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 房総の地はアクアラインの開通で東京やその近郊からずいぶん身近になり、気軽に出かけられるツーリングエリアになっている。V-Strom650ABSにまたがって、首都高湾岸線から海底トンネルをくぐり、海ほたるをやり過ごせば(ちょっと寄って一休みしてもいい)、もう房総・金田だ。海沿いには中小の漁港が点在していて、そこから水面越しに京浜湾岸の高層ビル群が遠望できる。それらよりグッと高い話題のスカイツリーの、太めの針を立てたような姿も認められる。都心から数10kmしか離れていないのに、金田周辺には都会の喧騒とは無縁の、のどかな風景が広がっている。

 そのまま海沿いに県道や国道で南下するのもいいが、時間がない場合は金田からアクア連絡道~館山道を利用すれば、南総まで時間はかからない。V-Strom650ABSは乗車姿勢が楽で、自然体で走れるし、カウル&スクリーンの風防効果が高く、車体もしっかりしていて高速巡航は快適だ。水冷V型ツインのエンジン性能も十分で、100km/h+αの速度域は余裕しゃくしゃく。全回転域を通じて嫌みな振動もない。

 富津中央で高速を降り、国道127号線に出る。道沿いに趣のある醤油工場や直売店がある。たまさ醤油だ。歴史を感じさせるその店で、土産を買ったことを思い出した。富津を過ぎると道は海岸べりを縫って走り、しばらく進めば東京湾フェリーの金谷港で、その先は鋸山(のこぎりやま)だ。去年の夏の終わり頃、房総半島を訪れたとき、初めて鋸山ロープウエイに乗った。山上から見晴るかす浦賀水道や三浦半島、外海の雄大な景色は見事だった。急に風が起こって雲を運び、スコールがきて売店で雨宿りしたっけ……。

海底トンネルを抜けて、晴れ渡った空の下アクアラインの橋梁部を駆け抜ける。爽快!

 鋸山から南下してすぐのところには道の駅「きょなん」があり、隣接して“見返り美人”で知られる日本画家、菱川師宣の記念館もある。海岸線をさらに南下していくと、館山に至る。市街地を抜けたあたりで海沿いの磯料理の店に入って海の幸に舌鼓。館山の見どころはいろいろあるが城山公園もそのひとつだ。南総里見八犬伝で知られる、里見氏の居城があった館山城址には復元された城郭がそびえる。去年の秋口に訪れ、天守閣の下まで上って、市内とその向こうに広がる海を見渡した。吹き上げてくる風が汗ばんだ首筋に心地よかった(今回は師宣記念館も城山公園もパスしたけど、立ち寄ってみることを推奨します)。

 V-Strom650ABSは車格が大きめで背が高い。シートも835mmと高いので身長170cmで短足気味の私の場合、両足のつま先が接地する程度。でも、慣れで対応できる範疇で、ハンドル切れ角が大きく取ってあるから意外と小回りも利く。市街地はもちろん、小さな漁港の狭い道を走るのも、見どころに寄り道するのも、億劫にはならない。エンジンは低回転域ではトコトコ感があって、それは軽快なリズムの音楽を聞くようで心地よい。加えてポジションが自然で楽だから、田舎道をゆったり走ってもストレスを感じない。

 ちょっとスピード感を味わいながら、素早く移動したいと思ったときは、低めのギアでアクセル開度を上げてやればいい。トゥルル……と感性に寄り添ってエンジンは回転数を増やし、加速力も上昇する。足周りもしっかりしていて、スポーティなコーナリングを楽しむことも出来る。また、細めで大径の前輪だから、砂利道やダートも普通のロードバイクより走りやすい。多用途に対応する懐の広さが、イイネ!という感じ。さすが目の肥えた乗り手が多い欧州で育てられ、根強い人気を得てきているバイクだと思う。

金田沿岸からアクアラインの橋桁越しに望む東京湾。好天で空気が澄んでいれば対岸のビル群や東京スカイツリーが見えるし、なかなかの景観である。
富津にある老舗の醤油屋さん=たまさ醤油。趣のある店舗では醤油はもちろん、漬物などの土産物も販売している。 銀色に輝く照り返しの海面と白雲たなびく空。う~ん、気持ちがいい。
館山市街から海岸線を少し南下した地にある“磯の香亭”。道を隔てて眼前に漁港があり新鮮な海の幸を味わわせてくれる。めめ幸丼(左)、天丼ともに1,260円。“めめ”とはワカメの根本部分である“めかぶ”のことだという。
海岸線を走る国道や県道から一歩海側に入れば、潮の香りも一段と濃くなって、清々しい海浜の風情を堪能できる。 館山以南は交通量もグッと減って、フラワーラインでは菜の花がお出迎え。一気に春らしい雰囲気になって気持ちがほっこりする。
房総半島の南端近くには御覧のような景色の道もある。

 館山を抜け、県道257号線で洲崎を回ってフラワーラインをたどる。道の両脇を彩る菜の花の黄色がなんともあったかい。時間に余裕があれば、ぶつかった国道410号線を右折して、白浜、野島埼に寄ってみるのもいい。岩肌に砕ける白波が美しい。さらに先に進めばお花畑で知られる千倉だ。もう色とりどりの花々が咲き乱れていることだろう。太平洋の碧い海をバックに、お花畑の中にバイクを止めて佇む女性ライダー。そんな画を表紙用に撮影したのはもう30年近く前のことになる……。

 陽が西に傾いて気温も少し下がってきた。そろそろ帰ろうか。同じ道を引き返したのでは面白くない。帰路は、国道を北上して鴨川まで行き、内陸部の県道89号線を西に走って鋸南富山ICで館山道に、というコースがひとつ。鴨川から北西に県道24号線~房総スカイラインとつないで、マザー牧場や鹿野山の周辺の面白い道を経由して館山道に乗り入れるルートも悪くない。その中間の県道=長狭街道を西に行くコースもいい。鴨川~鋸南間の山間部には棚田があるし、コーナリングを楽しめるワインディングもある。

 いずれにしても房総半島の西側に出て、最終的に館山道を使うことになるが、趣向を変えて横須賀・久里浜と金谷を結ぶ、前記の東京湾フェリーを利用するのもおすすめだ。約40分の船旅はツーリングに変化を持たせて、ほどよい休憩にもなる。往復アクアラインでもいいけれど、復路(往路でももちろんOK)はフェリーに身を任せて、というのもオツなもんだ。ETCを装備していないとアクアラインの二輪通行料金は2400円もするけど、フェリー運賃はそれより安い。帰路なら夕刻になるだろうし、お天気次第だが、船上から眺める夕陽、夕焼けは格別だ。これまで、バイクやクルマで何度か東京湾フェリーを利用しているが、きれいな夕景に恵まれたこともあり、印象に残っている。(文・野口眞一)

旅の相方は1年前フルモデルチェンジされ、1月に日本でも発売されたばかりのV-Strom650ABS。欧州で根強い人気を得ているアドベンチャー風味のマルチパーパスは、ロングツーリングはもちろん、街乗りにも対応。タンデムも十分意識して造りこまれている。今回のような数100kmのショートツーリングにもぴったり。
フロントホイールは19インチで、砂利道やダートも臆せずに乗り入れられる。ブレーキは充分な制動力で、ABSを標準装備だから安心。 水冷Vツインは上質なフィーリングで扱いやすく、振動も少ない。低回転域では鼓動感もある。が、主張しすぎない。だから長時間走っても疲れが少ない。出力は輸出仕様とほぼ同じで50kw弱。充分な性能だ。 リアホイールは17インチ。リアブレーキもよく効いてコントロール性にも優れる。サスペンションは動きがよくて腰があり、文句なし。
座面が広いので尻の収まりがよく、座り心地がいい。835mmと高めで、身長170cmでは両足のつま先が接地するくらい。足つき性はいいとはいえないが、慣れれば大丈夫。 カウル&スクリーンはウインドプロテクションに優れ、高速走行も快適。スクリーンは3段階の範囲で高さの調整が可能。 野口眞一さん。日本でツーリング主体にバイクを楽しむには600~800のグローバルミドル車がいいサイズだと思っている、ツーリング好きのオヤジライダー。仕事でも遊びでも房総半島を走ることが多い。(連載コラム「おやびんの道」はこちら→http://www.m-bike.sakura.ne.jp/?p=38970

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