PROJECT BIG-1二十周年記念特別企画Vol.5

空冷フィンと決別し第二世代へ
●撮影─依田 麗 富樫秀明 楠堂亜希

 「メカニズムのことなど二の次、とにかく乗ってみてくれ! 感じてみてくれ!」
 プロジェクトBIG‐1の原点への回帰、そんな意志を強く感じさせるフルモデルチェンジであった。
 排気量に似合わない軽快な走りや取り回しの良さはCB1300の大いなる魅力だったが、停まっている状態でのマシンの扱いは、日常生活をともにするバイクとしてはいささか重すぎたといえる。初代で車両重量273kg、軽量化された後期型でも270kgもあったのだから。


2003CB1300SF

 モデルチェンジにあたって開発陣に与えられた重要な目標のひとつがその軽量化だった。結果的には乾燥重量で20kgの軽量化(エンジン単体でマイナス8kg、フレームで7kg、足周りで5kg)に成功するのだが、ことは重量面でのメリットだけに留まらない結果を生んだ。

CB1300SF CB1300SF CB1300SF
CB1300SF CB1300SF CB1300SF
“オーソドックス”なマシンだからこそ開発作業は単純ではなく、再度各部を徹底して見直しした。シンプルなモノほど改良は難しいということだ。初代から一貫してBIG-1が目指す方向性は同じであっても、初代と二代目の間には「似て非なるモノ」という言葉がふさわしいほど違いがあるのだ。
アナログ式にこだわった伝統の二眼メーターには、オレンジ色に自発光する指針が入る。シート下には12リットル相当の収納スペースを確保。

 美しく見せるために装備された空冷フィンの存在は否定され、水冷本来のシンプルな外観となりブラック塗装も省略。車体面では特徴的だったダブルプロリンク機構もあっさりと省略された。だからといって「軽量化のための軽量化」ではなく、目指したのはプロジェクトBIG-1の原点であることは間違いない。

 エンジンでは従来のロッカーアームタイプを直押しタイプのカムへと変更、ヘッドのコンパクト化や軽量化、低フリクション化を実現した。さらにシリンダーブロックもフィンを廃止しただけでなく同時に肉薄化も実施、鋳込みタイプのスリーブ採用によりスリーブのトップフランジなどが廃止され軽量化を達成した。

 燃料供給は32ビットECUで制御されるPGM‐FIを採用。回転数(クランクとカム2個所)、水温、気圧、スロットル開度の各センサーからの情報を高速演算し、スロットルレスポンスの向上と燃焼効率の最適化に寄与している。PGM‐FIによる環境対応とあわせて各シリンダーの排気ポートにはビルトイン式のエアインジェクションシステムを搭載してエア通路の見直しが行われて排出ガスもクリーンに。さらにバフ仕上げのステンレス製マフラーには可変排気バルブを採用。排気干渉を低減する集合管と併せて低周波の音をクリアにし、体に響き渡る重厚なサウンドを実現している。


98 CB1300SF

98CB1300SFカタログ

 車体周りでは、従来のモノバックボーンフレームからデュアルバックボーンフレームになりエンジンマウント各部の剛性を適正化。低速ではしなやかに、高速ではしっかりと安定感のあるフレーム特性とした。ちなみにホイールベースも30mm短縮され旋回性能や取り回し性を向上させている。

 ダブルプロリンク機構を廃したリアサスは2段階スプリングが採用され、さらにピストンロッド径を12・5mmから14mmへと剛性アップ、伸び側15段、圧側4段ダンピングアジャスターを装備することにより適切なダンピング特性を実現している。

 フロントブレーキはCBR954RRと同様の同径対向4ピストンキャリパーと軽量φ310mmダブルディスクを組み合わせている。リアはφ256mmシングルと小径、軽量化。キャリパーも同様シングルピストン式を採用。

 

 このように軽量化と共に、残す必要のある各パーツ各機能は徹底してアップトゥデート化が図られている。それは本来あるべき姿のバイクに立ち返るためにも必要な改革だった。


CB1300SF 2003 赤白

CB1300SF 2003 銀

CB1300SF 2003 黒
パールフェイドレスホワイト×キャンディアラモアナレッド フォースシルバーメタリック ブラック×フォースシルバーメタリック(ウイングタイプ)
前モデルに比べ20kgの軽量化を実現。三次元点火時期制御システムやPGM-FI(電子制御燃料噴射装置)を採用し吸排気システムを一新。機能面でも12リットルのシート下収納スペース、盗難抑止機構「H・I・S・S」、ライダーに必要な情報を提供するインフォメーションメーターなどの装備で使い勝手のさらなる向上を図っている。
スタイリングは迫力あるフォルムは継承しつつ、機能美を併せ持たせたスタイリングに。伝統的な白に赤のツートーンカラーと、黒にグレーのウイングマークイメージを施したツートーンカラーに加え、シンプルなシルバーのソリッドカラーの計3色を設定。


■主要諸元 BC-SC54(SC54E)■
●水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ、78.0×67.2mm、1,284cc、圧縮比9.6:1、最高出力74kW[100PS]/7,000rpm、最大トルク117N・m[11.9kg-m]/5,500 rpm、電子制御燃料噴射PGM-FI、燃料タンク容量21L、燃料消費率25.0km/l(60km/h)●全長2,220×全幅790×全高1,120mm、ホイールベース1,515mm、最低地上高135mm、シート高790mm、車両重量254kg●常時噛合式5段リターン、キャスター角25°00’、トレール99mm、タイヤ前:120/70ZR17M/C(58W)、後:180/55ZR17M/C(73W)、ブレーキ前:油圧式ダブルディスク、後:油圧式シングルディスク、懸架方式前:テレスコピック式、後:スイングアーム式、ダブルクレードルフレーム●発売当時価格:990,000/980,000(ソリッドカラー)円

再録インプレッション

 自分達が乗りたいと思うバイクを造った。足つき性はいいとはいえない。でも乗りたいと思う人に乗ってもらえればいい。ちょっと乱暴な言い方をすれば“乗れるもんなら乗ってみろ”的なニュアンスがそこには感じられた。
 それが『PROJECT BIG-1』コンセプトの基に生み出され、’92年に登場したCB1000SFだった。その、ホンダ久々の大型ネイキッドスポーツに乗ってみて、思い切りのいい造りに魅力を感じた。造り手の情熱や意気込みも充分に伝わってきた。実際の乗り味もよかった。
 だが`98年、X-4と基本を同じくするエンジンを搭載し、CB1300SFへとモデルチェンジされたとき、正直言ってちょっと残念に思ったところもあった。
 約300ccの排気量アップによってパワーもトルクも増大されていた。ホンダの最上級ネイキッドスポーツとしての押し出しもさらに強く感じられるようになった。足つき性も向上していたし、ホンダが力を入れて造ったモデルだったから、全体的な造りも悪いはずがなかった。
 しかし、大きいエンジンを載せたことのデメリットも出ていた。車重は乾燥で250kg近くなり、その重さによって、決して乗りにくいわけではないのだが、軽快さがややスポイルされてしまった。操る楽しさが少し減った、と言い替えてもいい。個人的にその重さが気に入らなかった。もっと車重を軽くしてほしい、と思っていた。

 で、フルモデルチェンジされて登場した新しいCB1300SFは、車重が20kgも軽減されていたので、やってくれたな、と思った。同時に試乗を前にして、どんな乗り味をみせてくれるのか楽しみだった。
 車体が軽くなっていることは、外観からも想像出来る。全体的なスタイリングイメージは従来を踏襲するものの、デザインは刷新されており、エンジンの造形をはじめ車体のディテールは異なる。各部がシェイプアップされて、キレが感じられる。


2003CB1300SF

 ポジションも操りやすい方向へと細かい変更を受けており、コンパクトになった印象である。ただ、シート高は数値の上では従来と変わらないのだが、足つき性はやや悪くなった。初代の1000とほぼ同じくらいである。前後サスペンションも変わり、初期設定がややハードになっていて1Gでの沈み込みが少ないからである。でも身長170cmくらいあれば両足の爪先がつくし、不安を感じることはない。
 走り出してまず感じたのは乗り味の軽快さである。見た目以上に軽やかな操縦性で、ちょっと驚いた。低中速域での取りまわしが軽く、ハンドリングもとても軽く乗りやすい。旧モデルとはまったく別物という感じである。
 吸排気バルブを直打式にするなどシリンダーヘッドがリファインされ、インジェクションを採用したエンジンも回り方が軽やかだ。加えて、3000rpmくらいまではスムーズかつ静かで、上質なフィーリングである。
 最大トルクは旧モデルより若干低くなっているが、低速での力に不足はなく、扱いやすい。
 また、車体が軽くなった事や、サス設定の変更及びホイールベースの短縮などもあって、アクセルだけで前輪を持ち上げることも可能だ。
 3000rpmを越えたあたりからエンジンは少しゴリゴリとしたワイルドなフィーリングになるが、大排気量マルチらしいと形容できるものだ。中回転から高回転にかけての吹け上がりもシャープで気持ちいい。速さも充分だ。
 ハンドリングが軽快で、サスはしっかりしているし、ブレーキも文句がない。エンジンは充分なパフォーマンスがあるし、全体的なバランスもいい。旧モデルで感じられたエンジンまわりを中心とした重ったるさはまったくない。
 乗り手の思い通りの感覚でスムーズにバンクし、シャープに曲がることができる。バンク角も深くなっていて、スポーツ性が大きく向上している。ワインディングが楽しいのは言うまでもない。
 新CB1300SF開発に際して造り手は『走って楽しい』を重視したということだが、それが実現されている。ワインディングでのスポーツ走行が旧モデルより断然面白い。ライバル車と比較しても最上級レベルである。
 かくあるべしと思えるように生まれ変わったCB1300SF。大型ネイキッドに乗りたいと思っている人達にお勧めしたい。

ニューカラーを追加し全4色に


99CB1300SF

 現行3色に加え、パールヘロンブルーとフォースシルバーメタリックのツートーンカラーを新たに追加し全4色の設定に。価格は変更なく990,000円(モノトーンは980,000円)

モノトーンのブラック追加

2004CB1300SF
パールフェイドレスホワイト×キャンディアラモアナレッド

2004CB1300SF

2004CB1300SF
デジタルシルバーメタリック×ブラックメタリック ダークネスブラックメタリック

 燃料タンク部分に大胆なストライプを配したデジタルシルバーメタリック×ブラックメタリックと、モノトーンのダークネスブラックメタリックにカラー変更。イメージカラーのパールフェイドレスホワイト×キャンディアラモアナレッドは、ホイール色がブラックからゴールドに変更された。8月に追加されたパールヘロンブルー×フォースシルバーメタリックはそのまま継続。価格は変更なし。

8耐レーサーイメージのスペシャル


2004CB1300SFドリームスペシャル

2004CB1300SFドリームスペシャル

2004CB1300SFドリームスペシャルカタログ

2004CB1300SFドリームスペシャル

 2003年の鈴鹿8時間耐久レースに出場したチームPROJECT BIG-1のマシンをイメージしたDREAM SPECIALを100台限定1,428,000円で発売。
 PIAA製HIDヘッドライトを内蔵したボディマウントのハーフカウル、モリワキエンジニアリング製のチタンエキパイ、カーボンサイレンサーのフルエキゾースト、アルミ削り出しセパレートハンドル、カウルマウントのバックミラーなどを装備。さらにツートーンカラーのシングルシートがオプションとして設定されていた。


■PROJECT BIG-1二十周年記念特別企画
[VOL.0 ハタチのBIG-1にスペシャルエディション誕生]
[VOL.1 今、もういちどBIG-1を語ろうか 初代LPL原 国隆氏インタビュー]
[VOL.2 BIG-1大全 その1 CB1000SUPER FOUR(1992~1996)]
[VOL.3 BIG-1誕生20周年記念フォーラム(動画付)
[VOL.4 BIG-1大全その2 CB1300SUPER FOUR(1998~)]
[VOL.5 「HRCにケンカ売ろうぜ1」 2003年8耐参戦]
[VOL.6 CB1300STで「秋をおいかけて」(前編)]
[VOL.7 BIG-1大全その3 CB1300SUPER FOUR(1998~)]
[VOL.8 CB1300STで「秋をおいかけて」(後編)]
[VOL.9 BIG-1大全その4 CB1300SUPER FOUR(2005~)]
[VOL.10 BIG-1大全その5 CB1300SUPER FOUR(2008~)]


●[CB400SUPER FOUR(1992〜2010)大全はWEBWEB Mr.bikeの旧サイトでご覧になれます。]

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