おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第34回
飛騨せせらぎ街道


飛騨せせらぎ街道は、岐阜県の高山市と郡上市を結ぶ約65kmの国道・県道の愛称で、高山側の県道73号線~中間区間の国道257号線~郡上側の国道472号線で構成される。ほとんどが林間や里山風景のなかを走る道で、街道沿いには川上川、馬瀬川、吉田川といった清流も続き、景色が素晴らしい。また、東海北陸自動車道が開通して以降、交通量は土日や、新緑・紅葉のシーズンを除いて非常に少ないので、爽快に走れる。道の駅も2カ所ある。

●ひだ清見せせらぎ街道ドライブマップ
http://www.hidakiyomi.org/nature/drive/
●道の駅パスカル清見
http://pascalkiyomi.jp/
●郡上八幡観光協会
http://www.gujohachiman.com/kanko/



MAP

 バイクで走って気持ちのいい道はいろいろあるけれど、路面がよくて交通量が少なく、周囲の景色も美しければ、すごく嬉しい。そんな道はクルマでドライブしても楽しいものだ。バイクの場合、加えて適当にコーナーが続くワインディングだったら最高! 飛騨のせせらぎ街道はまさにそんな道である。木曽路や飛騨路も若い頃から何度も走っているので、それ以前にも、せせらぎ街道を通ったことがある可能性は高い(一部区間など)が、覚えているのは約10年前だ。

 某二輪誌の仕事でBMWの新型直4モデルのツーリング試乗をした際に利用した。そのときは数泊の日程で、高速道路も使い、長い距離を走った。東京を出発して名古屋あたりから飛騨路に入り、せせらぎ街道やその他の山間の国道&県道をつないで北上。日本海側に出て、沿岸を走る高速で新潟港まで。で、夜間フェリーを利用して船上泊で秋田まで行って、帰京した、と記憶する。

 せせらぎ街道を走ったのは初日だった。ただ、その時も全線だったのか、一部だったのか、ちょっとはっきりしない。下呂温泉経由で国道257~県道73とつないで高山まで、というルートだったかもしれない。あるいは白川町から国道256号線~県道86号線とつないで東仙峡金山湖というダム湖岸を走り、国道472に入って北上した、ということも考えられる。でも、3年前に無料開放された飛騨美濃有料道路(坂本峠の坂本トンネル)を利用しことは確かだし、その先にある道の駅「パスカル清見」に寄って止まり写真を撮影し、近くの適当なコーナーで走り写真も撮ったから、郡上からR472を北上した可能性が高い。

 ともあれ、そのときは平日だったから交通量は少なかったし、いい道だなあと思った。また、パスカル清見も印象に残っている。周囲は里山風で美しく、緑が濃くなりつつある季節でしかも好天に恵まれ、陽光がまぶしかった。メニューと味に関しては忘れてしまったが、一息ついて食堂で昼食を摂ったように思う。

 そのときのことが頭の隅っこに残っていたので、昨年の6月、郡上八幡に20年来の知人と2人で1泊ツーリングに出かけた際にもせせらぎ街道を走った。1年前のことなので、さすがに記憶は鮮明だ。初日、中央道で茅野まで行き、国道152号線で高遠まで。一服ついでに高遠城址に寄り、その後も空いていそうな山間の3桁国道や県道をつないで、夕刻、郡上市内の民宿に到着。荷物を預けて八幡城址に出かけた。市街を一望できる素晴らしい眺望だった。

 郡上八幡は好きな街で、過去何度か訪れている。7、8年前にもバイク仲間3人で宿泊した。郡上踊りの最中で、夕食後、宿の主人の計らいで、踊りの中心地まで車で送ってもらい、積極的に踊りに参加することはなかったが、浴衣姿でぶらぶらと歩きまわった。踊りを楽しむ人でごったがえしていて、その熱気と賑やかさを存分に味わうことができた。郡上踊りを目当てに行ったわけではないが、図らずも伝統的な郡上の文化のひとつに触れることができて、有意義だった。



飛騨せせらぎ街道


飛騨せせらぎ街道


飛騨せせらぎ街道
●撮影-舟橋 朗 

 去年のツーリングでは、郡上踊りにはまだ時期が少し早かったので、夜はおとなしく宿で過ごした。翌日、朝食後、知人は用があって高速道路で直帰することになった。それを見送りながら、せせらぎ街道を走らずじまいではもったいないなあ…と。少し遅れて宿を後にし、俺は予定どおりせせらぎ街道~国道472をひとり北上した。吉田川に沿って行き交う車がほとんどない道を走る。涼やかな緑のなかを思いのままのペースで駆け抜ける快さ。

 その後も追い越す車、すれ違う車は1、2台しかなく、バイクの姿はない。あんまりスイスイ走れるものだから止まるのがもったいなく思えて、道の駅パスカル清見にも寄らなかった。国道257も同じように空いていて馬瀬川が至近を流れ、さらに県道73に入ると川上川の清流が道に寄り添うように続いて草木の緑も爽やかで、奥入瀬渓流を思わせる景観である。そのうえ行き交う車はなく、俺とサンダーバードが独占する格好で至福の時を楽しみ、高山に至ったのだった。

 10年ほど前に走った時もいい道だと思ったのだが、その時は、これほど気持ちのいい道だったっけ…素晴らしい! と改めて感じ入った。感動した、と言ってもいい。その大きな要因のひとつは、傍らの清流とその岸辺の美しさで、コンクリートや石垣などで固められていない自然のままの草木のなかを川が流れていることだ。周囲の木立も深すぎず浅からず、薫風がじつに心地よい…。

 いつもの悪い癖で走るルートの距離を短めに予測してしまい、多少先を急いでいたし、前述のように思いどおりのペースで気持ちよく走れたから、ちょっとバイクを停めて清流沿いの美観を楽しむことはしなかった。一服しながら写真の一枚でも撮っておけばよかった、と後悔している。言うまでもないが、もう少し早い時期=新緑の頃はもっときれいだろうし、紅葉の名所になっているルートだから秋は格別だろう。今度はそのどちらかの頃に走ってみたいと強く思う。



3


岐阜県の小京都とも呼ばれ、特に女性に人気の高い観光地高山。市内から飛騨の山々へと入り込んでいく国道158号線が飛騨せせらぎ街道の高山側のアプローチ。 郡上おどりでその名を知られる郡上八幡。普段は山間の静かな水の町だが、7月中旬から9月上旬にかけての日本一長いと言われる盆踊り期間は、多くの観光客で賑わう。


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、16年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万km。

[第33回へ][第34回][第35回へ]
[バックナンバー目次へ]