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第52回「人生を変えたツーリング」の巻

 
 職場の男の子が退職することになり、スタッフの数人と歌舞伎町で送別会をやりました。
 一次会は某焼肉チェーン店で飲み放題、食べ放題を楽しんだのですが、みんなワタシより若いし、まだ飲み足りないらしく、それに色気も欲しいってーんで、二次会はキャバクラに入ったのであります。
 みんなは何回か来たことがあるお店らしいのですが、実はキャバクラ初体験のワタシ。ボーイさんがドアを開け、招き入れてくれたその瞬間、その異空間ぶりに、圧倒されてしまいました。

「いらっしゃいませー♥」
 独特の髪型に、オッパイがこぼれそうなドレス。でっかいイヤリングをブラブラさせた、ものすごいスタイルのいいお姉さんたちが一斉にこちらを振り向き、笑顔を見せます。店内に漂うキツイ香水とタバコの煙。これまでまったく経験したことのないような世界です。

 ワタシ達の席には三人の女性が付いてくれました。皆さんものすごい美人で、ワタシもテンション上がりまくり。薄めに割った「CC(カナディアンクラブ)」で早速乾杯です。これ昔から好きなんですよね。

 
「へーっ、バイクに乗るんだぁ? いいよねぇこれからの季節、サイコーだよねぇ」
 ワタシの隣に座った「マキちゃん」が細長いキセルのようなものでタバコを燻らせながら言います。

 ワタシ的には三人の中では一番キレイです。いわゆるキャバ嬢のような茶髪の盛った髪型ではなく、真っ黒でストレートの長い髪。
 背がスラリと高く細身で、鼻がスッと伸びていて、ちょっとつり気味の大きな目を覗き込みと、まさに吸い込まれてしまいそうなむちゃくちゃな美形です。
 胸元が大きく開いた青い服。短いスカートから伸びる白くて長い足が、とてもまぶしく感じられます。



「実はあたしも、バイクには少し思い出があるのよねぇ」
 他のコのために水割りを作りながら、ハスキーボイスで含み笑いをしています。
「えーっ、何なに? 聞かせてよ。Webでやってるコラムのネタにするから」
 そう言うと、少しため息をついて灰皿にタバコの灰を落とすと、身の上話を語ってくれたのです。

「あたしさぁ、埼玉の出身なんだけど、昔から地味で根暗でおとなしいから、子供の頃ずいぶんイジメられたの。もうホント思い出したくもないくらい。でも、中学に上がったら環境も周りの人間も変わるし、自分としても性格を変える努力をして、なんとかがんばろうと思ったんだけど、そう簡単に変わんないわよねぇ〜性格なんて。ここでもイジメられ続けたのよ」
「そう……辛い体験したんだねぇ〜」

「さすがに高校に入ったら、そんなこともなくなったんだけど、今度は突然両親が離婚しちゃってさ。父親が女作って出て行ったのよ。弟と三人残されたんだけど、ヒドイ父親でさぁ、養育費なんて送っても来ないから、母親がパート掛け持ちしてるんだけどおっ付かないのよ、時給安いし。そのうち授業料も払えなくなってきたから仕方なく退学して、あたし一人で東京に出てきたの。こっちなら仕事もいっぱいあるし。それで、ネットカフェで寝起きしながらアルバイトをして、そして生活費を家に送り続けたの」
「うわっ、大変だぁ〜。でもエライよねぇ」

「弟だけはしっかり学校出してあげたいしさ。バイト先はどこでもみんなよくしてくれたんだけど、毎日ただ黙って野菜を袋に入れるだけ〜みたいな、そんな仕事しかないのよ。だって学歴もないし。そんな単純労働を転々としてきて、ふと気がついたら、いつの間にか二十歳になってたの。でもね、考えたら、あたし、何も夢なんてないのよ。将来が何もないの。これからやりたいことが何もないし、目標も何も。でね、もうヤケ起こしちゃって、死ぬことにしたの。夢も希望もヤル気もないなら、いっそ自殺しちゃおうかなって。それまでも時々リストカットとかしてたし。弟がバイト代貯めて……あ、そのとき弟もこっち出てきていっしょにアパートに住んでいたんだけど、あたしと違って頭いいから、奨学金もらって高校に行ってたのね。で、自分でバイトしたお金で中古の原付買って乗ってたんだけど、それ勝手に借りて東京を後にしたの」
「へーっ、それでどうしたの?」

「別にアテなんてないんだけど、死ぬならやっぱり北国かなって、何か演歌のイメージで勝手にそう思って、少しのお金と服だけリュックに詰めて、とりあえず北を目指したのさ」
「北なら国道4号線だね」

「そう、ずっと走って、途中から日光の方に曲がって、たしか会津西街道だったかな? 鬼怒川温泉過ぎてずっと来て、会津若松ってとこからは新潟めざして左折して。眠くなったら公園とか潰れたパチンコ屋とかで仮眠したりしてずっと走り続けてさ。そんで新潟まで来て、ここから日本海沿いに北上しようかなって」
「たしか360kmくらいじゃなかったっけ、新潟まで? 原付だとけっこうかかるよね。で、それからどうなったの?」

「村上のあたりまで来たとき、ふっと見たら、夕日が海に沈んでいくとこだったの。あたし生まれて初めて見るのよ、海に沈む夕日って。もう感動的なくらいキレイでさ。バイク停めて砂浜に下りて、ずっと見てたわ。でもそのうちだんだん悲しくなってきたのね。ああ、あたしの命も、もうすぐこの夕日のように消えてなくなるんだって思ったら、涙がどんどん溢れてきちゃって、いつの間にか一人号泣してたの。でも、そのときたまたま写真撮りに来ていた地元のお兄さんがいて、声を掛けてくれたのよ、大丈夫かって。そして、その夜はその人が家に泊めてくれたのよ」
「えー大丈夫なの? 初めて会った男の人ン家に泊まるの恐くないの?」

 
「すごくやさしい人だったわ。ご飯食べにつれてってくれて、あたしの話ただだまって聞いてくれて。そして、その後抱きしめてくれたの。最初はちょっとびっくりしたんだけど、自然な流れで、すぐ結ばれたわ。あたし実は初めてだったの。でも、本当にやさしくしてくれて、気遣ってくれて、うれしかった。でさ、次の日、今度は反対側から真っ赤な太陽が上がってくるのを見たのよ。昨日は夕日を見てあれだけ号泣してたクセして、何かもう言葉では表せないくらい力が湧いてくるのを感じたの。同じ太陽のはずなのに何でこうも違うのかしらねぇ〜、パワーが溢れてきたのよ。何か生きる希望みたいなのがモリモリ湧いてきたの」
「それで? それで?」

 
「あたし、死ぬのを止めて、東京に帰ることにしたの。頑張ってやり直そうって。彼は『このままここに残れば?』って言ってくれたんだけど、やっぱりサヨナラすることにしたの。やりたいことも浮かんできたしさ」
「へーっ、やりたいことってどんなの?」
「性格が変わんないのなら、性別を変えようって思って」
「へっ? どういうこと?」

「必死で働いて、お金貯めて、そして手術して、男から女に変わったの。実はまだ竿は付いているんだけど、タマタマは取ったのよ。今年後半くらいには工事完了する予定なの。あたしの中にそんな性癖が隠れてるなんてそれまでの人生で一度も考えたことなかったけど、彼との出会いによって目覚めちゃったのね。これが本当のあたしの生きる道だって。これが本当のあたしなんだって」
「…………!!」

「何よぉ、気づいてなかったの? ここ、ニューハーフキャバクラなのよ。ここにいるのはみんな元男!」

 
彼女(?)の吸うタバコの煙がまとわりついてきて、脳みそが痺れ、思考回路が麻痺し、CCのグラスを持ったまま固まってしまったワタシでありました……


 
…………なぁんて言うのはみんなウソです。今回「人生を変えたツーリング」というテーマで、いろいろ考えていたらこんなお話がつい浮かんできたので、徒然なるままに書いてみました。

 でもさ、やっぱ旅に出ると、それまで行き詰まっていた環境が変化するし、何か新しい発見や経験があって、解決への糸口が見つかったりするものだよね。

 初めて訪れた場所に、人生を大きく変えるような幸運が待っていた……そんなタナボタ的なラッキー体験を期待しながら、今日もツーリング計画を練っているワタシなのであります。


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