HERO‘S 大神 龍
年齢不詳
職業フリーライター
見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。
愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。
ひとまずオレは国道2号線を東へ。姫路、加古川バイパスはセローの高速走行の予行練習にはちょうどいい。
オレは今までこのセローというマシンを若干ナメていたところがあるのだが今回のように実際、がっつりと走らせてみると225という他の250ccクラスのマシンに比べて少なめの排気量ながら中低速域でのトルク感は実に力強い。シェルパと同等、あるいはそれ以上のようにも感じる。数値的にどうかなんて知ったこっちゃないが感覚的にそう体感するのだから仕方がない。バイパスでは高速とたいして変わらないまわりの車の流れに合わせて走っていたが特に不安を感じるような事はなかった。これは今後、オレが思っていた以上の活躍が期待できるマシンだ。まぁセローのインプレはこれくらいにしておこうか。それよりもエイトマンの買った車の方だ。
すっかり日も暮れた頃、約束よりも少し早く彼のマンションに着いたオレはガレージの前で一服しながら彼の帰りを待った。コンビニで買った唐揚げを口に放り込み咀嚼しているとあきらかに普段の街中で聞くことのないであろうエキゾーストが近づいて来るのがわかった。むやみに音が大きいというのでもなく無駄に太いというのでもない。なんとも心地の良いサウンドである。その合間に時折乾式クラッチの乾いた機械音が入りまじり他に類を見ない個性を主張する。アルファロメオ・ジュリア2000。73年式と聞いていたのでもう40年以上も前の車という事になる。スーパーカーのような派手さはないが車体のあちこちがスポーティなラインで構成されていて只者ではない空気を纏っている。ランボルギーニ、フェラーリをパフォーマンス好きのプロレスラーだとするならこいつは地味だがやたらと強いミドル級のボクサーといったところだろうか。
どんなもんだと言わんばかりにオレの目の前に停まったアルファロメオから降りてきたエイトマンはこれもどんなもんだと言わんばかりの満足気な表情である。まぁそりゃそうだろう、とオレにはわかるが今の若い世代には彼が今、満面の表情で表している満足感は半分も理解できないだろう。おまけにこの車の便利さとは無縁の性質を知ったならますますもって理解できないかもしれない。なんせワイパーは異様なまでにやる気のない動きを見せるし少し前には窓が外れかけたのだという。シフトチェンジひとつとってもコツがありこいつをちゃんと走らせ維持していくにそれなりの知識と経験、そして覚悟が必要となる。だからこそ誰でもが所有し走らせる事ができるわけではない自分だけの宝物といった自己満足の境地と言える価値がある。悔しい話だがちょっと羨ましく感じてしまったよ。
オレたちはさっそく夜のドライブと洒落込んだ。乗ってみるとこの車、色んな事に驚かされる。その心地良いエキゾーストはもちろんだがまずはその乗り心地。シートは一見すると普通のシートなのだがバケットシートのように収まりがいい。それでいてまったく窮屈さを感じる事もなくどちらかと言えばラグジュアリーな座り心地である。中低速からの加速は予想以上に鋭く、きちっとセッティングされた足回りでヘアピンなどでも車体が激しくロールしたりはしない。オレは経験した事はないが歳のいったオヤジだと思って喧嘩を売ってみたら妙に強くて面食らった時なんかこんな気分になるんだろうな。ドライブを終えた後はこの車のほぼ自慢ととれるような話を散々、聞かされながら(大半がこの内容なんだが)オレたちは深夜遅くまで語り明かした。
|
|
クラシカルなイメージにスポーティさを併せ持つジュリア。没個性な日本の車社会の中にあってその存在感は余りにも異質。個性的過ぎて手におえない部分も多いようですが。
|
さて翌日、天気は雨である。この季節の冷たい雨の中を苦労しながらバイクで走る事のツラさを伝えたいところだがそうはいかない。神戸連泊である。しかも美味いモノを食い歩いての贅沢三昧だ。何をヘタレてやがるとお叱りの声が聞こえてきそうだがオレにとって今はその時ではないのだよ。
前にも言ったと思うが今はある意味、いろんな面で準備期間なのだ。オレの経験上、準備が整ってもいないのに無理な行動を起こすとロクなことにならない。と、まぁこれは半分ほどが言い訳である。とにかくしばらくの間はバイクでしんどい思いをするつもりはない。あしからず。と、そんな事を最近のオレは常々、考えていたのだがよくよく考えてみると3日用意した時間の内2日を全行程の3分の1も走っていない所で費やした事により1日で横浜まで走る事になってしまった。
何を言ってやがる。そんなの高速を使えば楽勝ではないか。なんて思うだろう。そりゃ、ホーネットなら半日ほどで走る事ができる。だが今回のマシンは高速走行が超苦手なセロー225である。高速で全開走行していたら1時間ほどで焼き付いたとか90キロほどで丸1日走ったらオイルがなくなったとか高速走行に関して言えば悪い噂がとにかく絶えずそれはオレの耳にも届いていた。ただ……それ以外の走破性などに関してはピカイチで高速が唯一の弱点ともいえる。そんなマシンでこれから高速走行600キロ……つらいのぉ~。
そうは言ってもこの際、開き直るしかあるまい。それにそれだけの距離があれば色々試してみる事もできる。まぁ壊してしまっては元も子もないのだがとりあえずオイルとか注意しながら限界を探ってみるのもまた一興。西宮ICから高速入りしたオレはスピードをきっちり80キロに設定してクルーズしてみた。このあたりのスピードは姫路のバイパスですでに問題のない事に確信を持っている。だが、わずかに30分ほどで眠気が襲ってきた。マシンがセローだとちゃんと認識していてもさすがにこの速度域というのは実に退屈だ。
ならばと、もうちょいと少しずつペースを上げてみる。噂通り90キロあたりまでエンジンのメカノイズ等をひっくるめても特に不安を感じる事はない。さてさて、問題は100キロを超えてからなんだが…………長時間は禁物である。とりあえず遅めのトラックあたりを追い越す際などに試してみる。問題はない。
だがこのあたりから明らかにこれまでとはちょっと違った振動がみてとれた。まぁタイヤがブロックなせいもあるのだろうがやはりあまり無理できないなという感触ではあった。そんな感じで80~100ちょい越えあたりを繰り返しながら走る事6時間。御殿場を抜けいよいよ神奈川県に入った。
そこでオレの目に飛び込んできたのは…………渋滞30キロの表示。しばらく走りその渋滞に飛び込んでいくと流れが悪いとかではなく、掛け値なしの30キロ区間、車が詰まった状態での渋滞。オレの地元である岡山近隣の高速ではよほど大きな事故でもない限り起こりえないような渋滞である。しかもGWや盆暮れなどではなくただの休日の帰宅ラッシュでこのありさま。さすが、東の都へ近づくとこうなるわけか。
もちろんオレがこの渋滞の列に並ぶなんてことはない。空いているスペースを見つけては右へ左へとすり抜けたわけだがオレ以外にもすり抜けて走るバイクが多い。その数たるや西の方ではありえないほどの台数である。つまりだ、車の動きにだけ注意していればいいというわけでもなくさらにはほとんど日も暮れて色んなものに対して視認しずらい状況でマシンの状態まで気にしながら延々と30キロの距離を……
もうヘトヘトです。川崎ICを出た時にはナックルガードを固定しているグリップ側のボルトが片方なくなっているし。だが、まぁひとまず無事にゴールである。ここからまた新しい生活が始まる。さて、まずやらねばならん事は……多い。
|
[
第36回へ][第37回][
第37回]
[オオカミ男の一人ごと
バックナンバー目次へ]
[
バックナンバー目次へ]