シーズンオフのテスト禁止期間が明け、2月1日から3日の三日間、マレーシアのセパンサーキットで今シーズン最初のプレシーズンテストが実施された。
2011年のMotoGPがいよいよ蠢きはじめたわけで、それに伴いこのコーナーもめでたく復活、と相成ったわけである。みなさんどうもご無沙汰いたしております。いい子にしてましたか。
さて、まずは今年の布陣を再確認しておくと、チャンピオンチームのヤマハ・ファクトリー・レーシングチームには、昨年度王者のホルヘ・ロレンソと、今季からワークスへ昇格して実力発揮に期待の高まるベン・スピース。
サテライトチームのモンスターヤマハ・テック3は、コーリン・エドワーズとカル・クラッチローの2名。
ホンダ陣営は、ワークスのレプソル・ホンダ・チームが今季から3名という大所帯。
昨年同様のダニ・ペドロサとアンドレア・ドヴィツィオーゾに、ドゥカティから移籍してきたケーシー・ストーナーが加わった。
サンカルロ・ホンダ・グレッシーニにはマルコ・シモンチェッリと我らが青山博一の2名。シモンチェッリはファクトリー契約のワークスマシン仕様だが、青山はサテライト仕様、と同じチームでも環境に若干の差異がある。
エルシーアール・ホンダ・モトGPにはトニ・エリアス、という総計6名の陣容。
リズラ・スズキ・モトGPは昨年まで他陣営同様の2台体制だったが、今季からはアルバロ・バウティスタのみの1台チーム。
そして、今季最も注目が集まっている陣営がドゥカティだ。
理由は簡単。ファクトリーのドゥカティ・マルボロ・チームにバレンティーノ・ロッシが加入したのだから、イタリア人ファンならずとも大注目は必至だ。
チームメイトは、同チーム3年目を迎えるニッキー・ヘイデン。
サテライトそのいち、のプラマック・レーシングチームは超ベテランのロリス・カピロッシとランディ・デ・ピュニエというちょっと珍しい組合せ。
サテライトそのに、のアスパル・チームはエクトル・バルベラ。
そしてサテライトそのさん、が新興チームのカルディオンAB・モトレーシングのカレル・アブラハム。
以上、10チーム17台が2011年シーズンのMotoGPを争うわけだが、ひとつ注釈を入れておくと、ヤマハファクトリーの名称はいわゆる「世を忍ぶ仮の姿」だ。
開幕までにタイトルスポンサーが正式に決まればその名前が冠せられることになるだろうし、そうじゃなければ、このままのチーム名でシーズンを戦うことになる。
いずれもスポンサー名を戴く他チームと比較すれば珍しい例といえ、異常事態というほどでもない。
振り返ってみれば、スズキは現在のリズラと契約するまでタイトルスポンサーを持たない時期がしばらく続いたし、カワサキに至っては参戦してから撤退するまでずっと冠スポンサーなしで戦っていた。
さて、そのテストだけれども、灼熱の太陽の下で行われた三日間の日程を終えてもっとも強い印象を残したのは、ホンダ陣営の健闘だ。
ストーナー、ペドロサ、シモンチェッリ、と日替わりでトップタイムを記録し、三日総計のタイム順でもトップ7のうち5台をホンダワークスと青山が占めるという内容。
2007年以来の800ccレギュレーションでは一度もチャンピオンを獲得していないだけに、最後のチャンスである今シーズンの王座奪還に向けて必勝態勢で臨む気迫をひしひしと感じさせる内容だった。
しかし、これらの結果を前に喜ぶどころか、むしろ 「部品のいくつかは期待どおりじゃなかったし、ヤマハもトップスピードが上昇してウチとの差はほとんどない。(チャンピオン奪還は)今のままじゃ無理。もうちょっと何か手を入れていかないとダメだなあ」 そう自らを厳しく戒める中本修平HRC副社長の嘆息する姿が、かえって彼らの本気度を感じさせる。
一方、ベストタイムだけを見るとホンダに先んじられた格好のヤマハ勢だが、内容的には上々のテストだったようだ。
午前10時から午後6時までという8時間の長丁場で行われるテストは、午前〜真昼〜夕刻という時間変化で路面や気温のコンディションが激変する。
つまり、自己ベストタイムがトップではなかったからといって、他陣営より劣ることを必ずしも意味しないのだ。
しかも、そのタイム差がわずか0.1秒にも満たないとくれば、タイムが近接した上位選手たちの順位は参考記録程度の意味しか持ち得ない。
ヤマハで陣頭指揮をとる執行役員の古沢政生氏も 「特に驚く結果が出ているわけではなく、まあまあじゃないですか。ベンは非常に調子がいいし、ホルヘも悪くない。マシン面でも、積み上げてみたものがそのまま正直に数字に反映されていると思います。コースの得意不得意があるので、判断は難しい側面もありますが」 と冷静に今回の結果を受けとめている。
タイムシートだけを見るとホンダが圧倒しているようにも見えるものの、じっさいにはアベレージタイムで見るとロレンソ、スピースともに抜群の安定度を発揮している。
中本氏が「今のままじゃ無理だな」と警戒してかかるのは、まさにこのあたりなのだろう。
この2ワークスに比べて苦戦傾向に見えたのがドゥカティ勢だ。
コーナーでどうしても大回りになってしまうために、二次旋回から立ち上がりでスピードが乗らず、その結果、ドカティ得意の図抜けた直線の豪速につなげてゆくことができない。
この状態について、ロッシは 「ブレーキングはOKだけれども、うまく旋回できずに大回りになる。すべてのコーナーで0.1〜0.2秒ロスしていて、それが積み重なって大きなタイム差になってしまう」 と訴えている。
ドゥカティワークスのチーム監督ヴィットリオ・グアレスキも旋回性に問題を抱えていることを正直に認めたうえで、 「今回のテストは昨年末に肩の手術をしたバレンティーノの体調確認が主目的。照準はあくまでレースとチャンピオンシップ」とも話す。
この言葉だけを切りだすと、思うようにタイムを出せなかったことへの弁解や強がりと取れなくもない。
が、その直後に「我々にとって心強いのは、ジェレミー・バージェス(500cc時代からロッシと行動をともにしてきたチーフメカニック)がいる、ということです」という科白が続くと、がぜんその言葉に重みがます。
さらに、マシン設計の陣頭指揮を執るフィリポ・プレツィオージが 「我々は、古沢氏が(ヤマハで)やっていたことをやる」 と明言していることにも注意したい。プレツィオージのこの意味深な言葉がどのような形で開発に反映されるのかは、次回と次々回のテスト、そして開幕戦までに明らかになるだろう。
……あれ。なんかガラにもなく妙にマジなことを書いてしまった。
皆さんどうもすいません、シロートのくせにわかったふうに偉そうなことをほざいてしまいました。反省。
そうそう、ここまでスズキについては触れなかったけれども、初日、2日目と好調だったバウティスタは、3日目に熱中症によるものと思われる体調不良に見舞われ、1〜2周しただけで後のメニューはテストライダーの青木宣篤が引き継いだ。
「一台体制のファクトリーチームというのは珍しいかもしれませんが、そのぶん、我々はアルバロの好みに集中して開発を進めていけるので、この要素を最大限に活用していきたいと思います」と話すのは、今年から技術監督に就任する河内健氏。
以上、灼熱のセパンサーキットで行われたプレシーズンテストを、今回は主に開発面の視点から眺めたみたわけですが、来るべき2011年シーズンの混沌とした様相を若干は感じ取っていただけましたでしょうか。
次回テストは2月22日から再びセパンサーキットで三日間、そして3月13日から二日間のカタールテストを経て、いよいよ3月20日にはそのカタールで開幕戦決勝レースが行われる。
次回と次々回のテストをレポートできるかどうかは未定だけれども、開幕までにはもう一回くらい、できればシーズン予想みたいなことを可能ならばやってみたいなと思っております。
で、開幕戦のレポートになだれ込む、というのが流れとしては吉、なのではないでしょうか。
というわけでひとまず今回はここまで。今シーズンもよろしくね。