湯めぐりみしゅら~ん


第31湯 福井県湯巡りツーリング(後編)

 福井県湯巡りツーリング2日目。今日は石川県小松市の「ふれあい健康広場」で開催される「春の集会」に向かう日だ。福井県を代表する名湯のひとつである三国温泉にある日帰り入浴施設「ゆあぽーと」に入湯し、いよいよ集会場所に向かうことにした。県道7号線を走っていったん芦原温泉方面に戻り、国道305号線を石川県方面に進む。片山津温泉に向かう県道20号線に入り、途中道に迷いながら北陸自動車道をかすめて片山津インターの近くにある「ふれあい健康広場」に到着した。

 石川県小松市にある「ふれあい健康広場」は、日本海に臨む安宅海岸の近くにあるキャンプ場だ。北陸自動車道がすぐ横を走っており、クルマやバイクが走っていく様子が分かる。場内は平地で、松林が林立するちょっとした公園のような作りになっている。バーベキュー場としても開放されており、どちらかと言えばバーベキュー(デイキャンプ)で利用する地元の方が多いようだ。

 駐車場に行くと、お馴染みの仲間がすでに来ており、テントを張っているところだった。私も早速荷物を降ろしてテントを張り、寝床の準備を済ませた。みんながテントを張り終えたところで片山津温泉に向かうとのことで、私も向かうことにした。片山津温泉は加賀温泉、山中温泉、山代温泉などと並ぶ石川県を代表する名湯だ。以前能登半島をツーリングした帰りに片山津温泉は立ち寄っており、この地域独特の「総湯」と呼ばれる、各温泉街の威信をかけて作られた立派な共同浴場に驚いたことがある。

 そんな経緯もあり、片山津温泉の入湯は2度目になる。以前入湯した片山津温泉の総湯は町の中心部にあるシンボル的存在で、歴史ある木造旅館のような作りだった。案内されて向かった先は、以前入湯した総湯ではなく、街の外れにある柴山潟沿いにある美術館のような瀟洒な建物だった。「あれ、ここではないんじゃないかな…」と思ったが、看板を見ると「加賀片山津温泉 街湯」とあった。「えっ、まさか、これが総湯なのか!」私は思わず驚愕、絶句してしまった。

 とにかく写真を見ていただけるとわかるが、その外観は鄙びた感じがする地方の共同浴場ではない。美術館そのものだ。それもそのはず、現代を代表する高名な建築家であり、ニューヨーク近代美術館新館などを手掛けた谷口吉生氏設計によるものである。まさに片山津温泉が総力を結集して作った共同浴場なのだ。

 驚いたのは外観だけではない。直線基調の窓や湯船に囲まれたアーティスティックな浴室は、柴山潟を一望できる「潟の湯」と、庭園が見渡せる「森の湯」に分かれており、訪れた日は「潟の湯」が男湯だった。入湯料は420円。内湯のみだが、少し熱めのお湯に浸かりながら見渡す風景は絶品だった。あらためてこの地方の「総湯」に込める情熱の凄さに圧倒された。入浴後、受付の女性にこの建物のことを聞いたところ、建物は昨年完成し、以前あった総湯は取り壊したとのこと。ちょっと残念のような気もするが、新館の出来が素晴らしいので、今度は「森の湯」に入ってみたくなった。

 片山津温泉を出て、スーパーで食材等を買出しした後、キャンプ場に戻った。夕食までの間、海を見渡せる広場から日本海に沈む夕陽を眺めた。思い起こせば日本海に沈む夕陽は見たことがなかった。昨日の天気がウソのようだ。日が沈み、管理人も帰ってしまい、キャンプ場は私たちだけになった。気兼ねなくワイワイ騒ぎたかったところだが、想像以上に寒く(おそらく気温5℃くらい)、汁物がありがたく感じるほどだった。そう言えば管理人の方もこんな寒い日はめったにないと言ってたな…。それでも日が変わるころまで騒いでいた。

 翌朝、天気は快晴。広場に出ると、肌寒いが心地いい風が吹いていた。朝食を摂り、テントを撤収し、記念撮影して解散。ここからは三々五々帰路に着くわけだが、私は帰りのルート選択で迷っていた。いち早く東京に戻って仕事したい気持ちと、夕方までぶらぶらして夜中に帰るのか…決着が着かないまま、入湯数を増やすために、国道8号線に出て粟津温泉に向かった。粟津温泉もこの地域らしく総湯があり、訪れてみると…なんと以前入湯したことのある総湯だった。てっきり粟津温泉は入ったことがないと思い込んでいた。前回に群馬県に行った時もそうだったが、最近こういうトラブルが頻発している。なにか対処法を考えなくてはならない。

 せっかく来たので朝風呂代わりに入浴して粟津温泉を出発。どうしても決着がつかず、粟津温泉から国道8号線を小松方面に行ったところにある加賀八幡温泉に向かったが、まったく見つからなかった。気温はグングン上がり、いつの間にか気温20℃を軽く超えていた。傷心状態で国道8号線を福井市方面に戻りながら「ここまで来たのだから、あと4湯入って合計10湯にしてから帰ろう」とやっと決意した。

 地図を見て福井市近くにある温泉をピックアップし、まずは佐野温泉に入ることにした。佐野温泉に向かう前に、国道8号線沿いに見つけた福井の名物である小川家の「ソースロースかつ丼」を食べて腹ごしらえ。国道8号線から国道416号線に入って30分ほど走ったところに佐野温泉があった。

 佐野温泉は福井県福井市佐野にある日帰り入浴施設だ。田畑に囲まれたのどかな風景の中に建っている。入湯料は800円。建物の中はどこかかつての健康ランドのような雰囲気が漂っており、利用者もお年を召した方が多そうだ。浴室はここの名物「砂利風呂」と露天風呂が完全に分かれており、着替えないと行き来できない。

 まずは「砂利風呂」に行ってみた。「砂利風呂」は砂利というよりも小さい石が、縦長で浅い湯船に敷き詰められている。小石をスコップで掻き出し、自分の身体にかけて寝湯のようにして入るものだ。掻き出して寝ようとするが、ひとりだと上手くできない。何とか足だけかけて入る。まるで石焼イモのようにだんだん身体が温まってきた。この風呂は複数人(できれば石を掻き出してかけるスタッフ)が必要な気がした。砂利風呂から出ていったん着衣して露天風呂に向かう。湯船はそれほど大きくないが、源泉の温度が60℃以上あるせいかお湯は熱めだった。

 汗をぬぐいながら。国道416号線を戻り、佐野温泉に向かう途中にあった大安寺温泉「すかっとランド九頭竜」に向かう。「すかっとランド九頭竜」は福井県福井市天菅生町にある公共の宿だ。福井市内からいちばん近い天然温泉という。入湯料は600円。館内を見ると、ここに合宿した生徒が残した寄せ書きがたくさんあった。浴室は開放感があり、内湯だけだが広々としている。源泉温度が53℃の無色透明のお湯は熱めで、すっきりとした肌触りだ。日帰り入浴でも朝6時から入れるのは嬉しい。宿泊料金もビジネスホテル並なので、旅の宿としてもいいかもしれない。

 大安寺温泉から上がったところで午後2時20分。夕方まで時間があるので、次に向かったのは美山森林温泉「みらくる亭」だ。国道416号線を走って国道8号線を福井市内方面に向かい、国道158号線を永平寺方面に走り、側道に入ってからほどなくして目的地に到着した。美山森林温泉「みらくる亭」は福井県福井市市波町にある温泉宿だ。入湯料は500円。建物は森に囲まれており、段々状になった建物の奥に浴室がある。内風呂のみの六角形の屋根を持つ浴室は大きくないが、大きな窓からは木漏れ日が差しており、和やかな雰囲気が漂う。お湯は無色透明で適温。まったりと入れる。

 外に出るとだいぶ日が落ちてきたが、もう一湯くらい入れそうだ。福井県最後の温泉に選んだのが、初日のキャンプ場の近くにあるかわだ温泉「ラポーゼかわだ」に決めてリベンジを図ることにした。国道158号線を福井市方面に戻り、県道18号線を鯖江市方面に向けて進み、多くの観光客が訪れていた「一乗谷朝倉氏」の遺跡を横目で見ながら30分ほどでかわだ温泉に到着した。

 かわだ温泉「ラポーゼかわだ」は福井県鯖江市上河内町にある体験実習のできる温泉施設だ。初日のキャンプ場の入口から数分のところにある。入湯料は500円。重曹泉と芒硝泉(ぼうしょうせん)がミックスされた珍しいお湯が供されている。窓の大きいすっきりとした作りの浴室と、大きくはないが庭園を望む露天風呂がある。露天風呂に入って今回のツーリングを振り返りながら、帰路のスケジュールを考えた。

 かわだ温泉を出ると午後5時に近づこうとしていた。名残惜しい気持ちもあるが、東京に帰らなくてはならない。県道192号線、県道8号線を走り、鯖江インターから北陸自動車道を通って米原ジャンクション経由、新東名高速道路で東京に向かった。途中、あまりにも眠くてウトウトしていたらしく、3回ほど車線を横切ってトラックにぶつかりそうになりながらも(なぜか毎回、クルマが追い越していく右車線に寄っていく…)、7時間かかって自宅に帰還した。

 今回のツーリングは行くまでいろいろ迷いがあったが、終わってみれば行ってよかった。しばらくは北陸方面には行かないだろう。しかし、帰りは無理をしないと誓いながらも、結局は無理をして危ない思いをしてしまった。いくつになっても大きな子供である。次は梅雨の合間に出かけられれば最高だが…果たしてどうなることやら。

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片山津温泉の「加賀片山津温泉 街湯」は私ですら一見して共同浴場だとは思わなかった。まさに芸術の領域、圧巻。浴場からの眺めも素晴らしい
片山津温泉の「加賀片山津温泉 街湯」は私ですら一見して共同浴場だとは思わなかった。まさに芸術の領域、圧巻。浴場からの眺めも素晴らしい。


石川県小松市の「ふれあい健康広場」から見た日本海に沈む夕陽。夕陽を手の上に載せたように撮ろうと思ったが、全然撮れなかった…
石川県小松市の「ふれあい健康広場」から見た日本海に沈む夕陽。夕陽を手の上に載せたように撮ろうと思ったが、全然撮れなかった…。


安宅海岸の近くにある石川県小松市の「ふれあい健康広場」。今回は他にお客さんがいなかったので、特別に場内にバイクを駐車させてもらった
安宅海岸の近くにある石川県小松市の「ふれあい健康広場」。今回は他にお客さんがいなかったので、特別に場内にバイクを駐車させてもらった。


粟津温泉の総湯(共同浴場)。加賀温泉の総湯に比べればこじんまりしているが、街のシンボル的な作りとなっている
粟津温泉の総湯(共同浴場)。加賀温泉の総湯に比べればこじんまりしているが、街のシンボル的な作りとなっている。


福井の名物である小川家の「ソースロースかつ丼」。写真は並(480円)にサラダセット(120円)をプラス。かつが3枚だけのシンプルな盛りがGOOD!
福井の名物である小川家の「ソースロースかつ丼」。写真は並(480円)にサラダセット(120円)をプラス。かつが3枚だけのシンプルな盛りがGOOD!


ユニークな「砂利風呂」が味わえる佐野温泉。館内の雰囲気はさながら昭和の健康ランド。地元の方の憩いの場所となっている
ユニークな「砂利風呂」が味わえる佐野温泉。館内の雰囲気はさながら昭和の健康ランド。地元の方の憩いの場所となっている。


大安寺温泉「すかっとランド九頭竜」は公共の宿ながら日帰り入浴も可能。朝6時から入れるのは朝風呂好きな旅人にとってはありがたい
大安寺温泉「すかっとランド九頭竜」は公共の宿ながら日帰り入浴も可能。朝6時から入れるのは朝風呂好きな旅人にとってはありがたい。


静かな森林地帯にある美山森林温泉「みらくる亭」。浴室は六角形の屋根をしており、まろみのあるお湯に浸かりながらゆったり過ごせる
静かな森林地帯にある美山森林温泉「みらくる亭」。浴室は六角形の屋根をしており、まろみのあるお湯に浸かりながらゆったり過ごせる。


初日のリベンジを図ったかわだ温泉「ラポーゼかわだ」。当初ここに宿泊しようかと思ったが、終わってみればキャンプしてよかった
初日のリベンジを図ったかわだ温泉「ラポーゼかわだ」。当初ここに宿泊しようかと思ったが、終わってみればキャンプしてよかった。


神田パーキングエリアで発見した「北陸道カレー」(800円)。本来カレーうどんがここの名物らしいが、どことなく金沢カレーに似た盛り付けだった
神田パーキングエリアで発見した「北陸道カレー」(800円)。本来カレーうどんがここの名物らしいが、どことなく金沢カレーに似た盛り付けだった。


ブースカ的温泉評価
●佐野温泉  ★★★★★
砂利風呂が名物の昭和の雰囲気が漂う鄙びた温泉。
●大安寺温泉「すかっとランド九頭竜」 ★★★★★
宿泊にも適した熱めのお湯が特徴の宿。
●美山森林温泉「みらくる亭」 ★★★★★
森に囲まれた浴室はまったりするのに最高。
●かわだ温泉「ラポーゼかわだ」 ★★★★★
2つの泉質が混じったお湯が楽しめる


*片山津温泉、粟津温泉は以前入湯したのでカウントせず

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は575湯。湯巡りツーリングの相棒はスズキ・ジェベル250XC。ちなみにマイカーもスズキのエスクードというスズキスト。


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