(2011.7.7更新)
第5戦カタルーニャGP、第6戦イギリスGP、第7戦オランダGP、と、この数戦は不順な天候に悩まされるレースが続いた。第8戦イタリアGPはレースウィークを通じて絶好の好天が予測されていたが、金曜と土曜のそれぞれ午後に雨が降り、MotoGPクラスのフリープラクティス2回目は事実上全滅。土曜の予選も半分が雨で流れるという状態になってしまった。
とはいえ、今回は気温、路面温度とも比較的高かったために、前回2戦のときのような、タイヤパフォーマンスの可否に注目が集まるようなことにはならなかった。イ ギリスGPとオランダGPで問題になったのは、簡単に言えばタイヤの初期ウォームアップ性とグリップ性能だ。極端に冷えたコンディションでは、タイヤを素早く温めて適温で作動させることが難しく、これが原因で数々の転倒を生んだとも言われた。イギリスGPではトップ争いを繰り広げていたベン・スピース(ヤマハ・ファクトリー)やホルヘ・ロレンソ(同)、マルコ・シモンチェッリ(サン・カルロ・ホンダ・グレッシーニ)らが続々と転倒し、続くオランダGPでは金曜午前のフリープラクティス2回目が始まると早々に、ケーシー・ストーナー、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、青山博一、というレプソル・ホンダのマシン3台が立て続けに転倒した。このレプソル転倒3連発が、タイヤ問題の危機感を決定的に印象づけることになったとも言われている(が、後刻に、ストーナーとドヴィツィオーゾの転倒は、タイヤの冷えよりもむしろ、ウェットパッチに乗ってしまったことが原因であると判明した、という話も)。
というわけで、ここに及んで、「安全性などに問題がある場合、選手全員の同意があれば、さらに別スペックのタイヤを支給できる」(らしいんですよね、どうやら)ということからFIMやDORNAと協議してブリヂストンが決勝日にさらに1段階柔らかいタイヤをドイツの工場から急遽搬送しようという動きを開始した。が、選手の意見が満場一致にならなかったため、結局、このタイヤが現場に運び込まれることはなく、決勝レースでは当初の供給タイヤでレースが行われた。
で、この満場一致になるはずだった合意を拒否したのは誰か、ということが一部で取り沙汰され、シモンチェッリの名前が挙げられたりもしたわけだが、どうやら新しいタイヤが持ち込まれなかったのは、一部報道にあったようになにもシモンチェッリひとりの拒否権発動というわけではなく、複数選手が、新しいタイヤは特に必要ない、と意思表明をしたためであるらしい、というのがどうやら真相のようだ。
で、従来通りのタイヤで決勝レースを迎えることになったわけだが、レース開始後早々に、1周目最初の左コーナー(つまりレースで初めてタイヤの左側を使う場所)でシモンチェッリがロレンソを巻きこんで転倒。シモンチェッリは、「もう一段階柔らかめのコンパウンドを持ち込む必要はない」と判断した張本人のひとりだけに「あーあ、あんなことを言った当の本人が今度はロレンソまでやっつけちゃって。いったいなにやってんだか……」というムードはさらに高くなってしまった。
……と、ここまでが長い伏線。タイヤの適合性に関しては、BSもレース近辺日程のコンディション予測をして、過去のデータとも照合しながらコンパウンド選択をしているのだとは思うが、天気だけは計算通りにいかないし人間がコントロールするわけにもいかない。なので、予測が大きく外れてしまうと、結果論とはいえ、今回のような事態にも発展する。
しかし、BSも公式タイヤサプライヤーとして全選手全チームの安全を一身に背負っている以上「結果論なのでしかたないです」と開き直りのようなことも言っていられない。やはり何らかの現状で可能な手を打つべきだろう、ということで、今後のレースで路面コンディションが低くなることも予測される、ラグナセカ、ブルノ、アラゴン、もてぎ、の4戦については、従来決定していたタイヤコンパウンドよりも、さらに柔らかいスペックを用意する、ということが、今回のイタリアGP期間中に発表された。
柔らかいスペックといっても、タイヤ形状や構造を変えるわけではなく、従来の硬め、柔らかめの組合せにさらにもっと柔らかめを加えて3種類にするわけでもなく、要はすでに準備しているタイヤラインナップの組合せを見直して、従来より一段階柔らかいコンパウンドのものを選んで持ち込む、ということのようだ。硬め、柔らかめの2種類ともさらにソフト側に振るのか、あるいは柔らかめの方のみをさらに柔らかいほうへずらせるのかは、会場によって様々だ、とBSの担当者は説明している。
で、ここで気をつけてほしいのだけど、BSが選んだ4会場を見てください。
はい、日本が入っていますね。
今回のイタリアGPでは、決勝日の日曜午前に、FIMが日本GP開催に関する結論発表の延期を発表している(ややこしいいいまわしですいません)。
もともとFIMとDORNAは、今回のレースウィークで日本GP開催の正式な発表を行う予定だったといわれているが、その機先を制する格好で、MotoGPの選手たちが(青山博一を除く)全員の署名を集め、安全性の検証についてさらに検討を要請する要望を提出した。以下は僕の勝手な想像だが、おそらくは選手側からこういうアクションを起こされてしまった以上(Moto2クラスでも署名運動は始まっている)、FIMとしても、このタイミングで日本GP開催を発表してしまうと騒ぎを大きくするだけなので、それを避けたいがために結論を先送りにした、ということなのだろうと思う。
それにしても、この選手たちの行動については、そこまで彼らが忌み嫌う土地で暮らす日本人のひとりとして、いろいろと考え込んでしまわざるをえない。
このあたりの経過と詳細については、次回ドイツGPで報告しようと思います。原発関連、というか日本GP開催の可否云々についてはもうこれ以上触れないでおこうとも思っていたのだけれども、このような事態に発展してしまえば言及しないわけにもいかんよなあ。ともあれ、次戦ドイツGPまでチャンネルはそのまま。ではでは。
あ、そうそう。イタリアGPの決勝レースはホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)が勝ちました。以上。