●レポート─青山義明
※この記事はミスター・バイク2009年3月号に掲載されたものを再構成しました。文中の表記は掲載当時のものです。
最近では、「コピーは文化」という大胆な発言も飛び出すなど、コピー商品や海賊版が多く作られているとニュースで報道されることの多い中国。数年前、その“コピー天国”中国で、ホンダがコピーメーカーと合弁した、とニュースになったことを記憶している読者も多いと思う。今回紹介する工場は、まさに、その合弁会社の工場である。
工場を紹介する前に、中国の事情を簡単におさらいしておこう。中国国内の2輪車の総生産台数は2007年の時点で2500万台、内需(中国国内販売)は1500万、輸出は1000万台というのが大まかな数字である。
ひところバイクメーカーが200社以上もあったと言われる。もちろん200社のすべてが巨大な工場を持ちラインでバイクを組み立てているわけでない。例えば、完成エンジンやフレームなどを買って来て掘っ立て小屋で組み立ててブローカーに売り渡して終わり。で、違う業種へ鞍替えしてしまうというような輩もいるたようだ。小はそのような者から、年間何万台という規模という本当の大企業まで、それこそ半世紀ほど前の日本の2輪メーカー乱立時代に近い状態であった。その後落ち着いてきたといえども、現在でも中国国内の2輪製造メーカーは120~130社はあるといわれている。そのうちの大手13社の製品が市場全体の約7割を占めているという。
昨今の金融危機の影響で、各メーカーの動向は内需拡大に向いている、とも言われているが、内需を見ると、主要市場は、まず沿海州側(中国の東側東シナ海に面した地域)がメインとなり、そこから徐々に内陸部分に市場は広がりつつある。しかし、沿海州川の多くの都市では、環境問題や交通事故等の問題からナンバープレートの発行規制が入っているため、沿海州側単体で見ると需要は減少傾向。トータルで見るとほぼ横ばいという状況。
一方の輸出であるが、この5~6年、「中国車の脅威」と呼ばれるほど、アメリカ、ヨーロッパ、北米、南米、アフリカ、中近東など世界各国で大きな影響を与えている。日本にはあまり流通していないので、それほど脅威という印象はないが、この中国車は、いわゆるブランドメーカーの半値ほどの価格で流通しているため、である。
さて、ホンダの中国での展開であるが、ホンダが中国に進出したのは、今回紹介する会社が誕生するもっと前、今から四半世紀も前のことである。現地企業への技術提携から始まり、現地で、五羊本田、天津本田、嘉陵本田と三つの合弁会社を作ってやってきた。もちろん、その商品品質はよく、中国市場でのブランド力で言えば、日本のホンダ車よりも、五羊本田のほうが上というほど、である。
それほどのクオリティの高さを誇るホンダ基準ではあるが、もちろん、コスト面ではまったくコピー車に勝てない。ホンダの基準は創業当時からアメリカやヨーロッパの当時の日本よりも上のレベルにあるところに向けて作っていったわけだが、中国そのものは目標がある意味下になるわけで、この下に合わせるのがなかなか難しい。技術はそれほど変わらないまま、コストはまったく違うレベル。これをクリアできないため、立ち上がった戦略が、偽カブメーカーを取り込んで勉強するというもの。
その相手として選ばれた“コピーメーカー”が海南新大洲摩托車股有限公司。ホンダが10~20万台そこそこしか販売できなかった当時、年間60万台を売り、中国第2位にまでいったメーカーである。独自のコピー技術でコピーバイクを作っているメーカーの部品調達力はすばらしく、極めて安く調達できるため、コスト競争力はずば抜けて高い。しかし、品質レベルはもちろん、低い。
そのメーカーが2001年ホンダと合併した今回紹介する新大洲本田摩托有限公司(新大洲本田)である。新大洲本田となってからは新大洲ブランドのバイクにホンダのエンジンを載せたり、既存の海南新大洲のものと同カテゴリーの新機種をホンダブランドで出すことによって、商品のラインナップを海南新大洲、海南新大洲&ホンダ、そしてホンダと、徐々にホンダブランドに切り替え、全ラインナップが完全にホンダに切り替えられたのが2007年の10月のこと。他の中国メーカーに近いコスト競争力を持ちながら、ホンダブランドとして、クオリティの高い商品を作り出すことに成功。また、常に納入部品メーカーと問題点について指導を重ね、改善の見られるメーカーと業務契約を継続するという手法で、部品調達もクオリティアップの戦略を繰り返す。
もちろん、コストはできるだけ、上げないように。そうすることで、当初500社近くあった納入メーカーも、現在は250社くらいに再編整理されているという。これにより、ホンダブランドのレベルを維持しながら、それまでのコピーメーカー海南新大洲のイメージを少しずつ払拭し、販売台数もここ数年右肩上がりだという。確実に数は伸ばしているものの、旧海南新大洲独自のバイクと比べたら、ホンダブランドで出してくる車両の価格は上昇し、中国国内市場の競争力では他のローカルメーカーの後塵を拝すこととなっている。
ここで製作されているウェーブもウィズもメインフレームは同じものを使用する。溶接技術も匠の技の域まで上達する職人もいる。 | もちろん、工場内は中国語で表記されている。ちなみに、ストライプのステッカーを貼る工程のこの部屋は「貼花室」と書かれている。 | 塗装ブースは、ロボット化されていない。「中国人は器用です」と工場長も胸を張る。 |
また、コピーメーカーも年々クオリティは上がっているし、技術力も付けてきて、コピーメーカーから脱却するメーカーも出てきている。中国トップブランドの大長江などは、年間300万台を売るメーカーで、スズキのエンジンを使いしっかりした商品を作ってきている。一方の新大洲本田は、まだまだコピーメーカー時代のブランドイメージを引きずっている人も多く、ここ数年、きっちり成長を遂げているものの、まだトップメーカーには差をつけられている。
しかし、そのコストを世界のホンダという視点で見てみると、実はこれが圧倒的に強い。ブラジルの50%、タイの70%、インドの65%程度の価格、なのである。
中国のコピー車などが毎年1000万台も世界に流通する中で、世界各地域のホンダもそれを意識せざるをえなくなる状況に追い込まれている。
正規契約を含め従業員数1239名(2008年6月時点)、男女比は7:3。年齢分布は30代が中心で、平均年齢38.4歳。ホンダから工場総監として上野久良さんが赴任しているが、他、王(ワン)工場長以下、すべて中国人スタッフで構成されている。
中国国内はもちろん、世界の工場といわれているだけあって、数多くの国へ輸出されている。その形態は、各国の輸入規制や現地調達制等々に対応して、部品から完成車までさまざま。完成車はアルゼンチン共和国、メキシコ合衆国、ペルー共和国、グアテマラ共和国、トルコ共和国、ボリビア共和国、サウジアラビア王国、ハイチ共和国、モーリシャス共和国、ジャマイカ、ネパールなど。部品としてバラで輸出する国も、南アフリカ共和国、コロンビア共和国などがあり、部品単体では、実は、日本の熊本工場も含まれている。その部品は、環境技術部品以外、基本的に100%現地調達である。
第01号 2011.08.01[アナザストーリー 広告宣伝に見るスーパーカブの歴史 「51年目の知られざる真実」前編]
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第03号 2011.08.15[「不動の思想 進化する思考」スーパーカブ全史・1 1958〜]
第04号 2011.08.22[ピンキー高橋大統領の「スーパーカブ110 インプレッション」]
第05号 2011.08.29[「不動の思想 進化する思考」スーパーカブ全史・2 1966〜]
第07号 2011.09.12[初期の新聞、雑誌広告に見るスーパーカブの広告ヒストリー・1]
第08号 2011.09.20[ピンキー高橋大統領の「スーパーカブ110プロ インプレッション」]
第09号 2011.09.26[「不動の思想 進化する思考」スーパーカブ全史・3 1978〜]
第10号 2011.10.03[初代スーパーカブデザイナー 木村讓三郎氏に聞く「カブは、何故世紀の大ヒット・バイクになったのか?」(前編)]
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第13号 2011.10.24[野口オヤビンの「オモシロ系カブインプレッション ポートカブC240」]
第14号 2011.10.31[「不動の思想 進化する思考」スーパーカブ全史・5 1986〜]
第15号 2011.11.07[初代スーパーカブデザイナー 木村讓三郎氏に聞く「カブは、何故世紀の大ヒット・バイクになったのか?」(後編)]
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第18号 2011.11.28[初期の新聞、雑誌広告に見るスーパーカブの広告ヒストリー・3]
第19号 2011.12.05[「不動の思想 進化する思考」スーパーカブ全史・6 1991〜]
第20号 2011.12.12[野口オヤビンの「オモシロ系カブインプレッション スーパーカブ50SDX」]
第22号 2011.12.26[初期の新聞、雑誌広告に見るスーパーカブの広告ヒストリー・4]
第23号 2012.01.10[51年目のスーパーカブで国道51号線を走る「イバラッキーストライクホンダが征く」]
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第29号 2012.02.20[スーパーカブ110がフルモデルチェンジ]
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おかわり号 2012.06.15[[NEWスーパーカブ50インプレッション]
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