BMW R nine T URBAN G/S 試乗

 
やっぱりBMWはこうでなくちゃな、って思う。
それがR nine T URBAN G/S。
新しいものを否定するつもりはまったくないけれど
古いものがなくなっていくのは寂しい。
特にBMWはそうであってほしい、と思うのは
私だけではないだろう、と思うのです。

■試乗&文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp/

image01.jpg
SI1_1754.jpg SI1_1797.jpg SI1_1821.jpg SI1_1804.jpg
ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

 Rナインティシリーズは2013年のEICMA(ミラノショー)でデビューした、BMWのネオ・クラシックシリーズ。BMWはヘリテイジ、ってカテゴリーで呼んでいるけれど、ちょっと昔っぽいボクサー、そしてカスタムベースにもどうですか、というシリーズだ。
 その前に、いまのBMWの事情を。BMWといえば、私くらいの年齢のバイク乗りは、高嶺の花というかオトナのオートバイというか、そういう畏怖にも近い、リスペクトに似た印象を持つブランドだろうと思う。国産のオートバイがどんどん4気筒化、高性能化に走っても、頑なに独自の空冷水平対向2気筒のOHVエンジン(=ピストンが向かい合わせに上下運動をするので、ボクシングのパンチを打ち合っているよう、ってボクサーエンジンと呼ばれている)を捨てず、1983年にようやく水冷化を果たして4気筒エンジン生産をスタート。なのにそれは縦置き並列4気筒レイアウトで、ここでもまた独自性を打ち出して見せた、そんなブランドなのだ。
 国産モデルとは明確に違う個性――それが変わってきたな、と思ったのが2009年だった。それ以前、1996年には、一般的な、つまりは国産モデルと同じ構成の横置き並列4気筒エンジンを搭載するK1200を発表したけれど、’09年に発表したモデルは、もっと国産モデルに寄ったスーパースポーツ、S1000RR。それは、アルミツインスパーフレームに1000ccの並列4気筒エンジンを搭載した、世界スーパーバイク選手権のホモロゲーションモデルだったのだ。 
 S1000RR自体は、国産スーパースポーツと肩を並べるような、さらに一歩も二歩も先を行くようなモデルではあったけれど、BMWの独自性が失われていたのは事実だ。いわゆる“昔からのBMWファン”は、少なからず失望しただろう。あんなのベンベじゃねぇよ(=BMWのこと、ベンベって呼ぶオールドファンは多いよね)、そんなネガティブな意見を聞いたのは一度や二度じゃなかったもの。
 けれどS1000RRは、新しいBMWファンを増やしてみせた。今ではスーパースポーツモデルを選ぶときに、国産モデル、ドゥカティ・スーパーバイクと完全に同じ土俵に乗ってくるもので、このS1000RRは新しいBMWに向かって舵をきった、そんなBMWのターニングポイントだったのだろう。

riding01.jpg

 
 2017年。BMWのラインアップは、大きくスポーツ/ツアー/ロードスター/アドベンチャー/アーバンモビリティ、そしてヘリテイジに分かれている。スクーターカテゴリーのアーバンモビリティをのぞけば、エンジン系統で分けると、S1000系の並列4気筒、R1200系の水冷ボクサー、K1600系の6気筒、Fシリーズの水冷並列ツイン、G310系の水冷シングル、そしてヘリテイジ系の空冷ボクサーだ。昔のことばっかりで申し訳ない、あのBMWが今や、単気筒、2気筒、4気筒、6気筒エンジンをラインアップするメーカーになっているのだ。少なくとも80年代には、空冷ボクサーとK100/75の水冷4気筒/3気筒しかラインアップしていなかったはず。それがいいとか悪いではなく、そういう時代なのだ。
 古き良きBMWにもっとも近いイメージのR1200R/RSだって、最新のそれはものすごく俊敏で、軽快なエンジンがひゅんひゅん回る、ライディングモードもトラクションコントロールもついた、ちょっとびっくりするくらい速いモデルだ。ドドドドド、というよりは、トトトトトト、とかルルルルル、ってエンジンフィーリング。わかる人はわかってくれるかな。
 
 そこでRナインティシリーズだ。このヘリテイジシリーズに搭載されるのは空冷ボクサーエンジンで、ごくごくシンプルな構成でパッケージングされている。Rナインティ誕生の背景に「カスタムバイクへのベースモデル」という側面があるから、それも当然。けれど、それがスゴくいい。Rナインティシリーズ初のモデル、Rナインティに触れた時、乗った時に「あ、すごくBMWっぽいな」と勝手に思ってしまった。この気持ち、きっと共有できると思う。
 Rナインティ-アーバンGSは、Rナインティシリーズの最新作。ロードスターのRナインティ、そのベーシックグレードのRナインティ・ピュア、カフェレーサースタイルのRナインティ・レーサー、スクランブラースタイルのRナインティ・スクランブラーに続くラインアップで、BMWのGSシリーズをRナインティシリーズで担うラインアップ。それも、現代のGSではなく、旧OHVボクサー系の初期GS――R100GSやR80GSを彷彿とさせるモデルに仕上がっている。

riding02.jpg

 初期のGSといえば、1980年誕生のR80GSに端を発した、「アドベンチャー」カテゴリーを創出した記念碑的モデル。ビッグバイク、しかもBMWなのに、オフロード走行までも想定したモデルで、オフロードはもちろん、ロングツーリングバイク、さらに軽量に仕上げられていたことで、ストリートバイクとしても人気があったのを覚えている。OHVボクサー最後期に発売されたR80GS-Basicは、店頭在庫が取り合いになるほどの人気だったっけ。
 そのR80GSから現在まで、R100、R1100、R1150、そして現行のR1200へと変化しつつ、GSシリーズはBMWの人気モデルとして販売が続けられている。今や単一機種では、世界ナンバー1の人気モデル。けれど、R80の頃に出力50PS/車重186kgだったボディは現行R1200になって出力125PS/車重252kgへ。いまやGSとは、乗る人を選ぶ、憧れの重戦車なのだ。
 だから、アーバンGSが際立っていた。もちろん、GSの本来の用途であるはずの、オフロードをずっと走る、って用途で試乗はしていないけれど、そんな用途、どこでできるの(笑)。ツーリングして、ちょっとわき道のダートも走ってみる――そんな「普通の」ツーリングで、アーバンGSが好ましかったのだ。
 
 エンジンはRナインティシリーズ共通のもので、空冷ボクサーとはいえ、十分にパワフルで、低回転から力強い。アクセルレスポンスが鋭く、アーバンGSの、ちょっとクラシックなスタイリングとはマッチしない強さだ。
 そして、その回転フィーリングが気持ちよくて、現行R1200シリーズの水冷ボクサーよりももっとドコドコ感があって、それでいて重ったるくない。高回転まで引っ張ってみると、水冷ボクサーとそん色ない力強さを発揮してくれて、決してのんびりドコドコだけのバイクではないのがよくわかる。
 さらに低速で走っている時には、1速と2速の排気音がハッキリ耳に入って来て、これも心地いいのだ。発進から3000rpmあたりまでの排気音、パルスを力強く感じるのは、水冷ボクサーよりも、むしろRナインティの方。もちろん水冷ボクサー系は、振動をライダーに伝えない工夫が上手くいっているのだけれど、Rナインティをうるさいとまで感じることは皆無だった。
 
 車体は、決して軽量ではないけれど、水冷ボクサーよりもコンパクトで、これもかつてのOHVボクサーを感じさせるポイント。初期のR80GSはかなりスリムだったけれど、このRナインティはスリムではないが、ボリュームがありながら、コンパクトに仕上がっている。この重量も、きちんと高速巡航の安定感につながっているところがBMWらしい。コンパクトなサイズ、ボクサーならではの低重心が、まさに「あの頃」のOHVボクサーを思わせてくれるのだ。
 
(試乗・文:中村浩史)
 

riding03.jpg
riding04.jpg
image02.jpg
「カフェダイニングてぃーだ」さんにお邪魔しました。https://www.facebook.com/カフェだいにんぐ-てぃーだ-渡良瀬遊水地-406344452724977/
01_SI1_1551.jpg 02_SI1_1565.jpg 04_SI1_1613.jpg
スクランブラーにも採用されているφ43mm正立フォークを使用。ブレーキは4ピストンモノブロックキャリパーのダブルディスク。フロントホイールは19インチだ。 スイングアームがシャフトドライブトンネルを兼ねるEVOパラレバーサスペンション。タイヤはメッツラー・ツアーランスネクストで、ややオフロードよりのパターンでもある。 ほぼ直立にマウントされたリアサス。プリロードと伸び側減衰力が調整可能で、サスストロークは140mm。スポークホイールでチューブレスタイヤを可能にするクロススポーク張り。
03_SI1_1554.jpg 03a_SI1_1573.jpg 05_SI1_1602.jpg
コンパクトながら、1200ccの排気量を持つ空冷ボクサー。フューエルインジェクション仕様のDOHC4バルブヘッドを持ち、最高出力は110PSを発揮する。シリンダーヘッドが左右に張り出しているボクサーツインだが、ハンドル幅とほぼ同じ全幅で、グリップエンド、パニアケース、シリンダーヘッドを同一線上に感じるのがBMW乗りの流儀といわれた。 左側1本出しのショートマフラー。サウンドは静かすぎず、特に1~2速の排気音は力強く、3速から抑えられているように感じた。鼓動を感じられる、いいサウンドだった。
06_SI1_1627.jpg 07_SI1_1587.jpg 08_SI1_1593.jpg
白ボディに2種類のブルー、赤シートの組み合わせが、初代R80G/Sを思わせる。燃料タンク容量は17Lで、取材中の実測燃費は、一般道~高速道路500kmほどを走って約22km/Lだった。 強烈な印象を与える赤シートも、初代R80G/Sのオマージュか。薄型だがクッション厚があり、長時間乗ってもお尻の痛みは少なかった。足つきは身長178cmの私でカカト接地。 これも初代R80G/Sを思わせるスクリーン一体型のライトカウル。フェンダーはハイマウントだが、フロントホイール後方にも別体のマッドガードが装着されていた。
09_SI1_1632.jpg 10_SI1_1646.jpg 11_SI1_1842.jpg
ダブルシートは、オプションで前後セパレートタイプやライダーシート+ミニキャリア、アルカンターラシートも用意されている。このオプションの豊富さもRナインティの特徴。 タコメーターを持たない丸型シングルメーター。液晶表示部にはオド&ツイントリップ、当日のトリップメーター、時計、セットアップ画面、エンジンオイル温度などを表示。 メーターのファンクション切り替えは、すべてこの左ハンドルスイッチから。オフロードも走るモデルらしく、ABSのカットスイッチも備えられている。ウィンカーは左右非独立。
SI1_1475.jpg SI1_1503.jpg
●BMW R nine T URBAN G/S 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,175×880×1,170(ミラーを除く)mm、ホイールベース:1,530mm、シート高:820mm、車両重量:221kg■エンジン種類:水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC4バルブ、総排気量:1,169cm3、ボア×ストローク:101×73mm、圧縮比:12.0、最高出力:81kw(110PS)/7,750rpm、最大トルク:116N・m/6,000rpm、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:17L、変速機形式:常時嚙合式6段リターン、燃料消費率:WMTCモード値 18.9km/L(クラス3、1名乗車時)■フレーム形式:スチールパイプ製4ピースフレーム、キャスター:110.6mm、ステアリングヘッド角:61.5°、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク、タイヤ(前×後):120/70R19 × 170/60R17。
■メーカー希望小売価格:1,899,000円(消費税8%込み)。

| BMW Motorrad JapanのWEBサイトへ |