おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第39回 二度上峠

二度上峠(にどあげとうげ)は、群馬県道45号長野原倉渕線内にある峠で、吾妻郡長野原町と倉渕村(現在は群馬県高崎市に併合されている)の境に位置する。標高は1390m。県道54号線は長野県軽井沢町~長野原町を結ぶ国道146号線と高崎市~長野原町を結ぶ国道406号線をつないでおり、延長は28km。その約半分にあたる峠の前後は変化に富んだワインディングで、峠の西側=長野原側からは眼下に広がる樹林やその遠方の浅間山が望める。


MAP

 あまりメジャーな峠道だとはいえないだろう。いや、どちらかといえばローカルな二度上峠だが、俺にとっては何かと思い出すことが多い道だ。その名を聞けばすぐにいくつかのシーンが脳裏に浮かんでくる。18の夏に上京する前、俺は上毛三山と呼ばれる赤城、榛名、妙義の山麓のワインディングを走り回っていた。群馬と長野県境の碓氷峠も然り。そのことについてはこのコラムでも数年前に記した。でも、当時、俺は二度上峠のことはまったく知らなかった。

 初めて走ったのは上京してから数年後の’80年前後だった。10人前後のバイク仲間と群馬・軽井沢方面に日帰りツーリングに出かけ、ルートに組み入れた。参加車はGX400やZ400FX、SR500ほか、250から750までのスポーツバイクだった。バイクは持たないが一緒にツーリングしたいとフェアレディZで参加したヤツもいた。時期は初秋。東京を出発して国道17号線~国道18号線とつないで碓氷峠を越え、軽井沢で昼飯を摂ったように思う。

 軽井沢を後にして国道18号線を少し西進し、中軽井沢駅前を右折して146号線に入って、鬼押し出し方面に上って行く。途中からコーナーの連続となり上り切った峠の茶屋までそれが続く。前半は林間のタイトコーナー、後半は開けた中高速コーナーという構成で、後半は追い越し車線も。両区間合わせて6~7kmと距離は短いが、コーナリングが楽しめる。もっとも、それは平日のことで、土日は観光客のマイカーがあふれ、渋滞することが多いのだが…。

 峠の茶屋から道は国道146号と鬼押ハイウエイと呼ばれる有料道路に分かれる。俺たちは国道を選択して北上。道は緩く下っている。しばらく進んだところにある浅間牧場でひと休み。その後北軽井沢の交差点を右折して、県道54号線に入った。小さな市街地を過ぎると、道は二度上峠まで低中速コーナーやストレートで構成され、緩やかな上りになっている。そのときは峠付近で休むこともなく、景色を愛でることもしなかったように思う。

 峠を過ぎると道はそれなりの勾配の下りとなり、タイトコーナーのワインディングがしばらく続く。どのくらい下った頃だったろうか。俺が先頭で、後ろには俺より8つほど年上で、当時のバイクブームに乗じてZ250FTを中古で入手し「吹きの○○」と呼ばれていた人が付いていた。ガシャンという破壊音が耳に入り、俺はすぐにGS750を停車して振り向いた。Z250FTは白いガードレールの隙間に突き刺さっていた。ご当人は立ち上がっていたので、少しほっとした。

 後続の仲間は巻き込まれずに済んだ。皆でバイクを引き起こした。ダメージはそれほど大きくなく、走れそうだったが、Fフォークが少し曲がっているようだった。乗り手も幸いかすり傷だった。どうしようかと皆で話合う。当事者はバイク屋さんがある町まで自走で下って行き、直してもらいたいという。4輪が一緒に付き添った。俺たちは進行方向だったが一緒に行かず、後片付けをしてから現場を後にした。これ以上転倒者が出てはと思い、ペースダウンして進んだ。



浅間記念館


浅間記念館


浅間牧場
二度上峠へ軽井沢側からアプローチする国道146号沿いには、バイクミュージアムの草分け的な存在、草の根運動から作り上げられた浅間記念館がある。かの浅間火山レースが開催されたコース跡も近い。浅間牧場では、高原の味、濃厚なソフトクリームを味わえる。●撮影─舟橋 朗

 どのくらい走っただろうか。前方からフェアレディZが近づいてきた。FTの姿はない。合流して聞くと、当事者ならではのショックもあったのだろう。修理するのはやめ、店が納得できる値段で買い取ってくれるというので「売ってしまった」という。なんてこった! そんなわけで、そのときの二度上峠は、半分ほどそれなりに走りを楽しめただけだった。でも、乗り手がかすり傷ですんだから、いまも笑い話のような思い出になっている。

 30代後半の頃、まだ小さかった子供達と俺と女房、家族6人で毎年夏にキャンプに出かけていた。その年は倉渕村にある「わらび平森林公園」に出かけ、キャンプ場のバンガローで2泊した。夕食のメニューは毎年大体決まっていて、カレーとバーベキューだった(初日と2日目でどちらかを選択)。食後には近場の温泉まで車で行ったりもした。縄文式竪穴住居なる面白い建物があったり、ポニーに乗れたり、釣り堀で鮎釣りなどもできて、家族みんなで楽しめた。

 3日目、帰路は軽井沢経由を選択した。中古の2リッターセダンで峠道を登っていく。峠付近はさすがに涼しかった。上り切って少し下ったあたりは見晴らしがよく、樹林が見渡せ、その向こうには浅間山などがきれいに見渡せる。そのときもお天気がよくて、青空に映える浅間の山容が印象的だった。記念に写真を何枚か撮ったはずで、家の中にはあると思うが、どこにしまったかわからない…。

 直近では4、5年前、新緑の季節に息子と知人の3人で日帰りツーリングに出かけた際、通った。東京から秩父経由で群馬に入り、妙義山の紅葉ライン~碓氷峠~軽井沢~国道146号~県道54号とつなぎ、峠を下って倉渕から榛名山に。走行距離の半分以上がワインディング、と言っても過言ではないような、コーナリング満喫ツーリングだった。秩父も妙義も二度上も榛名も、新緑が燃えるようで、非常に美しかった。二度上峠を含む県道54号線はまた走ってみたいと思っている道のひとつである。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、17年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万3000km。

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