BIG-1 20周年記念特別企画Vol.2
BIG-1大全 その1
●撮影─衛藤達也、富樫秀明、伊瀬ひかる
※この記事はミスター・バイク2008年7月号に掲載されたものをベースに再編集したものです。

新しい時代にふさわしいホンダのロードスポーツはどうらうべきか」を徹底追及

 あまりに先鋭化しすぎたレーサー・レプリカ・ブームに疑問符がつきはじめ、緩やかながらバイク離れさえも起こり始めていた`90年代初頭、ひたすら前に向かっていたバイクブームのベクトルはポストレーサーレプリカを模索し始めていた。そんな時代背景でホンダでは プロジェクトBIG‐1 というキャッチフレーズのもと、研究所をあげてバイクの見直しが始まっていた。
 それが姿を見せたのが1991年の第29回東京モーターショーだ。参考出品としてホンダのブースに誇らしげに展示されたそのマシンこそ、サイドカバーに PROJECT BIG‐1 と記されたCB1000だった。


1991TMS
1991年の東京モーターショーでプロトタイプを展示。大きな注目を浴び市販化へ大きく動いた。

『“新しい時代にふさわしいホンダのロードスポーツモデルはどうあるべきか”を徹底追求した結果、このマシンが生まれた』と説明され、翌年4月に一足早く発売されることになるCB400 SUPER FOURとともに PROJECT BIG‐1 コンセプトの具現化を高らかに謳っていた。

CB1000SF CB1000SF CB1000SF CB1000SF
CB1000SF CB1000SF CB1000SF
エンジン周りで唯一? のハイメカといえる装備がPGM-IG。走りに最適な点火タイミングをコンピュータプログラムで制御し、目指した「太い走り」の実現に貢献した。足周りも構成自体はオーソドックスだが、フロントはRC30譲りのφ43mmカートリッジタイプのフォークを採用し、リアには分離加圧式倒立タイプのサスを装備している。ブレーキはフロントφ310mmディスクをダブルに、異形対向4ポッドキャリパーを組み合わせる。

 エンジンは、さすがに冷却方式こそ水冷だったが、4ストローク4気筒DOHC4バルブと教科書どおり。レーサーやレプリカの心臓としてもてはやされたV4エンジンではなく、そしてあたかも技術力を誇示するかのような斬新な機構も一切組み込まれなかった。ありとあらゆる頂点を極めようとして切磋琢磨していたレーサー・レプリカを見慣れた目には、全てがオーソドックス、全てがありふれた メカニズムではあった。

 排気量は ナナハンという呪縛が外された時代にふさわしく998ccに設定。VP45キャブによりリッター100馬力にはわずかに及ばない93馬力を8千500回転で発生。これまたホンダの4サイクル=高回転高出力のイメージからも解き放された結果であった。
 オーソドックスなエンジンをきわめてオーソドックスな丸型断面鋼管ダブルクレードルフレームに搭載。
足回りでもフロントにテレスコピック、リアに2本サスで懸架されるスイングアームと、とにかくシンプル。発売当時のカタログを見ても、メカニズムを事細かに紹介するページはわずか2ページ。
 この、オーソドックス、シンプル、スタンダードといったコトバの波状攻撃こそが、バイクが本来あるべき姿だったのだと、思い知らされるのは実はまだ先の話なのだが…。
 1000の時代は、レプリカ・ブームにより、バイクを見る目が覚めてしまった、いわゆる“ホンダ乗り”たちをもう一度バイクに振り向かせることに成功した。


1992CB1000SFカタログ

1993TMS_CB1000SF
1993年の東京モーターショーではカウル付きモデルを参考出品。翌年市販されたバリーションモデルT2への伏線ともなった。

CB1000SF 9211 赤白

CB1000SF 9211 黒
パールフェイドレスホワイト×キャンディブレイジングレッド ブラック×ヘビーグレーメタリック
新しい時代にふさわしいホンダのロードスポーツモデルはどうあるべきかを徹底追求した「プロジェクトBIG-1」コンセプトの頂点モデルとして開発されたビッグネイキッド。1991年の第29回東京モーターショーに参考出品され、大好評を得たモデルを市販化。エンジンは、水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ、998ccをオーソドックスな丸型断面鋼管ダブルクレードルフレームに搭載した。


■主要諸元 SC30(SC30E)■
●水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ、77.0×53.6mm、998cc、圧縮比10.0:1、最高出力93PS/8,500rpm、最大トルク8.6kg-m/6,000rpm、VP45キャブレター、燃料タンク容量23L、オイル容量4.6L、燃料消費率21.0km/L(60km/h)●全長2,220×全幅785×全高1,130mm、ホイールベース1,540mm、最低地上高140mm、シート高800mm、車両重量260kg●常時噛合式5段リターン、キャスター角27°00’、トレール111mm、タイヤ前:120/70R18 59V、後:170/60R18 73V、ブレーキ前:油圧式ダブルディスク、後:油圧式シングルディスク、懸架方式前:テレスコピック式、後:スイングアーム式、ダブルクレードルフレーム●発売当時価格:920,000円

再録インプレ
CB1000SF

 CB1000スーパーフォアは残念ながら他のリッターマシン以上に乗り手を選ぶ。
 まず、デカイ! これだけで大抵のライダーは怯むはずだが、跨って更に愕然とする。170cm以下のライダーではほとんどツマ先立ちで、両足べったりは180cm以上の身長を必要とする。まるで’70年代のナナハンのようと言えばわかり易いか。だから「乗りたい」と思ってもそれだけで一部のライダーは諦めてしまうかもしれない。女の子なら尚更だ。

 だが、走り出してしまえばこれらの短所は逆に大きなメリットとして生きてくる。安定性が良いのはもち論、とにかく、“カッコ良く見える”。重そうなハンドリングもただの惜覚とすぐ気づく。400スーパーフォアと何ら変わらぬ軽快さは常識を破るもので、都内の渋滞路走行でさえ得意種目としてしまう。そして、最後になったが“速い”。
 こうなったら体力作りをするしかない。それがCB1000への近道だ。

ビキニカウルと漆黒のバリエーションモデル

CB1000SF T2

 1000時代の唯一のモデルチェンジといえるのがこのT2の登場する1994年7月だ。
 従来からのイニシャル調整機構(5段階)に加え、圧側・伸び側それぞれに減衰力の可変機構(各4段階)を採用したフルアジャスタブル式へとグレードアップ。前・後にウインカー兼用のハザードランプを装備するとともに、ライダーの手の大きさに合わせて調整可能なアジャスタブルタイプのクラッチレバーを新たに採用している。PGM‐IGにはスロットル開度と回転数に加え、スロットルの開閉速度も加味するセッティングに変更された。
 そしてこのマイナーチェンジと同時にステアリングマウントのビキニカウルを装着し、ブラックカラーでまとめた精悍なイメージのT2タイプが登場した。風防効果だけでなく、ライト両側のエアダクトにより整流効果も発揮すると説明されていた。ブラックアウトされたのはハンドルバー、メーターパネル、エンジンヘッドカバー、エンジンマウントプレート、エキゾーストパイプ、クラッチカバー、テレスコピック・アウターケース、リアスイングアーム、ピリオンステップ、ミラーなどで、ただしリアサスのスプリングはスタンダードモデルの黒から赤へと変更されている。

CB1000SF T2 CB1000SFT2 CB1000SF T2 CB1000SF T2
両サイドのダクトにより整流効果も発揮する、というビキニカウル。PGM-IGの改良とともにリアスプロケットのギア比を42丁から43丁へ変更することによりさらに力強い加速特性を実現。

CB1000SF T2

CB1000SF T2
ブラック

安定した減衰力特性を発揮し、放熱性にも優れたリザーバータンク付きダンパーは、それまでのイニシャル調整機構(5段階)に加え、圧側・伸び側それぞれに減衰力の可変機構(各4段階)を採用したフルアジャスタブル式へとグレードアップ。


■主要諸元 SC30(SC30E)■
●水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ、77.0×53.6mm、998cc、圧縮比10.0:1、最高出力93PS/8,500rpm、最大トルク8.6kg-m/6,000rpm、VP45キャブレター、燃料タンク容量23L、オイル容量4.6L、燃料消費率21.0km/L(60km/h)●全長2,220×全幅785×全高1,205mm、ホイールベース1,535mm、最低地上高140mm、シート高800mm、車両重量262kg●常時噛合式5段リターン、キャスター角27°00’、トレール111mm、タイヤ前:120/70R18 59V、後:170/60R18 73V、ブレーキ前:油圧式ダブルディスク、後:油圧式シングルディスク、懸架方式前:テレスコピック式、後:スイングアーム式、ダブルクレードルフレーム●発売当時価格:940,000円

初代1000最後の新色

CB1000SF

CB1000SF
外観をスパークリングシルバーメタリックのモノトーンとし精悍さを強調するとともに、前後ブレーキキャリパーとリア・サスのサブタンクをゴールドに変更した新色のスパークリングシルバーメタリックを追加。従来色も継続されたので全3色とT2のラインナップに。価格はツートーンカラータイプに比べ3万円安の89万円に設定された。



CB1000SF欧州仕様

CB1000SF欧州仕様
CB1000SUPER FOURの輸出モデルはSUPER FOURの名称がつかないCB1000で発売。国内仕様とはサイレンサーなどのカラーリングや仕向地により仕様が異なる。車体サイズや乾燥重量はほぼ同一だが、欧州仕様の最高出力は98ps/8500rpm、最大トルクは8.9kg-m/6000rpmと、国内仕様を上回る。写真は1996年のIFMAショーに参考出品されたモデル。

■PROJECT BIG-1二十周年記念特別企画
[VOL.0 ハタチのBIG-1にスペシャルエディション誕生]
[VOL.1 今、もういちどBIG-1を語ろうか 初代LPL原 国隆氏インタビュー]
[VOL.2 BIG-1大全 その1 CB1000SUPER FOUR(1992~1996)]
[VOL.3 BIG-1誕生20周年記念フォーラム(動画付)
[VOL.4 BIG-1大全その2 CB1300SUPER FOUR(1998~)]
[VOL.5 「HRCにケンカ売ろうぜ1」 2003年8耐参戦]
[VOL.6 CB1300STで「秋をおいかけて」(前編)]
[VOL.7 BIG-1大全その3 CB1300SUPER FOUR(1998~)]
[VOL.8 CB1300STで「秋をおいかけて」(後編)]
[VOL.9 BIG-1大全その4 CB1300SUPER FOUR(2005~)]
[VOL.10 BIG-1大全その5 CB1300SUPER FOUR(2008~)]


●[CB400SUPER FOUR(1992〜2010)大全はWEBWEB Mr.bikeの旧サイトでご覧になれます。]

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