いささか旧聞で申し訳ないが、最近あまりに“凶悪なドライバー”が目に余ることからちょっとひっかかっているネタをとりあげさせてもらった。
それは、昨年の5月に判決が出た警察官の発砲をめぐる“事件”だ。2004年8月に横須賀市で起きたその事件は、覚醒剤男が警察官の制止を無視。さらにクルマでパトカーに体当たりをくり返すなどして逃走を図ろうとした男に対して警察官が発砲。運悪く下半身不随の障害を負わせてしまったという。これに対してその男は約1億1千500万円の損害賠償を求めて訴訟を起こして裁判になった。事件当時も、また裁判の時もけっこう大きな扱いで新聞に載っていたのでご記憶の方も多いだろう。
裁判での結論はなんと「威嚇射撃なしの発砲は違法、1千154万円を賠償しなさい」という判決だった。
単純に不審な男が逃げたから撃った、というなら確かにそういった判断があってもおかしくない。しかし、だ。この男は覚醒剤を使用しながら運転し(実際にそちらのほうは覚醒剤取締法違反罪などで懲役2年、執行猶予4年が確定している)パトカーに何度もぶつけて逃走を図ろうとした。さらに警察官がいきなり発砲した訳じゃなく、「撃つぞ」と4~5回警告している。それでも逃げようとしたので最後の手段として発砲しているのだ。
こんな状態なのに「警察官の発砲は違法、損害賠償しなさい」などという判決が出たのだ。
日頃から警察の不当取り締まりに対してはさんざん文句を言っているが、それはあくまで善良なライダーを姑息な手段で犯罪者にするような取り締まりに対してであって、法に則った正しい取り締まりに対しては、どんどんやってもらいたいと考えている。不法改造のグラサンカーや珍走族など明らかな悪は見て見ぬふりをし、善良市民の些細なミスをあげへつらって点数を稼ぐような真似を糾弾しているだけだ。
話が脱線したが、こんな状況でも撃てないなら拳銃を携帯している意味がない。もしもこの時に発砲を躊躇していれば、覚醒剤を使用しながらハンドルを握るような、さらに警察からも逃亡を図ろうという明らかな犯罪資質の人間なのだ。その後に一般市民が犠牲になった可能性は限りなく高い。発砲してでも制止するのが警察官の役目だろう。
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それでなくとも今や日本の警察官は“いかにも”風の男たちには完全になめられている。さらには海外からの出稼ぎ犯罪者など、日本の警察官は絶対に発砲しない、とタカをくくっているのだとか。そこへこの判決なのだ。警察官だって人の子、正義のために使った拳銃で犯罪者にされてしまうのでは、誰も二度と拳銃を使うことはなくなってしまうだろう。
判決直後いくつかのインターネットのサイトが意識調査をしていたが「発砲は正当」の意見が半数を超えていた。当たり前だろう。「凶悪犯が増えているというのに裁判所は何を考えているんだ」である。また興味深い意見として「こんな事件こそ裁判員裁判にかけて“一般市民の考え”を反映させるべき」というのも見かけられた。法曹関係者の井の中の蛙ぶりは何も今に始まったことじゃないが…。
で、多分ここまで読んでいただいた読者のみなさんも感じているであろう「それで終わりじゃないよね?」確かに続きがあります。
その後、県警は当然ながら控訴した。その控訴審で東京高裁が下した判決は「威嚇射撃無しの発砲でも正当」というものだった。
「薬物使用で極度の興奮状態にあった男には説得を受け入れられる状況になかったと推認される。男はクルマでパトカーへの体当たりを繰り返し、威嚇の発砲をしても男に聞こえるか疑問、抵抗をやめたとは考えがたい」という理由だ。一審判決を取消、賠償請求も棄却している。
ちょっと残念なのは一般的な市民感覚からすれば、警察官に拳銃抜かれてそれでも抵抗しようとするような人間にすら威嚇射撃が必要だなんだという小賢しい制約は変わらないということ。
多分警察権力の暴走などに配慮しているのだろうが、そんな心配を無くすためにも、SWATや最新の米軍部隊のように常に録画(同時に本部に送信)できるカメラを常時装備してもらって職務にあたってもらうのはどうだろう。GPSも利用しよう。これなら警察官の身の安全にもつながり、不当な取り締まりも激減するはず。
なにか問題があったときには市民が簡単に警察官の行動の是非も検証できるようになる、といいことずくめ。犯罪男に1千万も血税使うはめになるくらいなら1億や2億でも安いもの。
それにしてもいまだ“当て逃げナンバー・カバー”は取り締まられず、凶悪ドライバーも増えてます。皆さまご注意を。
- 小宮山幸雄