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すっかりご近所となってしまった本郷君から新しいマシンがついに来たと連絡があった。そのマシンと言うのはバイクではない。新型スズキアルトワークス。ターボエンジンを搭載した軽のスポーツカーである。次の休日に小倉さんの誘いで日本三大稲荷のひとつである祐徳稲荷で開催される車のイベントに出かける予定で本郷君もそれに来るという事でその時にじっくりと見させてもらう事になった。この時点で九州に来てもうふた月ほど過ぎていたがほとんどバイクに乗れていない。もちろんちょくちょく日常の足として使ってはいたがとにかく休日となるとタイミング悪く雨が降る。さすが長崎と言うべきなのか。そうなるとどうしても軽トラの使用頻度が高くなってしまう。 しかし理由は天気だけではない。オレのいる松浦市と言う所はいろんな意味で少々、便利が悪い。そうなるとどうしても伊万里か佐世保の街まで出なければならないのだがこれが双方ともに距離にして30キロ近く離れている。オレは伊万里へ行く事が多かったのだがその理由は伊万里までの道中に建設中の西九州道の無料区間があってそれを利用する事によって距離はあるが時間的には片道20分ほどで行く事ができる。そしてこの時間短縮のカギとなる高速区間はエイプでは走れない。実は伊万里から唐津へ抜ける区間でも西九州道の無料区間があってそれをうまく繋げて利用すると相当に便利なのだ。もてあますほどの時間がある時はいいがそうでなければやはりエイプでは役不足となってしまう。そこへ持ってきて長崎特有の天候不順とくればエイプの出番は極端に減る事となっていった。 さてそして休日。この日は小倉さんのサニトラに便乗させてもらって祐徳稲荷まで行く事になっている。そういう時に限って天気は良い。まぁそんなもんですな。朝、本郷君の家に行くとピカピカのワークスが停まっていた。試乗してみてと言うので近所を一回り乗させてもらう事にした。ドライバーズシートに収まるとまず車内の広さに驚かされる。最近の軽はどれもが広い居住空間をもっているがワークスのようなスポーツ指向の車はもう少し狭いイメージがあったので少し意外だった。走らせてみるとこれがまた速い。時速100キロ付近までの加速は軽自動車とは思えないほど力強く鋭い。足回りもこの時点ですでに少し手を加えているらしくコーナリングもバッチリ決まる。これは面白い。やはりモーターサイクルは二輪でも四輪でも走る事を楽しむにはマニュアルミッション車が面白い。
そうこうしている所へ小倉さんがサニトラでやってきた。このサニトラも世代的にオレの興味を大いにそそる。さっそくワークスとサニトラの二台で祐徳稲荷を目指した。この日、祐徳稲荷では旧車、珍車のイベントが開催されていた。会場に着くと駐車場付近ではアイル・オブ・生月ではおなじみとなっていた発動機同好会が何をするでもなくただひたすらに骨董品のような発動機を動かしていた。 そこから先神社の参拝道には桜が咲き乱れる中、昭和日本の代表的な名車の面々がずらりと並んでいる。2TGエンジンのレビンにトレノ、ホンダS600と800、ヨタハチにハコスカGT-Rなどなど。これはまたスバラシイ。なんせそのほとんどが現役で走っている車両である。これだけ古い車両を良い状態で維持しようと思うと当然、金も手間もかかる。これは単なる金持ちの道楽なのだろうか。いや、違う。モーターサイクルの世界で自分の好きな車両に湯水のように金と手間をかけるのは2輪、4輪を問わず情熱の問題であるとオレは思う。自分にとっての宝物さえあれば後は失っても構わないと思ってしまうあの感覚だ。 ここでは展示車両としてバイクは一台もなかった。それでも飽くことなく時間を過ごす事ができた。前にも言ったかもしれないがオレは4輪も結構、好きなのだ。実はオレの車両を操るセンスはバイクよりも車の方に向いていると昔、言われた事がある。だがどちらを選ぶ?と訊かれればオレは迷わずバイクと答えるだろう。なぜかって?そりゃバイクの方が走らせるのが難しいからさ。難しいイコール飽きないという事だ。
そんな退屈しないバイクを思いっきり走らせることができない日が続いていた。そんな中でもせっかく九州まで来ているのだからこっちの仲間のところに遊びに行こうと思い何人かとは約束を取り付けていた。その中で堀さんと黒忍ヨシダくんと呑みの約束をしていた日の一週間ほど前、九州が大きく揺れた。それも二日連続で。震源は熊本。長崎もかなり揺れはしたが何かが壊れるほどではなかった。しかし熊本の被害は甚大でメディアから流れる映像は深刻なものばかり。冬に大雪が降り破裂した水道管が復旧して間もないというのに春に大地震とは。しかもGW目前にしてのこの災害は観光地として経済的にもダメージがデカい。 だが最もダメージを喰らっているのは被災地や近隣に住む人達の精神的な部分だろう。ヨシダ君にしても例外ではなかった。彼とは久しぶりの再会である。まぁ久しぶりといっても半年ほどの事なのだがね。仲間と久しぶりに会う時はお互い笑顔である。この日も笑顔で顔を突き合わせた。しかしヨシダ君は心なしか浮かない笑顔である。その理由は明らかだ。やはり震災直後に目にした現実にかなりのショックを受けたらしい。なんせ目と鼻の先で起きた出来事なのだから。それでもそんな時だからこそ逆にこんな誰かと色んなことを話す時間が必要だったのかなとも言っていた。ならば…今宵は呑むべし。オレたちは夕方に堀さんと合流し、さらに熊本のみやのっちの家へいってプチ宴会へと突入。みやのっちの家は熊本と言っても福岡県の県境付近で大きな被害は受けていなかった。彼の家の納屋に畳を敷いてそこで酒を酌み交わす。話題はどうしても今回の地震の話が大半となってしまったがそれは仕方のない話である。無理やりその話題を避けて明るく振舞った所でなんの解決にもなりはしない。色んなことを考えたうえで自分なりの答えを出して初めて今後どうするべきかが見えてくる。今はただ仲間の無事を素直に喜び状況を見守るしかないだろう。それにしても今年は年の初めにはまずまずのスタートを切ったと思ったのにその後は行った先々で凶事が続く。 そんな震災の影を引きずったままGWも終わり九州は梅雨に突入した。オレの感覚ではこっちに来てからずっと梅雨のような感覚であるのだが(それほど雨が多かったのですよ)それにプラスアルファな悪天候シーズンである。そんな梅雨の真っただ中、伊万里コーヒーブレイクが開催される日程をヨシダ君から聞いていたオレは当日、開催場所である福島へ向かった。宿から30分ほどである。まぁ近い。これが岡山からとなるとこの梅雨時期にあっては雨でずぶぬれになりながらの苦行である。それ故に今まで参加を躊躇していたという向きもある。となるとこの距離感で行かない理由というものがない。 当日の天気は案の定、雨。会場となっているキャンプ場に着くとまだ午前中にもかかわらず地元九州の常連連中はほとんどが集まっていた。もしかしたら何人かは前日からいたのかもしれない。雨ということで敷地内の建屋を借り切っているためテントは不要である。その後も次々と人はやってくる。山陰、関西、関東からと次々に。最近ではこの手の集まりから少々遠ざかっていたオレだが久しぶりに来てみるとやはりいいものだと改めて実感する部分も大きい。人との縁の多さは自分を縛る鎖の多さともいえるがそれとは別の連帯することからくる快楽や幸福感というものが間違いなく存在するのも確かな話なのだなと実感させられる。今年に入って九州を襲った自然災害によって被害を喰らった奴もいるだろう。一人ではいい考えも行動によるいい結果も得られることはあまりない。そんな時、一緒になって話ができる仲間が多くいるというのは心強いものだと思う。そんな暖かくもグダグダな時間がゆっくりと過ぎていく。あぁそういえばそんな九州での生活ももう残りわずかなのだなとしみじみ感じながらその一夜を終えた。
その3日後、オレはこのコーヒーブレイクの主催者の一人であるツカモトちゃんの家へと行った。九州生活も残り1か月を切り、何とか時間に余裕が出てき始めたのでここぞとばかりに友人宅の訪問である。一応、バイク屋であるという彼の家に行くと地元の常連客である若者が二人いた。この日は、先日の反省会を兼ねてバーベキューでもしようとこの日、都合のついた何人かで集まり狭い店内での地味ぃ~な呑みとなった。
最近のオレはこれくらいの少人数によるこじんまりとした呑みを好む。先日の集まりも楽しいのは間違いないのだがやはり少々疲れる。オレも歳をとったのかもしれんな。それに人が多いとなかなかできない話なんかもありますからな。この日は目論見通りいろいろ聞きたかった話などもできその翌日は伊万里の荒川君の案内で地元の有名なイカの活け造りを食べるという念願も叶った。さてあとは多少の片づけをして帰るだけだ。そして帰りついでにもうひと呑み。どこで? そりゃ九州最大の繁華街、博多ですよ。