1ヶ月のご無沙汰でした。
ではまずレースのリザルトから。
ポルトガルGPの優勝はダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)。
第2戦終了後に鎖骨のプレート除去手術を行って以来、バイクを使った本格的なトレーニングが充分にできないまま今大会を迎えていたために、28周という長丁場のレースディスタンスを無事に走りきれるかどうか若干の不安要素も抱えていたものの、最終ラップまで症状が発生することはなく、それどころか終盤に前を走るホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)を抜き去って一気に引き離すという圧倒的レース運びで今季初勝利。
今回の勝利は肩の手術が成功だったことも意味するだけに喜びもひとしお。
HRCチーム代表の中本修平氏も「あのタイミングで手術を決断したのは正解だったし、やって本当によかったと思う」と勝利を讃えた。
2位のロレンソは、ここエストリルサーキットでは`08年以来3年連続勝利を飾っており、今年もダントツの優勝候補……だったのだが、結果はライバルに勝利を明け渡す格好になった。
とはいえ、ランキング首位を維持。
3位はC・ストーナー(レプソル・ホンダ)。
走行中に腰をひねって痛めてしまい、一時はリタイアも考えたというが、なんとか走りきって表彰台を確保。
と、必要事項の報告はさっさとすませて、第3戦のメインイベント、パドックをおおいに賑わせた舌戦について、少しばかり解説をしてみようと思う。
コース上で激しい火花を散らす選手たちの戦いは、ときにコースを飛びだして場外乱闘にもつれ込む。
レース結果以外のこうした話題は、日本にいるとなかなか伝わってこないけれども、パドックではたいていいつも何かしらのゴシップが飛び交っている。
このところ大きな注目を集めているのが、バレンティーノ・ロッシvsケーシー・ストーナーの舌戦だ。
そもそもの因縁は2008年のUSGPに遡るのだが、一時は沈静化を見せていた両者の関係は、第2戦の1コーナーでロッシがストーナーを巻きこんで転倒したことにより、ふたたび緊張の度合いを増している。
この両者のバトルの行方を皆が注目しているところへ、意外な場所で新たな<爆発的事象 >が発生した。
こちらのキャストは、マルコ・シモンチェッリとホルヘ・ロレンソ。
金曜のセッションが終了した際にロレンソが「あいつの乗り方はかなりきわどい。そのうち誰かを巻きこむことになりやしないか」と述べたことが揉め事の発端になった。
「じっさいに、昨年の最終戦(バレンシア)でも、彼と接触してあやうく転倒するところだった」とロレンソ。
たしかにロレンソが警鐘を鳴らすとおり、シモンチェッリのライディングスタイルがやや荒っぽいのは事実だ。
が、なにもそれは今に始まった話でもなければ、金曜のセッションの際に挑発的もしくは危険な行為があったわけでもない。
エストリルではロレンソが3年連続優勝を飾っていて、今回も勝つ気満々で臨んだものの、初日の走りはシモンチェッリがダントツの速さで午前午後ともにトップタイムを記録したために、ロレンソの苛立ちがそんな形で噴出したのではないか、と推測する向きもあるが、それはあくまでも外野の憶測。
さあ、このロレンソのことばに対して、シモンチェッリが怒ったの怒らないの。
まさに<怒髪天を衝く >ってやつだ。
予選順位はロレンソがポール、シモンチェッリは2番手だったのでともにフロントロー記者会見に臨んだのだが、その場で激しい言葉の応酬が繰り広げられた。
言い分はそれぞれあろうけれども、ロレンソの主張するとおり、たしかにシモンチェッリは荒いバトルをする。
ただ、ここで、「それを言うならアイツだってコイツだって」と他選手を引き合いに出して指弾するのは話の主題を逸らせる意味しかない。
さらに、ロレンソだって昔は危ない走りをしてたじゃねぇかよ、という指摘も、彼自身がそれを認めて反省しているとコメントしている以上、有効な批判ではない。
じっさい、シモンチェッリ自身がロレンソに応戦したのは、「オレが危ないっていうけど、その例はおかしくないか?」ってことだった。
ロレンソが例に挙げた昨年最終戦のバレンシアは、シモンチェッリが前を走っていてロレンソは後ろからオーバーテイクにかかり、その際に両者が接触している。
「あの位置関係でオレだけが危険だというのはちょっと話がおかしくね?」というのがシモンチェッリの主張なわけだ。
で、それに対してロレンソは「冗談じゃない。オレたちがやってるのはミニバイクじゃないんだぞ。一歩間違えば命に関わる時速300kmのマシンで戦っているんだ。クリーンじゃないファイトは許せない」と延々と自説を述べたわけだけれども、そこだけを取り出せばたしかにゆるぎようのない正論ではある。
御説ごもっとも、ってやつだ。
ただし、その正論はどこからも反論の余地がない学級委員的正論でもある。
そういう「無謬ゆえの無謬」のような言辞でシモンチェッリのようなあんちゃんを論難したところでしょせん話が噛み合わないのもまた、自明といっていいだろう。
「今まではともかく、今後同じようなことがあったらタダじゃすまないぞ」
と警告を発するロレンソに対して、
「わーったよ。そんときゃ逮捕でもなんでもされてやるよ」
という投げやりな言葉が返ってくるのも、むべなるかな。
とまあ、こういうような展開になった以上、決勝日のレースの行方にはイヤでも大きな注目が集まったわけだけれども、結末はなんてことない、シモンチェッリが1周目の3コーナーであっさり転倒して終了。
このヘンのなし崩しなところも、ある意味、いかにもシモンチェッリである。
一方のロレンソはというと、4年連続エストリル制覇とはならなかったものの、2位フィニッシュでランキング首位を維持。
この遺恨がどんな形で新たな展開を迎えるのか、次の第4戦ルマンでのロレンソvsシモンチェッリ、そしてロッシvsストーナーの遺恨の帰趨にも要注目であります。