オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

もう一つの越冬!!もう一つの被災地にて 和歌山川湯“越冬野宴

 こんな事を考えた事はないか? この世界は病んでいる。人は誰も彼も皆おかしい。あちこちでどんな痛ましい出来事があったとしても、関係ない人間はさしたる反応を見せないし、壊れた建造物も焼けたものもやがて造り直される。目に見える傷はふさがれ何事もなかったかのようにまた日常が戻ってくる。休む間もなく各種のメディアから流れ出る情報に人は喰いつき、まるで狂ったように新しい話題に夢中になり、やがてきれいに忘れていく。所詮人間の意識などそんなもの。悪く言えば冷酷で淡白、良く言えば能天気でポジティブ。

 別に拗ねた目で世の中を否定的に見ているわけではない。深夜通りかかった道中でライトアップされたとある光景を目の当たりにしてそんな考えが頭を過ぎっただけのことだ。場所は和歌山県中辺路町付近の311号線。街灯もないような道筋で煌々と工事用のライトに照らされた山肌はまるで爆弾でも投下されたような有様で崩れ落ちていた。昨年7月の台風被害の爪痕である。決して忘れていたわけではないがオレの中で記憶が薄れていたのは確かだ。やはりどんな酷い有様でもモニター越しに見る光景はどこかリアリティーがない。津波に襲われた東北も液状化した千葉も豪雨被害の北陸も足を運んだ際、実際のその惨状を目の当たりにしたときは言葉を失い、そこで生活する人々がいたのだと思うと居たたまれない気持ちになった。

 そして今回も。断っておくが野次馬的な好奇心でそういった場所を訪れているわけでもないし、慈善的なボランティア精神で来てるわけでもない。たまたまそういう場所や人と縁があってそこへ行くのだが今回、向かっている先も四国タイトロープ主催の越冬野宴の開催地、川湯温泉。どこもそうだがほんの一年前はこんな事になるとは予想もしておらず、いつ何が起こっても不思議ではないと言う事を改めて思い知らされた。そして自然の猛威から逃げ出す場所などどこにもないと言う事も。今年の越冬野宴はそんな容赦ない現実と真っ向から立ち向かうやつらが集う事となる。


今年で丸10年のエイプ。足回りをリニューアルして今宵も絶好調。しかしそろそろ次のエンジンを用意してたほうがいいかも

 この日はまだ開催前日。オレは毎度のごとく、前日スタートの途中泊を考えていたのだが久しぶりの長距離走に駆り出したエイプのコンディションが絶好調で思いのほかスムーズに距離が進んでくれたためこのまま一気に川湯入りすることにした。このまだクソ寒い季節の平日にキャンプするやつなどほとんどいない。いたとしてもこの手の集まりでは気の早いやつが一人二人いる程度だとオレは考えていた。しかし・・・夜の10時を回った頃、川湯野営場に着くと東屋の中で数人が談笑している。彼らはオレに気づき手招きをする。“越冬野宴”の参加者である事はわかっているがこの人数は想定外だった。

今年で丸10年のエイプ。足回りをリニューアルして今宵も絶好調。しかしそろそろ次のエンジンを用意してたほうがいいかも。

 想定外はそれだけではない。大体、こういう場合、居るのは暇をもてあました近場なやつと相場が決まっているのだがそこに居たのは5人中、4人が関東から北、内3人が東北勢だ。昨年あたりの西に対する東北勢の出現率を考えたら今さら驚くほどではないがまだ2月の前半というこの時期にあっては今、ここにいる面子の構成はあまりにも不自然といえる。なんせ北陸から北の地方では死人が出るほどの豪雪が連日、ニュースで報じられているのだ。そんな環境からちょっと仲間と呑むのに1000キロ超。あまりにもカッコよすぎる。そして・・・バカ過ぎだ。こいつらは何なんだ!? 弱音は吐かない、愚痴らない、そしてよく笑う。意外に凹みやすいと自負しているオレなど到底マネできない。


前夜祭にて。右側3名は東北から。それでも季節ごとくらいには会ってる気が・・・。左2名は愛知、埼玉。こっちは先月も会いましたな。来月も会いそうですな・・・まったく。
前夜祭にて。右側3名は東北から。それでも季節ごとくらいには会ってる気が・・・。左2名は愛知、埼玉。こっちは先月も会いましたな。来月も会いそうですな・・・まったく。

 まったく北のバイク乗りはその行動力のバカさ加減が尋常ではない。だがこのとてつもなく嬉しい誤算によって予定していた独り途中泊はひじょうに中身の濃い前夜祭となった。

 本祭当日の天気は快晴。本格的に人が集まってくる前に買出しをすませようとオレはスイセイと出かけた。新宮の街までは距離にして30キロ近くあるのでそこまで行くのは面倒だと言う事で近くのスーパーへ行く事に。しかし、近くの川沿いにある2階建てのスーパーはこれも昨年の台風のとき濁流に呑まれて壊滅していた。津波で言うところの逃げ場である高台から2階建ての建物を呑み込む規模の濁流が襲ってくると言うのはまさしく逃げ場が無く、考えただけでも恐ろしい話である。近隣の人から買い物ができる店を訪ねながら小さな店を2、3軒まわったのだが行く先々で聞く当時の話は凄まじいものばかりだった。


なぜかカブ、カブ、カブでカブだらけ。この遊び心がこの集会の定番になるのか!?でも結局、この人達、何に乗せても走りは過激なんですけどね

なぜかカブ、カブ、カブでカブだらけ。この遊び心がこの集会の定番になるのか!?でも結局、この人達、何に乗せても走りは過激なんですけどね
なぜかカブ、カブ、カブでカブだらけ。この遊び心がこの集会の定番になるのか!?でも結局、この人達、何に乗せても走りは過激なんですけどね。

 買出しを済ませてキャンプ場に戻ったあたりから人が増え始めた。オレとスイセイは到着したばかりの眞砂谷氏を連れ立って風呂へ行く事に。一応、お目当ては仙人風呂なのだがやはりここもやられていた。湯船まで向かう橋は無残に流されて毎年の形としてはできてない仙人風呂だったが無理して川を渡れば入れない事は無いような感じだ。しかし、そこまでする気が起きずオレ達は温泉街の一角にある銭湯へ。風呂に入りさっぱりしてキャンプ場に戻ると次々にバイク乗りが集まり始めた。


名古屋から参加の南風さん、マシンは超ミニなのになぜかテントは特大で暖房つき。このデタラメな組み合わせは何?

名古屋から参加の南風さん、マシンは超ミニなのになぜかテントは特大で暖房つき。このデタラメな組み合わせは何?
名古屋から参加の南風さん、マシンは超ミニなのになぜかテントは特大で暖房つき。このデタラメな組み合わせは何?

 この集会ここ2、3年の傾向だがやたらとミニバイクで来る者が増えた。そして北からの来訪者も。バイクに関して言うと主催の星野氏を筆頭にした四国からのグループはそのほとんどがカブと言う有様だ。それ以外でも、どんな遠方であってもブラックバードでしれっと現れるあの吉岡氏までもが今回、カブなのだ。名古屋の南風さんはモトコンポだし。まるで辿り着くまでの苦労とバカさ加減を競い合ってるような感じになってきている。北の連中にしてもそうだ。新潟、福島、仙台、青森といったこの季節、数メートル級の雪に埋もれた街から来るのだからマトモとは思えない。しかも新潟は昨年夏の大雨、東北は言わずと知れた大地震に見舞われた被災地で彼らはそこの住人なのだ。それにしても強い。彼らは何食わぬ顔でそれをやってのけるが単にそれが意地であったとしてもそんな簡単なものではないはずだ。そのあたりのハートの強さは平穏な気候の瀬戸内で暮らすオレなどと比べたら桁違いに強い。そんなやつらを中心に日が暮れる頃にはキャンプ場はバイク乗り一色に染まっていった。


いつものように乾杯です。これだけの人数だともうグジャグジャです。でも楽しいです。そして嬉しいです。わかるぅ?

いつものように乾杯です。これだけの人数だともうグジャグジャです。でも楽しいです。そして嬉しいです。わかるぅ?
いつものように乾杯です。これだけの人数だともうグジャグジャです。でも楽しいです。そして嬉しいです。わかるぅ?

バイクという乗り物が繋いだ本当に愉快な人の縁。全体から見れば少数派。だがこの素晴らしき世界に乾杯!!

バイクという乗り物が繋いだ本当に愉快な人の縁。全体から見れば少数派。だがこの素晴らしき世界に乾杯!!

バイクという乗り物が繋いだ本当に愉快な人の縁。全体から見れば少数派。だがこの素晴らしき世界に乾杯!!

バイクという乗り物が繋いだ本当に愉快な人の縁。全体から見れば少数派。だがこの素晴らしき世界に乾杯!!
バイクという乗り物が繋いだ本当に愉快な人の縁。全体から見れば少数派。だがこの素晴らしき世界に乾杯!!

 この越冬野宴の特徴は主催である星野氏のこれまでの行動範囲に比例して集まってくる面子のエリアは全国規模。つまり色んな場所の今の情報がリアルタイムで入ってくる。当然、今回、来れなかった仲間にもこの時の様子や元気だった仲間の事などが来た人間を介して枝分かれして情報として発信される事になる。時間も手間も金もかかる。だがこの面白さは経験した者しかわかるまい。ネットが広がりを見せ携帯やPCがどんなに進化しようとも直に人と人を繋いで伝わる人的情報に勝るものはない。深い傷を負った土地にその痛みを知る者たちの力強い声が響き渡る。いつものように宴会はエンドレスな盛り上がりを見せ、いつ終わるともなく深夜遅くまで続いた。

 翌日の帰り道。和歌山の港からはフェリーを使ってののんびりした帰路だ。その道中で色んな事が頭の中を駆け巡る。麻痺してはいけない。傷はまだまだ深い。その現実の中で昨夜、共に過ごした北のバイク乗りの笑顔が思い出される。次に自分がすべき事は何だろう。今回の旅でそれがおぼろげながら見えてきた気がした。


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