湯めぐりみしゅら~ん


第21湯 岐阜・富山湯巡りツーリング(3日目)

 岐阜・富山ツーリング3日目。今日は集会当日であり、何よりも今回の湯巡りツーリング最大の目標である黒薙温泉にチャレンジする日だ。天候は曇り。焦る気持ちを抑えながら午前7時30分前にキャンプ場を出発した。

 県道14号線を走り、20分ほどで宇奈月駅に到着した。朝ということもあってか、駅構内に人は少ない。駐車場にバイクを置き、とりあえず切符販売所に向かい、時刻表を見つめた。やはり事前情報と同じ、猫又駅までの折り返し運転だ。次の出発が午前7時57分。あと数分で出発する。とりあえず空席があるかどうか窓口で確認したところあるという。さらに黒薙温泉の営業時間について聞いたら「もうやってますよ…乗ります?」と駅員さんが聞いてくるので、チャンス!これはもう乗るしかない!「乗りますっ、乗ります!! 黒薙駅まで往復!」と速攻で黒薙駅までの往復切符を買い、改札口を通り、かわいらしいテレビでよく観るオレンジ色のトロッコ電車に飛び乗った。

 客車は窓なしオープンタイプと窓つきの普通タイプがあり、私はもちろんオープンタイプを選んだ。料金は往復で1,280円。座席は指定だが空席があり、余裕だった。飛び乗ってほどなくしてトロッコ電車は出発した。山間のひんやりした空気で眠気が覚める。トロッコ電車は時速約20〜30キロ弱、途中トンネルがいくつもあり、谷間を縫うようにゆっくりと健気に進んでいく。車内には音声案内が流れ、途中の観光ポイントが紹介される。

 テレビでよく観る黒部峡谷のトロッコ電車だが、実際に乗ってみて、これは面白いと感じた。確かにアミューズメント施設にある乗り物のような緊張感はないが、冒険心を沸きたてるワクワク、ドキドキ感は何とも言えない。鉄道マニア(中でも乗り鉄)には感涙モノだろう。人気があるのもうなづける。是非いつか晴れた日に、終点の欅平駅まで乗ってみたいと思った。

 トロッコ電車に乗って20分弱で黒薙駅に到着。ここから約600m、10分ほど山道を歩いたところに黒薙温泉はある。黒薙温泉は富山県黒部市宇奈月町にある温泉旅館だ。トロッコ電車が営業している4月下旬から11月下旬までの期間のみ営業している。この温泉の特徴は谷間を流れる黒薙川沿いに作られた混浴の大露天風呂だ。黒薙温泉は宇奈月温泉の源泉とされており、まさに源泉濃度100%以上のお湯だ。

 周囲の景色はいいが、それなりに急なところもある山道を歩き、つづら折りの山道を下りきったところに黒薙温泉があった。私の前に1人歩いていたが、その方が先にトイレに向かったので、これはチャンス!と入湯料600円を払い、建物と反対側にある名物の大露天風呂に向けてまっしぐら。眼前に広がる雄大な露天風呂には誰もいない。超速で服を脱ぎ、身体を洗い、湯船に入った。

「ああ〜っ、最高〜っ!」

 まさにこの瞬間のために、艱難辛苦を乗り越えて(笑)ここまで来たのだ。喜びが込み上げてくる。周囲を山に囲まれた雄大な露天風呂をしばし独り占め。肌触りの優しいお湯はキレイな無色透明。適温で何時間でも入っていたくなるほどだ。そうこうしているうち次々とお客さんがやってきた。温泉の神様(?)はまさに我に味方したのだ。

 十分楽しんだ私はお湯から上がり、黒薙温泉には約40分ほど滞在した。また山道を通って駅に戻り、宇奈月駅行きに乗車。途中すれ違ったトロッコ電車は満席だった。危なかった…もう少し遅かったら乗るのに手間取ったかもしれない。ましてや温泉を独り占めにはできなかっただろう。まさに「早起きは三文の得」としみじみ思った。

 宇奈月駅に戻り、立ち食いそばを食べて軽く腹ごしらえ。満足感に浸りながら、トロッコ電車から見えた宇奈月湖沿いにある「宇奈月町尾の沼体験交流施設とちの湯」に向かった。駅から約10分ほど、とちの湯の駐車場に到着すると、対岸の山裾を這うようにトロッコ電車が山奥に向かって走っていく。その景色はジオラマのようで、何とも言えない微笑ましい景色だ。

 「とちの湯」は富山県黒部市宇奈月町の宇奈月湖ほとりにある日帰り温泉施設だ。谷間にあるこの温泉も4月下旬から12月下旬の期間限定の営業となっている。入湯料は500円。浴室はそれほど広くないが、露天風呂は開放感バツグン。眼前に広がる雪を抱いた黒部峡谷を目いっぱい堪能できる。これで晴れていたら…。お湯は宇奈月温泉と同じ系統の無色透明のアルカリ単純泉。つい長湯してしまうお湯だ。

 至福の時を過ごしたところで、時間は午前11時10分。まだまだ集会の集合時間まであるので、宇奈月温泉の近くにある小川温泉元湯「ホテルおがわ」に向かった。県道14号線から県道13号線に入り、県道45号線を進み、約30分ほどで小川温泉に到着した。

 小川温泉元湯「ホテルおがわ」は富山県下新川郡朝日町にある宿泊施設だ。ここの名物は建物から徒歩で約7分ほどにある混浴の天然洞窟野天風呂だ。入湯料は通常1,000円だが、野天風呂だけだと500円となっている。私はもちろん野天風呂のみをチョイスした。

 バイクを駐車場に置いて、川沿いを歩いて野天風呂へ。その名のとおり、ちょっとした洞窟(ほこら?)のようなところに露天風呂があった。この洞窟は湯の華が凝固したものらしく、天然記念物にも指定されているという。やはりここも冬期は閉鎖している。先客はおらず、ここでも独り占め。炭酸水素塩泉の源泉100%のお湯は滑らかで、適度にお湯が冷まされているので入りやすい。こんないいところなのに、お客がいないのはもったいない。今度ホテル内の湯船にも浸かってみたい。

 小川温泉を出たところで時間は午後12時30分。まだ時間があるので、途中のコンビニで昼飯を食べてから、もう1湯入ることにした。県道13号線沿いに2軒あり、そのうちの黒部川明日(あけび)温泉元湯「バーデン明日」に決めた。「バーデン明日」は富山県下新川郡入善町にある宿泊施設を兼ねた日帰り入浴施設だ。入湯料は500円。当日は地元の方が大勢訪れていた。

 浴室は複数の湯船があり、やや熱めの無色透明の重曹泉はしゃっきりとした肌触り。更衣室で火照った身体を冷ましていたら、露天風呂があることを示す案内が目に入った。タオルを手に取り、案内に従い階段を登って行った先に、日本庭園風の広くて大きい長方形の露天風呂が出現した。こういう作りの温泉も珍しい。案内を見つけられなかったら露天風呂の存在に気づかなかっただろう。誰もいない露天風呂をまた独り占めした。

 露天風呂を発見して満足してバーデン明日を出ると、時間は午後1時40分。そろそろキャンプ場に戻ることにした。県道63号線に出て、数分でキャンプ場に到着。すでに他のメンバーも揃っており、挨拶もそこそこ、買出し部隊と風呂部隊に分かれることに。私はもちろん風呂部隊。県道13号線沿いにある別の温泉「舟見温泉」に行こうと私は主張した。無事その主張は受け入れられ、レギュラーの玉井カメラマンを含めた7人で向かった。

 舟見温泉「ふなみの湯ふれあい温泉」は先ほどのバーデン明日のすぐ近くにある日帰り入浴施設だ。入湯料は450円。内風呂のみで、泉質も明日温泉に似ているものの、泉温は舟見温泉のほうがやや熱め。こちらも地元の方で賑わっていた。

 キャンプ場に戻り、買出しも無事済ませて夕暮れとともに宴会スタート。地元産の食材を使った現場感たっぷりの鍋と、焼き物が振る舞われた。レギュラーメンバーは揃っているものの、今年も集会の主謀者であるN隊長は残念ながら不参加。北海道から電話での参加(?)となった。夕方まで曇りだったが、夜になるにつれて雨がポツポツ降ってきた。炊事場の横にタープを張り、雨をよけながら宴会は夜半まで続いた。

 翌朝、雨はほとんど止んでいた。集会恒例の「朝ラー(朝食べるインスタントラーメンのこと)」が配布され、各人各様で食した。朝食後、集合写真を撮って今年春の集会は無事終了した。ここからは、また各人好き勝手に出発し、自宅に戻ることになる。私はルートを決めきれず、とりあえず国道8号線を富山方面に戻り、県道6号線に進んで立山方面に向かい、途中何湯か入ってから東京に戻ることにした。ツーリング最終日、果たして無事東京に戻れるのだろうか。

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黒部峡谷を縫うように走る黒部峡谷トロッコ電車。写真は猫又駅から宇奈月駅に向かう、黒薙駅の近くの後曳橋を渡るトロッコ電車
黒部峡谷を縫うように走る黒部峡谷トロッコ電車。写真は猫又駅から宇奈月駅に向かう、黒薙駅の近くの後曳橋を渡るトロッコ電車。


黒薙駅から約600m歩いたところにある風情ある黒薙温泉の本館。営業期間は4月下旬から11月下旬までの期間限定となっている
黒薙駅から約600m歩いたところにある風情ある黒薙温泉の本館。営業期間は4月下旬から11月下旬までの期間限定となっている。


これが黒薙温泉の名物である大露天風呂だ。黒部川に面したところにあり、お湯はまさに無色透明という言葉どおり澄んでいる
これが黒薙温泉の名物である大露天風呂だ。黒部川に面したところにあり、お湯はまさに無色透明という言葉どおり澄んでいる。


看板を前に記念撮影。これほど達成感と満足感に満ち溢れた温泉はなかなか存在しない。まさに秘湯・名湯の名にふさわしい
看板を前に記念撮影。これほど達成感と満足感に満ち溢れた温泉はなかなか存在しない。まさに秘湯・名湯の名にふさわしい。


とちの湯から警笛を鳴らしながら対岸の山裾をトコトコと進むトロッコ電車が見える。湖は美しいエメラルドグリーン色をしている
とちの湯から警笛を鳴らしながら対岸の山裾をトコトコと進むトロッコ電車が見える。湖は美しいエメラルドグリーン色をしている


とちの湯の露天風呂からは黒部峡谷にそびえる山々が一望できる。目の保養とはまさにこのこと。これで晴れていたら最高だったのに…
とちの湯の露天風呂からは黒部峡谷にそびえる山々が一望できる。目の保養とはまさにこのこと。これで晴れていたら最高だったのに…


小川温泉元湯のホテルおがわの名物・天然洞窟野天風呂。洞窟の中に入っていると修行しているような気分になる
小川温泉元湯のホテルおがわの名物・天然洞窟野天風呂。洞窟の中に入っていると修行しているような気分になる。


地方のお役所のような作りの明日温泉元湯・バーデン明日。露天風呂に入りたかったら更衣室内の案内を見逃さないようにしよう
地方のお役所のような作りの明日温泉元湯・バーデン明日。露天風呂に入りたかったら更衣室内の案内を見逃さないようにしよう。


ふなみの湯ふれあい温泉はバーデン明日のすぐ近くにある。泉質は明日温泉に似ているが、やや熱めのお湯だった
ふなみの湯ふれあい温泉はバーデン明日のすぐ近くにある。泉質は明日温泉に似ているが、やや熱めのお湯だった。


炊事場を中心に集会仲間が各人各様でテントを張った。買ったばかりのテントはツーリング3日目にして雨を経験した
炊事場を中心に集会仲間が各人各様でテントを張った。買ったばかりのテントはツーリング3日目にして雨を経験した。


ブースカ的温泉評価
●黒薙温泉  ★★★★★★★★★★
この達成感と満足感は言葉では言い表せない。
●とちの湯 ★★★★★
雄大な黒部峡谷が一望できる絶景の露天風呂は絶対入るべし。
●小川温泉元湯「ホテルおがわ」 ★★★★
秘湯の雰囲気が漂う隠れた富山の名湯。
●明日温泉「バーデン明日」 ★★★★★
隠し部屋を見つけるような感覚の露天風呂。
●舟見温泉「舟見ふれあい温泉」  ★★★★★
地元の方で賑わうちょっと熱めの温泉。

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は527湯。湯巡りツーリングの相棒はスズキ・ジェベル250XC。ちなみにマイカーもスズキのエスクードというスズキスト。


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