オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

喧噪のGW 静かなる場所を求めて

 年間を通して長い休みと言うのは回数的に見るとそう多くはない。その中でも個人の自由度が最も高いのがGWだろう。まぁオレの場合、休みが長いとか短いは自分次第みたいなところがあるのでそれほど関係ないと言えばないのだがそれはあくまで独りでウロウロと遊び呆ける場合に限られる。
 誰かを絡めて計画を立てるならどうしても一般的に認知されている休日というのは無視できない。つまり今年のGWはそんな形での遊びをオレは計画していたのだよ。混雑するのは覚悟の上で富士山あたりまで行ってここ2、3年後無沙汰しているダイヤモンド富士にでも参加して久しぶりの仲間と酒でも酌み交わそうかと。そのあとは混雑を避けながら気ままに独り旅でも・・・なんて事を考えていた。
 しかし、スタートを予定していた一週間前にちょっとした(実際は全然ちょっとどころではないのだが)お家の事情というやつでGWの前半が身動き取れない状態になってしまった。結果、オレに残されたのは後半の4日間という実に中途半端な日数である。
 さてどうするか? そりゃそれだけの時間があればホーネットで高速を飛ばせば結構、遠くへ行く事はできる。だがどう考えたってあちこちで渋滞が容易に想像できる高速でスリ抜けにエネルギーを費やしながら移動するだけなんて愚の骨頂である。最終的にオレはフットワークの軽いエイプで近場でしかも穴場である場所を繋いで独り静かにキャンプしながらの独り旅を決定した。
 とは言うものの独り旅を決め込んで出発してもその道中、独りでいれなかった事が過去に何度もある。しかし、今回は勝算ありだ。

 さて肝心の行き先なのだが近場で穴場が豊富な所といえば四国である。時間ががっつりとあるわけではないのでオレの中ではある程度絞ってはいた。エイプで四国へむかうとなるとそのルートはやはりしまなみ海道がいい。ますは海沿いの道をしまなみの玄関口である尾道まで走る。そしてまず一つ目の橋である尾道大橋へ。
 ここでオレは妙な違和感を感じた。いつも料金所の手前のパーキングで一服してゲートを通り過ぎるのだがパーキングの自販機がすべて撤去されている。あれっ? と思いよく見ると料金所そのものがなくなっていた。

 先にそっちに気づけよって思うかもしれないがあるのが当たり前という認識でいつもと同じパターンの行動をとると肝心なものに気がつかなかったりするものなのだよ。だがこれはかなりうれしい。エイプで通過する際は料金的にはたかだか10円の話なのだがこのワンコインを取り出して支払うという手間がないというのは実にいい。後で聞いた話だと昨年のショットガン直後の年末に料金所は撤去されて尾道大橋は無料となったらしい。これはいきなりにしてうれしい誤算である。



料金所とともに自販機の類がごっそりと消えたパーキング。時代と共に色んなものが変化していきますなぁ
料金所とともに自販機の類がごっそりと消えたパーキング。時代と共に色んなものが変化していきますなぁ。

 
 今回の旅はさい先がいい・・・・かも。大三島へ渡った所でちょうど昼時となっていた。せっかくなのでと海鮮丼で有名な店“大漁”へ。しかし、案の定というかとてつもない長さの行列が。さすがにパスである。
 オレはそのまま伯方島を抜け見近島へ降りた。ここが穴場かと聞かれれば今やハッキリそうだと言い切れない部分がある。少なくともカブを始めとするミニバイクの愛好家にとってはすっかりメジャーな聖地となってしまった。この日もカレンダー上では平日であるにもかかわらずすでに10数張りのテントが張られていた。
 だが、まぁいい。一発目はこのお気に入りの島で一泊だ。とりあえずテントを張り、買出しを済ませて島に戻ると隣のテントのチャリダーの兄ちゃんがこの日の強風で飛ばされたオレの荷物を拾って持ってきてくれた。
 これがきっかけで少し話をしてみるとどうやら彼はオレと同じようにまだこの島が超穴場だった頃からこの島の事を知っていてちょくちょく来ては独りでキャンプするのが好きなのだと言う。こりゃぁ、マズイ。この調子でいったら今宵、エンドレスな呑みの予感。普段独りの時、いっさい酒を飲む事のないオレ。ゆえにその習慣を旅に持ち込む事ができたならいつもの宴会三昧な旅に比べてひじょうにリーズナブルな旅になるであろうと目論んでいただけにちょっと予定と違ってしまう。
 しかし、これは否定すべき事態ではない。初対面でありながら気の合った者同士、一期一会のサシでの呑み。これこそ旅の醍醐味ではなかろうか。そうやってほんの少しでも肯定してしまえばあとはそのままの展開となり結局明け方近くまで飲み明かす結果となってしまった。まぁ気ままな旅には予定外な出来事が付きまとう。そしてそれが楽しければ結果オーライではないか。そしてこれは今回、最終的にすべてが予定外となってしまったこの旅の最初の出来事という事になる。


おニューのテントの初使用は見近島。以前のような隠れ家的な雰囲気は薄れたがやはりその環境は最高

おニューのテントの初使用は見近島。以前のような隠れ家的な雰囲気は薄れたがやはりその環境は最高
おニューのテントの初使用は見近島。以前のような隠れ家的な雰囲気は薄れたがやはりその環境は最高。

 翌日、本格的に連休の後半がスタートしこの見近島にもミニバイクの集団が何十台と押し寄せるという情報を得たオレはそそくさに島をあとにした。
 最終的には徳島の紅葉温泉へ行く予定なのだが、さてどこを経由してそこへ向かうかだ。松山、高知といった観光地はどう考えても混雑しているのでだめだ。途中にある穴場としては帰全山がキャンプ地としては穴場であるがここは翌日に新潟の須藤くんが九州帰りにやってくるという情報が流れてきておりちょっとした歓迎ムードになっているのをオレは知っていた。つまりこの日、帰全山ではそれに合わせて先走って前日入りする誰かと鉢合う可能性が高い。須藤くんにはオレも会いたいが今回は当初の予定である独りの静かなキャンプを実現するため、彼には周りの連中のひきつけ役になってもらおう。許せ、須藤くん。
 結局、走る道やキャンプ地などのいい組み合わせが浮かばなかったオレはそのまま紅葉温泉に行く事にした。

 紅葉温泉に着くと案の定、キャンプ地は空いていた。もちろんGWだけあっていつものようにガラガラとはいかないが上にファミリーキャンプが二組と東屋近辺のキャンプサイトに老夫婦のバイク2台という程度だ。よしよし、上等だ。オレは今宵こそは静かな独りの時間を過ごす事への想いを巡らせながらテントの設営に取り掛かった。
 


突如として紅葉温泉に現れた群馬のマルちゃん。偶然というものが引き起きる要因ってのは一体、何なんだろうね

突如として紅葉温泉に現れた群馬のマルちゃん。偶然というものが引き起きる要因ってのは一体、何なんだろうね
突如として紅葉温泉に現れた群馬のマルちゃん。偶然というものが引き起きる要因ってのは一体、何なんだろうね。

 

 そんな時、背後に人の気配を感じて振り返ると・・・黒尽くめな人物が一人。彼が誰なのかはわかっている。マルちゃんである。だが群馬に住む彼がなぜここにいるのかがわからない。何か目的があり連休を利用して四国まで来たのならばその目的は帰全山じゃないのか。とにかくこの現状を自分で納得するためにさまざまな思考が頭を駆け巡る。しかし、マルちゃんの方もなんでここにお前がいるんだ? と目が訴えかけている。どうやらオレ達はまったく同じ事を考えてここへやってきたらしい。
 そんな事もあるんだねぇ。どういった経緯でその結論に至ったかは知らないがみんな何だかんだ言って一人の時間を欲しているという事なんだろう。お互いその思惑は敗れたがオレにとってサシでの呑みは許容範囲である。ましてや相手が集会などでよく会うがなかなかゆっくりと話す機会の少ないマルちゃんなら大歓迎だ。オレ達は温泉に入りまだ明るいうちから呑みの体制に入った。お互いに当初の目論見通りとはいかなかったが楽しく充実した時間が流れていく。
 そんな最中、オレの携帯に一通のメールが入った。開いてみるとベティからで今、福山に来ているとの事。折り返しに電話してみると久しぶりに里親の所へ遊びに来ているらしくその場所はオレの家から20キロほどの所だ。あと3日ほど福山に滞在しているとの事だったので都合が合うようならちょっと会おうかという話になった。都合が合うようならなどと言いながらこの後、何の予定も決めていないオレにとって都合もへったくれもない。これでこの旅の最後の目的地は決まった。さて、次から次へと想定外な事が起きるが・・・さらにもうひとつ。



マルちゃんが去り、上のファミキャンもいなくなってやっと静かな時間が・・・ほんの数時間でしたが
マルちゃんが去り、上のファミキャンもいなくなってやっと静かな時間が・・・ほんの数時間でしたが。


ほんの一時、ひと気のなくなった紅葉温泉で読書にふけるオレ。本当はこんな時間をずっと過ごすつもりだったんだけどねぇ

ほんの一時、ひと気のなくなった紅葉温泉で読書にふけるオレ。本当はこんな時間をずっと過ごすつもりだったんだけどねぇ
ほんの一時、ひと気のなくなった紅葉温泉で読書にふけるオレ。本当はこんな時間をずっと過ごすつもりだったんだけどねぇ。

 翌朝、少々、頭が重い。昨夜もちょいと呑み過ぎたようだ。
 マルちゃんはこの日、帰路につくらしく帰る前にちょっと顔だけ出してくると言って帰全山へ向けて出発していった。オレは、重い頭をスッキリさせるために朝風呂である。風呂から出てオレはダラダラとこのあとの事を考えた。せっかく独りになったわけだしもう一泊してここで過ごすか、撤収して一度家に戻り明日、ベティに会いにいくか。そんな事をぼんやりと考えている時、「よう、旅人」と後ろから声をかけられた。振り返ると神戸のエイトマンが立っていた。
 これはある意味においては予定外ではない。元々、GWのこの日、ここで一緒にキャンプでもしようと約束していたのだから。しかし、一週間前に仕事でいけなくなったと連絡をもらったため今回、オレは独り旅を決め込んだのだ。それなのになぜか・・・来よった。
 訊くとその仕事が急にキャンセルとなったので車にありったけのキャンプ道具を積んで来たらしい。これでオレの紅葉でのもう一泊は決定である。ただし、独りではない。だがここまでくればもう予定変更や気持ちの切り替えは慣れた。それに大人数がおしかけてきたわけでもない。常々、オレの望んでいると口にしているジミ宴、サシ宴の類への変化でしかない。よくよく考えてみればとてつもなく贅沢な時間をオレはずっと過ごしている。そう、オレは結局、ここ数日の出来事をすべて喜んで受け入れている。
 そりゃそうでしょうよ。だって楽しいんだもの。人は時に予期せぬ行動を起こす。日常も含めれば色んな場面でそれは見て取れる。そんな変化に富んだ人の行動を自分の意思でコントロール出来るなんて思うほうが間違っているんだろうな。独りになりたいと思えばなれず、誰かいて欲しいと思うときには誰もいない。これもまぁよくあるちょっとしたあるあるだ。

 翌日、オレは一度家に戻り旅の垢を落とし、こざっぱりした状態で福山へ向かった。待ち合わせた時間に着くと少し遅れてベティが姿を現した。ウチの近所で会うのは初めての事である。妙に新鮮でありながらたいした違和感もない。不思議なもんだ。
 彼女のリクエストでオレ達は昔、彼女が暮らしていた尾道市の向島へ向かった。車で20分ほど走って旅の始めに通過した料金所の消えた尾道大橋を通過。結局、オレは今回の旅で瀬戸内海を一周した事になる。



最初の予定通り東へ向け走っていたら完全に入れ違いになっていたベティ。翌日の朝、新幹線で帰って行きました
最初の予定通り東へ向け走っていたら完全に入れ違いになっていたベティ。翌日の朝、新幹線で帰って行きました。

 オレは、ベティの昔の思い出話を聞きながら彼女とのドライブを楽しんだ。結果、この4日間オレはバラバラな地に暮らす普段、なかなか会えない仲間と日替わりで逢いそれぞれと多くを語り合った。そしてそのすべてが予定外。無計画な旅に誤算という名のサプライズが付きまとった4日間だった。


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