2018年9月21日

Z900は、実に好ましい まっとうなスタンダードスポーツだ。

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Z900は、人気爆発Z900RSのベースとなったモデルだ。
Z1レプリカと称されるルックスのひとノセがなく
まっとうなスタンダードスポーツバイク。
けれど、Z900には、大人気モデルの「素」であるのとは別の
まったく新しい魅力があったのだ。

■文:中村浩史 ■撮影:松川 忍
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/

 
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 久しぶりに「人気爆発」という言葉がよく似合うモデル──それがZ900RSだ。もう、スタイリングは正面切った「Z1の再来」で、機能は最新スポーツバイク。しかも、これまでZEPHYRシリーズであっても「限定モデル」とか「ファイナルエディション」でしかラインアップされなかった茶×赤の「火の玉カラー」を最初からラインアップ。発売と同時にたちまち販売店はバックオーダー、うれしい悲鳴って、こういうことだ。

 そして実は、Z900RSのベースとなったモデルが存在する。それが今回のZ900。国内仕様には、’16年までラインアップされていたZ800があったけれど、実は’17年から海外ではニューモデルZ900が発売されていたのだ。’16年秋のEICMA(=ミラノショー)で発表され、国内販売がスタートしなかったからか、ちょっとこれ、ノーマークだった。 
 
 そのまま、’17年の東京モーターショーでZ900RSがデビュー! これが、Z900をベースとしたスタイリングモデルだったってわけ。Z900が国内でクローズアップされることがほとんどなかったから、Z900RSの登場が衝撃的だったのだ。

 そしてZ900RSが人気爆発。’17年12月から、400cc以上クラスで販売ランキングトップをキープ。ビキニカウル付きのZ900RS CAFEもデビューして、販売店のバックオーダーもやっと落ち着いてきた、と聞く。ムカシとは生産台数に違いはあるにせよ、発売即バックオーダーなんて、ちょっと最近聞かないなぁ、と思っていた。

 そのZ900RS(http://www.mr-bike.jp/?p=137649参照)とZ900RS CAFE(http://www.mr-bike.jp/?p=142918)は、ちょっとレトロなルックスに身を包んだスポーツバイクだ。先代Z800と比べると、800ccが950ccとなり、軽量化されてパワーアップ、街乗りもツーリングもこなせて、なおかつ鑑賞に耐えうるバイク。けれど、RSの方はちょっとZ1っぽくて気恥ずかしいな、Z900にも乗ってみたいな、と思ってたので、この試乗をせがんだのです。
 
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 フューエルタンクやシートカウルの存在感がないからか、Z900はRSに比べてもうひと回り小さく感じる。実はこれ、気のせいではなくて、カタログデータでも全長×全幅×全高も、ホイールベースもきちんと小さい(Z900の全長×全幅×全高が2065×825×1065mmなのに対してZ900RSは2100×865×1150mm、ホイールベースもZ900の1450mmに対してZ900RSは1470mm)。Z900はきちんと専用設定……というか、Z900RSがきちんと専用設定されていた、ってこと。RSに先に乗っちゃったものだから、ついついRSを基準に考えてしまうけれど、Z900をベースに、RSが成立したんだった。

 そして、乗り味もひと味違う。一緒に乗っての比較試乗をしたわけじゃないけれど、Z900の方が数字以上に力強い。出力、いやパワーウェイトレシオでいうとZ900が210kg/125ps=1.68kg/ps、Z900RSが215kg/111PS=1.94kg/psだから、このパワーと車重の差は誰だって体験できるはず。しかもZ900の方がファイナルがショート(=Z900の方がドリブンスプロケットが2丁大きい)だから、Z900のキビキビさは際立っている。もちろんこれも、キビキビとした俊足スプリンターを、レトロルックスに包んで、少し穏やかにモディファイしたのがZ900RSってことだ。あくまで、タマゴよりニワトリが先ですから。
 
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 ハンドリングもZ900の軽快さが印象的だったのも同じ理由。これもZ900の方がキャスターが立っているからか(キャスター/トレイルは、Z900が24.5°/103mmに対してZ900RSは25°/98mm)、いくぶんクイックに感じられる。特にバンクスピードが早くて、切り返しも軽い。それも、スパッとキレ味あるハンドリングというより、前後タイヤの接地感がきちんとある、恐怖感のないタッチだ。サスペンションの動きがいいのはZ900RSも同じ。フットワークが軽くて、乗り心地がいいね。キビキビさは、ほぼ同じボディで14psも違えば、そりゃ瞬発力も違う。Z900とZ900RSで、きちんと性格を分けているのが芸が細かい! カワサキが、いかにZ900RSに全力だったか、よくわかるのだ。

 よくできたスポーツバイクを、「Z1の再来」という枕詞なしで乗りたいファンは多いだろう。どうしても、あのスタイリングはZ1/Z2を感じさせちゃうから、あぁZ1レプリカね、ってひとくくりにしてくる人って多いもの。だからZ900って選択肢はあり! Z1/Z2人気の今だって、冠ナシのZ900やZ1000、LTDを選ぶ人も多いしね。
「Z900RSのベース」っていう冠をナシと考えても、軽い、速い、クルクル曲がる、しかも100万円を下回る(95万400円)お手頃価格のスポーツバイクである。Z900RSを基準に考えず、新世代1000ccスポーツの範疇に入れても、MT-10やGSX-S750よりコンパクトで、よりコントローラブルなスポーツバイクだ。
こっち選ぶ人、シブい!
 
(文:中村浩史)
 
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ギアポジション付きのアナログ&液晶のハイブリッドメーターは、タコメーターの針デザインを3パターンに変更できる。表示部はオド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費などを表示。


 
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ビキニカウルつき旧Z800系の異形ヘッドライトは、低くマウントされて迫力を出している。防風効果もきちんとあって、ノンカウルのZ900RSより、ややウィンドプロテクションがある。センター上部にはポジション灯を装備し、ウィンカーもハイマウント。ラジエターシュラウドも、アッパーカウルから流れるようなデザインで、微妙にZ形をしている。


 
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エンジンは新設計の948cc直列4気筒。Z1、GPZ900R、ZX-9Rと並ぶ「900ccスタート」の伝統に則った、新しいカワサキスポーツバイクの基準となるエンジンだ。低回転のトルクと中間域の吹け上がりが両立していて、アクセルON時には、キュイィィンと吸気音が鳴く演出が施されている。コントロール性の良さが光る名エンジンになりそうな予感だ。


 
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Z900RSというより、旧Z800風の異形8角形断面のサイレンサー。サイレンサー前にチャンバーを配し、サイレンサーを小型としている。サウンドも澄んだ軽い音で気持ちいい。


 
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スチール製トレリスフレームを採用した、高剛性すぎない軽量な車体がZ900のキャラクターの軸。スイングアームピボット周辺にはフレームカバーを装着し、デザインに味付け。


 
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スチールフレームに組み合わされるのはアルミスイングアーム。補強ブリッジなしのシンプルな形状で、ホイールも専用デザイン。ドリブンスプロケットは900RSが42丁、Z900が44丁と2丁ショート、つまり加速型だ。純正タイヤはダンロップD214で、もっとスポーツ設定のタイヤを履くだけで、ハンドリングのフィーリングはかなり変わりそう。


 
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ブレーキはφ300mmペータル型ローターにニッシン4ピストンキャリパーの組み合わせ。ABSは標準装備で、介入しすぎることもなく、自然な効力だった。フォークはφ41mm倒立で、伸び側減衰力とプリロード調整ができるが、特に調整の必要は感じなかった。フロントフェンダーのデザインも専用とするなど、やはりカワサキの力の入れ具合がわかる。


 
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伸び側減衰力とプリロードを調整できるリアサスは車体水平近くにマウントされるホリゾンタルバック式。スイングアーム上にマウントすることで、マフラースペースも確保。


 
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前後セパレートタイプのシートは、キーロック式でタンデム部が脱着できる。乗車時のライダー内ももに触れる部分のふくらみと曲面が、ニーグリップしやすい形状だった。シート下のスペースは少ないが、標準装備のETC車載器が仕込まれている。


 
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テールランプはLED、ウィンカーは着色バルブ式+クリアレンズタイプで、テールランプはZの形に点灯する。


 
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荷物の積載もちゃんと考えるカワサキは本当にエラい。キーロック式ヘルメットホルダーはタンデムステップ後ろに位置し、荷物かけフックもタンデムステップステーとタンデムステップ下あたりに標準装備。タンデム部は乗車も荷物積載も、あくまでエマージェンシー。


 
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17Lの容量を確保したタンクが、Z900RSのティアドロップ型と大きく違う専用デザイン。インジェクターがダウンドラフトタイプなため、タンク後半はエアボックススペースだ。


 
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■KAWASAKI Z900 主要諸元
●全長×全幅×全高:2,065×825×1,065mm ホイールベース:1,450mm、シート高:795mm、●エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、排気量:948cm3、ボア×ストローク:73.4×56.0mm、最高出力:92kW(125PS)/9,500rpm、最大トルク:98N・m(10.0kgf-m)/7,700rpm、燃料供給装置:フューエルインジェクション、燃費消費率:25.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、18.5km/L(WMTCモード値 クラス3、サブクラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:17リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン●メーカー希望小売価格:950,400円


 



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