Highland Touring トライアンフで巡るスコットランド、マン島。──Part 2 英国を疾走ってみると、オートバイは“文化”だということが良く分かる。


アイリーン・ドナン城


美しさと幻想の古城

 ハリー・ポッターのロケ地・グレフィナンからA830を引き返し、フォートウィリアムで左折しA82を北上する。しばらくはロッキー湖を左に見て走るのだが、湖を渡ったところで左折しA87へとステアリングを向ける。A87は山の頂をつなぐ様にして続く道路で360度の眺望が広がる山岳コースだ。緩やかに続く稜線が印象的なルートだが、ハイランドの山岳路は日本のワインディングに比較するとタイトなコーナーが少なく、ハイアベレージでクリアできる。

三つの汽水湖(淡水中に海水が浸入している)に突き出すアイリーン・ドナン城は英国で最も写真に撮られる城として有名。

 周りの風景を楽しみながら爽快に走ることができる、日本では経験のできない道だ。ボンネビルを駆るツーリングにはうってつけのルートだ。ボンネビルは神経質にならずにハイスピードを実現でき、ツインシリンダー865ccのトルクフルなエンジンは中低速も扱い易く、中高速コーナーも安定していてハイアベレージのバンクも気持よくこなせる。ライディングの気持よさとツーリングの魅力を一挙両得で楽しめるマシンだ。
 ボンネビルに身を任せて爽快なクルージングで目指す次の目的地はアイリーン・ドナン城だ。スコットランドで最も美しい古城と云われ、「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」でMI6のスコットランド支部としてロケーションされた城だ。



相棒トライアンフ・ボンネビル
相棒トライアンフ・ボンネビルが限定車である証のサイドカバー。

 スコットランドのツーリング・コースとしてもポピュラーなのだろう、我々が停めた駐車場にやってくるオートバイが後を断たない。城の内部が公開されていて、往時の生活や歴史が展示され、中世の古城生活や歴史的展示を見ると景観の美しさだけでなく歴史的由来を知ることができて面白い。



不思議の世界、ネス湖の静寂

 アイリーン・ドナン城の素晴らしい光景との別れを惜しみつつ、先へとマシンを進めた。A87を引き返しグレフィナンへの分岐を来た道とは逆のA887へとルートを変えてドラムナドロケットを目指す。延々と続く壮大なハイランドの山岳路を世界的に有名な神秘スポット「ネス湖」に向けてアクセルを開けた。
 ネス湖では念願の「ネッシー」と対面を果たし、必死に証拠写真を撮った。と言ってもホテルに併設された「ネッシーランド」に展示された造りものの「ネッシー」ではあるが、このような生物が居てもおかしくないだろうと思わせるネス湖の神秘さに心を奪われてしまった。



アーカート城
湖畔に建つアーカート城からネス湖を俯瞰すると湖面の静寂とその広さが神秘さを誇示している。

 実際、ネス湖の湖面は穏やかと表現すべきなのか、不気味に静かと表現すべきなのか、いかにも未知なる生物が生息していそうな雰囲気だった。湖畔の「アーカート城」も更にその雰囲気を盛り上げるように、城影をネス湖に落としている。アーカート城も内部見学が出来、古のイングランドとの攻防の歴史を感じることができる。城の塔からネス湖を眺めていると、穏やかな湖面に不思議な波紋が現れ、思わず本物のネッシー出現かと胸が高鳴った。



エジンバラ城


エジンバラの主張はスコットランド

 ネス湖を後にしてA82でインヴァネスを経由しA9を南下、ハイランドを後にエジンバラを目指した。A9はハイランドに連なる山々の高原を成すその地形にあわせて、緩やかな上り下りを繰り返すハイアベレージ走行の一般道だ。途中パースという街からM90(Mが付く道路は高速道)となり、最近まで世界最長だったフォース湾に架かる「Forth Bridge(鉄道橋)全長2,530m」を左に見ながら平行する「Forth Road Bridge(道路橋)」を渡るといよいよエジンバラだ。

プリンセス・ストリートから見るエジンバラ城は街のシンボル。

 エジンバラは周知のように、先頃独立に関する国民投票が実施されたスコットランドの首都で鉄道橋も含め街全体が世界遺産の街だ。ツーリングであっても是非時間をとって観光をすることをおススメする。
 街にはスコットランドの首都である威厳を誇示するかのように、中世の雰囲気を旧市街に残し、中心には国政の要とばかりにエジンバラ城が街を見下ろす岩山キャッスルロックの上に建っている。勿論、城の塔にはブルー地に白クロスのスコットランド旗が掲げられていた。
 エジンバラの街は見所満載だが、街中での駐車には苦労するのでホテルにマシンを置いて巡るのがお勧めだ。旧市街の東の外れにあるカールトン・ヒルという丘に登ると360度の展望に、一通りの観光を終えた後のエジンバラが一望でき感慨深いものがある。



ロバート・ザ・ブルース像


セント・マーガレットチャペル
エジンバラ城の正面、右にスコットランド王ロバート・ザ・ブルース像、左に映画『ブレイヴ・ハート』にもなったスコットランドの英雄ウィリアム・ウォレス像が立っている。 エジンバラ城内で一番古い建物「セント・マーガレットチャペル」にはスコットランド旗が掲げられていた。


スコットランドからイングランドへ

 エジンバラを後に訪ねたのはダーラムという歴史ある街だ。エジンバラからA1をローランド(ハイランドに対しスコットランドの南部をローランドという)をひたすら南下すると、途中スコットランドとイングランドの国境がある。国境を跨ぎイングランド北東部へとマシンを進めると、北海を左に眺め丘陵地でのんびりと草を食む羊達を眺めながら進む。



スコットランドとイングランドの国境


給油
エジンバラからダーラムに向かう途中のA1にはスコットランドとイングランドの国境がある。 英国での給油はセルフ、給油後にキャッシュ又はクレジットカードで精算する。給油する油種はアンリーディド(日本のレギュラー)。

 ニューカッスル・アポン・タインという街を過ぎてA690へ入ると、ダーラムの街は間近だ。U字状に蛇行した「Wear」という川に囲まれた旧市街の中に目的の「ダーラム大聖堂」はあった。ダーラム大聖堂も世界歴史遺産で、ノルマン様式の教会としてはヨーロッパで最も精巧な建築物とされている。また、ハリー・ポッターの「ホグワーツ魔法学校」のロケ地としても使われた、映画の不思議の世界を目前に体験できる教会だ。建物の塔に尖塔をかぶせると、ホグワーツ魔法学校そのものという姿を披露している。



尖塔が望めるウェア川を挟んだ街はずれ


ノルマン様式の教会
ダーラム大聖堂は映画ハリー・ポッターのホグワーツ魔法学校のモデルでロケ地とされる世界遺産のノルマン様式の教会。


ノースヨークシャームーアズ国立公園

 ダーラムからはイングランドでも屈指の景勝地「ノースヨークシャームーアズ国立公園」を目指した。ヒース(Heath)といわれるイングランド特有の低草に覆われた荒野の中にボンネビルを走らせ、ウィットビーという街に向かった。ウィットビーはキャプテンクックがウォーカー兄弟という有力な船主の商家に弟子入りし、航海術をこの地で確立されたとする港町で、ここのフィッシュ&チップスは絶品だ。

ダーラム大聖堂への車両の乗り入れは制限されているため、尖塔が望めるウェア川を挟んだ街はずれで記念撮影。

 加えて小説家ブラム・ストーカーに「ドラキュラ」の構想をイメージさせた「ウィットビー・アビー(修道院)跡」があることでも有名な街だ。

 私達が訪ねた日、ウィットビーの駅前を目指して大勢のモーターサイクリストが集って来ていた。
 小さな港町にシングル、ツイン、マルチのエグゾースト音が響いていた。駅前に集っていたライダーに訊ねたところ、「サーズデイ・ナイト」という毎週木曜日に実施されているミーティングだそうで、なんと近隣60マイルの街町から百台近いバイクが毎週集るのだそうだ。フィッシュ&チップスを頬張りながら仲間同士、情報交換をしたり、気になるマシンのオーナーに質問をぶつけたりと日が落ちるまで、その喧噪は続いていた。



ウィットビーの駅前


ウィットビーの町
ウィットビーの駅前には「サーズデイ・ナイト」で集ってきたライダー達が楽しそうに会話を交わしていた。 ウィットビーの町は英国の航海術を育んだ港町でキャプテンクックを育てた。船にはイングランド旗と英国旗が掲げられていた。


サーズデイ・ナイト
「サーズデイ・ナイト」に集ってくるライダーは日が傾いてからも後を断たない。町中には暗くなるまでエグゾーストノートが響いていた。


保存鉄道の主役はスチームエンジン

 ウィットビーに泊まった翌日には、英国でも有名な「ノースヨークシャームーアズ保存鉄道(ウィットビーとピッカリングを結ぶ鉄道)」のゴースランド駅を訊ね、蒸気機関車を見ることにした。ゴースランドという駅も頻繁に映画のロケに使われる場所で、ハリー・ポッターの映画の中でもホグワーツ魔法学校の最寄り駅として使用されている。



76079型


ゴースランドの駅
ノースヨークシャームーアズ保存鉄道の主役76079型スチーム・エンジンがプルマンを連結して入線してきた ゴースランド駅はハリー・ポッターのホグワーツ魔法学校への最寄り駅だ。奥に見える跨線橋が映画でも印象的に観ることができる。

 日本では蒸気機関車のことはSL(Steam Locomotive)と言われることが多いが、英国ではスチーム・エンジン(Steam Engine)と呼ばれる。ノースヨークシャームーアズ保存鉄道は英国でも屈指の保存鉄道で、魅力的なスチーム・エンジンや車両が多く保存されている。私達が訪ねた時にもプルマン(高級食堂客車の呼称)を連結したスチーム・エンジンがゴースランドの駅にその姿を見せてくれた。
(part3に続く)

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