- タカヤスチハル
(2010.9.27更新)
バイクに乗れない日々が続いている。
8月の末に単身先の名古屋から、タイヤとフロントフォークオイルの交換のために、家族先の千葉へ我がCB君を持って行ってしまってから 取りに行けないでいるのだ(まだ名古屋のバイク屋さんを良く知らないのでどうしても元の馴染みに行っちゃう)。
いや別に家族先へは割と帰って来てはいるのだけど、バイクに乗って日曜の午後に東名走って名古屋に戻るって結構メンドクサイもので(6時間掛かる)、降水確率30%とかあるともう断念、「月曜の朝新幹線で帰ろう」となってしまい9月末の今に至っているのです。
ああホントは今日ツーリングの予定だったのに!
今、僕は真剣にネットで青春ドリーム号名古屋(名古屋⇔東京の高速バスね!)の今晩の空き状況を調べたところだ。
どうしようかな、今晩バスに乗って明日の朝到着すれば明日1日千葉⇒名古屋のツーリングが出来るぞ。中央高速乗って松本まで行って安房峠越えて白川郷を抜けて・・・ うーん、夢は野山を駆け巡るなあ!
ところで暑かった日本列島は今週急に秋の気圧配置に覆われ、ひんやりとしてきた。「いつの間にか」と言うより「突然の」秋の気配である。
秋になると思い出す風景がある。
学生最後の年のことだから25年も前で、もう遥か昔の話である。
信じられない位きれいに晴れた朝、前夜宿泊した菅平から当時乗っていたRZ250で高原道路を走っていた時のコトだった。
その日は見事に晴れて空気がきーんと澄んでいて、バイクを走らせるにはもうこれ以上ないようなお天気だった。
見上げる空は本当に雲ひとつない快晴で、空の青さは信じられない位に深く、風は優しく、光は澄んでいて、何年に一度出会えるかどうかの極上の秋晴れだった。
この日の僕は、バイクの気持ち良さを100%感じることが出来るような素晴らしい天気にめぐり合えたのだ。
オオゲサでなく空の青さと木々の緑と輝く道の白さが、いつもの何倍もくっきりと色分けされて見え、なんだか異様な高揚感に包まれ始めると「おお、コイツがライダーズハイというヤツか?」と頭をよぎった位である。
確かにハイになっていたのだろう。いい気になって危うくオーバーランしそうになってやっと自分を取り戻した。
バイクを止めて深呼吸しながら気持ちを静めていると、ふと先の路肩に、秋なのにビーチパラソルがぽつんと立っているのが見えた。
りんごを売っている露店だった。
「そうだりんごを1個たべよう」と行ってみると、残念ながら6個1セットで売っている。
「いいよ、これ食べな」と店のばあちゃんがキズモノの試食用のりんごをくれた
「味に変わりはないからね」という赤いりんごは酸っぱくて甘くてホントに美味しかった。
「お金を払う」「いやいらない」と言い合いながらふと空を見上げると、空の青さが益々際立ってきて、もはや群青色と言った方が良いような色になっていた。
「何だか怖いような青ですね」と僕が言うと、ばあちゃんは「自分もずっとここに住んでいるがこんな空は見たことが無い」と言い、「いや一度ある。自分が嫁いできた時の空がこんなだった」と語ってくれた。
僕は心の中で「う~む、このばあちゃんが結婚した時っつーと多分50年位は前だよなあ?」と考え、「今日の空は50年に一度の青さかも知れないなあ」などと一人思ったりした。
何だか途方も無くすごい天気に遭遇したような気がして、僕はパラソルの横の草むらに寝そべってしばらく空を眺めていた。
ウソだと思うだろうけど本当に群青色の青空だったのですよ。
ウソじゃない証拠に(ちっとも証拠にならないけど)その時ばあちゃんは僕のとなりに寝そべって一緒に空を眺め始めたくらいだ。
しばらく二人黙って空を眺めていると、遠くからVT250Fの排気音が聞こえてきて(音でVTと分かる)、「あの~、何やってるんですかあ?」と女性ライダーに覗き込まれて我に返った。
「え?いや、空を見ているだけだけど」とちょっと動揺しながら返事をすると、「良かったあ、殺人事件かと思った」とまで言われてしまった。
VTの女性ライダーも何だか空の色が怖くなってきて、誰か人のいるところで休みたいと思っていたトコだったそうだ。
「怖いような空ですよねえ」「初めて見る青空だよなあ」「1回だけ見たかねえ」三者三様に感慨深い言葉を発し、でも後は何も喋らずに僕達は空を見上げていた。
とまあ文章にしてしまえばこれだけの話である。
それでも僕にとっては秋のツーリングというと25年前のこの風景を真っ先に思い出す。
僕はあの時以来、同じような空には再会出来ていない。
でもあの時のばあちゃんは確かに過去にも見たことがあると言っていたし、じゃあ未来のいつかにまた出会える可能性もあるのだろう。
いつかまためぐり合いたいな。
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