- HERO‘S 大神 龍
(2011.3.25更新)※写真をクリックすると大きくなります。
深夜2時。和歌山県山中。シェルパのヘッドライトが消えたとたん、辺りは漆黒の闇に包まれた。
42号線から311号線に入り川湯温泉をめがけて走ってる最中の事だ。
川湯温泉まであと12キロと書かれた看板を過ぎた所でシェルパのエンジンはその動きを止めた。原因は不明。
急激な温度低下によるキャブの不調ではないかと思われるがハッキリした事はわからない。
少し間をおくとエンジンは掛かりアイドリングはするのだがアクセルを開けると止まってしまう。
燃料コックの詰りという可能性もある。いずれにしてもこの闇の中にあってはどうする事もできない。
そして問題はそれだけではない。
田辺市辺りから降り始めた雨は311号に入ったところで雪に変わり、この時点では猛吹雪。なんせヘッドライトで照らしてもほとんど前が見えないような有様なのだ。
まったく、ツイてない。
時間、場所、天候とどれをとっても最悪な条件が揃いすぎている。
一体、オレが何をしたっていうんだ!? そんな台詞を大声で叫びたかったが思い当たる節がいっぱいあるのでそこは思いとどまる事にした。
それにしても目的地を目前にしてこのトラブルとは・・・。
“可能性が1%でもあれば、それは必ず起こる”そう語ったマーフィーは正しい。だがそれは限りなく長い目で見たときの話であってオレの場合、その可能性が80%に迫るほどの確立でツライ事が起こる。
川湯まであと10キロ。バイクで走ればものの10分そこらだがバイクを押して歩くとなるとたっぷり2時間はかかる距離だ。いたずらにセルを回し続けてもバッテリーを消耗させるだけなのでとりあえず明かりのある所までは押して歩く事にした。
それでも様子見で途中途中、エンジン始動を試みるもやはりわずかの間、アイドリングするだけで走れる状態にできない。
吹雪は一向に収まる気配もなく路面にはうっすらと雪が積もり始めている。そんな中、時折トラックがオレの横を掠めるように通り過ぎていく。
これは・・・本気でヤバイ。
いかに能天気なオオカミ男とはいえこれを刺激的と呼ぶにはあまりにも度が過ぎる。
そんなオレを嘲笑うかのように野生動物の鳴き声が山にこだまする。
暗闇と吹雪で視界ゼロ。押して歩いているのに度々、コースアウト。これで転倒でもしたらいい笑い者だ。
2キロほど歩き街灯のある所で燃料コックを負圧式から直流に切り替え、アイドリング調整を最大にして再びエンジンスタートトライ。
4、5回咳き込んだ後、エンジンは唸りを上げた。
アクセルはそのままにゆっくりとクラッチを繋いでみる。なんとかイケそうだ。
路面のグリップに細心の注意を払いエンジンが止まらない事を祈りながら田舎の原チャリオバちゃんの如きペースで走る事、二十数分。川湯野営場に到着。
オレは宗教には縁がないが、もし神が存在するならその神はオレをイジメはするが見捨てる事はしないといったところだろうか。
何はともあれ無事辿り着いた。キャンプ場には隼が一台にテントが一つ。愛知の乾ちゃんである事はわかっていたがこんな時間に起こすつもりもなく、何よりオレ自身が疲労困ぱい状態でそんな余裕などない。
しんしんと降り続く雪の中、早々にテントを立て転がり込むとそのままオレは眠りにつく事になる。
翌朝、テントから這い出すとあたりはすっかり雪景色だった。昨夜からの雪はまだ降り続いている。
先日に現地入りしていた乾ちゃんは旅先で知り合ったという車で放浪中のみのさんとすでに起きていた。
それにしても今年の越冬はちょっと厳しい。降り続いている雪はここだけではなく全国的なもののようだ。
ちょうど3年前も同じような天候だった。
こりゃぁまた辿り着けない者が出そうだ。そんな考えが頭に浮かぶ。
だが、そんなオレの考えとは裏腹にほどなくして姫路から眞砂谷家のマルちゃんが到着。オレ同様、昨夜から一睡もせず夜通し走ってきたという。
さらにはそのすぐ後くらいに愛知のシンちゃんも現地入り。昼頃には主催の星野氏もやってきた。
その星野氏、今回も昨年同様、カブでの登場だ。その理由を訊くとメインのニンジャがまだ完全でないという事に加えて雪の影響によるものだという。四国でもかなり雪が降り積もったらしい。
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