佐藤洋美の『鈴鹿2&4』レポート JSB1000は大波乱の幕開け!

●文-佐藤洋美 ●写真-赤松 孝

全日本ロードレース選手権最高峰クラスJSB1000は鈴鹿2&4レースで開幕しました。今年のJSB1000は、面白いですよとお伝えしましたので、その報告をさせて頂きます。
誰がこんな戦いを予想したでしょう。もう、口をあんぐり、悲鳴とため息と歓喜とがぐちゃぐちゃの大波乱の戦いとなりました。

 今大会は鈴鹿8時間耐久参戦のトライアウト(昨年から実施された制度で、規定を満たしていないチームや新規チームは、鈴鹿2&4と全日本第3戦SUGO大会、鈴鹿サンデーロードレースのいずれかに参戦し規定をクリアし出場権を獲得しなければならない)を兼ねており、鈴鹿8耐勝利4度で歴代2位を誇るミスター8耐伊藤真一(Team SuP Dream Honda)、最多勝を狙う清成龍一(MORIWAKI MOTUL RACING)もトライアウトに参加していたのです。

 レース距離が200kmのセミ耐久で争われ、給油、タイヤ交換を行うピット作業がありチーム力も試されます。また、今シーズンよりタイヤが16.5インチから17インチとなり、その調整も鍵を握ることになりました。この大会、ひとりでもふたりでも参加可能、トップチームではモリワキの清成龍一と高橋裕紀がペアで参戦、他は単独参戦が多数でした。



ル・マン式スタートで飛び出し、ホールショットはカワサキの渡辺一馬だった
ル・マン式スタートで飛び出し、ホールショットはカワサキの渡辺一馬だった。

 木曜日のスポーツ走行から速さを見せていたのは王者・中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)。金曜日には2年ぶりという転倒後にもトップタイムを記録、土曜日の予選でも速さは変わらず余裕のポールポジションを獲得。
 2番手には待望のニューマシンCBR1000RR SP2を駆る高橋巧(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)。3番手にはヤマハの若手藤田拓哉(YAMALUBE RACING TEAM)。4番手に渡辺一馬(Kawasaki Team GREEN)。スズキもニューモデルGSX-R1000Rを投入、それを駆るヨシムラの津田拓也は転倒もあり5番手。  
 ル・マン24時間耐久で2位に入った野左根航汰(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)は6番手。ニューマシンをシェイクダウンしたばかりの山口辰也(Honda Dream Racing)は7番手。ヨシムラスズキMOTULに大抜擢された濱原颯道は8番手。BMW Motorrad39の酒井大作が9番手。JSB1000ルーキーの渥美心(UQ & テルル ・ Kohara RT)が10番手。加賀山就臣は11番手(Team KAGAYAMA)。鈴鹿8耐出場を目指す生形秀之(エスパルスドリームレーシング)が12番手。清成龍一と高橋裕紀が組んで出場するモリワキは、予選で清成が2度転倒と13番手。伊藤真一が14番手。松崎克哉(Kawasaki Team GREEN)は23番手、浦本修充(Team KAGAYAMA)は「テストで出たタイムにさえ届かない」と不調で33番手に沈みました。

 中須賀は「巧との一騎打ちとなるだろう」と予想、高橋も「決勝朝の走行で試したいセッティングがある」とギリギリまでマシン調整を重ね中須賀との勝負に挑みました。高橋だけでなく、他ライダーたちも指をくわえて見ているわけはなく戦いの朝は緊張感に満ちたものでした。



通算8度目のチャンピオンを目指すヤマハの中須賀克行。金曜日に転倒はしたものの絶好調の走りを見せポールポジション。優勝争い筆頭と思われていたが……


ギリギリまでマシンのセッティングを重ねたホンダの髙橋 巧は、スタート前、何を想っていたのだろう
通算8度目のチャンピオンを目指すヤマハの中須賀克行。金曜日に転倒はしたものの絶好調の走りを見せポールポジション。優勝争い筆頭と思われていたが……。 ギリギリまでマシンのセッティングを重ねたホンダの髙橋 巧は、スタート前、何を想っていたのだろう。


200kmのレースということで、モリワキは清成龍一と高橋裕紀がペアで参戦


鈴鹿8時間耐久参戦のトライアウトを兼ねているということもあって、“ミスター8耐”の伊藤真一も挑戦した
200kmのレースということで、モリワキは清成龍一と高橋裕紀がペアで参戦。 鈴鹿8時間耐久参戦のトライアウトを兼ねているということもあって、“ミスター8耐”の伊藤真一も挑戦した。

 スタート進行が始まり、各車コースインを開始しましたが、チームカガヤマの加賀山、浦本がコースイン出来ずにペナルティーが課せられる波乱で戦いは始まりました。ライダーがマシンに駆け寄る伝統のル・マン式スタートで飛び出しホールショットは渡辺、これに高橋、山口、津田、中須賀、濱原、清成、野左根らが続きました。スプーンカーブ立ち上がりでは、清成と濱原が接触。清成は激しく転倒し、マシンが大きく跳ねて舞い上がります。赤旗(レース中断)と誰もが思いましたが、奇跡的に後続は避け、大参事とはならず、清成も避難。セーフティーカーが導入されました。

 セーフティーカーの後に続くライダーたちはタイヤを暖めるために蛇行運転、ノロノロ走行が続いた3ラップ目のシケイン立ち上がりでトップ集団にいた中須賀がまさかの転倒。うずくまるように倒れた中須賀は起き上がりピットに戻りますが、ブレーキが壊れていたこともあり、自身のピット前を通過してしまいます。チームカガヤマの助監督武田雄一が飛び出しマシンを止めスタッフに渡し、中須賀はマシンを修復しコース復帰、ファーステストラップを記録する俊足を披露するも、セーフティーカー中の転倒のペナルティーでストップ&ゴーを課せられ、チーム判断によりリタイヤしたのです。

 吉川和多留監督は「今季から17インチにタイヤが変更され、微妙な感覚の違いがあったのではないか」と言います。
 開幕戦は荒れるものですが、今年は、特にトップライダーたちの転倒が多いレースウィークで繊細なコントロールが必要とされる究極のマシンを操る難しさを感じさせることになりました。



セーフティーカーが入りノロノロ運転の続いた3ラップ目、中須賀がまさかの転倒、そしてリタイア
セーフティーカーが入りノロノロ運転の続いた3ラップ目、中須賀がまさかの転倒、そしてリタイア。

 4周となったセーフティーカーが解除されるとリスタート、エンジンの咆哮が戻り、1コーナーで渡辺を高橋巧がかわしてトップに浮上し独走体制を築いて行きます。2番手争いは、渡辺の背後に津田、野左根、山口のオーダー、野左根は、2番手に上がり単独走行。3番手津田はスタート直後から右側のステップが緩むトラブルに見舞われ思うようなライディングが出来ずにいました。18ラップを過ぎると各車ピットインが始まり、高橋がピットインしたタイミングで野左根がトップ、野左根がピットに入り、高橋が首位に返り咲きます。野左根はピットアウトしますが「トップとの差を広げたくないと焦りがあった」と、その周のダンロップでまさかの転倒となります。



独走の中、高橋 巧が優勝。実に2014年第3戦ツインリンクもてぎ以来
独走の中、高橋 巧が優勝。実に2014年第3戦ツインリンクもてぎ以来。

 高橋は首位を独走、変わって2番手に浮上したのは津田、追い上げた藤田が3番手に付け、津田に迫ります。高橋は35ラップをクリアし優勝のチェッカーを潜りました。

 2014年第3戦ツインリンクもてぎ以来、3年ぶりの勝利に「久しぶり過ぎて喜び方を忘れた」と笑顔がなく「笑って」の声にぎこちない笑顔を見せていました。それでも、スタッフや観客の熱狂は大きく、やっとの思いがあふれていました。
 2位に最後は完全にステップが折れてしまったという津田が神業のようなライディングを貫いて入り、ヤマハ期待のもうひとりの若手ライダー、藤田が3位で表彰台に登りました。4位に山口、5位に渡辺、6位に濱原、7位に秋吉耕祐(ホンダ)、8位に酒井、9位に中冨伸一(ヤマハ)、10位に生形秀之。松崎は15位、加賀山は17位。浦本は走り切りましたが完走扱いとはならず。伊藤も転倒があり、マシン修復してコース復帰しますが完走扱いとはなりませんでした。ヤマハファクトリーの中須賀、野左根はリタイヤ、注目のモリワキの清成/高橋もリタイヤ。伊藤も清成も鈴鹿8耐トライアウトには残れず再挑戦という結果となりました。



2位にはヨシムラの津田拓也。マシン調整に苦しんだと言い、「次こそは」と狙う


3位に入ったのはヤマハの新鋭・藤田拓哉。これからの活躍にも大きな期待が寄せられる
2位にはヨシムラの津田拓也。マシン調整に苦しんだと言い、「次こそは」と狙う。 3位に入ったのはヤマハの新鋭・藤田拓哉。これからの活躍にも大きな期待が寄せられる。

 高橋は「中須賀さんがいたら勝てなかったと思うので複雑な心境」だと語りました。それでも「次はしっかり勝負がしたい」と決意。勝てずに悔しさを噛みしめていた時間を晴らす快勝を狙います。
 津田もマシンの調整が難しく苦戦している中での2位に「マシンを仕上げて、こんどこそ」と闘志満々。3位に躍進した藤田はこれからの戦いに希望を見出していたように思います。5位となった渡辺も「カワサキのポテンシャルを再確認したレース、それをどう使いこなすことが出来るか」と課題を見つけました。



注目されたモリワキの清成/高橋裕紀組は残念ながらリタイヤ


予選11番手からのスタートとなったチームカガヤマの加賀山就臣は17位でフィニッシュ
注目されたモリワキの清成/高橋裕紀組は残念ながらリタイヤ。 予選11番手からのスタートとなったチームカガヤマの加賀山就臣は17位でフィニッシュ。


ホールショットを奪ったカワサキの渡辺一馬は5位だった


鈴鹿2&4はセミ耐久ということでライダー交代、給油、タイヤ交換もありチーム力も必要なレースだ
ホールショットを奪ったカワサキの渡辺一馬は5位だった。 鈴鹿2&4はセミ耐久ということでライダー交代、給油、タイヤ交換もありチーム力も必要なレースだ。

 全戦全勝を掲げ前人未到のV6、通算8度目のチャンピオンを目指す中須賀、ワークス入りし「恥ずかしくない走りを」と誓った野左根。「期待に応えたい」と牙を剥いた清成。更に、これからの躍進を誓うルーキーたちの思いは、そのまま、次戦へと引き継がれます。無念さを抱えたライダーたちの反撃に期待が高まります。次戦は5月14日宮城県スポーツランドSUGOで開催されます。こちらも120マイルのセミ耐久、200kmより過酷な戦いです。鈴鹿8耐に向けてのトライアウトも実施されます。



鈴鹿2&4


鈴鹿2&4


Pos. No. Rider Total Time Best

1 634 高橋 巧 1:22’17.766 2’07.410

2 12 津田拓也 1:22’31.652 2’07.815

3 9 藤田拓哉 1:22’32.405 2’07.491

4 104 山口辰也 1:22’39.168 2’08.025

5 23 渡辺一馬 1:22’41.532 2’08.131

6 50 濱原颯道 1:22’55.741 2’08.355

7 090 秋吉耕佑 1:23’01.015 2’08.827

8 39 8h 酒井大作 1:23’26.723 2’09.131

9 85 中冨伸一 1:23’57.877 2’10.390

10 95 8h 生形秀之 1:24’01.836 2’10.073

15 46 松﨑克哉 1:24’19.950 2’10.828

17 71 加賀山就臣 1:22’27.489 2’11.137

以下フィニッシュライン不通過:


47 94 浦本修充 1:18’02.380 3Laps 2’10.746

以上 順位認定:


- 79 8h 伊藤真一 1:24’09.114 10Laps 2’08.904

- 5 野左根航汰 53’38.255 13Laps 2’07.796

- 1 中須賀克行 52’08.945 21Laps 2’07.032

- 72 8h 高橋裕紀/清成龍一 35Laps


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