第23湯 上高地周辺の温泉
充実した内容だった岐阜・富山湯巡りツーリングから2ヶ月以上経ち、気づけば鬱陶しい梅雨が過ぎ、本格的な夏が訪れようとしていた。5月から続いていたイベントや別冊関連の仕事が一段落し、ちょっと時間ができたので、日帰りで出かけることにした。いつもだと行き先に迷うのだが、今回は迷うことなかった。即決だった。その行き先とは、前回の岐阜・富山湯巡りツーリングの最終日にパスした上高地周辺の温泉だ。
上高地は長野県と岐阜県の県境にある標高3000m以上ある槍ヶ岳を中心とした北アルプスを見渡せる日本でも有数の観光地だ。安房峠近くにある中の湯温泉からはマイカー規制が通年行なわれており、さらに近辺の国道は、冬期になると軒並み通行止めになる。夏休みの季節になると、避暑と登山で多くの観光客で賑わう。まだ残雪があるゴールデンウィーク中でも多くの観光客が訪れており、ゆとりを持って出かけるなら、夏前か秋前がベストだ。そうなると、7月下旬は夏休み前のギリギリの選択だ。これを逃すと紅葉前になり、行けるかどうか分からない。ならば、今行くしかない。
固い決心のもと、7月24日にツーリングを決行。自宅からアクセスしやすい中央自動道を通って3時間ほどということに気が緩んだのか、出発当日は午前7時に出発予定が、寝坊して午前8時に出発。夏の日差しが照りつける中央自動道を走り、上高地の玄関口である松本ICに午前10時45分に到着。そこから国道158号線を岐阜方面に走る。約1時間ほど走って、上高地への入口となっている「さわんど(沢渡)温泉」に到着。もっとも松本寄りに建つ「梓湖畔の湯」に入ることにした。
「さわんど温泉 梓湖畔の湯」は長野県松本市安曇にある日帰り入浴施設だ。国道158号線沿いにありアクセスしやすく発見しやすい。駐車場で温泉に入ることを告げて案内してもらってから駐車。入湯料は700円。浴室、内風呂と露天風呂いずれもそれほど大きくないが、浴室の窓からは梓川と折り重なる山々が一望できる。お湯は無色透明で、泉温は約65℃だが、ほどよい熱さと湯触になっている。疲れが一気に癒される。
満足した気分で外に出ると、標高が高いとはいえ暑く、汗が止まらない。でも汗が止まるのを待ってては時間がもったいないので、走って冷やしながら(=空冷)次の目的地に向かった。第2湯目は、国道158号線を岐阜方面に15分ほど走ったところにある「坂巻温泉」だ。坂巻温泉は松本方面から訪れる場合、トンネルを抜けたすぐのところにあり見逃しやすいので注意が必要だ。そのシチュエーションはまさに秘湯の名にふさわしい。
「坂巻温泉」は長野県松本市安曇上高地にある温泉一軒宿だ。上高地への入口まであと一歩のところにあり、梓川渓谷沿いの山深いところにある。入湯料は500円。ここの名物は男女別の露天風呂だ。ちなみに露天風呂の日帰り入浴時間は午前9時から午後4時となっている。
落ち着いた和風の館内を歩いて露天風呂に向かう。湯船は大きくないものの、開放感があって周りの景色を堪能できる。ちょっと白濁した、かすかに硫黄臭のするお湯は、泉温が約75℃のためか加水して冷まされているとはいえちょっと熱い。夏の日差しのもとで入るのもいいが、冬景色の中で入るのも最高だろう。
秘湯感を満喫したところで坂巻温泉を出発。昼飯抜きで3湯目に突入。次の目的地は、坂巻温泉から岐阜方面に走って数分のところにある、上高地の入口近くの「中の湯温泉(中の湯温泉旅館)」だ。「中の湯温泉」は長野県松本市安曇中の湯にある温泉一軒宿だ。安房峠に向かう国道158号線から脇に入ったところにある。ちなみに冬期(11月15日〜4月27日)はゲートが閉まり、温泉へは直接アクセスできなくなるので注意しよう(旅館は通年営業で、冬季中はゲートまで迎えに来るとのこと)。
山中とは思えない立派な建物に驚きながら玄関をくぐり、ロビーで入湯料700円を払う。ここも日帰り入浴時間は午後12時から午後5時までとなっている。浴室に向かうと、内風呂だけかと一瞬思わせるが、よく見ると階段を降りた先に露天風呂があった。浴室からは穂高連峰が広がり、眺めはいい。
身体を洗い、露天風呂に向かう。屋根やひさしがない露天風呂は開放感バツグン。広めの湯船にたっぷり注がれるやや硫黄臭のするお湯は、無色透明でややぬるめ。先ほど入った坂巻温泉とは対照的だが、開放感のある作りにマッチしており、時が経つのを忘れてしまう。雲の切れ目から太陽が注ぎ、高地らしい澄んだ空気に見も心も癒される。
上高地ばかりに目が行きがちだが、こんな素晴らしい温泉が周辺に点在するとは、正直想像できなかった。先日訪れた平湯温泉もいいが、ゆったりするなら坂巻温泉や中の湯温泉がいい。是非宿泊してその良さを堪能してみたい。
さて、中の湯温泉に入ったところで時間は午後2時を過ぎていた。ここからは国道158号線を松本方面に引き返して、松本に向かう途中にある温泉を、時間の許す限り入っていく。第4湯目に選んだのは、数年前に共同浴場や旅館などに入浴剤が混入された温泉が供されたことで問題になった「白骨温泉」だ。「白骨温泉」へは岐阜方面から向かう際は県道300号線を通るのが近いのだが、現在通行止めなので、さわんど温泉を過ぎた先にある県道84号線を通り、上高地乗鞍スーパー林道を通って向かう。
中の湯温泉から約1時間ほど走り、山深い中にひっそり佇むように白骨温泉があった。先に述べた問題の発端となった温泉街の入口近くにある「公共野天風呂」に入ろうと思った。しかし、入口が閉鎖されており、看板を見ると、
「公共野天風呂の安全対策を行なっています。平成24年7月31日まで」
何だと! 工事中だと…しかも7月31日まで…。あと1週間遅ければ入れたのに…何とも言えない悔しさが込み上げてきた。せっかくここまで来たのだからお湯に浸かって帰りたい。日帰り入浴ができそうなところを探したところ、野天風呂の近くにある「煤香庵」が入れるという。
「煤香庵」は長野県松本市安曇白骨温泉にある日帰り入浴施設だ。入湯料は700円。営業期間は4月から11月となっている。浴室は露天風呂だけで、木作りの湯船は横に細長い形状となっている。注がれるお湯は絵に描いたようなやや緑がかった白色。これぞ白骨温泉のお湯なのだろう。湯加減はちょうどよく、肌触りは硫黄系のお湯らしい滑らかさを有している。あのような問題が起きてしまったのは何とも残念だ。公共野天風呂に入れなかった悔しさはあるものの、白骨温泉のお湯に無事浸かれたのでよしとしよう。
まだ時間があるので、白骨温泉から上高地乗鞍スーパー林道を県道26号線方面に40分ほど走ったところにある「奈川温泉 富貴の湯」に向かった。「奈川温泉 富貴の湯」は長野県松本市奈川にある温泉一軒宿だ。坂巻温泉、中の湯温泉同様「日本秘湯を守る会会員」の宿だ。会員の名に恥じないほど宿は奥深いところにある。入湯料は500円。
浴室は内風呂と露天風呂があり、露天風呂のみに入ることにした。露天風呂は小さいが、無色透明のお湯がたっぷり注がれている。湯温は適温で、優しい肌触り。周りは木々で囲まれており、雑音は一切しない。私だけだったので、まさに独り占め状態だった。
奈川温泉を出ると時間は午後5時になろうとしていた。そろそろタイムリミットが近づいてきた。県道26号線を奈川渡ダム方面に進み、国道158号線に戻って松本に向かう。最後にどこか入りたいと思いながら走っていたら、往きに国道158号線沿いに温泉の看板が立っていたのを思い出した。注意しながら走っていたら、「竜島温泉」という案内看板を発見。右折して橋を渡った先に温泉はあった。
「竜島(りゅうしま)温泉 せせらぎの湯」は長野県松本市波田にある日帰り入浴施設だ。松本から上高地方面に約16km走ったところにある。入湯料は500円。広々とした内風呂のほかに小さめながら露天風呂もある。湯船にたっぷり注がれたお湯はアルカリ性単純泉の無色透明、ぬるすべ感のある肌触りの気持いいお湯だ。最後の1湯にちょうどいいお湯だった。
「竜島温泉」を出ると日が暮れかけていた。再び松本方面に向かい、松本ICから中央自動車を走り、途中諏訪湖SAで夕飯を食べてから東京に戻った。温泉数は6湯。日帰りとしては上出来だった。総走行距離は約530km。なかなかガッツリ走っていた。
意外に満足度の高かった温泉が多かった今回のツーリング。550湯まであと少し。年内達成するためには、8月下旬か9月下旬に夏休みを兼ねてどこかにロングツーリングに行きたいたいところだが、果たしてどうなることやら。
●さわんど温泉「梓湖畔の湯」 | ★★★★★ | |
上高地の入口にあるのんびりできる温泉。 | ||
●坂巻温泉 | ★★★★★ | |
まさに秘湯の名にふさわしい上等なお湯の露天風呂。 | ||
●中の湯温泉 | ★★★★★ | |
上高地の美しい景色を眺める露天風呂は名湯そのもの。 | ||
●白骨温泉「煤香庵」 | ★★★★★ | |
絵に描いたような白濁したお湯が露天風呂で楽しめる。 | ||
●奈川温泉「富貴の湯」 | ★★★★★ | |
スーパー林道の途中にある秘湯の雰囲気が漂う温泉。 | ||
●竜島温泉「せせらぎの湯」 | ★★★★★ | |
松本市からほど近い癒し系の日帰り温泉。 | ||
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