オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

四国雪中!!備えなければ憂いだけ 四国の冬山は要スパイクor チェーン

 遅ればせながら新年、明けましておめでとうございます。暗い話題の多かった2011年。今年は良い年にしていきたいものだね。今回はそんな激動の2011年最後のオレの苦行を紹介していくとしよう。

 年の暮れも押し迫った12月半ばの深夜、オレは高知県帰全山キャンプ場で桜木氏と焚き火を前にサシで語り合っていた。

一夜明けた帰全山キャンプ場。天気は快晴だが気温は低い。そしてこのあとさらに極寒の地を目指して走る。

一夜明けた帰全山キャンプ場。天気は快晴だが気温は低い。そしてこのあとさらに極寒の地を目指して走る。

 四国行きのフェリーの中で桜木氏から電話をもらい、今夜、帰全山でキャンプする旨を伝えたところ「じゃぁ、オレも行く」ってな具合で急遽、このシチュエーションとなったわけだ。つまり今回はこれがメインというわけではない。本番は翌日。四国山中、標高1400mの瓶ヶ森を目指す。

 この話がオレのところに舞い込んだのはまだ季節外れの暖かさが続いていた10日ほど前。主催のタカジンさんによると毎年、1月に強行している雪中行軍の予行練習的な意味合いを込めて林道を走ったりしようということだった。

 だが12月になってもその気配を一向に感じることのない今年の冬にあってはいかに山深い四国とは言え、積雪などありはしないだろうとオレは踏んでいた。

 しかし・・・四国の山をナメてはいけない。山の麓に位置するこの日の帰全山キャンプ場ですら氷点下。時折、雪もちらつき、とにかく寒い。数日前にやってきた寒波により岡山の県北では20センチほどの積雪があったという。この日、来る途中で見た、高速道路情報の電光掲示板にも雪による速度規制の情報が示されていた。ここへきて少々、油断ならない感じになってきていた。

 翌朝、大阪からフェリーで四国入りしたオークボ君も合流して3台で瓶ヶ森を目指した。439 号から194号線を経由して県道40号へ。ここからは一車線もないような狭いクネクネ道が延々と続く。

 ここまでは晴天にも恵まれて道の凍結とか積雪なんてものはその気配すらない。だが県道を山の方へ進むにつれ体感的な気温はグングンと下がっていった。

 こりゃぁ、山の上の方は、雪が積もってるんじゃねぇか!? そんな不安が過ぎる。

 不安材料はそれだけではない。ここ最近、愛機シェルパの調子があまりよろしくない。まぁ不安材料を抱えて不安な場所へ行くのは今に始まった事ではないのでとやかく言うつもりはないのだが・・・

194号線にて。画像の見た目とは裏腹に昼近くにもかかわらず風は冷たくメチャメチャに寒い。このあと、国道を外れて瓶ヶ森へ向かう。

194号線にて。画像の見た目とは裏腹に昼近くにもかかわらず風は冷たくメチャメチャに寒い。このあと、国道を外れて瓶ヶ森へ向かう。

 このあと、オレたちはどうにもならない状況に出くわす事になる。

 かなり先までその狭い県道を進んでいくと少し開けた感じのする休憩所らしきスペースが現れた。昨夜、先発隊が一泊したキャンプ場だ。そこで主催のタカジンさん、そして湯原雪中行軍隊長のイシイちゃん、ヨーイチくん、ニシウくんと合流。気がつけば今年の初頭、バイクで積雪1メートルの雪中アタックに挑んだほとんどの面子がそろっていた。

 だがここはゴールではない。目的地はまだまだ先の方にある。メインは山頂付近。オレ達はさらに山の奥へ向けて進んでいった。

 

中継地点のキャンプ場で先発隊と合流。ここまでは何の問題もなし。そしてここからが大問題の正念場。

中継地点のキャンプ場で先発隊と合流。ここまでは何の問題もなし。そしてここからが大問題の正念場。

 標高が高くなるにつれ気温はさらに下がっていった。まだ昼間にもかかわらずおそらく氷点下ではないかと思えるほどの寒さだ。それを裏付けるように道の脇は白いものがちらほらと視界に入り込むようになり山肌を伝う水は氷柱と化している。

 ほどなくして時折、白い路面が現れるようになってきた。やはり昨夜の雪が積もったようだ。陽の当たらない所はそのまま雪が残っている。

 さらに進むと路面状況は一気に悪化した。視界に入る道のすべてが白い。だが今、走ってるやつらは積雪1メートルの雪中行軍、マイナス9度のキャンプをやってのけた猛者ばかりだ。この程度の雪で怯むはずもない。

 3つほどコーナーを抜けたところで桜木氏が真横を向いていた。どうやらケツが滑ったらしい。前輪が側溝に落ちかけている。それでも「ハマッてないよ!」と強がり、再スタートを切る桜木氏。さすがだ。しかし、余裕をこいてられるのもここまでだった。

 さらに進んだ先の勾配のきついコーナーでオークボ君が両足をついてリアを空転させながら遊んでいる。もしかしてスタックしたのかなと思い、その横で停まった時、オレは己の失敗を悟った。

 積雪自体は大したことはない。オフ車であればオークボ君のようにリアを空転させ続ければそのうちタイヤが路面を噛み、脱出できる。それをあまりにも長い事やってるのでオレには遊んでるように見えてしまったのだ。だが、停まって気づいたのだがその雪の下は氷。しかもちょっとやそっと路面が凍ってるのとはわけが違う。厚さ3センチもある氷が路面を覆いつくしている。雪の積もったスケートリンクの上を走ってるようなものだ。

 案の定、再スタートを試みるもリアは空回りするばかりで、仕切りなおそうと少し後ろに下がると今度は踏ん張ってる足も一緒に滑って下がりが止まらない。後ろから来たタカジンさんもオレ達に道を阻まれストップを余儀なくされドツボ1名追加だ。

 だが不調なシェルパの低迷しているトルクが幸いしたのかオレは3度目のトライでなんとか脱出に成功した。オークボ君らはまだ苦戦していたがやっと前に進み始めた車体を止めるわけにはいかない。オレは恐ろしいまでに神経質なアクセル操作で進んでいった。

何とか分岐の4差路まで辿り着いたがこの先はノーマルタイヤの入っていける領域ではなかった。ここで四国雪中隊、無念の撤退。

何とか分岐の4差路まで辿り着いたがこの先はノーマルタイヤの入っていける領域ではなかった。ここで四国雪中隊、無念の撤退。

 しばらく走るとやっとの事で陽の光があたるアスファルトの見える路面が現れ、その先にあるコーナーを抜けると休憩所のある4差路にでた。

 この時点でかなり標高の高いところまできている。遠目には樹氷が見える。目的の場所までたどり着けばあれが間近で見る事ができる。ほんの少しだがやる気が再燃してきた。少ししてオークボ君とタカジンさんもなんとか上ってきた。しかし・・・オレ達の行軍もここまでとなる。

 元気良くスタートしたイシイちゃんらを追いかけるかたちで走る事数十メートル、またしても氷の道が現れた。しかもさっきまでとは比べ物にならないレベルで延々と続いている。イシイちゃんは行けるところまで行きたそうにしていたが普通に考えて日陰というわけでもないのにこの有様、さらに標高の高いこの先がどうなっているかは想像に難くない。

 仮になんとか行けたとしてもすでに夕方近くになるこの時間、引き返す際に日が暮れてたりしたらいかにオフ車とはいえノーマルタイヤでの下りは命がけとなる。上まで行ってキャンプするとしても状況次第ではリアルに遭難もありうる。結論としてオレたちは勇気ある(オレは帰りたくて仕方なかったのだがね)撤退を決めた。

転倒直後のタカジン隊長、何事もなかったかのようにガッツポーズ。しかしこの時すでに心は折れてたらしい。

転倒直後のタカジン隊長、何事もなかったかのようにガッツポーズ。しかしこの時すでに心は折れてたらしい。

 帰り道、再びあのスケートリンクばりの路面が迫る。しかも今度は下りだ。フロントブレーキは厳禁。リアブレーキとエンブレによるシビアなスピードコントロールが要求される。ハッキリ言ってめちゃくちゃに怖い。時速10キロほどのスピードで恐怖している自分に苦笑いを浮かべてたその時、前を行くタカジンさんがケツを滑らせそのまま転倒した。

 距離をおいていたので少しずつスピードを殺しその手前で止まる事ができた。足元さえ滑るこの路面で荷物を積んだバイクを起こすのは容易ではない。オレはバイクを降り、引き起こす手助けをすべくタカジンさんのマシンに手をかけた。

 その時、・・・・うしろで何かが倒れる音が響いた。振り向くとなぜかオレのマシンが横倒しになっている。なんで!? 起こしてみるとクラッチレバーが見事に折れてるし。これって何ゴケ? 泣けます。

 その後、再スタートをきるもさっきの転倒で集中力が切れたのかタカジンさんが再び転倒。それでもなんとか全員無事に中継地点のキャンプ場に戻りついた。日没までまだ多少時間があり、何人かは林道を走りに行ったがオレはもうお腹いっぱいだ。タカジンさんなど完全にグロッキー状態である。

氷点下でのキャンプは焚き火だけが頼り。イシイちゃんが持ち帰ったクソデカイ氷柱は翌朝までその原型を留めておりました。

氷点下でのキャンプは焚き火だけが頼り。イシイちゃんが持ち帰ったクソデカイ氷柱は翌朝までその原型を留めておりました。

 夜になってからの宴もあまりの寒さに呑んでも酔いが回ってこない。それ以前に買ってきたビールを飲む気が起きず結果、6缶パックがまるごと残ってしまった。

 大筋での結論を言えばこの2日、四国の山の中で寒くて怖い思いをしただけのような・・・だが辛いとか苦しいと感じるのは生きている証拠だ。

 たまには生きてるんだか死んでるんだか分からないような日常から離れて厳しい環境で生きてる事を実感するのも悪くない。まぁこれは自分を納得させるためのただの強がりでしかないんだがね。

 2012年もオレのバイクライフはこんな感じなんだろうなぁ。そんなわけで皆さん、今年もヨロシク!!


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