伊豆

 ビッグバイクに乗るという非日常を「日常」に想わせるところに、空冷インラインフォアの真骨頂がある気がする。そこが体現されたバイクだと思う。だから日常に腹が減った。過言だろうか。ただ満腹を午後の太陽光が晒す。危険なあくびをかみ殺して発進した。

 睡魔にムチを入れるように海蝕崖のつづら折れを駆け上がる。

 石部、岩地、雲見。岬を上り下りするたびに小湾の奥の集落が現れる。漁港と温泉で知られる一帯だが、著名な無料露天風呂はもう少し先の時節の開湯だった。入浴のアテは外れたが、気になる標識を見つけた。

「石部の棚田」

 段々畑、いや水田である。矢印を追って上っていくと低木の林が切れて視界が広がった。

 すでに今季の畦が設えられて、だんだん状の田んぼが石部の集落へと傾斜していく。その向こうの、太平洋とのコントラストに惹き付けられた。

 小径に植えられた桜がスロープに彩りをそえる。里山の見事なジオラマを見下ろしているよう。唖然、ひたすらアゼンと見入ってしまう。長く棄てられていた棚田を10年ほど前に再生したものとか。「百笑の里」と名付けられていた。平地耕地の少ない半島の集落で機運と気概を感じさせるネーミングだが、再構築は並大抵のことでなかっただろう。

 山の民、海の民、そして農耕の民。地産も厚みを増すことだろう半島の里山。水が張られる頃にはどんな光景だろうか。海からの風にそよぐ青苗の姿も想像してみる。棚田の原風景に黒いCB1100がどこかマッチしてないか‥‥これは独り悦に入る偏向性だろうか。


伊豆

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 棚田の小径をくだり、海岸ぞい国道136号線をさらに南下しての岬。
 CB1100を伊浜(いばま)の漁港を見下ろす展望台に停めた。東京を出て半日。早春の時間がとても短く感じられた。しかし移動の光景は多様だった。

 冬枯れの山峡を抜け、峠の隧道を通り、桜の花咲く山里、黒潮の海辺に来た。伊豆の旅は峠と峠、そして岬と岬をたどり繋げる旅だ。山と海、そこに緯度、標高と、東西南北の日当りと風向きを存分に体感できる地勢と風土。伴う気温、匂い、それはバイクでこそ如実に、そして真相で捉えられる情感だ。これを味わいたくて何度も何度も来たくなる。

 西風は午後にかかり、やや南寄りに変化している。伊豆半島に本格的な春到来を告げる黒潮の南風だ。海も午後の陽を浴びて色を変えてきていた。

 空冷のヘッドとフィンがほんの少し冷えたところで、またセルボタンを押した。


(次号その2叙情インプレ編へ続く)

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HONDA CB1100 BLACK STYLE

CB1100

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CB1100
今回の旅の相棒は全身をグラファイトブラックで引き締めるCB1100の2012年モデルBLACK STYLE。966,000円(ABS仕様 1,039,500円)。デジタルシルバーメタリック、パールミルキーホワイト、キャンディーグローリーレッド-Uのスタンダードモデル(997.500円 ABS仕様は1.071.000円)も発売中。スペックなど詳細は新車プロファイル2012で確認を。
ウエアは定番の定番のSuper Bold’orシリーズのメッシュレザーシングルライダースジャケット(19,845円)。軽い防水性を兼ね備えた本革の風合いを追及した最新素材でお手頃な価格ながら、メッシュ構造のバックプロテクター、ショルダープロテクター、エルボープロテククターを標準装備。後部には高輝度リフレクターも装備。グローブは甲部にゴート、掌部にディアスキンを使用したHondaアンチバイブHIBレザーグローブ(6,615円)。ヘルメットはSHOEI J-FORCEⅢをベースにしたCB1100オーナー向けの推奨ヘルメットであるHonda JS-3B(51,450円 サイズS/M/L/X カラー ホワイト/レッド/ブラック)。ウエア類の詳細は公式サイトで。

■HONDA CB1100 BLACK STYLE

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