MICHELIN ROAD5 TEST

■試乗・文 ノア セレン ■撮影 富樫秀明
■日本ミシュランタイヤ TEL0276-25-4411 http://moto.michelin.co.jp/

 全世界で実に140万本も売り上げたという、ツーリングスポーツタイヤのベンチマーク「ロード4」が新型の「5」に。耐摩耗性やウェット性能を向上させつつ、ハンドリングは段違いにスポーティに生まれ変わっての登場だ。雪がちらつきそうな極寒のテストコースからレポート。

新作タイヤはだいたい良い

 タイヤの性能というのはなかなか評価が難しい。大きなメーカーの新作タイヤならばどれもまず間違いはなく、使用用途に合わせたものを選べば不満が出ることは少ないからだ。また多くのタイヤは様々な車両でテストをしているため車両ごとのマッチングもあまり気にすることはなくなった。
 そんな中でのツーリングカテゴリーのタイヤだが、あらゆる道路状況や使い方、車両に対応しなければいけないという意味ではかなりハードルの高いジャンルと言えよう。しかしその中でもミシュランのロードシリーズは常に評価されてきたブランドだ。筆者も「サイプ」と呼ばれる細かな溝が彫られるようになったロード3からロード4、そして今回のロード5と体験してきたが、ツーリング用途においての信頼感、耐摩耗性などにはいつも感心してきた。
 特に前作ロード4はVストローム650に装着して2万キロ以上を走行したが、タイヤに偏摩耗が見られるもののそれがハンドリングに大きな影響を与えないというのが(優れたライフと共に)好印象として残っている。一方で、ロード4はかなり落ち着いたハンドリング特性を持っており、キビキビと走るというよりはドッシリと構えて突き進むという印象だった。しかし新作5はスポーティさもアピールしているというから、楽しみに試乗に臨んだ。

ロードというよりは“RS”

 つい去年、ミシュランからは「パワーRS」というスポーツタイヤが発売され、わかりやすい接地感としなやかさ、グリップなどからワインディングはもちろん走行会などを楽しむユーザーからも支持を集めている。筆者もこのパワーRSを自車に装着しているが、今回のロード5はこのパワーRSに似ている部分も多い。特にACT+(アダプティブケーシングテクノロジープラス)の採用はロードシリーズを大きく変化させた要素だろう。
 パワーRSに採用されていたこの技術は、シングルカーカスを使用することでトレッドセンター部を柔軟な構造としており、これによりフィードバックが豊富に感じられて接地面がライダーに伝わりやすくなっている。ミシュランはロード5のドライグリップの向上や優れた直進安定性をアピールしているが、ACT+の採用はこれまでのロードシリーズの印象を大きく変えてスポーティにしただけでなく、さらにフロントへの積極的な入力や豊富なフィードバックを実現しており、もはやツーリングタイヤとは思えない特性に仕上がっていた。なおセンター部には耐摩耗性の高いコンパウンド、サイド部にはハイグリップコンパウンドを配置する2CT+も採用。しかもハイグリップコンパウンドはパワーRSのものと同じというのだから深いバンク角での絶対グリップはかなり高い。
 これらの要素によりロード4の進化版というよりはパワーRSのツーリング版という印象であるが、ロードシリーズらしく「サイプ」は引き継いでいる。トレッド表面に細い線状の溝が切られておりここから水を逃がすことでウェット性能を高めており、ロード5では新たにサイプ形状が奥に行くほど広がっていく逆三角形状のXST Evoを採用。これにより摩耗時にも保水力を確保することに成功し、結果として5600キロを走行し摩耗した状態でも新品のロード4と同等のウェット性能を確保しているという。このように、ただスポーティな特性に代わっただけではなくツーリングタイヤとしての進化もしっかりと果たしているのだ。

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広大なテストコースで行われた試乗会は、細かなワインディング路やウェット路面、そしてバンク付きの高速周回路まで用意されており、200キロ付近からのフルブレーキングなども試すことができた。優秀なツアラーであるVFRがロード5を装着するとスポーツバイクに変身する様が面白かった。

MT07の軽量車体とのマッチングはいかに

 テストはミシュランが用意してくれたMT07及びVFRで行った。MT07は純正でロード4が装着されている車両で、またVFRについては「ロード4とロード5の違いがよくわかる車両だった」という説明で用意されていた。まずはMT07から走り出す。
 MT07は排気量の割にとても軽量で小柄なモデルであり、かつトルクフルなパラツインは実用的な使用もサポートしてくれる。前作のロード4のゆったりした特性をもってしてもハンドリングはクイックであり、だからこそ今回スポーティになったロード5ではどのような特性になるのか期待と共に不安もあった。ロード4装着車に乗った後に、ロード5装着車に乗り換えると、ある意味予想通りの違いだ。ハンドリングはさらにクイックになり、フロントから倒れ込むようにコーナーに入っていく。まるでリアタイヤの径が大きくなっているか、もしくはフロントが小さくなっているかのようで、バイクの姿勢そのものが変わっているような感覚だった。
 ところがそれを聞いてみるとロード4と5でタイヤの径そのものは全く同じとのこと。という事はタイヤの形状や剛性の設定によってこれだけ違った特性になっているという事だ。特に低速でクルクルと曲がる感覚はジムカーナ的な走りを最大限楽しめてしまいそうなもので、とてもツーリングタイヤとは思えない特性に感じた。一方で、MT07をツーリングユースに使っている人は逆にしばらく併売されることになっているロード4の方が良いかもしれない、という気持ちもある。車体がそもそも持っている軽量でクイックな特性をロード4はうまくいなしており、ツーリングシーンにおける安定感などを求めるライダーにとっては4の方が適している場面も考えられるからだ。

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細かなワインディング路で活きたのはMT07。もともと軽量でクイックな味付けを持っている車両だが、ロード5装着によりその性格はさらに強調され、ジムカーナ的なクルクルまわる旋回性が特徴に。もはやツーリングタイヤではなく完全にスポーツタイヤというイメージ。

重量車VFRでその違いは明らかに

 続いてVFRである。MT07が少々特殊であるのに対し、VFRは正統派スポーツツアラーという立ち位置であり、国内でこそ多く見かける車種ではないものの世界的には大変ブランド力も高い。スポーツツーリングタイヤが最も装着されるであろうカテゴリーだ。
 こちらもまずはロード4から走り出す。細かなワインディングコースを走った後に、アジア地区を担当するアダム・ストーレイさんが「高速からのブレーキングで違いが出る」と言っていたため、バンク付きの高速周回路でのブレーキングも試しておいた。ロード4とVFRのマッチングに問題はなく、特に違和感もないままロード5装着車両に乗り換えた。
 すると驚くべき変化であった。決して軽量ではない車体がとても軽く感じられたのだ。まるでフルパニアを外したかのようで、リア周りが軽くてフロントの接地感が増した印象は別のバイクかのようだった。ツアラーからスポーツバイクに乗り換えた気分で走り出すと、先ほどのワインディング路ではフロントからグイグイと曲がっていってくれるし、高速周回路での安定感もかなり増している。またスピードリミッターが作動している速度からのフルブレーキングでは車体が揺らいだりすることなくまっすぐとアスファルトに押し付けられている感覚が絶大な安心感を提供してくれた。ロード4でも不安になるような挙動はなかったものの、ロード5と比べてしまうと接地面がフニャフニャしているというか、安定感やダイレクト感で明らかにロード5が優れていることがわかった。
 楽しくなってしばらく走り込んだが、少なくともVFRのような重量車においては、ロード5は車両の性格をまるで変えてしまうほどの特性の違いを持っていることを確認できた。ツアラーがスポーツバイクに変身することで、ライダーの意識も長距離を淡々と安全に走ろうというものから、ツーリングルートにワインディングも組み込んでもっと積極的にバイクとのコミュニケーションを楽しもう、というものに代わるはずだ。最初にも書いたが、これはロード4の進化版というよりはやはりパワーRSのバリエーションモデルじゃないか、という認識はさらに強まった。

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ウェット性能はロード4比で向上しているだけでなくその性能が長続きするというのがアピール。ウェット路面でフルブレーキしてもなかなかABSが介入してこないのがその性能を証明している。 XサイプEvoは溝の奥に行くほど逆三角形状に広がっていくというもの。これにより摩耗した時でも保水力が確保され、ウェット性能の落ち込みを緩和させることができるというわけだ。すでに四輪で採用されている技術だというが、タイヤを形成する時に抜け勾配ではないため不思議に思い質問してみた。まさか溝の奥を一本一本削ってるとも思えない。答えは、やはりこの逆三角形の型があって形成され、タイヤのゴムがまだ冷え切らないうちにズポッと引き抜くらしい。大きな溝の角が面取りされているのは偏摩耗抑制のため。細かなところまで気を配っているなと感心する。

確保されるツーリング性能

 かといって、RSと全く同じでは「ロード」の意味がない。グルービングもRSと良く似ているが、しかし新型サイプの採用もあってウェットグリップも向上している。試乗コースにはウェット路面も用意され試すことができたが、ロード4も5もRSよりはワンランク上の安心感が確かにある。フロントブレーキを強く握ってもなかなかABSが作動しないのには驚かされた。ウェット路面で攻めるような走りをすることはないだろうが、しかしツーリング先で雨に降られてしまった場合などの安心感としてありがたい。なお、このテストコースではロード4と5のウェット性能の違いを明確に感じることは難しかったが、ウェット性能そのものが向上しているだけでなく、XST Evoの採用によりその性能が長く維持されるのがロード5のアピールだ。
 試乗当日は気温がとても低く、タイヤには厳しい状況と言えた。しかしロード4はもちろん、よりスポーティでハイグリップなロード5でも温まりなどに気を遣わずに済んだのは嬉しい。ハイグリップタイヤでは温まってくるまでは氷の上を走っているかのよう、などという事もあるが、ロード5ではそんなこともなく、こんな寒い日でも走り出しに不安はなかった。これだけスポーティな味付けとしつつもツーリングタイヤであることを忘れず、使いやすさをしっかりと確保したのはさすがロードシリーズといったところだろう。

垣根がなくなるタイヤのジャンル

 タイヤの進化は日進月歩である。中でもこのツーリングタイヤやもう一つ上のスポーツタイヤの進化は目覚ましい。よりハイグリップであることやより長持ちすること、より付き合いやすい事という相反する要素を非常にバランスよくまとめ上げているのが近年の傾向だ。ロード4まではそのドッシリしたハンドリングや明らかな安定感など「ツーリングタイヤ」としてのキャラクターが強かったのに対し、ロード5は「雨に強いパワーRS」と言ってしまいたいほど、ツーリングタイヤらしからぬスポーツ性を備えているのはフルバンク領域に全く溝がなくスリック形状であることからもわかるだろう
 サーキット走行をしようという人はツーリングタイヤを履かないだろう。そう考えるとこのロード5の使用環境は公道に限定されるわけであり、そう考えるとまるで死角がない。寒い朝の走り出しも、突然の雨も、ワインディングも。そして今回ライフも長くなっているのだ。このジャンルにはライバルタイヤも多いが、このロード5はかなり高い次元であらゆる要望に応えてくれるタイヤだと感じることができた。
 最近のタイヤはみな欲張りだが、それぞれの性能が中途半端になっていないのが凄いところ。距離も走りたい、ワインディングも楽しみたい、不安定な路面でも安心感が欲しいというライダーは選択肢に加えて間違いのないロード5である。

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ロード5を最もロードシリーズらしくなくしているのはこの「アダプティブケーシングテクノロジープラス」だろう。トレッドセンター部のケーシングをシングルプライとし、かつ90度に近い角度に設定することで柔軟性を確保しているため、フロントタイヤからのインフォメーションが豊富な上に優れた直進安定性を実現している。なおサイドウォールとショルダーは高角度のクロスプライとしているためコーナリング時の剛性も確保している。 「エックスサイプテクノロジー」と呼ばれる細い溝はレーシングレインタイヤを思わせるもので、ロードシリーズのウェット性能のキーとなっている。今回はさらにEvoへと進化し、奥に行くほど容積が確保されるように逆三角形状となっている。これにより摩耗した時でも保水力が確保されるというわけだ。
rogo04.jpg ●サイズラインナップ(2/1発売開始)
フロント
120/60ZR17 120/70ZR17 110/80R19
リア
150/70ZR17 160/60ZR17 180/55ZR17
190/50ZR17 190/55ZR17 150/70R17

●大型トレールサイズ(2018夏発売予定)
120/70ZR19 170/60ZR17

センター部には耐摩耗性に優れたコンパウンドを、そしてサイド部にはグリップ性能の高いコンパウンドを採用するのはこれまで通りだが、今回はさらに2CT「+」をリアに採用。これはこれまでのように単純にコンパウンドがセンターと左右で3分割されるのではなく、センターのコンパウンドがケース全体を覆った上に、サイド部にのみハイグリップコンパウンドを載せたような構造でパワーRSと同じものだ。なおそのコンパウンドも「カーボンブラック」と呼ばれるパワーRSと同じのハイグリップなものを採用している。

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