MBHCC A-7

新刊が出ました
3年目の3·11 を前に、地域にとっての真の復興を問う
『泥だらけのカルテ』
(柳原三佳著)

 みなさん、いかがお過ごしですか?
 早いもので、東日本大震災から3年という月日が流れました。

 被災地にお住まいの方、そうでない方も、この3年間はこれまでとは違って特別な思いで過ごされてきたことと思います。

 私の住む千葉県も津波の被害を受けました。
 わが家からわずか15キロの九十九里浜(片貝漁港)は、今回の津波被災地の最南端ですが、今も大きな爪痕が残されています。
 そんな中、自分には何ができるのだろうか……、と考えながら、私は岩手県を中心に取材を続けてきました。
 そして、先日、『泥だらけのカルテ』(柳原三佳著・講談社)という本を上梓しました。

泥だらけのカルテ

 この本の舞台は、人口約6000人のうち600人もの死者を出すという甚大な被害を出した岩手県釜石市鵜住居地区のある歯科医院です。
 自らも津波の被害に遭い、医院の患者さんだけで200人もの方が死亡、もしくは行方不明になったという、ある歯科医師の身元究明と壊滅状態になった故郷の復興にかけるドキュメンタリーです。

 下の写真は、先日解体作業が行われた『鵜住居防災センター』の避難室にたたずむ主人公の佐々木憲一郎先生です。(2012.3.11に撮影しました)
 この2Fホールには天井まで津波が押し寄せ、避難していた200名あまりの方が亡くなったのです。

泥鵜住居防災センター

 2011年3月11日、鵜住居地区を襲った津波は、佐々木先生が院長をつとめるささき歯科医院にも壊滅的な被害を与えました。
 ここは海抜10メートル、海からは2キロ離れていて、ハザードマップでも避難指定区域にはなっていなかったのに……。
 鵜住居駅前の3階建のビルの屋上から撮影された写真をご覧ください。

鵜住居駅前の3階建のビルの屋上から撮影 鵜住居駅前の3階建のビルの屋上から撮影
津波前の鵜住居町(左)と、最大波(左)。 ■撮影-両川吉信氏

 ささき歯科医院は、天井まで津波に襲われ、医院の中の医療器具は全滅。
 医院(右の建物)の横に停めてあった奥様の車は、どこからか流されてきた見知らぬ家に押しつぶされていました。

ささき歯科医院 ささき歯科医院
ささき歯科医院の被害状況。

 このような過酷な状況の中、佐々木先生がまずおこなったことは、がれきと泥の中から患者さんの歯科カルテを1枚1枚拾い出し、極寒の中、泥を洗い流す作業でした。そのカルテが、後で重要な役割を担うことを知っていたからです。

 
 今回の本も、とても重いテーマですが、ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。

 

   *   *   *   *   

泥だらけのカルテ  

家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは?

柳原三佳 著(ノンフィクション作家)(講談社・1200円)

[本書の内容]

 600人を超える犠牲者を出した岩手県釜石市の鵜住居地区。ここで歯科医を営む佐々木憲一郎さんは、あの日、半壊した医院を再建しながら壊滅状態の町にとどまることを選択しました。それは、遺体の歯によって故郷の人々の遺体を家族のもとに帰す照合作業に取り組むことを決意したからです。
 そして、それを可能にしたのは、妻の孝子さんが津波から逃げる前に守ったカルテの棚でした。「泥だらけのカルテ」につまった患者さんの情報こそ、地元の人たちが、たいせつな家族の死を受け入れ、明日への一歩を踏み出すのに、大きく役立っているのです
「3年も経って家族が見つかってない人たちは、どれだけ辛いだろう……」
 この思いを胸に作業をつづける佐々木さんを見て、地元の人たちも勇気をもらい、故郷にとどまりました。そして、「もういちど、鵜住居地区の復興を」と、みなが立ち上がったのです。
 ユネスコ世界遺産に推薦された釜石市で、ひとりの歯科医の信念が生み出した、感動のドキュメンタリー。3年目の3·11 を迎えようとするいまも、岩手県釜石市の鵜住居地区で、地元の歯科医が、遺体を家族のもとに帰す照合作業をつづけています。
 津波の被害を受けながら残った〝泥だらけのカルテ〞こそが、遺族たちが家族の死を受け入れ、明日へと歩き出す手助けをしているのです。
 ユネスコ世界遺産に推薦された釜石市を舞台にしたドキュメンタリー。

泥だらけのカルテ
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●『泥だらけのカルテ』ご注文チラシはこちら(そのまま印刷して書店にお持ちいただけます)。
●2012年に出版した『家族のもとへ、あなたを帰す』(柳原三佳著・WAVE出版)もぜひ合わせてお読みくださいませ。



鵜住居地区の一日も早い復興をお祈りしています!
佐々木ファミリーと著者(中央)と。 (2012年秋に盛岡市内で撮影)

柳原三佳
柳原三佳
(やなぎはらみか)

1963年京都市生まれ。交通事故、司法問題等を中心に執筆。「週刊朝日」「ミスター・バイク」などに連載した告発ルポは自賠責制度改定の大きな契機に。また、2004年からは死因究明問題の取材にも力を入れ、犯罪捜査の根幹に一石を投じた。主な著書に『遺品〜あなたを失った代わりに』(晶文社)、『これでいいのか自動車保険』(朝日新聞社)、『死因究明〜葬られた真実』(講談社)、『焼かれる前に語れ』(WAVE出版)、『交通事故被害者は二度泣かされる』(リベルタ出版)、『自動車保険の落とし穴』(朝日新聞出版)、『交通事故鑑定人』(角川書店)、「裁判官を信じるな」(宝島社)、東日本大震災での歯科医師の活躍をルポした『家族のもとへ、あなたを帰す』(WAVE出版)など多数。『巻子の言霊〜愛と命を紡いだある夫婦の物語』(講談社)は、NHKBSプレミアムでドキュメンタリードラマ化されている。

●柳原三佳のホームページ
http://www.mika-y.com/


●柳原三佳のブログ
http://mikay.blog44.fc2.com/

●柳原三佳の著書紹介
(amazonにリンクしています)

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