Hi-Compression Column

motogpはいらんかね

西村 章
西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した最新著『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

さらばカタルーニャ戦線


(2011.6.9更新)

今回も何かと話題の多いレースウィークだった。

前回のフランスGPでも大きな話題になった日本GP開催を巡る是非は、相変わらず紛糾が続いている。

これに関しては、自分なりに言いたいことはたくさんあるのだけれども、前回触れた話題でもあるし、この問題にこだわりすぎるとMotoGPからかなり逸脱してしまいそうな気もするので(ま、それもいいのかもしれないけど)、「ジャーナリズムとしての懐疑主義は科学的・合理的思考に基づく論理の追求だが、陰謀史観に依存する疑心暗鬼は他者への優越願望に巣喰う思考停止にすぎない」と指摘するにとどめておく。この問題を巡るパドックの新たな動きについては、別の場所にも書いたので、気になる方はそちらを適宜参照してくださいませ。

で、日本GP是非の一件以外で最も注目を集めたのが、フランスGPでダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)と接触して転倒・骨折させ、大いに物議を醸すことになったマルコ・シモンチェッリ(サン・カルロ・ホンダ・グレッシーニ)だ。

じつは今回、バルセロナの空港でばったり彼に遭遇した。偶然にも同じEuropeCarのレンタカーで、ピックアップした車も隣同士の場所。車種もまったく同じVW Poloだったのだが、「チャオ」という挨拶もそこそこに、シモンチェッリはマネージャーと、見慣れぬ男性2名とともに車に乗って走り去って行った。

あとで聞いたところによると、その同行2名がどうやら身辺警護のボディガードだったとか。ペドロサがホームグランプリを負傷欠場する原因を作った彼に対して、激昂したファンが脅迫状を送付する事態に発展したため、このような対応になったのだという。

じっさい、カタルーニャサーキットでの彼に対するブーイングたるや、すさまじいものがあった。コースサイドには「Wanted Simoncelli, dead or alive」と記された穏やかならぬ横断幕まで出現したほどだ。

あまりにヒートアップする観客の姿を見かねたのか、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)は「マルコは自分の行為を反省しているんだから、観客の皆さんももっと落ち着いて観戦してほしい」とやんわり釘を刺すひと幕も。

当のシモンチェリはと言うと、満場の大ブーイングをものともせずにポールポジションを獲得。「オイラに対するすごいブーイングは、最初少し気になったけど、走り出せばレースに集中できる。観客の人たちは、誰を応援するのもブーイングするのも自由だと思うよ。スポーツとはそういうものなんだし」とコメントした。

この言葉、ある種の開き直りとも勘違いされかねない言い回しだが、おそらく本人が言いたかったのは、「自分に対するファンの評価は好意であれ悪意であれ、正面から受けとめる用意があるよ」ということなのだと思う。

とはいえ、いくら本人がそんな姿勢でいたところで観客の怒りが収まるわけではない。

決勝日の観客席も、シモンチェッリに対するブーイングは相変わらずの激しさ。レースが始まると、ポールポジションスタートにもかかわらず左右からずばずば抜かれ、1コーナーでは7〜8番手あたりまで後退していた。

その後も充分にペースを上げきることができず、結果は6位フィニッシュ。会場じゅうに溢れる観客の怒号に呑まれてしまったのかというとそんなわけでもなく(走っているとブーイングは聞こえないし)、スタートのクラッチミートに失敗、そしてその後はタイヤのエッジグリップを得られないまま周回を重ねることになってしまったのだという。

この結果にHRCチーム代表の中本修平氏は「マルコは速さに関しては充分に身についてきたけど、<強さ>についてはまだまだ。コンディションが悪かったので充分なグリップがなかったとしても、状況に応じて乗り方、走り方を変えられる<強さ>を身につけないと、チャンピオンシップは見えてこない」と、やや厳しいコメント。とはいえ、おそらく中本氏の話すとおりの姿が、彼の現状なのだろう。

優勝は前戦に引き続き、空気を読まない圧倒的な速さで今季3勝目のC・ストーナー(レプソル・ホンダ)。2位と3位は、ヤマハ・ファクトリーのロレンソとベン・スピースが今季初の表彰台揃い踏み。

とはいえ、現在のヤマハはホンダに対してかなり厳しい戦いを強いられている、とロレンソ。「改良型エンジンが届くのは、たぶん中盤戦のブルノあたりになると思う。それまでは車体でもなんでも、とにかく少しずつ何かしらアップデートしていかないと今のホンダとはまともな勝負にならない」と厳しい戦いに歯噛みする様子。

それにしても、ヘレス、ル・マン、カタルーニャ、と昨年はヤマハが制したコースを、今年はことごとくホンダが押さえている。次のシルバーストーンも、昨年はロレンソが圧勝を飾ったコースだが、このままだとまたもやホンダ優勢で進むのかもしれない。

ヤマハ苦戦の原因はいったいどこにあるのか。その詳細は近日中に、関係者各方面への取材をまとめたうえで報告をしたい。

おお、なんだか、まともなレースレポートっぽい締めくくりだ。レースの素人が偉そうなことをほざいてしまってどうもすいません。次回は謙虚に行きます。

というわけで、第6戦イギリスGPは2週連続開催。皆さままた来週おあいいたしましょう。ではでは。



第1戦で全17人のMotoGPライダーが寄せてくれた「頑張れニッポンのエール」はもう読みましたか!


※小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した西村 章さんの「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)好評発売中。西村さんへの発刊記念インタビューも掲載中。

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ブーイングを浴びながらもPP獲得で一発の速さを披露。しかし決勝は……。
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どうもいまひとつ、何かが噛み合わない。フロントの接地感に加え、今回はリアにも課題を抱えることに。
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時代はエコ。ホンダ、ヤマハの電動スクーターがともにパドックを闊歩しております。
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このヒトたちを怒らせるとこわいのだ、いやまじで。
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ホンダと互角に戦えないレースが続く王者ロレンソ。心中で歯噛みする悔しさたるや、想像に余りある。
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今年はヤマハのグランプリ参戦50周年。記念カラーリングのマシンもまもなくアッセンでお披露目。
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ホンダは来年から始まるMoto3用マシン、NSF250Rをお披露目。Moto3は「もとさん」と読みましょう。
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ケガとは無縁だったコーリン・エドワーズが転倒し、鎖骨骨折。連続出場記録も途絶えることに。
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ホームグランプリを欠場したダニ・ペドロサ。次戦シルバーストーンも欠場が決定。皆が復帰を待ち望んでいる。
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■第5戦カタルニアGP

6月5日決勝
カタルニアサーキット 晴
●優勝 ケーシー・ストーナー HONDA
●2位 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
●3位 ベン・スピーズ YAMAHA
●4位 アンドレア・ドヴィツィオーゾ HONDA
●5位 バレンティーノ・ロッシ DUCATI
●6位 マルコ・シモンチェッリ HONDA
●7位 カル・クラッチロー YAMAHA
●8位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
●9位 ロリス・カピロッシ DUCATI
●10位 カレル・アブラハム DUCATI
●11位 ヘクト・バルベラ DUCATI
●12位 アルバロ・バウティスタ SUZUKI
●13位 トニ・エリアス HONDA
●RT 青山博一 HONDA
●RT ランディ・デ・ビュニエ DUCATI


特別付録? カタルニアの娘


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