順逆無一文

第35回『WMTC』


「今後、二輪車の燃費表示が変わります」と先月の27日に自工会(日本自動車工業会)が発表したバイクの新燃費表示。いよいよその第一号、トップバッターが登場した。人気絶頂のカワサキNinja250の2014年モデルが記念すべき第一号だった(国内4メーカー中で初だと思いますが、間違っていたらご指摘下さい)。

「2014年モデル Ninja 250 新発売のご案内」という、7月2日付けで発表されたカワサキからのリリース中の諸元表に記載されたもので、


『燃料消費率(km/L)※1 40.0km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時)※2 25.7㎞/L(WMTCモード値 クラス3-2、1名乗車時)※3』


 と見慣れないWMTCモード値なる数値が追加されていた。
※印の補足説明として


『※1:燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状況などの諸条件により異なります。
※2:定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
※3:WMTCモード値とは、発進・加速・停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。』

 
 この※3の新しい燃費表示であるWMTCモードというのをちょっと説明すると、まずは1998年に結ばれた「国連の車両等の世界技術規則協定」がスタートとなっている。我が国もこの協定に加入したことでGTR(Global Technical Regulation)作りに参加。

 そして2005年に二輪車の排出ガス測定法としてWMTCモードが確定、GTRも制定されている。その後、国内では国土交通省が道路運送車両の保安基準に基づく「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」等の一部を改正し、2012年10月1日(輸入車は2013年9月1日)からスタートしている。といっても実際の施行は、この2013年7月からで、今後新しく型式認定を受けて発表されるモデルは、このWMTCモード燃費が表示(従来の定地燃費と併記)されることになった。ただ、今のところ表示は義務ではなく、メーカーの自主的な取り組みとして行われるという。というわけで、7月もそろそろと終わろうかというこの時期なのだが、カワサキのNinja250の’14年モデル、ただ一台しかWMTCモード値を併記したモデルが出てきていないのがちょっと気になるところ。

 ここまで読んで不思議に思った方はいないだろうか。何で燃費の話なのに排出ガス試験などという言葉が出てくるのか、だ。それはWMTCモード燃費というのが従来の“定地燃費”などとは異なり、WMTCモードで測定する排出ガス値から、計算のみによって算出される燃費値なのだということ。

 コールドスタートに始まり、発進、加速、停止などのパターンを含んだ実際の使用条件に近い条件(これがWMTCモードだ)で排出ガスを測定するテスト、ということで、この排出ガス試験のデータがあれば、計算で燃費が得られると説明されている。

 そんなものかな、とちょっと疑問に思わないでもないが、これまでの、ただ一定の速度でテストコースを走るだけで燃費を取っていたことを考えれば、十分に実用的な数値が得られるということなのだろう。

 ちなみに、その計算方法だが、


FC(燃費:リットル/100km)=(0.1155÷D)×(0.866×HC+0.429×CO+0.273×CO2)
※CO:一酸化炭素(g/km) D:ガソリン密度(kg/リットル、15℃) HC:ハイドロカーボン(g/km) CO2:二酸化炭素(g/km) 小数点以下で表示されている数値はそれぞれの質量割合

 
 この計算式から導かれたものがWMTCモード燃費値となる。HCやCOの排出量が大ければ単純にFCの値も多くなるのが分かる。

 FCは100km走るのに要する燃料の値(リットル)で表示されるので、FCの値が多いということは燃費が悪いということ。排気ガスがダーティ、ということは燃料もその分多く使っているということで、排出ガスのテスト値から燃費を計算する、というのもあながち大雑把な手法とは言えないのだろう。

 さらにもう一つ。WMTCモード燃費テストは排気量と最高速度を条件に5クラスに分けている。主に原付一種、二種となるのがクラス1で、排気量50cc超150cc未満および、最高速度50km/h未満または排気量150cc未満および最高速度50以上100km/h。

 クラス2(主に軽二輪)は、サブクラスで2-1と2-3に分けられ、2-1は排気量150cc未満、最高速度100以上115km/h未満、または排気量150cc以上、最高速度115km/h未満。2-2は最高速度115以上130km/h未満。クラス3(主に小型二輪)もサブクラスで3-1と3-2に分けられ、3-1は最高速度130km/h以上140km/h未満、3-2は最高速度140km/h以上。

 先ほどの例で、2014年モデルのNinja250は最高速140km/h以上なのでクラス3-2に分類されているというわけ。では、もう一度Ninja250の’14年モデルのデータに戻ると

『燃料消費率(km/L)※1 40.0km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時)※2 25.7㎞/L(WMTCモード値 クラス3-2、1名乗車時)※3』

 WMTCモード値の所は25.7km/Lとなっている。先ほどの式ではL/100kmと100km走るのに必要な燃料の数値で表すようになっていたが、これまでリッターあたり何キロ走れる、という燃費表示に慣れてしまった日本人には分かりにくいので、このように換算して表示しているのだろう。

 で、Ninja250のWMTCモード燃費を正しいWMTC表示(!?)に換算すると3.89L/100km。100km走るのに3.89L必要だ。WMTCモード燃費だと従来の定地燃費に対して、約65%。これなら実燃費に相当近い値なのでは。

 やっとクルマ同様に“役に立つ燃費データ値”(クルマでは2011年4月以降の型式認定車からJC08モードという実際の使用状況に極めて近い試験方法がとられている)での表示が行われるようになる。

 今後登場する新車のカタログには従来からの定地燃費と新しいWMTCモード燃費が併記されるはずだから注意して見て欲しい。自工会によれば、2016~2017年頃には全てのモデルがWMTCモード対応となる見通しだが、新基準に一本化するのかどうかは未定なのだとか。

 ちなみにこのWMTC、「Worldwide-harmonized Motorcycle Test Cycle」の略とするもの、「Worldwide Motorcycle emissions Test Cycle」とするもの、などが入り交じって解説されている。環境省のWEBサイト上ですら両方がでてきてしまう。古い資料では「harmonized」を使っている例が多いので、途中で省略されてしまったのだろう。UNECEの公文書では「Worldwide harmonized Motorcycle emission Test Cycle」などとあるので、やはり正式には「harmonaized」が入るのだろう。

 さて、最新のカタログの燃費表示を取り上げたので、逆に現在の表示方法がいつから行われているのだろうか、気になってちょっと調べてみた。定地燃費値による表示は相当に古い。

 1958年のスーパー・カブ号 C100型仕様のカタログ中にも、すでに「燃料消費量」の項目で、(舗装平坦路 25km/h)90km/Lの表記があった。

 1960年のCB・72の詳細カタログでは、「舗装平坦路燃費率」の項目で、45km/L(車速40km/h)と表示。1962年の92シリーズ(C92、CII92、CS92、CSII92、CB92)、72シリーズ(C72、CII72、CM72、CS72、CSII72、CB72、CBM72、CL72)、77シリーズ(C77、CS77、CB77)、そしてCR93の複合カタログでは、「燃費(舗装平坦路)km/L」の項目で、92シリーズが65(車速35)、72シリーズが、C72やCM72が45(車速35)、CB72などは45(車速40)、77は45(車速35)と表示している。77シリーズは排気量305ccなのだが、排気量と測定速度の関係は一定ではなかったことが分かる。

 1966年から1967年に発行されたと思われるSS50/CS90Z/CB125・250・350・450のカタログでは、「舗装平坦路燃費率(km/L)」という表記に戻り、SS50に関しては90(車速30km/h)、CS90Zは75(車速40km/h)、CB125は65(車速40km/h)、CB250は45(車速50km/h)、CB350は45(車速60km/h)、CB450は35(車速60km/h)と記載されている。

 表示項目名は一定ではなく、また、排気量ごとに測定する速度に決まりが無かったのだろう。それより当時の関心事は、最高出力の大きさであったり、最高速であり、0→400m加速といった性能面が大きく取り上げられている時代だった。

 1968年のドリームCB250、CB350のカタログでは「性能」の一項目として「舗装平坦路燃費率(km/L)」両車ともに45で、テスト時の速度は省略されてしまっている。これに対して1969年のドリームCB450、ドリームCB450エクスポートのカタログでは、「舗装平坦路燃費率(km/L)」の項目で、35(車速60km/h)とテスト速度まできちんとフル表示。

 1973年のCB125T、CB250T、CB360Tのカタログになると、「道路運送車両法による新型車届出書数値」の断り書きが新たに付き、「燃費(km/L)」の項目で、CB125Tが55(定地走行テスト値50km/h時)、CB250Tが45(定地走行テスト値50km/h)、CB360Tが35(定地走行テスト値60km/h)と、今日見られる一般的な表記に近くなっている。

 1973年の総合カタログでは、「性能」の項目のひとつとして「舗装平坦路燃費(km/L)公式テスト値」と表示され、何km/hでテストしたかはここでも省略されてしまっている。

 以上はホンダのカタログだが、ヤマハのカタログも見てみると、1965年の60YJ2では「舗装路平坦燃費」の項目で、85km/L(35km/h)と表示。1966年のYDS-3では「舗装平坦路燃費」の項目で、45km/L(40km/h)の表示。

 1967年の総合カタログでは、U50D、U7から50F5、60J5、YK80、90H3、AT90、125YA6-D、180CSI-E、250DS5-E、305M2、350R1、100L2-Cの諸元をまとめて表示。「舗装平坦路燃費」で、90km/L(30km/h)等の表示で統一。現在と違うのは、テスト速度の設定が自由(一番燃費のいい速度で行っていた?)ということか。

 1970年のスポーツモデルの総合カタログでは、FS50、HS90、125AS2、CS200E、DX250、RX350、XS650をまとめて表示。簡略な諸元なのか、燃費の表示は省略されてしまっている。1971年のXS650-Eのカタログでは、「舗装平坦路燃費」の項目で、35km/L(60)km/hと表記。このカタログでは制動停止距離、14m/(50)km/hも表示しているが、最高速が表示されていなかったり、とこの頃のカタログは何を表示するかは、モデルごとの性格次第といったところ。

 というわけで、いつからカタログに燃費の記載が始まったのか、また、どのように測定するか方法はいつ頃決定したかなど、思いつきで調べ始めたので時間が無くてタイムリミット。現在のカタログのスタイルに定着したのは’70年代に入ってからで、「道路運送車両法による新型車届出書数値」をもって表示するように統一された、という程度しか分からなかった次第。今後、当時の事情に詳しい方とお話しする機会があったら報告したいと思っております。燃費の話でした。

(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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