■ミュージシャンになるべく
夢抱き上京したバカ編 その5
「俺の名は、仮面ガイガー! 放射能を日本に蔓延させてその手に入れようとする悪の秘密結社、東○電力め、今こそ目に物見せてくれる!
よし、腰に装着したガイガーカウンターの数値は0.04μシーベルト、標準値だ。変身! ガイガーチェーンジッ!!
どうだっ、行くぞ。ガイガー・パーンチ! ガイガー・キーック!!
うっ、クソッ。技が効かない。む? 腰のカウンターが鳴っている。
なにっ!? 250ミリシーベルトだとっ! 何の根拠も無しに政府が勝手にかさ上げした、原○作業員の年間被曝量の上限ではないかっ!
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。こうなったら最後の手段だ! 必殺技、海水注入サイクローンッ!
ふう、これで一段落はついたが、まだ悪ははびこっている。
次はテレビに良く出ていた、あの原○力保安委員会の、ズラ疑惑のある男を倒さねば。行くぞ、待ってろよ! カツラ野郎めっ!!」
え〜、締め切りをとっくに過ぎまくりというか締め切りをすっかり忘れ、読者様からのメールと編集部様からの催促で気づいたアッキーです。
何を書こうかと考えていて、気がついたら上のような文章を書いてしまいました。
これを編集部様が修正するのか伏せ字するのか、はたまた全削除されるのか?
もし全削除されたらミクシィでおおっぴらにしたいと思います(※原発事故で避難を強いられているみなさま、風評被害に苦しんでいるみなさま、そして最前線で必死に作業されているみなさま、悪意は決してございません。進展しない現状へのぼやきです。どうぞ気を悪くされませんように。編集部)。
つーことでいつもの本題。
前回と前々回は、このコラムのタイトルが「上京編」なのに、上京前のことを書いてしまい、ちょっと気のふれた人だと思われているかもしれないので、今回からはちゃんと上京後の話を書こうと思う(でもいつまた変わるか保証無し)。
上京編その2を読んだ方ならお分かりだろうが、今から21年前に、プロのバンドマンになるため上京し、その時点で伝説とも言われたバンド『頭脳警察』のローディ(楽器管理から女のお世話まで何でも屋)になったオレ。正直、頭脳警察の曲はほとんど聴いたことがなかったのだが、そのバンドのヤバさは知っていた。
何せバンドの中心人物、PANTA氏は、極左思想(極端な左翼ということ)の持ち主といわれ、発売禁止になったファーストアルバムの第一曲目に収録された曲の名は『世界革命戦争宣言』。タイトルだけでもヤバそうだが、その歌詞がまたエグいのである。
そのまんま書くとJASRAC様からおしかりを受けるので要約すると「ブルジョワジー(富裕層)や政府が、自分らの勝手で国民に銃を向け殺す権利があるなら、我々も君たちをナイフで刺し殺す権利がある!」とかいう、こりゃ今でもギリギリ放送禁止じゃん、って内容なのだ。
しかも彼は、学生運動が一番活発だった時期、いわゆるヘルメット被って顔にタオル巻いて棒持って、っていう人たちの前で、成田空港建設反対の決起集会で、上のよーな歌を歌っちゃったからもう大変な騒ぎだったらしいのである。
で、そんな歌ばっかり歌っているPANTA氏であるがゆえ、一般的には内田裕也氏と同じくらい怖い人、というイメージが定着している。
なんだが、実際の彼はとてもジェントルで気遣いもよくしてくれ、少なくとも彼ともう20年以上の付き合いがあるオレすら、まともに怒られた(諭されたことはあるが)ことはない。
とはいえ、ファンのみんなはPANTA氏がものすごく怖くて、とてもそばには近寄れない、というパブリックイメージを持っているのも確かである。まあ、それも仕方ない話なんだけど。
で、話はオレが頭脳警察のローディになって1年後くらいのこと。ある日、オレの姉貴からいきなり電話がかかってきた。
あんた、頭脳警察なんてトコロで仕事してるの!? ヤメなさいっ。そんな酷い仕事!!」
姉貴がなんでそんなにコーフンして言い出すのか、オレは何がなんだか分からなかったので、どーしてそういう話になったのか、ことの経緯をちょっと聞いてみることにした。
姉貴は昔、とある日本最大手の広告代理店(って言えば分かる人は分かるでしょうなあ)に勤めていて、TV関係者やレコード会社に知り合いが沢山いた。
そしてある日、(頭脳警察が所属していた)ビクターレコードの友達(事務担当)と優雅にランチなどを楽しみ、その中でたまたま頭脳のことなど何も知らない姉貴が、オレのことを話したらしいのである。
すると、その彼女はこう言ったらしい。
「頭脳警察のPANTAなんて、超ヤバい人よ! めちゃくちゃ怖くて、しかも左翼系思想の人だから、怒ったら何されるか分からないわ。殺されちゃうかも知れないわよ!」
どうやらこの彼女、頭脳警察と連合赤軍の区別がついていないらしい。
で、PANTA氏の周りの人、レコーディング現場のディレクターさんやらプロデューサーさん達は、ちゃんと彼のホントの人となりを知っていた。
しかし、現場とは全く無縁のデスクワークだったその友達はPANTA氏とはもちろん面識もなく、彼女もまた、世間に広がるパブリックイメージのみで判断していたのである。
ということで、オレはちゃんと姉貴にPANTA氏がどういう人か、オレの仕事場はいつも楽しいムードだよ、と伝えると、なんとか一安心したようであった。
そして後日、この話をPANTA氏にしたところ、彼はこう言った。
「あ〜、現場以外の人間とはあんまり接点ないし、まあ仕方ねぇよなあ」
いやいや、まあ貴方自身は硬派なロックミュージシャンであるからしてそう思われてもいいが、あまりそんなイメージが先行すると、オレの家族が泣くのである。
実際、姉貴がヒステリー起こしながら電話してきたのである。
とまあそう言っても仕方ないので放っておいたら、数日後、今度は母親から電話がかかってきた。
「あんた何? 警察のお世話になってるってお姉ちゃんに聞いたけど、どういうこと! なにをやったの!? ちゃんと説明しなさいっ!!」
どうやら、姉貴との伝言ゲームで母親は思いっきり勘違いしたらしい。
まあバンド名が横文字ならまだしも『頭脳警察』だし、年配の人は知らんだろうし。でも警察は警察でも・・・ねえ。
ちゃんと姉貴の話を聞いておいてくれれば、とりあえずオレが(本物の)警察のごやっかいになってるわけじゃない、ってのがわかりそうなもんなのだが・・・ボケてんのか!?
しかしそれから数年しても、どーも母親の頭の中には『警察』という文字が消えなかったらしく、実家に帰る度に「頭脳警察っていうのは、一体なにをやっている人たちなの。ロックバンドっていうのは分かるけど、どんな音楽をやっているのかしら、PANTAさんという人は」
ここで、もしオレがサザン・オールスターズなんかのローディをやっていれば、CDをポイと聞かせて「ホラ、こんなさわやかなバンドだよ」と言えるのであるが、こちらは『世界革命戦争宣言』『赤軍兵士の詩』『銃をとれ!』などなど・・・とてもまともな思想の高齢者に聞かせられる曲などまったく無かったのであった・・・・。
ということで、次号は何書くかまったく考えていないのだが、なるべく時間系列で読者さんが混乱しないように書くつもり。でも、急に面白いこと思い出して、それをすぐみんなに伝えたい時には書いちゃうから、許してくだせえ。
Keep going,Keep riding,TOHOKU People!
(まだまだつづく)
- アッキー加藤
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