終わりなき人の連鎖、その途上にて

 翌朝は割りと早い時間に目を覚ます事が出来た。昨夜は深酒をすることなく缶ビール7本程度だったのが功を奏したようだ。缶ビール7本が多いか少ないかは個人差があると思うがオレにしてみればいつもよりかなり少ない量となる。
 軽く朝食をとり撮影準備をしてステージ前に行くと気の早い参加者達がすでにスタンバイしていた。まだ撮影までは30分以上もある。カメラの調整とかをしていた時、会場内にブースを出している香川RBの阪入さんという方に声をかけられた。RB(レスキューサポートバイク)とはバイク愛好家を中心メンバーとする災害救援ボランティア組織のことだ。オレのバイク仲間のホリ氏とも面識がありMJバイクのオレのコーナーを読んでくれているらしい。一通りのお礼を言い言葉を交わしたあと阪入さんはこう切り出した。「大神さんにぜひ会わせたい人がいるんです」と。
「こちら、片山さんです。」と紹介されオレはその片山さんと対面する事となった。オレンジのポロシャツにスナフキン帽と言う姿のその人は一見すると普通のおじさんといった感じではあるがその眼光は鋭くタダモノではない何かを感じさせる。はて? どこかで見た事があるような・・・。記憶の引き出しをひっくり返すのに一瞬の間があったがすぐさま目の前の人物の正体に思い至った。二輪のロードレース世界グランプリにおいて’77年に日本人として初めてのシリーズチャンピオンに輝いたあの片山敬済氏である。’80年代のバイクブームを少しでもかじったバイク乗りであるならばおそらくその名前を知らぬ者はいないだろう。片山氏は現在、緊急災害対策チームBERT(バート)の理事長を務めている。BERTはバイクライダーや防災意識の高い人達が中心となって結成されたNPO法人で片山氏はOne Worldバトンリレーという募金活動でこのさぬきバイカーズにきていた。同様の目的意識を持つRBと連携する形での繋がりがあるのも当然といえる。
 簡単な自己紹介をさせていただき一通りの挨拶は交わした。ここは気の利いた一言でもと思ったがやはりこれだけの大物を前にするとどうしても緊張してしまう。自分の小物っぷりがまったくもどかしい。実を言うとオレは片山氏については過去に色んな人からレクチャーされていた。だがそのどれもがバカとかアホとか変人とか・・・バイク乗りにとっては褒め言葉と解釈でき、言った当人も決して悪意があるわけではないのだが言葉だけとれば決して人に良い印象を与えるものではない。ゆえに発する言葉としてはこのキーワードは削除しなければならない。とりあえずは「お会いできて光栄です」と、まぁここまでは上出来だ。だがそのあとがよくない。「お噂は色々と・・・」ここまで言って、しまったと思った。なんせそれ以外の噂をオレはまったく知らないのだ。この形でテンパってしまうとオレは知ってる事だけをそのまま口にしてしまう悪い癖があり過去に何度もこれで周囲を凍りつかせた事がある。そしてこの時も「色んな方から変人だと訊いておりますが」と。まったくオレってやつは・・・言葉だけは丁寧だが言ってる事は傍から聞いてる分にはただの悪口である。本人を目の前にして、しかも初対面で言う事ではない。
 あとにして思えばちょっと変わった方とかもっと言い方というものがあっただろうに。誰かフォローしてくれ、と思ったが片山氏のそれに対する反応は早かった。「何か誤解があるようだが・・・」と始まったその言葉にオレは土下座をも覚悟した。しかしそのあとに続いた片山氏の言葉は・・・「私は変人ではない。ただ狂ってるだけだ」と。どう解釈していいか迷うその言葉のあと片山氏は満面の笑顔を見せる。この辺りはもう片山氏の余裕の貫禄としか言いようがない。周囲もこれには大笑いしオレは事なきを得た。


2日目、仕事的にはこれだけは外せない集合写真の撮影。どうだい、ちゃんと仕事してるだろう。しかしオレはこの集合写真撮影ってやつがとても苦手なのですよ

2日目、仕事的にはこれだけは外せない集合写真の撮影。どうだい、ちゃんと仕事してるだろう。しかしオレはこの集合写真撮影ってやつがとても苦手なのですよ
2日目、仕事的にはこれだけは外せない集合写真の撮影。どうだい、ちゃんと仕事してるだろう。しかしオレはこの集合写真撮影ってやつがとても苦手なのですよ。

 集合写真の撮影後、RBのブースに行くと精力的にバトンリレーの活動を行う片山氏の姿があった。このイベントのゲストとして来ているわけではないので片山氏がこの会場にいる事を知らない人が多く、気づいた人のほとんどがびっくりしてるような感じである。まぁそりゃそうだろう。このオレにしたってほとんど自分の意思が働いてない状態で来たこのイベントで片山氏のような大物に出くわすとは思ってもみなかったのだから。しかもこのイベントのあとRB主催の片山氏を囲んだ懇親会に招待していただき本当に楽しい時間を過ごさせてもらった。まぁその副作用として一晩家に帰るのが遅れ、画像の整理やら原稿書きがバタバタしてしまいはしたんだがね。


会場でバトンリレー活動を行う片山氏。少しずつ風化していく震災の記憶。引きずる必要はないが次になすべき事は考えなければならない。片山氏が導き出したその一つの答えがBERT

会場でバトンリレー活動を行う片山氏。少しずつ風化していく震災の記憶。引きずる必要はないが次になすべき事は考えなければならない。片山氏が導き出したその一つの答えがBERT
会場でバトンリレー活動を行う片山氏。少しずつ風化していく震災の記憶。引きずる必要はないが次になすべき事は考えなければならない。片山氏が導き出したその一つの答えがBERT

香川RBのメンバーに片山氏を加え記念の一枚。このあとの飲み会に誘われ結局、この2日間、連日の宴会に
香川RBのメンバーに片山氏を加え記念の一枚。このあとの飲み会に誘われ結局、この2日間、連日の宴会に。

イベント後の懇親会にて。このあとも何人かで二次会へ。そりゃもう色々あって面白かったですよ。オレにとってこの2日間はまったく予想し得なかった形で幕を閉じた

イベント後の懇親会にて。このあとも何人かで二次会へ。そりゃもう色々あって面白かったですよ。オレにとってこの2日間はまったく予想し得なかった形で幕を閉じた
イベント後の懇親会にて。このあとも何人かで二次会へ。そりゃもう色々あって面白かったですよ。オレにとってこの2日間はまったく予想し得なかった形で幕を閉じた。

 実際、人の行動に約束されたものなどなにもなくすべては結果でしか評価される事はない。良い事もあれば悪い事だって起きる。人生は予測できない現実のオンパレードだ。想像を超え、時に期待を裏切り、それでも気がつけば順応と諦めを繰り返しながら見えない未来に向けて当てもなく転がっていく。その中で人の出会い、繋がりは重要な要素となる。会いたい相手を決めてかかるとなかなか会えなかったりするが決めなければ色んな人に会える。その中に今回、片山敬済氏がいた。具体的に今度、またどこそこで会いましょうなんて約束はしていない。だが縁があればきっとまた会うことになるだろう。
 そしてその時は・・・まずはちゃんと挨拶だな。


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