オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

放狼記 2013年、ラスト・ラン!

 11月30日、国道1号線愛知県岡崎付近。オレは10月の太陽の宴に参加した時とまったく同じルートを辿って東へ向けて走っていた。マシンも同じくエイプ。今回の目的地は東京。2013年も終わりに差し掛かったこのクソ寒い時期に何ゆえわざわざ東京までエイプでと思うだろう。もしその問いに答えるとするならば答えはこうだ。
 なんせオレですから。
 今回は集会でもイベントというわけでもない。東京に住む従妹がバイク好きのマスターがやっている居酒屋があるのでそこで呑まない? と誘ってきたのだ。それに応える形での東京行きであったのだが実の所、この話がきた時にはエイプで東京まで走るつもりはさらさらなかった。この件だけで考えるならば新幹線で行って帰るのが一番手っ取り早い。しかし厄介な事にオレにはこの東京までの行き帰りの道中に寄りたい所がいくつもあるのだ。
 であるならバイクで走るかという事なのだが重症のシェルパを除けばマシン的にはホーネット、エイプ共にその状態は申し分ないほど良好だ。しかも今回に関してはオレにしては珍しく路銀にかなりの余裕があるし旅の日数もそれなりに押さえてある。つまるところマシンはどちらでもよかったのだがこの寒い季節にホーネットで飛ばしたところで単に苦痛が増すだけであるし、ウッカリ高速に入ったりした際には妙な車が追ってくる事が多々あるので最終的にエイプで走るという結論に至った。装備は野宿なども視野に入れたフル装備。数十キロという重量物をケツに載せた状態でありながらエイプは“いつもの事ですから!”と言わんばかりにその重さを感じさせない頼もしい走りを見せる。
 この時点でもう2日目を迎えている。前夜は鈴鹿付近での道の駅で一夜を明かしたのだがエイプで1号線ルートを選択する際、これがすっかり定番化してしまった。師走のクソ忙しい平日の夜に道の駅にテントを張って夜を明かす輩など当然のように他にいるはずもなくポツンと独り。独りでいる事を苦痛に感じる事などないのだがこの夜の寒さはオレに苦痛を与えるには十分なものだった。しかし今走っているこの時間、すっかり日も昇り気温は上昇中。昨夜と比較するなら小春日和と言っていいほどの陽気。ありがたい。岡崎、豊橋と抜け静岡県に突入。ここから先はバイクで走るのは一年以上ぶりになる。


もういい加減見飽きたって声が聞こえてきそうなオレの旅のフル装備。結果としてはほとんど使う事がありませんでしたが

ハイペースで走る事も多いが休憩時間は結構長く取り、全体で見ればいつものんびりしているオレ。所詮、恵まれた環境下でのお遊びですから
もういい加減見飽きたって声が聞こえてきそうなオレの旅のフル装備。結果としてはほとんど使う事がありませんでしたが。 ハイペースで走る事も多いが休憩時間は結構長く取り、全体で見ればいつものんびりしているオレ。所詮、恵まれた環境下でのお遊びですから。

 
 浜松を過ぎたあたりから静岡を横断するバイパスが始まる。途中エイプでは走れない区間もあるがそれでもここからは距離の稼ぎどころだ。高速道路並みに速い車の流れの中にあって、まったく遅れをとる事無くエイプは疾走する。
 由比を抜けると富士山が見えてきた。空には雲ひとつなく今や世界遺産にも登録された日本一の山はその姿を誇らしげにさらけ出してくれている。富士市に入ったところにある道の駅でしばらくその絶景ともいえる富士の景色を眺めて過ごした。時間はあと1時間もすれば夕暮れ時を迎える。さてもうひとっ走りだ。従妹との約束は明日。ここまで来れば急ぐ必要はまるでない。
 沼津市に入ったところで渋滞が始まった。このあたりの一号線は片側3車線で一車線あたりの道幅も広くとってある。それでも市内では信号が多く渋滞する事はよくあるのだがこの日のそれは始まりのタイミングが早く渋滞の具合も尋常ではなかった。大きな事故でもあったか。まぁエイプとオレのコンビには何の影響もない。空いているスペースを見つけては動かない車の列をすり抜けていく。
 しばらく走ると渋滞しているのが車道だけでない事がわかった。歩道にもやたらと人が多くどうやら何かの催しがおこなわれているようだ。あとで聞いた話だと地元の大きなお祭りがあったんだとか。年末という時期にまぁなんとも珍しい。そんな沼津市の大混雑もお構いなしにオレは市内を抜け、1号線から246号へ進路を変えすぐ目に飛び込んできたビジネスホテルにチェックインした。オレがこういったちゃんとした宿をとるのを珍しいと思う人もいるかもしれないが結構、利用する事は多い。そりゃ高級なホテルや旅館に泊まる事はないがこういった安宿の類は利用頻度が高い。どんな時に使うかはその時の状況と気分次第だ。快晴の天気とはいえこの季節に丸一日走り、かなりの疲労感をともなったところで目の前に富士山が聳え立つ絶景と温泉つきで手ごろな価格の宿があれば迷う理由などどこにもない。


富士市に入ったところにある道の駅にて。雲ひとつない快晴の中、目の前には富士山が聳え立つ。今回、最初から最後まで天気には恵まれた
富士市に入ったところにある道の駅にて。雲ひとつない快晴の中、目の前には富士山が聳え立つ。今回、最初から最後まで天気には恵まれた。

 一夜明けて3日目。今日から12月である。世の中の慌しさとは裏腹にオレはのんびりと東へ向けてエイプを走らせた。東京まで距離にしてもう100キロもない。昼くらいには着きそうだ。
 都内に近づくにつれ交通量は増えていった。多摩川を越えた辺りで県道を繋いだ裏道を北上していく。かつて散々、走った都内の道も新しい建物や店などでその景観はすっかり変わってしまっている。ウッカリ道を間違えそうになる事数回、青梅街道まででた。
 従妹の住まいは西武沿線にある鷺宮駅の近く。もうここからは数キロほどの距離だ。この日、従妹は仕事という事で夕方まで時間があいてしまった。だがこうなる事を想定してすでに時間の使い方は考えてある。オレは同じ沿線沿いに住むカタナ乗りのエリちゃんを呼び出し近所のファミレスで昼食をとったりしながらのんびりと過ごした。実は彼女も今回の呑みのメンバーなのである。従妹の住まいからわりと近所という事もあって誘っていたのだ。時にオレは変化を求める。毎回、野外で同じような面子というのも芸がない。そういう意味では今回の組み合わせはひじょうに新鮮だ。
 従妹のアパートにエイプを停めて夜、オレ達は野方駅前にある店に入った。店の名前は『清瀧』。うなぎと焼き鳥がメインの店なのだがそれ以外にも様々なメニューを提供してくれる。その中でオレ達がオーダーしたのはフグ料理のフルコース。まぁなんとも贅沢な選択だがセッティングしたのは従妹のリリだ。リリとちゃんと顔を合わせるのは実に5年ぶりくらいになる。オレが東京で暮らし始めたばかりの頃、彼女はまだ中学生で妹のような存在だった。そしてそれは今も変わらない。岡山を拠点にする親戚、縁者の中にあって完全なる異端として扱われているオレの唯一の理解者である。オレ自身はちょくちょく東京には来ていたがなかなか都合が合わずこうやってゆっくりする事がなかった。リリは会社の同僚と一緒にやってきてこの日の面子は全部で4人。オレ達はフグ料理をつまみながら美味しいお酒を呑み語り合った。肝心のバイク好きの店のマスターは忙しくしておりなかなか手が空きそうもない状況でマスターとゆっくり話ができたのはほとんど閉店してから。それまでの間、オレ達の席で次々に酒のグラスや瓶が空いていった。
『清瀧』のマスターはバリバリのZ乗りでちょくちょくZ系のミーティングなどに行っているようだ。Z好きの人ならば一度この店に行きマスターに声をかけてみてはいかがかな。
 翌日、オレはほとんど何もせず中野界隈をブラブラして過ごした。当初は他の友人の所にも寄ろうと考えていたのだが前日の呑み疲れでこの日は完全休養だ。このあと東京からは西へ向かって折り返すがまだまだ旅の途中。帰りの道中、もう一つの約束がある。

 5日目。平日の通勤ラッシュが落ち着く頃合を見計らってオレは東京をあとにした。次の目的地は三重。10月の太陽の宴で久しぶりに再会した山根氏が旅の途中にでも寄ってくれというのでその言葉のまんま、さっそく旅の途中に寄らせてもらう事にした。来た道をそのまま折り返す形で西へ。夕方には浜名湖辺りまで辿り着いた。三重には伊良湖からのフェリーを予定している。と、するならばこの辺りで一泊するのが理想なのだが・・・とりあえず選択肢は3つ。ちょうど浜名湖近辺にはキャンプ場も何度か利用した事のある手ごろなビジネスホテルもある。 
 そして・・・伊良湖からフェリーとなるととりあえず声をかけてみる価値のあるやつが豊橋にいる。オレはすぐさまスイセイに電話をし、オレは今、その3つの選択肢で迷っている。君の都合を聞かせてくれ。とそんなセリフをまさか断ったりしないよなぁ、というニュアンスをたっぷりと含ませてまくしたてた。当然のようにスイセイ君はオレの頼みを快く? 受け入れてくれたのでオレ達は近くの駅で待ち合わせ彼の自宅へ。そしてそうする事がごく自然で当たり前であるかのように近所の居酒屋へ向かった。
 いやぁ~実に楽しい。スイセイとは集会で会うことが多い。そして数人でのジミ宴も何度かした事もある。しかし、こうしてサシで呑むのは初めてのような気がする。すべての場合においてそうであるとは限らないが一対一というのは極めてストレスがない。もちろんお互いが似たような方向の経験、思考を持ち、ちゃんと自分の持ち出す話題に対してその考えをしっかりと口に出来るということが条件にはなるがこの条件さえ揃えばあとは酒の力が加わりほとんど無敵状態で時間が流れていく。ただし酒はバカみたいに呑めばいいというものではない。気持ちよく酔って少し饒舌になるくらいがちょうどいいのだ。
 ただ・・・オレ達はその適量が少し多めで不経済なだけだ。結果、ここでも閉店まで店に居座りオレ達はよく呑み語り合った。

 翌朝、頭痛である。どうやら適量とはいえなかったようだ。正確には飲んだ量に対して絶対的な睡眠時間が足りていない状態である。スイセイはこの日も仕事がありそれに合わせた起床時間であったので仕方がない。通勤方向が途中まで一緒ということで国道まで案内してもらいそこでスイセイとは別れた。

 国道42号を渥美半島の先端まで行きフェリーに乗り込む。この伊勢湾フェリーの利用は実に15年ぶりである。混雑した名古屋や四日市などの街中をショートカットできるメリットは大きい。鳥羽までの所要時間は1時間弱で岡山から四国へ渡るフェリーとほぼ同じだ。それでもこの船旅という時間が少しあるだけでも旅の風情は変わる。それに寝不足のオレにはちょうどいい休息時間である。
 短い船旅が終わり鳥羽に着いた。さてここからは公園やキャンプ場ではなく個人宅を探して走る事になる。山根氏には自宅の住所は聞いていた。だが個人の家などツーリングマップには載っていない。
 ここでオレの新しい武器が登場となる。ナビシステムである。カーナビが登場して20数年もして今さらかよと思うかもしれないが頭の中に日本地図が叩き込まれたオレには特に必要でもなく大まかな確認用で地図を持っていれば十分だったのだよ。それが最近仕事がらみで必要が生じて手に入れることになったのだが使ってみるとこれがまぁ便利。だが便利すぎるがゆえに依存してしまうとこれまで培った己の方向感覚や勘というものが衰えていってしまいそうなので多用するつもりはない。ただ、細かい住所を探し当てるにはひじょうに有効だ。このまったくオレらしくないアイテムのおかげで迷う事無くちょうど昼頃に山根氏の家に到着。



旅ライダーの朝食は定番の朝ラー。そしてオレの一日の特徴は朝、質素で夜、豪華
旅ライダーの朝食は定番の朝ラー。そしてオレの一日の特徴は朝、質素で夜、豪華。


フェリーがぁ、好きだぁ~!だって楽チンだからぁ~♪全国的に経営難のフェリー業界にあって頑張っている伊勢湾フェリー。平日にもかかわらず利用客は多かった


フェリーがぁ、好きだぁ~!だって楽チンだからぁ~♪全国的に経営難のフェリー業界にあって頑張っている伊勢湾フェリー。平日にもかかわらず利用客は多かった
フェリーがぁ、好きだぁ~! だって楽チンだからぁ~♪ 全国的に経営難のフェリー業界にあって頑張っている伊勢湾フェリー。平日にもかかわらず利用客は多かった。

 漫画家である山根氏は以前、東京の方に住んでいたが最近、故郷である三重に戻ってきた。しかも山根氏はつい先日、付き合っていた彼女のハルカちゃんと入籍したばかりで新婚ホヤホヤだ。オレ自身もそうだが今やこういった原稿などをやり取りする仕事はネットの進化によりそのアイテムさえあればどこにいても出来る。まったく便利な世の中になったものだ。
 さっそくオレは自宅の中に案内してもらい装備を解いて身軽になった。腰を落ち着かせてもらったダイニングはちょっとオシャレなカウンターバーのようになっていて目の前には洋酒から日本酒まで色んな酒のボトルが並んでいる。そしてすでに山根氏はちびちびとやっている有様だ。それに付き合うようにオレもグラスにバーボンをロックでつくってもらいひとまずは乾杯。まぁひとまずなんていいながらその後も色んな話をしながら延々と呑み続けていたわけだがその途中では山根氏のお薦めの場所に出かけて探索したりもし、夜はハルカちゃんの手料理をいただきながらまったりとした時間を過ごした。



山根邸のダイニングにはちょっとしたバーカウンターが。こんなちょっと洒落た場所で適度な酔いを維持しつつ時間をかけて呑み、語る。実に心地良いですな


もはやカタナとは呼べぬほどにカスタマイズされた山根氏のカタナ。個性的なバイク乗りには拘りのマシンがよく似合う
山根邸のダイニングにはちょっとしたバーカウンターが。こんなちょっと洒落た場所で適度な酔いを維持しつつ時間をかけて呑み、語る。実に心地良いですな。 もはやカタナとは呼べぬほどにカスタマイズされた山根氏のカタナ。個性的なバイク乗りには拘りのマシンがよく似合う。

旅の終わりに実に楽しく心地よい時間を与えてくれた山根夫妻。本当にありがとう
旅の終わりに実に楽しく心地よい時間を与えてくれた山根夫妻。本当にありがとう。

 明けて翌日、この日は自宅に戻るだけである。山根氏に一宿一飯の礼を言いオレは山根邸をあとにした。自宅までの距離は300キロほど。スタートして7日目。ちょうど1週間だ。この時間を長いと見るか短いと見るか・・・まぁ過ぎてしまえばあっという間なんだがね。
 今回、冒険的な要素は何もない。経験のない人にとっては大冒険なのかもしれないがオレにとってはおさらいのような感じの旅だった。ただし中身はかつてないほど濃密で、それでいながら超快適。よくよく考えてみるとフル装備で用意したエイプのケツに括った荷物は初日の道の駅泊まり以降、一度も解く事無く積んだままだった。それがいいのか悪いのかはわからないが色んな意味でオレは恵まれているのだということを実感したさ。そう、オレはこの旅を終えて十分な満足感と幸福感に浸っていたわけだ。このあと新しい年の初めからとんでもない不幸な出来事に見舞われるとも知らずに。
 そのあたりの件は言い訳をたっぷりと含めて次回に語らせてもらおう。 


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