湯めぐりみしゅら~ん

第50湯:さよなら、そしてありがとうジェベル250XC

 前回の南飛騨湯巡りツーリングを無事に終えて、10万キロを超えた愛車ジェベル250XCは大規模なメンテナンスが必要になってきていた。数年ほど前から必要性を感じていたが、何事もなく走ることから、やや放置気味で過ごしていた。しかし、事態は予断を許さなくなってきていた。ジェベル250XCを少しでも労わるため、乗る回数を減らしていたが、抜本的な解決にはならなかった。

 2007年5月に2年落ちの走行距離2500kmで購入したジェベル250XC。通勤とツーリングの両方に使えるようにと選んだ。今年で購入してからちょうど8年。10万キロのうち通勤で相当数走行しているとはいえ、10万キロも走るとは、買った時は考えもしなかった。どちらかと自分は物持ちがいいほうだが、ジェベル250XCに関しては例外だ。メンテナンスに手間をかけたのはもちろん、「あたり」の車輌だったのだろう。今まで大きなトラブルと言えば、スタータアッシー交換、リアのスポークの張替えとリム交換、メーターケーブル交換、スタンド交換ぐらいか。あとは消耗品の交換をしただけだ。エンジンの始動性が悪く、水溜りを長く走行するとエンジンが吹けなくなる持病以外は快調。実にタフなヤツだった。

 思い起こすと8年間、北は北海道、南は九州、暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も、本当にいろいろなところへ一緒に出かけた。北海道はサバゲ大会の取材の足として使った。青森へは夜中の2時に出発して、その日の午後1時に到着。700km以上の道のりを約12時間かけて行った。これが陸走での最長不倒距離だ。東北地方へは、自分のオヤジの故郷が宮城県ということもあってよく出かけた。旅にトラブルはつきものだが、東北地方ではあまりトラブルに遭遇することなく旅ができたのは、自分の源流が東北にあるからだと思っている。また、東北地方は温泉も多く、自然も豊かなので、湯巡りツーリングするには絶好の地域だ。

 東日本大震災があった2011年には、その年に亡くなった母の生まれ故郷である徳島を訪れるついでに四国一周を実行。9月の台風シーズンで連日雨模様だったが、足摺岬、室戸岬、佐多岬、蒲生田岬を訪れた時はなぜか雨がピタッと止んだことから「ブースカの奇跡」と自ら名づけた。この四国一周の時、ジェベル250XCのリアのスポークはガタガタで、途中で立ち寄ったバイク屋で応急処置を施し、「コイツなら絶対に大丈夫!」と念じながら大阪から東名高速を使って帰京したが、よく無事に戻ってきたと思う。

 昨年は念願だった九州へ上陸。東京から大阪までは陸走、大阪から別府まではフェリーというルートで、8日間かけて大分と熊本を湯巡りした。この湯巡りで、8日間で41湯入るという、1年分に近い入湯数を稼いだ。さすがにこの時は湯疲れした。本当は宮崎、鹿児島にも行ってみたかったが、大分と熊本からは意外と距離があることが判明。湯巡りを優先して次の機会に行くことにした。

 本州、四国、九州に限らず、島々にも行った。佐渡島、伊豆大島、淡路島、小豆島…どの島も面白かった。特に伊豆大島は250ccのバイクまでしか持ち込めず、しかもコンテナに収納して輸送するため、時間とお金がかかった。まさに近くて遠い島だった。小説「二十四の瞳」で有名な小豆島では、醤油の醸造元が多いためか、醤油の匂いが漂っていた。島々を巡るのにジェベル250XCは最適だった。

 湯巡り中はほとんどキャンプ泊なのだが、なぜか雨に降られることが多い。担当編集のA氏から「また雨だったんですか…」と言われるほどだ。好んで雨の日を選んでいるわけでもなく、雨男でもない。これは神様が与えた試練だと思っている。しかし、四国一周の時はキャンプ前提だったが、あまりにも雨が連日続いて装備はすべてビショビショ。心が折れてキャンプは1泊しかしなかった。ここ最近はキャンプ泊よりもホテルや旅館に宿泊することが多いが、どの地域でもキャンプ場が減っているという背景もある。気軽にキャンプするのは難しい時代なのだろうか。

 ライフワークである湯巡りはジェベル250XCを買ってから本格化した。現在721湯覇行っているが、そのうち400湯以上はジェベル250XCで訪れた。500湯のキリ番は四国一周の時、四国最東端の「船瀬温泉」で達成した。1日で入った湯数は九州上陸1日目に達成した11湯が最高。1時間に1〜2湯入っていた計算になる。平均4〜5湯くらいで、温泉が密集している地域だと入湯数が伸びる傾向にある。取り回しのよいジェベル250XCは、狭い温泉街や、未舗装道路が多い場所で威力を発揮した。

 結局、8年間で36都道府県制覇した。自分でもよく走ったと思う。残っているのは岡山県、広島県、島根県、鳥取県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、宮崎県、鹿児島県、そして沖縄県だ。九州地方はフェリーという手段を駆使すればいいが、山口県は陸走か、北九州までフェリーで行き、そこから関門海峡を渡るしかない。沖縄県はフェリーで、日数がかかるのと便数が少ないのがネック。本当は47都道府県全制覇したかったが、ジェベル250XCでは達成が難しくなった。

 
 そうこうしているうちに梅雨になり、夏が近づいてきた。乗り続けるか、買い換えるか…。周囲やミスター・バイク編集部に相談していく中、前回の特別編をお読みの方からお分かりかと思うが、新たなマシンに買い換えることを決断。その候補のひとつであるホンダ400Xの広報車をお借りしてフィーリングを確かめることにした。しかし、いざ乗ってみると、ジェベル250XCとの違いに圧倒されてしまった。気持ちはジェベル250XCからホンダ400Xへと移りつつあった。

 ホンダ400Xの広報車を借りてから約2週間後、劇的な出会いがあった。たまたまネットで中古車検索をしていたところ、自分の希望どおりの、これ以上はない出物と言ってもいいホンダ400Xが都内近郊で売りに出されていた。いてもたってもいられなくなり、その2日後、現物を見て即決。自分でも驚くほどのスピードで購入してしまった。

 今まで頑張ってきたジェベル250XCをこのまま維持し続けるか、廃車にするのか迷ったが、廃車にはしたくなかった。そんな中、同僚が欲しいと言い出した。これで廃車にしなくて済むので、同僚に譲ることにした。
 同僚にジェベル250XCを譲る際に、学生時代に歌った『思い出のアルバム』の一節が思い浮かんだ。

「〜いつのことだか 思い出してごらん あんなこと こんなこと あったでしょう うれしかったこと おもしろかったこと いつになっても 忘れない〜」

 8年間分のツーリング写真を見返すと、いろいろな思い出が蘇ってくる。あらためてジェベル250XCには感謝したい。ありがとう! 新たなオーナーのもとで、新たな余生を送ってくれ。

 ということで、次回(51回目)からは、新たな相棒とともに湯巡りがスタートする。さあ、行くぞ!と意気込みたいところだが、年内は仕事がかなり立て込む模様。はたして湯巡りに行けるのか…。


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初めてキャンプしたのは購入してから2ヶ月後の長野県の別所温泉森林公園キャンプ場。この時はまだGIVIのトップケースは装着していなかった
初めてキャンプしたのは購入してから2ヶ月後の長野県の別所温泉森林公園キャンプ場。この時はまだGIVIのトップケースは装着していなかった。
ミスター・バイクの記事企画でキャンプ装備を撮影した時のもの。まだまだ車体は綺麗な状態。この時からキャンプ装備はだいぶ変わっている
ミスター・バイクの記事企画でキャンプ装備を撮影した時のもの。まだまだ車体は綺麗な状態。この時からキャンプ装備はだいぶ変わっている。
買ってから翌年、アームズマガジンの取材で北海道を訪れた時に撮影したもの。北海道らしい真っ直ぐに延びる車道に感動した記憶がある
買ってから翌年、アームズマガジンの取材で北海道を訪れた時に撮影したもの。北海道らしい真っ直ぐに延びる車道に感動した記憶がある。
2009年2月に伊豆大島に上陸。撮影時刻は午前6時30分。早朝に到着するフェリーを降りてすぐに向かったのが三原山だった
2009年2月に伊豆大島に上陸。撮影時刻は午前6時30分。早朝に到着するフェリーを降りてすぐに向かったのが三原山だった。
2010年7月に青森県でキャンプした時の様子。12時間かけて700キロ以上走ったのは、後にも先にもこの時だけだ
2010年7月に青森県でキャンプした時の様子。12時間かけて700キロ以上走ったのは、後にも先にもこの時だけだ。
2011年9月に四国一周した時に徳島県の蒲生田岬で撮影した時のもの。台風の影響で連日雨だったが、岬を訪れた時は晴れていた
2011年9月に四国一周した時に徳島県の蒲生田岬で撮影した時のもの。台風の影響で連日雨だったが、岬を訪れた時は晴れていた。
同じく四国一周した時に立ち寄った小豆島。香川県高松市からフェリーで上陸した。雨と湿度の影響でレンズが曇ってしまった
同じく四国一周した時に立ち寄った小豆島。香川県高松市からフェリーで上陸した。雨と湿度の影響でレンズが曇ってしまった。
四国一周した1ヵ月後に訪れた宮城県閖上地区にある丘の上から海岸方面を見たところ。家の土台だけが残っているだけで、あとは何も残っていない。その光景に絶句した
四国一周した1ヵ月後に訪れた宮城県閖上地区にある丘の上から海岸方面を見たところ。家の土台だけが残っているだけで、あとは何も残っていない。その光景に絶句した。
昨年、九州に上陸した際に訪れたやまなみハイウエイから見た景色。ジェベル250XCで九州に上陸したかったので、この時は感慨深いものがあった
昨年、九州に上陸した際に訪れたやまなみハイウエイから見た景色。ジェベル250XCで九州に上陸したかったので、この時は感慨深いものがあった。
同僚に譲り渡す日に撮影したもの。タンクなどは綺麗にしてきたつもりだが、さすがに各部にヤレが目立つようになっていた
同僚に譲り渡す日に撮影したもの。タンクなどは綺麗にしてきたつもりだが、さすがに各部にヤレが目立つようになっていた。
オドメーターは約10万2400キロに達していた、実は途中でメーターケーブルを交換しているので、実際には10万8000キロほど走っている。約8年間、10万キロも共に走ってくれてありがとう
オドメーターは約10万2400キロに達していた、実は途中でメーターケーブルを交換しているので、実際には10万8000キロほど走っている。約8年間、10万キロも共に走ってくれてありがとう。

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は721湯。湯巡りツーリングの相棒はスズキ・ジェベル250XC。ちなみにマイカーもスズキのエスクードというスズキスト。


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