ミュージシャンになるべく夢抱き上京したバカ編 その13
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アッキー加藤 |
アメリカン、チョッパーなどそっち方面が主戦場のフリーライター。愛車の1台は写真の750ニンジャというマニアックな一面も合わせ持ち、アメリカン以外のジャンルもほほいのほい。見かけはご覧のようにとっつきにくそうだが、礼節をわきまえつつ、締切も絶対に守り、かつ大胆に切り込んでいく真摯な取材姿勢で業界内外で信頼が篤い。ここまで書くとかなりウソくさいが、締切うんぬん以外はウソでもない。 | |
え〜、長らく続いているバンド編も今回で13話となるのだが、「ぜんぜん自分の音楽活動について書いてないやんけ!」と各地で(約2名)非難ゴーゴーの本コラムである。が、今回もそんなお言葉にはまったく耳を貸さずに、またしても自分のバンドとは全く関係のないハナシで進めていこうと思う次第である! あれは今から相当昔の1992年のこと。1年間の限定再結成だった頭脳警察が解散した後も、メインのアーティストであるPANTAの付き人をしていたオレは、ある日、PANTAからいきなりこう切り出された。 「アキ、こんど長与千種のライブのプロデュースやるから手伝ってくれよ」 「へ? ながよ、ちぐさ、ですか? あの女子プロレスラーの? てことはプロレス興行の手伝いですか? そんなのやったことないっすよ!」 「いやいや、プロレスは関係なくて(笑)。長与がこんどバンドでライブやるんだよ」 いったいどーゆーことか? プロレスにはまったく無頓着だったオレなので、長与千種という人に関してはなんとか女子プロレスってとこにいて、ライオネス・リッチーじゃなかったライオネス飛鳥なる人物とペアを組んでいたことくらいしか知らなかった。 だが、いつの間にやらプロレスを引退して芸能活動をやっており、ファンサービスの一環として女性メンバーと共にバンドを組み、当時かなりメジャーなバンドのライブが頻繁に行われていた日清パワーステーションにてライブをぶちあげるという。 して、ついにバンドのスタジオ入り初日となり、オレはPANTAに同行して現場へ赴く。そこで知ったのだが、なんとまあバックバンドのメンバーは豪華なもんで、結構な経歴を持つ女性アーティストが集結していた(だが、どこの誰だったかすでに忘却の彼方……スマン。その娘らについてはいずれ書くつもりである)。 そこで、ついに問題の(?)長与千種氏登場! まあ、プロレスを引退してしばらく経つので多少筋肉は落ちているのだろうが、それでもゴツい。身長はオレより10センチほど低かっただろうか、しかしとっくみ合えばたぶん負けるであろうという体格だった。 そこで、とりあえずオレは下っ端のお手伝いの身、まずは丁寧にご挨拶。 「初めまして。今日からバンドのお手伝いをさせていただきますアキといいます」 すると、長与氏は満面の笑顔で、かつ超丁寧な態度でオレの手を取り言った。 「ありがとうございます! 私バンドとか初めてなんで、いろいろお願いします!」 さすが女子プロで一時代を築いた人物! オレのようなペーペーに偉ぶる態度など微塵も見せず、とても好感の持てる第一印象だった。うむ、体育会系とはこういうものなのか。 そしてしばらくの間、スタジオでのリハーサルやら何やらと、長与氏とバンドのメンバーを色々とサポートするオレ。しかし長与氏、あんまり低姿勢なので、移動の時とかにオレが彼女のギターとかを持とうとすると、必ずこういって断ってきた。 「いえいえアキさん、自分の荷物は自分で持ちますから。大丈夫です」 うーん、なんとまあ人格の出来た方であろう。彼女くらいのレベルだったら、なんでもかんでも付き人にやらせっぱなしというパターンも多かろうに。 とまあ、オレにとって長与千種という人は、とてつもなく腰が低くて良い人、というイメージで定着し、それは本番まであと一ヶ月というあたりまで変わることはなかった。 が…… ある晩、スタジオ練習が終わり、メンバーみんなでメシでも食おうとPANTAが提言したため、我々は近くのファミレスに入り、まあなごやかなディナーを楽しんでいた。その時である。長与氏がふとオレに聞いてきた。 「アキさんは歳いくつなんですか?」 「あ、オレっすか? 今25歳っす」(当時だよ当時) 「えええー! アタシより年下じゃーん!!!」 そう、計算すると長与氏はオレより2歳年上で、まあオレは向こうの方が年上だってことは第一印象から分かっていたのだが、昔から年齢不詳といわれることの多いオレは、彼女にとっては年上に見えたらしいのだった。 そして翌日…… 早めにスタジオ入りし、他のメンバーの機材搬入などを手伝っていたら、長与氏がギターを持って登場した。だが、オレがいつもどおり「おはようございまーす(夜なのに。業界用語)」と挨拶すると、彼女の態度は前日までとは一転したものであった。 「アキ! このギター持って!! あとクルマの中にバッグあるからそれも取ってきて!!」 聡明な読者サマならもうお分かりであろう。長与氏が今までオレに対して低姿勢だったのは、体育会系ならではの「年上には逆らうな」精神が働いていたからであり、年下だと判明した以上、それは彼女の世界では“奴隷”と同義語なんである。 一応、それまではどちらかというと、バックバンドメンバーのお手伝いという感じだったオレは、その日から長与専属マシーンとして、本番当日まで有無を言わさずこき使われたのであった。トホホ…… さーて、この時のハナシはまだまだ続く。来月も(たぶん。最近更新遅れてゴメンナサイ) |
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