オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

越冬2013      年の区切りはいつもの場所で

 2012年もあと3日で終わりという12月の29日、オレは南へ向けて走っていた。
 年末という大きな節目には必ずと言っていいほどオレは昨年の事を考え今と比較するクセがある。オレを取り巻く生活環境、人間関係その他もろもろは普通に暮らす人間の数倍の速さで変化していく。面白いことも多い。だがそれ以上に面白くないことも多い。それが現実だ。もちろん変わる事無く楽しみにしている事も多々ある。今、向かっている行き先などその最たる例だ。見た目の状況は昨年とは少し違うが・・・。行き先は高知県桂浜種崎千松公園。そう毎年恒例の年越しである。
 BMWのサイドカーに見知った看板を背負ったライダーがオレを追い抜いて行く。行き先はきっと同じだろう。だがオレにまったく気づく様子はない。そりゃそうだろう。なんせオレは軽トラなのだから。荷台にエイプは乗っているが荷物に隠れてよく見えない有様だ。軽トラにエイプというのはこのところその楽さ加減に味をしめてオレがよく使う反則技だ。怠けグセここに極まれりといったところだな。言い訳させてもらえるならこの日、少々体調がよろしくなかったためバイクに乗りたいという気分ではなかったのだよ。
 しかし、この年末からの年越しは何気に一週間ちかくの長丁場。そのどこかで乗りたくなった時のためのエイプ持参というわけだ。そうは言っても毎年の事で言うと種崎滞在中においては呑んで食って寝ての繰り返しでほとんどバイクに乗ることはないんだがね。
 その交通手段が何であれオレは年末年始には高知県種崎公園にて多くの仲間と共に一年の反省とくる年の抱負をあれやこれやと語り合う。実際の所、オレにとって大晦日だとか正月なんてものはたいした意味をもたない。言ってしまえばただの12月31日と1月1日だ。しかし、人が年月を過ごすのに何らかの区切りというものが必要だ。それに自分の都合だけではみんなで集まることなどできない。そういう意味では年末年始というのは一年を通して数少ない貴重なまとまった時間という事になる。


瀬戸大橋を渡っての越冬参加は久しぶり。しかもバイク以外を運転して行くのは初めて。はい、楽チンです。車の便利さは認めざるを得ないですな
瀬戸大橋を渡っての越冬参加は久しぶり。しかもバイク以外を運転して行くのは初めて。はい、楽チンです。車の便利さは認めざるを得ないですな。

電車やバスで来る者もいる。越冬前半は少人数でのまったりとした時間が流れていく

電車やバスで来る者もいる。越冬前半は少人数でのまったりとした時間が流れていく
電車やバスで来る者もいる。越冬前半は少人数でのまったりとした時間が流れていく。

これから一週間ほどを過ごすオレの我が家。今回は軽トラゆえの不必要に充実した装備で武装。ええ、実に快適でした
これから一週間ほどを過ごすオレの我が家。今回は軽トラゆえの不必要に充実した装備で武装。ええ、実に快適でした。

薪に焚き火台、そして酒。種崎必需品の3点セット。これがなければ始まらない

薪に焚き火台、そして酒。種崎必需品の3点セット。これがなければ始まらない

薪に焚き火台、そして酒。種崎必需品の3点セット。これがなければ始まらない

薪に焚き火台、そして酒。種崎必需品の3点セット。これがなければ始まらない。

昨年は結婚したてで不参加だったが今年は嫁さんの許可をもらい種崎入りのがんじー。所帯を持ってもコイツのスタイルは変わらない
昨年は結婚したてで不参加だったが今年は嫁さんの許可をもらい種崎入りのがんじー。所帯を持ってもコイツのスタイルは変わらない。

 正午を1時間ほどまわった頃に種崎に着いた。この日の高知は青空が広がり気候は年末とは思えないほどの小春日和の暖かさだ。さすが南国土佐。
 すでに何人かの仲間が到着しておりすっかり始まっている。早い者では前日からいたやつもいるようだ。テントを張り、これから数日間を過ごす設備を整える。そして乾杯。この日、そんな感じでだらだら過ごしたオレはその翌日の夜、数名と街へ繰り出した。これはこの種崎越冬においてここ数年、恒例となっている。日常で家で飲んだり街へ飲みに行ったりする事がほとんどないオレなのだがこればかりは本当に楽しみにしている。なんだろう、うまく説明しきれないのだがその雰囲気、お目当ての食べ物、そして楽しい仲間たちとすべての条件が揃っているせいだろう。
 向かった先は高知市内のアーケード街の一角にある“ひろめ市場”。建物の一階フロア全部が屋台村のようになっていて地元の名物料理などが堪能できる場所である。この中のひいきにしている店に入りお目当てである“かつおの塩たたき”と“あおさ海苔の天ぷら”、そして地酒の生冷酒をありったけ注文する。これは誇張ではなく本当に店の人がもうありませんというまで注文し食べつくし呑み尽くした。グルメリポートではないがこの二品はマジでうまいので高知へ行った際はぜひ食してもらいたい。さらにひろめ市場を出たオレ達は川沿いにある屋台安兵衛で餃子をつまみながらもうひと呑み。越冬街呑みのフルコースだ。オレにとって年の終わりの最高の時間である。そしてその最高の時間はまだまだ終わらない。


悪天候であってもツワモノなバイク乗りは怯む事無くやってくる。2日目、3日目とその数は一気に増えた
悪天候であってもツワモノなバイク乗りは怯む事無くやってくる。2日目、3日目とその数は一気に増えた。

どこで、何を、誰と、この条件に自分の望むものすべてが揃った時の呑みは最高だ
どこで、何を、誰と、この条件に自分の望むものすべてが揃った時の呑みは最高だ。

かつおの塩たたきにあおさ海苔のてんぷら。少々、値は張るがこの二品は最高だ。オレ達は売り切れるまで注文しまくった

かつおの塩たたきにあおさ海苔のてんぷら。少々、値は張るがこの二品は最高だ。オレ達は売り切れるまで注文しまくった
かつおの塩たたきにあおさ海苔のてんぷら。少々、値は張るがこの二品は最高だ。オレ達は売り切れるまで注文しまくった。

オレ達、お気に入りのひろめ市場。ここへ来れば大抵の高知の名産品を味わう事ができる。この日も多くの客で賑わっていた
オレ達、お気に入りのひろめ市場。ここへ来れば大抵の高知の名産品を味わう事ができる。この日も多くの客で賑わっていた。

 その後も、やってくるバイク乗りは天候の悪化などものともせずその数を加速させていき大晦日でそのピークを迎えた。もちろんその間に来て帰っていった者もいる。地元のバイク乗りでちょくちょく顔を出す者もいる。強制などはない。あるのは当人のそうしたいかしたくないか、そしてそれに対して自分で行動を起こせるかだけだ。
 そしてここに留まっている者が連日することと言えば呑んで食って語り合って風呂入って寝るといった自堕落に時間を過ごす事。そして夜になれば焚き火を囲んでみんなで酒を片手に語り合う。毒と薬が近い存在であるように時間の種類も同じだ。
 こんな時間を延々と続けたらおそらく人間はダメになるだろう。だが長い人生の中で適度にこんな時間が必要なんじゃないかとオレは思う。便利で物質的な豊かさだけを求めるのではないこんな時間が。面子はその多くが毎年同じような顔ぶれだが初めての人もいれば久しぶりに会う人もいる。2年前の隠岐で会った飯田さんなどオレにしてみればちょっとしたサプライズだった。旅の一期一会と、連絡先も交換せず「また縁があればどこかで」と別れた人との思いがけない再会は本当に嬉しい。


大晦日にバイク乗りの数、そしてその盛り上がりはピークを迎える。あちこちで輪ができ、焚き火を囲んでのトークに花が咲く

大晦日にバイク乗りの数、そしてその盛り上がりはピークを迎える。あちこちで輪ができ、焚き火を囲んでのトークに花が咲く

大晦日にバイク乗りの数、そしてその盛り上がりはピークを迎える。あちこちで輪ができ、焚き火を囲んでのトークに花が咲く
大晦日にバイク乗りの数、そしてその盛り上がりはピークを迎える。あちこちで輪ができ、焚き火を囲んでのトークに花が咲く。

 大晦日、深夜0時目前。オレ達は海辺に出てカウントダウンを始める。海辺まで出る必要があるのかと聞かれればハッキリ言ってまるでないのだがそのあたりは単に気分的なものだろう。これについてはオレもよく知らない。ここへくるようになって毎回の事なので特に気にもせずみんなと海辺に出ていただけのことである。
 そして0時、全員で乾杯!!「ハッピーニューイヤー!」「あけましておめでとう!」の声があちこちで響き渡る。新しい一年がまたここから始まった。


新しい年の最初の乾杯はいつもの場所で。全員で海辺に出て酒を片手に“ハッピー・ニュー・イヤー!!
新しい年の最初の乾杯はいつもの場所で。全員で海辺に出て酒を片手に“ハッピー・ニュー・イヤー!!”

 さて、そんな2013年、最初の行事と言えば・・・そう、初日の出を拝む事である。
 日付が変わるほどの深夜まで呑んだくれた翌早朝の寝起きはキツイ。しかもそれに加えて浦戸大橋を渡り桂浜まで30分ほども歩く。特にこの事にこだわってるわけではないのだがどういうわけか毎年、律儀にこれに参加している。まぁこれくらいはやっておかないと極度な運動不足になってしまうという危惧がオレにそうさせているのかも知れないが。
 種崎の浜辺からでも初日の出は見る事ができる。だが桂浜と言う日本有数のポイントを目の前にしてそこで事を済ませると言うのもなんだかもったいなく思えてしまうしね。
 今年も桂浜の海辺は多くの人で賑わっていた。日が昇ってくるであろう水平線にはほとんど雲はかかっていない。そして・・・7時を20分ほど回った頃。その水平線から太陽が顔を覗かせた。毎年の事だがこれを見て特に思うことなどオレにはない。強いて言うなら昨年、曇っていて見れなかったのが、あぁ今年はちゃんと見れたなと・・・。
 そしてこの一年で最初の朝日を見た後は売店のたこ焼きをつまみながらビール。かすかに健康的かと思われた桂浜までのウォーキングが台無しである。でもね、みんなでこんな風に過ごす時間がなんだか楽しいのですよ。


全国的にも有名な初日の出スポットの桂浜は多くの人で賑わっていた。そして水平線からはキレイな朝日が

全国的にも有名な初日の出スポットの桂浜は多くの人で賑わっていた。そして水平線からはキレイな朝日が
全国的にも有名な初日の出スポットの桂浜は多くの人で賑わっていた。そして水平線からはキレイな朝日が。

龍馬像の下で記念撮影したあとはたこ焼き買ってビール。元旦のこの店は怪しい客で行列の出来る店です

龍馬像の下で記念撮影したあとはたこ焼き買ってビール。元旦のこの店は怪しい客で行列の出来る店です
龍馬像の下で記念撮影したあとはたこ焼き買ってビール。元旦のこの店は怪しい客で行列の出来る店です。

昼間は日なたで昼寝or日向ぼっこ。これぞ種崎の正しい過ごし方。何気にマジで気持ち良いのですよ
昼間は日なたで昼寝or日向ぼっこ。これぞ種崎の正しい過ごし方。何気にマジで気持ち良いのですよ。

年明け早々に誕生日を迎える吉岡、あゆこ嬢のご両人のため仲間が用意したケーキでささやかながらの誕生会が開かれた
年明け早々に誕生日を迎える吉岡、あゆこ嬢のご両人のため仲間が用意したケーキでささやかながらの誕生会が開かれた。

帰っていく仲間をみんなでお見送りする。ここでの日程はそれぞれの都合次第。今年一年、どこかでの再会を願ってそれぞれが握手を交わした
帰っていく仲間をみんなでお見送りする。ここでの日程はそれぞれの都合次第。今年一年、どこかでの再会を願ってそれぞれが握手を交わした。

 この元旦からは3日にかけてフェードアウトするように少しずつ人は減っていく。みんなそれぞれの都合で自分の帰るべき場所へ戻っていく。オレは毎年のように最後まで残って・・・街呑みから始まって大晦日の大宴会、そして年明けはまったりとこの一週間を色んなバリエーションで楽しんだ。
 種崎を後にしたその日もオレは徳島のコージの所へ行き、翌日にフェリーで帰るという飯田さんを交えて語り明かした。みんなで騒ぐのも楽しいがやはりオレは個人個人とじっくり語るのが好きだ。そしてその度にみんな、生活環境や思ってる事は違うんだなと実感させられる。仕事は? と訊けばそれぞれに色んな答えを口にする。こればかりはいまだに把握しきれていない。
 ただ・・・彼らが何者であるかをオレは知っている。訊かれればオレはきっとこう答えるだろう。やつらは生粋のバイク乗りだと。


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