- ルリカミドリ
押し入れの中を整理していたら懐かしい段ボール箱が出てきました。
ほとんどどーでもいいものばかり入ってたのですが、その中に、昔よく聴いていた「河島英五」さんのカセットテープがありました。 「酒と泪と男と女」「生まれる前から好きやった」「時代おくれ」……青春や人生の苦しみ悲しみなんかを、搾り出すようなダミ声でぶつけるように歌っていたあの歌声は本当に独得で、体中に響き渡るような感じがして好きだったんですよ。
中でも、どんなに苦しいことがあっても、生きてさえいればいつかキットいいこともあるさ。という「生きてりゃいいさ」は、自分がつらいときに聴いたりすると、ホントにそうだよなぁ〜って、心から癒されるんですよね。
でもそんな彼のほうこそ若くして亡くなってしまったんです、人生とは皮肉なもんだなぁって思わされてしまいます。
実はワタシ、いちおうは「漫画家」という看板を出してはいますが、最近、ほとんどと言っていいほど依頼がなく、他の仕事で糊口をしのいでおります。
持ち込みをしても、作品が今風ではないらしく、相手にしてもらえません。
絵柄を変えようにも、長年染み付いたものでそう簡単にはいかず、苦労をしております。
漫画家やめるのは簡単なのですが、明日のジョーじゃないけど、真っ白な灰にはなりきっていないので、まだペンを折る気持ちにはなれないんですよね。
そんなこんなで、心にウダウダとしたものを感じつつ、暗い顔して、ため息ついて、小銭を出し惜しみながら、日々生活をしているという状態です。
こんな苦しいときは「朝から酒!!」という選択肢もあるのですが、やっぱしここは「朝からバイク!!」の方を選びましょう……って、どっちもただの現実逃避じゃん!!
日曜日、フラッとCB400SFに飛び乗り、青梅街道を西へ向かいます。
箱根ヶ崎から国道16号線に入り、その後5kmほど走って国道299号へ。
飯能市から県道70号〜350号と乗り継ぎ、山の頂上にある「子の権現」様へとやってきました。
ここは足の怪我や病気に対して霊験あらたかなところで、昔から大勢の方が参拝に訪れるところとして有名なんです。
ワタシも、高校の時一度だけバイクで事故ったことがありまして、今も時々ですが右ひざに激痛が走ることがあるので、しっかりと神様にお願いをいたしましょう。
その後、名栗村(現在は飯能市へ合併)へと降りてきました。まずは名栗湖へと向かい、作ってきたおにぎりでお昼にします。
湖畔を渡る風はさわやかで涼しく、心から和みます。
土手に寝っ転がり、ジージーと鳴き喚くセミの声を聞きつつ、真っ青な空に浮かぶ入道雲を眺めていたら、急激に眠気が襲ってきました。
このところいろいろと思い悩んだり、仕事でもバタバタしていたので心身ともに疲れていたのでしょうね、いつの間にか爆睡していました。
1時間ほどして目が覚め、ギシギシと軋む体でバイクに跨り、すぐ近くにある「さわらびの湯」へと移動します。
ここは名栗川のすぐ脇に建てられた温泉で、露天のジャグジーに浸かり、涼やかな景色を楽しみながら入浴できるのでサイコーなんです。
スチームサウナもあるし、休憩所も広くて、しかも食べ物、飲み物持ち込み自由だし、とにかく一日中のんびりできるんですよ。
しばしの間ゆったりしたあと、外へ出ると、地元の野菜の販売所がありました。今朝採れた新鮮な夏野菜をいくつか求め、県道70号線を走ります。
飯能方面に少し戻ったところに「庚申の名水」というのがあります。
ここは山から湧き出る名水を個人で引いているところで、休日にはいつも行列が出来るほどの人気の場所なんですよ。
幸いなことに今日はあまり人がおらず、すぐに水を汲むことができました。いつものように24Lの水をバイクに積み込み、名栗を後にします。
帰宅後、台所に水の入ったタンクを置いたら、なんか幸せな気分になってきました。ワタシ、単純な人間なので、美味しい水がいつでも飲めるっていうだけでうれしいんですよね。
「生きてりゃいいさ。」
河島英五さんの歌のフレーズがまた心の中に浮かんできました。
今、自分が抱えている悩みなんて、震災で命以外全てを失った方たちに比べればしょうもないことなんだなって、本当に思わされてしまいます。
だから、日々の暮らしの中で、少しでも楽しいことを見つけて、腐ることなく、諦めることなく、自分なりの目標に向かって努力していく……この当たり前のことをやっていくしかないんですよね。
生きてさえいれば、いつの日かワタシにもいいことがあるのかも知れない……。
「生きてりゃいいさ。」
バイクに乗れる幸せを噛み締めながら、これからもがんばって生きていこうと思いつつ、なぜか今夜も酒におぼれるワタシでありましたとさ(苦笑)。
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