走り始めそのブームが去ってからも走り続ける80年代の生き残り、方やブームとは無縁の中、己の価値観によってそれを選んだバイク乗り。そのスタートがどうであれバイク人生の道中にこうして出会いグラスを重ねながら語り合っている。道は違えど途中途中、辿り着く場所は同じなのではないかと思えてくる。世代も価値観も始まりも異なるバイク乗り。そのどれもが間違っているわけではなく正しいわけでもない。なぜなら皆、まだその途上でしかないのだから。それゆえにお互いが言葉を交わすとき相手に対する“否定”だけが唯一のタブーとなる。いやぁ~実に楽しい。この反省会(反省などしてないんだけど)、その初日は上出来だ。そう、気づいたかね。2日目があるのですよ。翌日にはこの日の若き世代と入れ替わるようにオレとほぼ同じ世代のメンバーがやってくる。社会的に見てその存在自体がタブーなんじゃないかと思えるような奴らが。

 コージの自宅は徳島の港に近い場所に在る。つまり東京、和歌山方面のフェリー乗り場へのアプローチが容易でそっち方面から来る奴らにとっては利用価値が高く、身内内ではライダーハウス化している。今回、種崎参加組の中で東京から来たがんじーと鈴鹿から来たイイダ氏が帰りにフェリーを利用する事もあってこの日、コージ邸に立ち寄る事になっている。そして夕方少し前に現れたがんじーとイイダ氏。スポーツスターに跨るがんじーの姿はキャンプ場で呑んだくれている姿からは想像できないほどに様になっていてそのギャップは相変わらず。SRXのイイダ氏はいつも通りまんまな旅の風情満載である。日暮れ時にオレ達は先日と同じ店に陣取り同じものを注文し乾杯した。ん~~~、実に濃い。いやいや、先日も結構濃密な時間であったがそれを遥かに凌駕する濃さである……雰囲気が。話の内容はおそらく聞く人によるだろうがかなり薄っぺらい。ところがそんな薄っぺらいトークもこいつらが語ると妙に説得力がありメチャメチャ面白いから不思議だ。まぁそれはオレがこの二人の経験値をある程度理解しているという事に起因してるとは思うがそれにしても不思議だ。さんざん飲み食いして店を後にしたオレ達はシメに立ち寄ったラーメン屋で食べるのが苦痛でしかない激辛ラーメンに苦戦していた。そこへ九州から帰り道の吉岡氏が合流。ふっ、この日の面子においては最高のプラスワンだ。結果、シメであるはずのラーメンにビールが追加され、さらにはコージ邸に戻り呑みは延長コースに突入。いつ寝たのかは定かではない。たしかな記憶と言えばやたらと猫に気を使いながら呑んだ事とこの日も反省らしきことは欠片もなかった事だ。ただ……今宵はとてつもなく面白かった。面白いと言っても笑えるという意味ではないんだけどね。



コージ邸、種崎反省会二日目はもうドロドロです。先日の若者二人もあと十数年するとこうなっちゃうんですかね。まぁそれはそれでちょっと面白いんですが


コージ邸、種崎反省会二日目はもうドロドロです。先日の若者二人もあと十数年するとこうなっちゃうんですかね。まぁそれはそれでちょっと面白いんですが
コージ邸、種崎反省会二日目はもうドロドロです。先日の若者二人もあと十数年するとこうなっちゃうんですかね。まぁそれはそれでちょっと面白いんですが。

 翌日、がんじーとイイダ氏を港まで見送りオレは帰路についた。今年もスタートは上出来だ。さぁこの年始の休暇が終わるとまたしてもジプシー生活が待っている。ますは一月いっぱい山口県の岩国、そしてそのあと九州長崎で半年近くを過ごす事になる。不安などありはしない、日本中どこへ行っても土地勘はある。そして遊んでくれる仲間がいる。それこそがオレの最大のスペック。よほどのハプニングでもない限り有意義な時間だけが待っている……はずだったんですがねぇ。世の中、一寸先は何が起こるかわからいものですなぁ。


[第46回へ][第47回][第48回]
[オオカミ男の一人ごとバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]