CB1300SUPER TOURINGで「秋をおいかけて」。気がつけば晩秋の冷気がそこに。木曽路を楽しみ野麦峠へ。

 午後4時45分、僕の暮らす町の空に夕焼け小焼けの旋律が流れる。ちょっと前まで暮れゆく太陽が落とす長い陰を楽しめたが、今は真っ暗だ。毎日、冬至に向け正確に季節は刻まれている。秋はもう待ったなしだ。

 秋が好きだ。だから日暮れが早くなる今、とても焦っている。暑さと戦う夏、寒さに耐える冬、暖かいけど景色がまだ閑散とした春。それと決定的に違い、紅葉、実りなど賑わう秋。そこに夕日が彩りを添えればそこかしこに絶景が覗く。季節と時間が造り上げるこのスペクタクルを見ずして2012年を締められない。そう僕にとって1年の〆は師走よりだんぜん霜月。そう正念場なのである。

 そこで秋の風景の中でもずっと気になっていた木曽福島から開田高原へと至る国道へでかけよう。戻りはその先から野麦峠を経て松本へと下りよう。決めた。クルマで1度、バイクで2度開田へは走った。かつて開田高原で泊まった宿(ふもと屋という蕎麦屋と宿の兼業していた)の人が「秋がきれいですよ」と言っていた。心中おだやかではない。秋も、ではなく、秋が、だったからだ。
 荷造りは簡単だった。寒さよけのレイヤリングは済ませたし、お守り代わりのカッパとくしゃくしゃになる頭に被る帽子、それに地図をもってゆけばいい。ETCカードをつっこみ、赤、緑、赤、緑、赤、緑と点滅して最後に緑になるご苦労なインジケーターに「クイズじゃないんだから。どっちかすぐに分かるくせに」と突っ込みをいれつつ走り出す。


今回の旅の相棒、CB1300ST。左右に29リットルの容量をもつパニアケースを装備するほか、積載を考慮したフレーム周りを専用に設計している。また、快適なツーリング+CB1300らしい走りの融合をもとめ、ハンドルバー、ウインドスクリーン、ビリオンステップにも専用パーツを装備。ジェネレーターの発電容量も大きくすることでオプションアイテムを装備しても余裕を持たせた本気の旅モデル。ナビ、ETCなど欲しいものがオプション装着されていた。CB1300STの詳細は新車プロファイルまたはホンダWEBサイトで。
こちらで動画が見られない方、もっと大きな映像で楽しみたい方は、YOUTUBEのサイトで直接ご覧ください。

 
 中央道で西に向かう。競馬場、ビール工場、圏央道の分岐、小仏トンネル、相模湖、三車線の談合坂を駆け上り、笹子トンネルを抜ければ甲府盆地だ。盆地を抜ければ高速道路は1015メートルを峠とする中央道最高高度まで駆け上る。CB1300ST、全く快調。追い越し車線に出る瞬間、5速のまま少しアクセルを捻る。ズォーという野太い排気音を漏らしこともなげに任務完了する。ビッグマルチらしく追い風の下り坂のごとき所作だ。オプションのナビが案内する目的地到着予想時間をときおり目にしながら走る。八ヶ岳の裾野あたりだろうか。山並みに黄色く色づく唐松が太陽に照らされ色濃い秋を見せる。
 諏訪に向けて転がるように下りてゆく。そして諏訪のサービスエリアに向け再び高度を上げ、諏訪湖越しに諏訪や岡谷の家並みを空撮みたいにみせてくれる。その先のジャンクションで名古屋方面に進めば伊那インターはもう近い。

  
 伊那インターを下り夏に泊まった宿をナビのお気に入りから呼び出し、走り出す。それにしてもお気に入りの赤いハートマークって、Facebookの青きサムアップを見慣れるとずいぶんとラブリーだね。
 インターから右に折れ、信州大学を回るように国道361号を目指す。右手に広がる農地。その先には山々。国道を右に折れると明確な上りが続く。そして家々や農地が切れるころ、国道は山間の中を伸びる綺麗なハイウエイへと姿を変えた。
 かつて伊那と木曽に主要な道路が無かった頃、古谷権兵衛によって開かれたという山塊を抜ける峠道がある。権兵衛峠だ。現在もその旧道はあるが夏来たときは通行止めだった。標高の高いその道は冬期には通行止めになる事もあり、伊那と木曽は厳しい山道のおかげで時折不通になったという。今走っているのはその山塊を貫くトンネルにより結ばれた権兵衛道路だ。開通から10年も経たないというから驚いた。景色は観光道路級にでかく、カーブが緩やかで走りやすい。
 こうした道が大得意なCB1300STなら本当に胸のすく走りを楽しめる。途中、4.5キロほどある権兵衛トンネルを過ぎると、旧道へと合流して、川沿いを走ることになる。実は夏に来たとき、このトンネル近辺で気温17度という体験をした。この時期なら何度になるのか? と恐れながら通ったが、秋は驚くほどでは無かった。11月初旬、8度。夏ほど落差は無かったが、やっぱり寒かった。
 こうしてインターから国道19号へと至る43キロは紅葉に染まった山肌を楽しみつつ、あっという間に駆け抜けていた。





伊那の町をぬけると国道361号線は快適なクルージングルートへと姿を変えた。

  
 国道19号を左折。といってもここからおよそ8キロ、木曽大橋の交差点で右折するまで、361号と19号は同じ道を併用することになる。目指すは木曽福島。国道19号、南に下れば名古屋、北上すれば塩尻から松本へと抜け、そのまま国道147号〜148号に進み北上すれば新潟の糸魚川へと抜ける。それだけにトラックも多い。このあたりは中山道として往来賑やかだったはずだから、それも納得。しかしながら海沿いを東西にゆく東海道のようにバイパスの連続業で、経済性最優先という道ではない。今回は通らなかったが、塩尻方向に向かえば程なく奈良井宿があり、他にも古い宿場町や関所が残る。時代が薫る道なのだ。



19号線から再び開田高原に向かう361号線に曲がる。程なく山間の里をぬける極上の景色に誘われる。

それぞれが熔けもせず混ざり合うこともなく点在する紅葉樹。複雑でえも言われぬ秋の模様を造り出す紅葉。この道は延々と木々が見せる深みある模様を楽しませてくれた。 19号を右折すると交通量も増えるが、しっかりと息づく文化と歴史を感じることができる。中央道の囲われた世界、361号の快適な新しい道という感覚とは異なる発見があった。

少し厚着しすぎたか、と思わず自分を笑うほど暖かい日差しが注ぐ。紅白のCB、秋にも映えてます。3シーズン用ジャケットは、SUPER Bold’orロングジャケット(ES-P3Z)。S~4Lまでの6サイズ展開の優れた機能を持つ。

 
 19号を行くと道には木曽の山から切り出した木材を使った木工の看板が目に入る。中央道で町から町へと雨樋のように移動してきた。そして権兵衛峠をトンネルであっさりくぐってきただけに、文化圏の変化を目の当たりにしたのがそうした左右に広がる景色からだった。通過するだけ。その中にもツーリングの醍醐味を感じた次第です。

 
 木曽福島の少し手前にある分岐を右折する。再び361号線、ここからはソロだ。高山へと抜ける道には当たり前のように高山までの距離を示す看板もある。なんだか遠くに来た。ここから走る361号線がたどる里山風景はツーリングを本当に贅沢にしてくれる。緩やかなカーブが続き、アップダウンもそれに加わる。山と山の間を流れる川に沿ってゆく。広い谷間を抜ける道だ。中には壁沿いに薪を積んだ家もある。畑の中から白い煙があがり枯れ草が燃える匂いがする。秋の空気は冷たくもあるが、紅葉と様々な匂いを運んでくれる。なぜだろう。こうした燃える煙の匂いをかぐと自動的に腹が減る。
 開田高原で蕎麦でも。以前泊まったふもと屋までナビは後15キロだと言っている。361号を行くこのあたりは何度目でも心が和むし、秋はやっぱり格別だ。空は抜けるように高く青いし・・・・。


ふとした小道に鮮やかな銀杏。


なんだろう。思わず引き返した場所にあったドライフラワーだろうか。のどかな時が流れる。 開田高原へと続く道。その脇に綺麗な白樺林があった。



ここは一枚かっこうよくバイクを撮っておきたい。と思うほど道端で絵になる景色。

他にも思わず写真を撮りたくなるポイント多々。煙の匂いに腹が減ったことを忘れはじめる・・・・

 
 その様相が次第に変わりはじめたのは10分も経たないうちだった。それまで明るかった空に雲が流れ、遠くの山々の尾根を灰色に染めている。その灰色が風で飛んだ後の山肌が何処か白い。雪? 降っているの? まさか。

 
 しかし開田高原に着く少し前から空はいよいよ暗くなり、シールドにもなにやら粒子が当たる音がする。間違い無く白い氷の粒だ。冗談でしょ? シールドから入る風は冷たさを増してきた。開田高原の入り口にある国道の長いトンネルをこえると、期待していた御嶽山もそのグレーの雲に頂を覆われている。ドカンと見える御嶽を拝むべく楽しみにしていたが、景色より太陽を返して、と心が静かに叫び出す。気温5度、4度とCBのインパネの温度計は秋を追いかけるツーリングが風雲急を告げる事を告げていたのである……。(続く)



しかし開田高原のふもと屋に近づき、もう店まで数分というころから空模様が怪しくなる。夏に見た絶景御嶽山ポイントに来てみると、あれ、その頂が見えず、グレーの雲が空を支配し始める・・・。

この先、まだ標高の高い峠を越えるのに眼前に広がるグレーな雲、そして真冬か?という景色。秋を追いかけたツーリングはここからとんでもないことになるのである・・・・。


■PROJECT BIG-1二十周年記念特別企画
[VOL.0 ハタチのBIG-1にスペシャルエディション誕生]
[VOL.1 今、もういちどBIG-1を語ろうか 初代LPL原 国隆氏インタビュー]
[VOL.2 BIG-1大全 その1 CB1000SUPER FOUR(1992~1996)]
[VOL.3 BIG-1誕生20周年記念フォーラム(動画付)
[VOL.4 BIG-1大全その2 CB1300SUPER FOUR(1998~)]
[VOL.5 「HRCにケンカ売ろうぜ1」 2003年8耐参戦]
[VOL.6 CB1300STで「秋をおいかけて」(前編)]
[VOL.7 BIG-1大全その3 CB1300SUPER FOUR(1998~)]
[VOL.8 CB1300STで「秋をおいかけて」(後編)]
[VOL.9 BIG-1大全その4 CB1300SUPER FOUR(2005~)]
[VOL.10 BIG-1大全その5 CB1300SUPER FOUR(2008~)]


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