Ninja250リニューアル記念特別企画 温故知新 初代NInja GPZ900R FOREVER
GPZ900R叙情的インプレッション ハマショーの詞がきこえる

限界性能に達したGPz1100をNinjaはあっさり抜いていった

 初夏の闇が白らみかけた時刻だった。北陸自動車道、有磯海SA付近。GPz1100のギアを2速下げた。マシンは一瞬後ずさりするような挙動をみせながらシフトアップと共にグングン車速を増した。道路が平均台のように見え始めた。

 1984年の夏、馴染みのバイク屋を拝み倒して借り出した空冷4発で帰省する途中だった。東京を夜半過ぎに出発し、中央自動車道から国道20号、松本から148号にスイッチし白馬を抜けて日本海へ。当時は北陸自動車道がまだ全通しておらず、親不知の難所はトラックの後ろになり、睡魔との闘いになっていた。ようやく高速に乗り富山平野を縦走するストレートが絶好のカンフル剤になったのは言うまでもない。
 その時だった。追い越し車線を走る僕の後方から黄色い光が迫る。5速9700rpm、スクリーンはにじみ、ミラーは風圧に押し曲げられ、後ろを振り返る余裕などない。やがてその光源はみるみる距離を詰め、しゃにむにハンドルにしがみつく僕の横に並んだ。
 Ninjaだった。まだ雑誌でしか見たことのなかったNinja。欧州仕様と北米仕様の違いもよく解らなかったその頃の僕にとってGPZ900RはすべてNinjaだった。いや、早々と北米仕様が消えNinjaという名が新しいフラッグシップに受け継がれても、僕にとってNinjaとはGPZ900Rのことであり、GPZ900RはすべてNinjaであるという意識は今でも変わっていない。
 
 乗り手はチラっとフルフェイスをこちらに向けると再び加速した。
 負けたくない。しかし勝負は3秒でついた。朝靄の中にNinjaのテールが消えゆくのを見た時、僕は拍子抜けしたように右手を戻していた。口惜しさよりも笑いがこみ上げてきた。なんと言えばいいのか、圧倒的な力でスコーンと負かされた豪快さ、愉快さ。実にサバサバとした気持ちになった。


 当時、僕たちを熱くさせたこんな数値がある。GPz1100・235km/h、GSX1100S・231km/h、CB1100R・229km/h。我が国の一般公道ではおよそ非現実的な数値とはいえ、リッターバイクの限界性能はバイク乗りが集まれば格好の肴になる。思えばNinjaがGPz1100を抜いたとき、新しいスーパーバイクの時代がやってきたのだ。
 最高速度250km/h時代。かつてZ1に追従しGS、XSが生み出されたように、Ninjaの後にはVF1000RやGSX-Rが登場した。’70年代から引きずってきた空冷フィールへの引導、それがNinjaだった。


変わらぬ人気のカギは旧態と今様の中間的なキャラクター

 デビューから7年を経た今日でも、Ninjaの人気は衰えていない。ZZRによって更に新しい時代が開かれても、Ninjaが街から消えることはない。そこにはなにかKawasakiのビッグマシンを愛するライダー諸兄諸姉の特有な気質が潜在しているように思う。
 ビッグZにこだわるフリークスはいくつかのカテゴリーに分けることができる。今日でも圧倒的な信者を抱えるZ1からZ1000MKⅡに至る創成期のZ。エディ・ローソンの活躍によって垢抜けたイメージさえ感じさせるZ1000Jから空冷最速GPz1100の’80年代空冷Z世代。
 そして水冷化されたNinja以降の絶対性能派。と一口に言ってもNinjaとZZRでは嗜好は大きく異なる。とあるNinjaオーナーはこう言った。

「1000RX以降のKawasakiには違和感すら覚える。丸みのあるフォルムと滑らかなエンジンフィール。完成された性能よりも野心見え見えな荒削りさが好きだ。何よりNinjaには空冷時代から一貫して崩さなかったZ独特の感触が残されている」と。
 Kawasaki乗りは保守傾向が強いと言われている。昨今のゼファー人気もそれを裏付けしている。NinjaオーナーにもどことなくかつてのZの匂いを求める嗜好が見える。乱れるアイドリングと振動、どこかに抵抗を引きずるような感触をパワーで押し切るような豪快な加速感。そしてエッジの効いたスタイリング。新機軸でありながらも過去のZとリンクできるキャラクター。それも人気の衰えないカギであることは間違いない。
 


 某バイクショップの主は面白いことを言った。
「NinjaはZ1の再来と言われているけれど、僕はザッパーの再来と思う。ザッパーは650で750を喰う目的で誕生し、Ninjaは900で1100を駆逐する野心が生んだバイク。そんなことより、僕も含めKawasakiファンは『再来』とか『帰ってきたZ』という言葉に弱いんです」
 ちなみにHONDAファンは「走る実験室からのフィードバック」という言葉にイチコロだとか。


彼とハマショーと第三京浜と、土曜の夜の舞踏会

 唐突な話だが、浜田省吾がタレント・歌手部門の長者番付3位になった。桑田佳祐、松任谷由美に続いてである。甘いラブソングが主流の歌謡界で、彼は週末毎にあてもなくバイクで海岸通りを彷徨う少年を歌う。午前4時に眠れなくてバイクで出かけてしまう少年の気持ちを歌う。彼の歌を聴く度に必ず思い浮かぶのが週末の第三京浜だ。いや、第三京浜に行ったときに彼の歌を思い出すと言った方が正解か。土曜深夜、保土ヶ谷に続々と集まるバイク乗り達。ひと頃の空冷Zオンリー、刀オンリーといったカラーも今や色褪せ、あらゆるジャンルのあらゆるバイクとバイク乗りがやってくる。自慢のカスタムマシンを見せたくて、またある者は他人の装いを垣間見て談義の花を咲かせようと集まってくる。

 かような光景を劇作家、東本昌平氏は「夜の舞踏会」と称したが、なんともうなずける表現だ。100円のカップコーヒーと290円の天そばのなんともつつましい舞踏会だ。
 Ninjaもこの舞踏会に顔を出す。かつて空冷リッターバイクが幅を利かせていた頃には「お水」などと呼ばれ、肩身が狭かったようだが、昨今は堂々主役級のタマ数である。スリップオンと一本バーハンが主流のカスタムワーク。ターボ装着カスタムも珍しくない。そして、なんと表現すればいいのか、第三京浜でウオッチングを始めて5年になるが、ことNinjaに対しては実に面白い考察が多々あった。


 例えばZ1がKERKERも勇ましく飛び込んでくると気になってしょうがない奴。両サイドにローソンレプリカを並べられた途端すごすごとトイレに消える奴……先頃でNinjaはZの今様と古色をつなぐキャラクターと書いたが、そうであってもNinjaオーナー達はその両極に対して断ち切れない憧れを抱いているように思う。Aを取るか、Bを取るのか。NinjaはAかつBというスタンスになろうか。
 バイクなど乗らぬ人からは、単にアウトサイダーがヨタっているとしか見えない舞踏会。しかしここにも小さな階級闘争(クラス・ウォー)が存在している。世田谷に住む浜田省吾さんにもぜひ一度見て頂きたいと願う。


里帰りした国内忍者は静かに語る

 1991年5月。交通量もまばらな西湘バイパスの下り線をGPZ900Rは快適に飛ばす。タンクサイド、カウリングのいずれにもNinjaのネーミングはなく、スピードメーターは180km/hまで。1984年から数え8代目にあたる国内モデルだ。

 輸入車という形ながら’89年にホンダのゴールドウイングが先鞭をつけたオーバーナナハンの国内導入も、’90年に国内仕様第一弾としてヤマハV-MAXが登場、以後スズキVX800、ホンダパシフィックコースト、ヤマハFJ1200Aと続き、このGPZ900Rでやっと4メーカーが出揃った。前車達より早く渡航していながら里帰りは一番遅くなってしまったわけだが、このあたりもなんとなくKawasakiらしい……
 こうして国内向けモデルが登場しても、やはりフルパワーの輸出仕様を望む声は高い。しかし、どうしてこの忍者(国内仕様なのであえてこう呼ばせてもらおう)、そんな数値上のパワーダウンを一蹴する楽しさがある。
 基本的には昨年足周りの変更を受けたA7の造りである。誕生時からほぼ姿を変えることなく歩んできたNinjaであったが、このA7がひとつの節目になった。フロントが16インチから17インチになり、あわせてホイールも3本スポークに変わり、リアタイヤは150/70が履けるようになった。ブレーキキャリパーもそれまでの2ポッドから前が異径デュアル対向でディスクはフローティング、後ろは異径デュアル片押しに変更された。マスターシリンダはそのままなのでややタッチが柔らかくなった感があるが、効きは充分現代の感覚。ダンロップK275を60km/hから軽くロックさせることもできる。

 充実した足周りにも増し特筆ものが数値上ではデチューンされたことになるエンジンフィールだ。ただ一言、扱い易い。すなわち遊び易い=楽しい。フルパワーのトルクの谷と山を知る人は、実にあっさりとした味付けに驚くはずだ。ギクシャクしない、ドンとこない。それでいてトロくない。回せば900という排気量を納得させる力量も失っていない。

 7年前、一つの時代の頂点を極めたNinjaも里帰りと共に変容した観がある。最速への道はたのもしい後輩達にまかせておけばいい。自分の役割は少しでも多くの人にビッグバイクの楽しさと喜びを知ってもらうこと。
 国内忍者はそう言いたげである。


■Ninja250リニューアル記念特別企画 温故知新 初代NInja GPZ900R FOREVER
[VOL.1 「第二のZ1を作れ GPZ900R・Ninja開発ストーリー」]
[VOL.2 GPZ900R大全 その1 A1~A6(1984~1989)]
[VOL.3 GPZ900R叙情的インプレッション]
[VOL.4 GPZ900R大全 その2 A7~A11(1990~1998)]


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