オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい! と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250?、エイプ750?。
第66回 海外編第13章 Trouble

 
帰り道にスーパーへ寄った。買い出しできる店が宿である家から近いというのは実に便利だ。しかし、今となっては飲み物以外、置いてあるすべての食べ物に期待が持てない。
とりあえずビールと夕食に唐揚げ丼のようなもの、そして翌朝の朝食用にサンドイッチを買った。ちなみにサンドイッチはハム、卵、その他野菜など色々入っているものだ。
無難な選択に思えるだろう。だが・・・無難に思えても無難ではない。冒険でもしようものなら致命的。もはやマン島での食はオレにとってそんな世界だ。
家に戻るとまだ誰も帰ってきていなかった。皆、思い思いにマン島を満喫しているのだろう。

買ってきたものを冷蔵庫へ入れようとキッチンへ行った。
ピチャ! んっ!? 誰かが何かこぼしたか。改めて足元をよく見るとそんな生易しい状態ではない事がわかった。キッチンのフロアがほぼほぼ水浸しになっている。
一体、何事????? 雨漏り? いや、もうすっかり雨は止んでいるし家はそんなボロ家でもない。オレともあろうものが軽くパニックに陥っていた。
一呼吸おいて耳を澄ましてみると壁に収まっている冷蔵庫の後ろの方から何やら水が流れ出るような音が聞こえる。冷蔵庫を動かしてどういう状況なのかを確かめたいがこの冷蔵庫がとにかくクソデカイのだ。とてもではないが一人で動かせるような代物ではない。
水のトラブルで困った時は・・・・一瞬、森末慎二の顔と某企業のフリーダイヤルナンバが頭に浮かんだ。いやいや、違う違う。そうじゃない! ここをどこだと思っているんだ。
日本から1万キロ離れたISLE OF MANなのですよ。落ち着け、オレ。
ひとまず旅行会社の担当に電話をした。事情を話し、家主に連絡を入れてもらう。
急いで来てくれると言っていたらしいがそれでも一時間以上はかかるそうだ。。

水道の大元である栓でもわかれば閉めてしまえば済む話なのだが・・・それがどこなのかわからないし探しても見つからない。それでもこのままにしていたら他の部屋にまで浸水してしまう。ガレージからバケツと塵取りを拝借してきた。塵取りで水をすくってバケツへ入れる。いっぱいになったら外に捨てに行く。まったくもって気休めでしかないがオレはこの地味ぃ~な作業を延々とやる羽目に。
バケツに十数杯、水量にしたら100ℓ近くをかき出しても水位が下がっているように見えない。そんな中、宿泊メンバーが4人ほどたて続けてに戻ってきた。オレは皆に協力してもらい冷蔵庫を引っ張り出した。すると・・・製氷機に繋がっている給水用のホースのフィルターが破損していてそこから水が噴き出している。ジャブジャブと。
いったんホースを外しその水が噴き出している先端を流しに持っていった。これで何とか床への浸水は止まった。

その後、全員で排水作業をしているとやっとこさ家主の女性が現れた。その家主はその光景を前に苦笑いを浮かべ開口一番、OH!? と。
これは「あら、やだ!?」的ニュアンスなのか。だが・・・オウッじゃねぇし、笑ってる場合でもねぇ。早くダダ洩れの水をなんとかしてくれたまえよ。
家主はガレージの奥へ行き、換えのフィルターを手に戻ってきた。そしてフィルターを新しいものに交換していく。その後、ホースを冷蔵庫に取り付け修理は完了。
その作業は淀みなくやたらと手際がいい。しかも替えのフィルターが常備されてるという事はもしかしたらこの手のトラブルはこの島ではよくある事なのかもしれない。
修理を終えた家主は二言三言、言葉を発したのち、笑顔で立ち去っていった。
あれはきっと「じゃぁ、あとヨロシク!!」って言ったんだろうな。まぁ何ともサラッとしたもんだ。そこからは全員で被災地のボランティア活動のような有様で作業を続け1時間ほどかけて片付けは終了した。

時刻はすでに午後8時を回っていた。まだ全然、外は明るいけど。
そしてやっと晩飯なのである。オレは買ってきた唐揚げ丼のようなものをレンジで温めた。
封を切るとスパイシーな香りが漂ってくる。まずは唐揚げを一口。やはり・・・コショウの味だ。さすがにオレもこの程度では動じなくなっていた。それにしてもこれほどまでに素材の味を消し去る技術って一体? 逆にそっちの方に興味が湧いてくる。そんな事を口走りながら食べていると宿泊メンバーの一人が「これ買ってきたんだけどつけて食べてみる?」
そういってソースの瓶を取り出した。
瓶にはBrown Sourceと書かれている。見た目には日本のお好み焼きソースやとんかつソースのように見える。だがイギリス圏においてお好み焼きやとんかつが日常的に食されてるはずはない。そうなると考えられるのはステーキソースの類か。だったら結構、オイシイんじゃね!?若干の期待とともにオレはソースを手に取った。封は切られていない。
つまりここにいる誰一人としてこのソースの正体を知らない。情報不足の中、事に挑むというのは良くも悪くもドキドキするものである。
オレはふたを開け少し考えてから小皿にソースをよそった。唐揚げにつけて口に運ぶ。
OH! NO!!!
全員が日本人というこの食卓で出るべくしてこの言葉が英語で飛び出した。
ねっとりとした酸味とでも言ったらいいか、とにかくクソマズイ!
小皿に取ったからまだよかった。そのまま上からたっぷりかけていたらそれこそ大惨事である。ほんの少しでも期待したオレがバカだった。これは日本だったら罰ゲーム以外では使い道がないレベルのものだ。
結局、この日から帰国するその日までの間、誰一人としてこのソースに手を付けなかったのは言うまでもない。


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