このままじっとしていても埒が明かないと判断したオレは意を決して出発した。とりあえずエンジンはかかるがアイドリングは不安定でアクセルから手を離すと止まってしまう。走り出してものの5分もしないうちにエイプは今にも止まりそうな勢いでゴボゴボと咳き込み始めた。少し走ったところで目に入ったガソリンスタンドに入り、給油ついでに少し休憩させてもらう事にした。親切な店員さん達は濡れ鼠なオレにお茶や茶菓子を用意してくれた。給油してくれた兄ちゃんにいたってはタバコまで差し出してくれるサービスっぷりだ。見知らぬ土地で人の優しさが身に沁みる。
バイクをガレージに入れておいていいですよというお言葉にも甘えてエイプをガレージ内へ。そこでフィルターを外し、エアーガンでたっぷりと含んだ水気を飛ばし、店内のストーブで乾かした。その間、テレビの天気情報を見ると降水量を示す表示がその地域ごとに水色、青、黄色、赤と表示されている。その赤い部分が今、オレがいる辺りだ。スタンドの兄ちゃんの話ではここから先、止まれる店らしい店はほとんどないと言う。つまりこの先は何があっても自力で何とかするしかないと言う事になる。たかだか50キロほど。普通に走ることができれば1時間もかからないような距離がえらく遠い距離に感じる。
昼近くまでゆっくりさせてもらいオレは店員さんたちに礼をいいスタンドをあとにした。多少ではあるがフィルターを乾かした事が功を奏したようで多少、咳き込みはするもののエイプは止まる事無く進んでいく。しかし無造作にアクセルを開けることができないし足回りにも不安を抱えたままだ。険しい峠道の上りではポコポコとまるで発動機のような音をさせながらスピードは時速20キロ以下にまで落ち込んでいく。そんな状態にありながらエイプはギリギリのところで心臓の鼓動をとめる事無くじわじわと坂を上っていった。そんな調子で上っては下りを繰り返しなんとか峠を越え午後の2時ごろアルカディア前夜祭会場となる鹿角平観光牧場に到着。それと同時にエイプのエンジンはイグニッションをオフにする事無く止まった。壊れたわけではない。人間にたとえるなら全力で走ったあと意識を失ったような感じだ。
それにしてもエイプのタフネスぶりは相変わらずでいつもオレの無理な要求に応えてくれる。陳腐な言い方だがコイツとならどこへでも行ける気がする(まぁどこへでも行っちゃってるんですがね)。
とりあえず辿り着いたはいいがそれらしき人影もなくオレはどうしたらいいのよ? などと考えていたら売店からこっちに向かって歩いてくる人影が見えた。島根のかっちゃんと今回の開催メンバーのマッドさんである。かっちゃんは星空ナイトでも一緒でその後、日本海側を山形まで走り、そこから下ってきたんだとか。マッドさんは初対面だ。他の参加メンバーはこの日の悪天候で到着が遅れているようだ。予約しているロッジに入れてもらい乾いた衣類に着替えるとやっと人心地つくことができた。今日はもう走る予定も走る気もまったくない。早々にビールを開けかっちゃんと乾杯。
しばらくするとまた一台、バイクが入ってきた。彼もまたはじめて会うバイク乗りだ。このアウェイ感がなんとも新鮮で心地いい。