アッキーがキタ
アッキーがキタ

ミュージシャンになるべく
夢抱き上京したバカ編 
       その10
アッキー加藤
アメリカン、チョッパーなどそっち方面が主戦場のフリーライター。愛車の1台は写真の750ニンジャというマニアックな一面も合わせ持ち、アメリカン以外のジャンルもほほいのほい。見かけはご覧のようにとっつきにくそうだが、礼節をわきまえつつ、締切も絶対に守り、かつ大胆に切り込んでいく真摯な取材姿勢で業界内外で信頼が篤い。ここまで書くとかなりウソくさいが、締切うんぬん以外はウソでもない。
アッキー加藤

 さあ皆様、いかがお過ごしでしょうか。関東で4年以内に大地震が来る可能性が何十パーセントだとかいうニュースを見て、ブーフーウーの木のお家みたいなアパートに住んでいるオレとしては非常に危機を感じている昨今。しかしそんなコトとは関係なしに、今回もオレのハズカシイ時代のお話をしようじゃないのさ!

 さて、これまでも書いてきた通り、今から20年ほど前、オレは頭脳警察という極左翼系、まあハッキリ言っちゃうとメインのパンタ氏は連合赤○とかの御方と知り合いだったりする危険な(?)バンドのローディーだった。

 んで、その危険だとかいうことは今回の話とはまったく関係ないのだが、ある時(つーか1992年)、その頭脳警察はファン待望のニューアルバムを製作すべく、東京は青山(本WEB担当者ではない)のビクタースタジオで、毎日のようにレコーディングを行っていた。

 しかし、である。その当時、劇的貧困生活アマチュアバンドマンだったオレは、東京のちょっと外れだけど結構若者に人気のある吉祥寺より、もちょっと離れてまだ割と人気のある三鷹より、更に郊外の武蔵境という辺境に住んでいた(いや、もしそこにお住まいの方が読者にいたら申し訳ない)。ブーフーウーのアパートどころじゃない、マジでガタの来た物件で、和室の四畳半、風呂無し、家賃3万円なり。この、この“風呂無し”が、後々大きな問題になるとはいったい誰が想像できようか!(できた)

 つーのもだね、毎日のレコーディングは大体昼前くらいに集合して、夜中までって感じ(業界タイムだよなあ)なのだが、オレのアパートの近くにある銭湯は夜11時までしかやっていない。別にレコーディング自体はオレが演奏するワケじゃないからあまりすることがないのだが、そこは下っ端、毎日せっせとビクタースタジオに通い、やれコーヒーですよお酒ですよ肩もみましょかお食事は、という毎日で、家に帰っても風呂には入れず寝るだけだったのだ。

 当然、一週間もすれば頭洗いたいし体クサイし状態となるわけで、オレはまるでトキワ荘で漫画を書いていた当時の手塚治虫よろしく、台所でシャンプーし、タオル風呂でなんとかしのいでいたのだが、こんどは時間が無いので洗濯物がたまって、しまいにゃ着るモンが無くなってきたから大変だ!

 てなわけで、ちょいとそのへんの相談を当時のドラマー、後藤マスヒロ氏(彼が一番話しやすかったので)にしてみると、意外な答えが!

「アキ、四階のフロアに風呂場あるよ。洗濯機も置いてあるし、そこ使えばイイじゃん」

 おおお! なんという素晴らしき提案&ナイスビクター!! だが、その風呂施設はプロミュージシャンの方々や録音スタッフ達が使うためのモノ、オレごときぺーぺーが……、と思ったものの背に腹は変えられぬ。とりあえずパンタ氏に相談したら「ああ、別にいいだろ」との返事だったので、その日からオレは数日に一度(一応毎日は気が引けるので)洗濯機に服を突っ込みひとっ風呂、という生活を送るようになった。

 ここでひとつ、覚えていただきたい。ビクタースタジオは4階建てで、2階と3階にそれぞれ3部屋の録音ルームがある。んで4階はなんとワンフロアぶち抜きのデカい録音スタジオとなっていて、その奥に小さな風呂場があるのだ。

 何回か風呂に行き来し、3週間ほどしたある日のこと。それまで4階のスタジオにはまったく人気がなかったので、その日の夜中も意気揚々と洗濯物とタオルをひっさげ快適な風呂場へ向かうと、かすかに音が聞こえてきた。

 その時は“あ〜、誰かレコーディングに入ってるんだ”としか思わなかった……

 だが!!!!!!

 ひとっ風呂あび、さて頭脳警察がレコーディングしている2階へ戻ろうと風呂場から出た瞬間! 廊下のソファに座って、タバコ吸ったりくつろぐ人々10名ほどが目に入った。

“さ、サザンオールスターズだ……orz”

“ぐえー! スタッフに混じって毛ガニさん、そして原由子もいるっ!?!?!”

“ひや〜、こんな人たちの目の前を、風呂上がり丸出しで通らなきゃならないのかオレ”

 しかし不幸中の幸いか、そこには桑田氏の姿は無かった。きっとスタジオ内にいるのだろう。オレはかなりハズカシイ気持ちのまま(いや、こういう局面では結構小心者なので)足早に廊下を歩き去り、エレベーターのボタンを押しまくる。しかし、そんな時に限ってなかなかエレベーターが来ない! ああっ、こんなはずかしめから早く逃れたい!!! と、そこでようやくエレベーターがやってきた。

 チーン

 グアー(ドアが開く)

“誰か乗ってる”

“桑田佳祐だ……orz”

 そう、やっと上がってきたエレベーターには、誰もが知るあのビッグネーム、桑田佳祐氏が乗っていたのである。風呂上がり&髪ベタベタ&首タオル&洗濯物両脇、そして目の前には桑田。多くのエイリアンを倒してほっとしてたらクイーンが出てきた、みたいな状況である。だが、オレもすでに業界で1年修行した身、とっさに挨拶だけはした。

(夜中なのに)「おはようございます」

(注:業界では何時だろうがコレで済ます)

 すると、桑田氏はちょっと笑みを浮かべながらこう言うではないか!

「忙しくて風呂入れないんだ。大変だね」

 おおおおー! オレは別にサザンのファンでも何でもないが、その一言で救われたね。うん、やっぱ大物はスタッフだろうと優しくし…、ない人もいるけど(お昼のカレーがマズイと言ってスタッフをどやしつけライブをキャンセルした某ビジュアル系ビッグバンドとか。これ以上は怖くて書けない)、まあとりあえず、彼と直面したほんの数十秒は貴重な体験だったなあ。

 前回の内田裕也氏事件とは、別な意味で(笑)

 んではまた〜!


 早いもので、もう1年が経ってしまった東日本大震災。だけど、まだまだ被災地の人たちは苦しい生活を強いられてます。そんな人の元へ旬の野菜を届けようと動いている「プロジェクト・ビタミン・東北」に、ちょっとでいいから協力してくれると嬉しいなっと。現地のレポートも、オレのコラムより頻繁かつ確実にアップされているので(泣)、ぜひサイトをご覧あれ。

●Project Vitamin Tohoku

http://project-vitamin-tohoku.blogspot.com


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