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http://www.youtube.com/watch?v=-7noOIuRZHc
VFR1200F Dual Clutch Transmissionは、マニュアル車のようにギアを選択できるオートマチックトランスミッションを搭載したニューモデルである。
奇数段(1、3、5)と偶数段(2,4、5)が独立したクラッチを持っているから、デュアルクラッチというわけ。
奇数段のクラッチが繋がって走行している時、偶数段のクラッチは繋がってなく、ギアはすぐに働けるように待機をしている。シフトを感知すると、入った偶数ギアのクラッチが「待ってました!」と繋がる。クラッチのキャッチボールのようなもの。
四輪のスポーツモデルにも採用されているから知っている人も多いだろう。このデュアルクラッチを、ホンダが独自の技術を投入して二輪車用に仕上げたものがこれだ。
なんだかちょっとムズカシイ話はここまで。ライダーとしては、「じゃあ今までのバイクとは何が違うのよ」になるだろう。
簡単に言えば、クラッチレバーとシフトペダルがなく、自動変速と、左側ハンドルスイッチ部分に付いた変速ボタンでマニュアル変速が出来るというバイク。
ビッグスクーターと機能的には同じだけれど、構造はマニュアルトランスミッションと近いから、駆動のかかり方など走りの感覚はバイク的なもので違和感がなく、人間がマニュアルで操作するより、スムーズで素早い変速が出来るというのがメリットだ。
試乗前に操作説明を受ける。エンジンをかけて右手のスイッチでニュートラルからオートマチックの「ドライブモード」に入れる。もう一回押せばオートマチックの「スポーツモード」。で、右手人差し指でAT/MT切り替えボタンを押すと「MTモード」。MTモードへは左手のシフトアップ/ダウンスイッチを押すだけでも切り替わる。
話を聞いただけではややこしいから、とりあえず乗ってみた。
パーキングブレーキを戻して、ニュートラルからスイッチを押してカシュッと「ドライブモード」に入れる。シフトインジケーターが「1」を指しているが当然スロットルを開けてないので進まない。ちなみにパーキングブレーキはクルマと一緒で引いたままでも走れてしまう。押さえの役割を担っているリアブレーキパッドはすぐに減ってしまうが……。
ギアが入っていることが判るのは小さなニュートラルランプが消えたことと、インジケーターの数字だけなので、「ちょっと乗せて」と誰かにバイクを貸すなら、最初に説明しとかないと、そのままスロットルをブンブンとあおって1200のトルクとパワーでどっか~ん! と飛んでいってしまうかも。
ギアが入った状態でもエンジンストップが可能で、次にキーをひねった時は、カチっという音とともに自動でニュートラルに入る。その点ちゃんと考えられている。
まずは「ドライブモード」。発進の制御はとても良くできている。クラッチの繋ぎ方、スロットルがちょっとしか開いていない時の動きは穏やかでコントロールしやすい。スロットル全閉からちょいちょいと開けてもスムーズさは変わらない。ちょい開けしかしないUターンで、思ったより駆動力が足りなくなったり、ギクシャクすることはなかった。逆にエンストしないのでビギナーは精神的に良いと思う。開発スタッフはここまで仕上げるのに苦労したんだろうなぁ。
オートマチックなのだから、シフトアップはスロットルを開けるだけ。ホンダは「変速で後ろの人のヘルメットがコツコツと当たらない」という瞬時にシフトして駆動のかかりがほぼシームレスなところをうたっていたが、確かにこれはスムーズ。そして楽ちん。スロットルを閉じても、スクーターのようにスーっと空走するような感じは小さく、シフトダウンも違和感はない。
ライダーの負担を減らして快適に走れるというのは、「ランチは300km先の高原ホテルで」という長距離ライドをコンセプトにしたVFR1200Fには鬼に金棒だ。
ポチっと押して「スポーツモード」にすると、もうちょっと上の回転まで引っ張る。回転数が上がった分、シフトアップのショックもそれなりになる。
今回、試乗したのは高速道路と山間のワインディング。「スポーツモード」は登りのワインディングでも力強く走れた。ただ、そこからもう少しペースを上げた場合。例えば、開けながらバンクしていくコーナーで、マニュアルだと高回転まで引っ張りながら車体が起きてきてシフトアップするようなシーンで、コーナーの途中、まだ車体が寝ているのに、ライダーの気持ちとは関係なくシフトアップしてしまう。そこでサスペンションがちょっと動くから心臟によくない。
ワインディングでスポーツしたいなら、「マニュアルモード」の方が向いている。「スポーツモード」はツーリングしながらちょっと機敏に走りたい時と、高速道路での追い越し向きと感じた。特性を知って選択の中から選ぶのは人間だから、それぞれの走行モードのクセを知っていれば問題ないこと。
ということでワインディングは、左手人差し指でシフトアップ、親指でダウンの「マニュアルモード」ばかりで走った。直線で飛ばしてきてコーナーの手前でシフトダウンしても、バイクが勝手にブリッピングして回転を合わせてくれるので、どのレベルのライダーでもスポーツライディングが楽しめるだろう。
シフトを左指に持ってきたことは、これまでのバイクとは違う大きなメリットを生んだ。それは左足のホールド感だ。足でシフト操作しないから、いつでもしっかり左足をふんばっていられるのは素晴らしい。
速度がのった高速走行中、オートマチック→マニュアル、マニュアル→オートマチックと切り替えても、その連係は自然だった。
少しだけ不満を言わせてもらえば、シフトする時の音が大きいこと。シフトしたことをショックと音で判ることは、バイクらしい乗り味として歓迎したいが、大きさと質があまり良質ではない。
それでもDual Clutch Transmissionの完成度はかなりのもので、オートマチックに対するこれまでの概念を覆す新しいバイクに仕上がっていることは確かだ。技術的なこと、構造的なことを抜きにして、いちユーザーの気持ちに立って鑑みても、かなり魅力的なバイクと言える。
(■試乗レポート:濱矢文夫/撮影:依田 麗)