2018年10月12日

Power Product Quest 第三回 芝生新時代 Miimoが切り開く芝生の未来

知っているようで実は知らないもうひとつのホンダ。 Power Product Quest 第三回 芝生新時代 Miimoが切り開く芝生の未来 しばふるプロジェクトとNiimo HRM520

「実はASIMOの技術は全然入っていない」と言われてしまったものの、
その愛らしいルックスでけなげに芝生を刈る様子はどこか共通性を感じずにはいられない。
電動の自動芝刈りロボット「ミーモ」の現場を見た。

文●ノア セレン 
写真●松川 忍 
取材協力●ガイナーレ鳥取http://www.gainare.co.jp
ホンダPPの本命「ミーモ」に迫る

 他と違う何かをやってくれるメーカー、ホンダ。最近ではN-VANが「他と違う事しているなぁ!」と感心させられた製品だが、パワープロダクツ(以下PP)の世界でも同様で、他のメーカーでは考えないようなアプローチで製品を展開してきた。我々がバイクや車を通して知っているHONDAの独創性がパワープロダクツにも生きているのだ。
 そんな中、これまでの連載でPP関係者が度々口にしてきた製品が「ミーモ」。いわゆる掃除ロボットのルンバなどをイメージしていただければ良いのだが、家の中の掃除ではなく芝生を刈ってくれるロボット芝刈機である。ホンダのロボットと言えばASIMOのイメージもあるかと思うが、見た目はASIMOとも共通するような丸みのある、親しみやすいデザインでなかなか愛らしい。
 もちろん、可愛いだけではない。ミーモにより芝生の管理が劇的に楽になり、これまで「芝生にしたいけれど手間を考えると現実的ではない……」と敬遠していた人にも、一気に芝生が現実味を帯びてくるのだ。さらには、毎日刈る事、刈る時に音がしない事、刈った芝生を捨てる必要がないなどメリットばかり。ミーモの普及で日本も芝生の学校、公園、グラウンドを増やせるかもしれない、そんな画期的な製品でありPP関係者が強く推すのも理解できる。

Miimo HRM520

●Miimo HRM520
今回の主役、Miimo(ミーモ)はホンダが展開する電動ロボット芝刈機。あらかじめ刈りたい場所をエリアワイヤーで囲めば、設定したスケジュールでその中をランダムに満遍なく芝刈りをしてくれる。電動であるためほぼ無音で、かつ25度までの登坂能力も備えるなどあらゆるシチュエーションで活躍する。障害物に当たれば自動で停止するなど安全性も考慮されており、日常的・自動的に芝刈りをしてくれることで、今までの芝生に対するイメージを転換し、芝生文化を浸透させるきっかけになりそうである。 537,840 円(本体、充電ステーション、エリアワイヤー300m 他一式・税込)。

実はとても大変な芝生、ミーモなら一発解決!?

 外国、特にヨーロッパや北米においては綺麗な芝生を生やした庭というのはとても一般的で、遊びやすさや親しみやすさがあると同時にステータスシンボルでもある。
 しかし特に面積が大きくなるほど芝刈りは重労働になることも。芝生はとにかく日常的に刈り揃えておくことが大切なのだそうで、伸ばしておいては景観が損なわれるだけでなく芝生が強く育たず、また雑草も混じりやすい。かといって、日常的にやらなければいけないという事実。また芝生を刈るだけでなく刈った芝生をどこかに捨てなければいけないこと、そしてエンジン式の芝刈機では音や排気臭で苦情の対象となったりすることもあり、特に芝生文化がまだ浸透していない日本においては、こういった部分がハードルになっていることは否めない。
 芝生に伴う様々な苦労をこう羅列すると、やはり「芝生は大変」というイメージになってしまうだろう。ところがミーモはこれらの問題をまとめて解決してくれるというのだ。芝生の一番の苦労は何よりも「刈り続けなければいけない事」。逆に言えば日常的に刈ってさえいれば芝生というのはクオリティが上がり続けるという。単純に刈るというだけなのにその頻度が高いことが最大のハードル。しかしミーモならば毎日、静かに、黙々とこの作業を続けてくれる。それだけのことなのだが、それがなかなかできなかったのである。

ミーモと出会った「ガイナーレ鳥取」

 なぜミーモとサッカーチームが? その繋がりとは……考えてみれば当然だった。サッカーは芝生の上でプレーするものであり、サッカーチームは芝生の専門家と言っても過言ではない。しかも鳥取県は芝生が育ちやすい砂地が多いという事もあり芝生の生産量が日本で2位。サッカーチームの運営の他に、グラウンド管理で得たノウハウとミーモの能力を合わせ芝生ビジネスをスタートさせたのだ。「しばふるプロジェクト」と呼ばれるこの取り組みについて、ガイナーレ鳥取代表取締役社長 塚野真樹さん、代表取締役GM“野人”岡野雄行さんに話を聞いた。
「芝生というのは体を動かすリミッターを解除してくれるものなんです。土のグラウンドでは怪我が怖いような場面でも、芝生だと思いっきりスライディングができたりする。単純に全速力で走るのだって、芝生ならクッション性が良いためたとえ転んでもケガをしにくい。そうすると思いっきりプレーができるんですよ」と岡野さん。
「また芝生っていうのは子供たちが喜ぶんですよね! しばふるプロジェクトはJリーグの100年構想にある“あなたの街に緑の芝生を広げていこう”というテーマにも沿っているんですが、ドイツなんて行くと街のそこらじゅうが芝生になっていて、そこで子供たちが思いっきり遊んでる。スポーツ文化が芝生を通して街と一体化していると感じたんです」

ガイナーレ鳥取の代表取締役社長 塚野真樹さんと、代表取締役GMの岡野雄行さん

ガイナーレ鳥取の代表取締役社長 塚野真樹さん(左)と、代表取締役GMの岡野雄行さん(右)。塚野社長は1970年鳥取県生まれ。早稲田大学卒業後、本田技研工業フットボールクラブを経て、ヴィッセル神戸でプレーした元Jリーガー。野人のニックネームでもおなじみ岡野さんは1972年生まれ。1998年、ゴールデンゴールにより、日本代表を初のワールドカップ出場へと導く。2014年にはJ リーグ功労選手賞も受賞。2013年現役引退後、ガイナーレ鳥取のGMに就任。

 サッカーや他のスポーツをするための芝生だけでなく、芝生が地域にもたらす効果に注目する岡野さん、特に子供たちへの効果に期待しているという。
「芝生を見たら大人でも裸足で踏み入れたいとか、ピクニックしたいとか、なんだか嬉しくなるじゃないですか。子供たちだとなおさらです。最近では外で遊べる場が減ってきていますが、しばふるプロジェクトを通じて鳥取中の休耕地に芝生が生えていれば、もっと外で遊ぶ機会が増えると思うんです。芝生の上で思いっきり遊んで、もっと野性味あふれる子供たちが増えると良いですね(笑)」
 塚野さんもまた芝生の可能性に期待している。
「鳥取には休耕地が多く、これらの管理も地域の課題になっています。しばふるプロジェクトではこういった土地を借り、そこで芝生を育てていくことを広げている最中です。休耕地は雑草も生い茂ったりして景観的にも残念ですし、そもそも鳥取県は砂地で芝に適した土壌です。今伸び放題になっている休耕地がみな芝生になれば鳥取県の魅力もアップするでしょうし、岡野が言うように、子供たちが遊んだり、大人たちもまた芝生のある休日を楽しんだりできると良い事ずくめに思います」

塚野社長

サッカーとホンダ、両方に縁のあった塚野社長だからこそできた発想と奮闘が、しばふるプロジェクトとミーモの連携につながっていった。

岡野GM

「ビューと一直線で速い野人仕様のミーモなんてのがあっても、おもしろくありませんか!?」岡野GMもミーモによる新展開に興味津々。

 そしてこのプロジェクトとミーモを結びつけたのも塚野さん。芝生育成ビジネスを立ち上げる時にミーモの存在を知り、ホンダにコラボを打診したという。
「実は僕は以前ホンダの浜松製作所に勤めていて、そこでプレーしてたんです。なのでホンダには馴染みがありました。そしてミーモの存在を知り、その能力を調べると素晴らしいものだと確信しました。これはホンダとやらなければ! と直感して、プレゼン資料を揃えてホンダに猛アタックしたわけです(笑)」
 かくしてミーモがこのプロジェクトに参加することに。現在は実験的な意味合いも含めて、ミーモにあらゆる課題を投げながらホンダも共同で取り組んでいる。

岡野GM

インタビュー中に芝生の持つ可能性について熱く語り続ける二人。その根本にあるのはサッカー人ならではの芝生愛。しばふるプロジェクトは、日本の子供たちの将来も変えていく可能性も秘めている。

Miimo ガイナーレ鳥取

●ガイナーレ鳥取
現在はJ3リーグを戦うサッカーチーム。「SC鳥取百年構想」で掲げる「こどもたちの未来、ふるさとの未来」では、子供たちを対象にしたサッカースクールの他「復活!公園遊び」などのホームタウン活動を展開。毎年200回以上実施されているこの活動のほとんどは芝生の上。また「地域社会の一員としてお役に立つ」というテーマには今回のしばふるプロジェクトが目指す休耕地の活用などが盛り込まれており、サッカーに加えて芝生を通じて地域と深くかかわりあっているチームである。

現場で愛される可愛いミーモ

 鳥取県の西部、米子市に位置する「チュウブYAJINスタジアム」。ホームグラウンドの芝生管理の他、しばふるプロジェクトで出荷する芝生の生産管理も手掛けているのはガイナーレ鳥取地域事業部部長 野口功さんと経営企画本部長 高島祐亮さん。前述したようにミーモは刈る手間や刈った芝生を捨てる手間を省くだけでなく、より良い芝生を育ててくれるという。現場でミーモと共に芝生に向き合う野口さんに話を聞いた。
「芝生の育成は難しい、もしくは面倒とされていて、多くの場合は非常に厳密に管理され、肥料や農薬が使用されていますが、芝生というのはイネ科の植物で本来はとても強いものなのです。ただ日常的に刈ってあげるという事が最も大切なんですね。上に伸びる分を日常的に刈っていれば、養分は根に行ってしっかりと張って強い芝生になっていくのです。そうすると逆に雑草などは混じりにくくなります。そもそも芝生は2センチ〜3センチほどで刈ってしまいますので、そんな短さで元気に生え続ける雑草は少ないんですよ。日常的に刈り揃えてあげるだけで、芝生はとても元気に育ちます」
 ミーモの導入以前はグラウンド整備も大変だったという。乗用タイプの芝刈機で慣れたスタッフがやっておおよそ2時間。芝刈機のメンテナンスも必要だし、刈った芝を廃棄しなければならない。確かに芝の管理は大変だった。
 ミーモならプログラム通り毎日芝生を刈ってくれるため、スタッフの負担が減るだけでなく、芝生のクオリティが上がる。刈られた芝生の小さな先端は芝生の間に落ちてそのまま肥料になるため回収する手間もない。芝生にとって最も大切な「とにかく刈り続ける」ことを、音もなく自動でやり続けてくれるのだ。これは芝生管理、芝生育成において画期的だ。
「しかもこれだけちゃんと毎日刈っていれば、芝生はどんどん元気になりますので農薬も要らなくなるんです。うちの芝生は特別に無農薬をウリにしているわけではありませんが、ミーモのおかげでオーガニックで良質な芝生が育っているのは事実です。サッカーチームとしてプレーするにもオーガニックは気持ちが良いですが、子供たちが遊ぶという意味でもやはり安心できる芝生であるというのは大切ですよね、芝生に直接寝そべったりするわけですから」

高島祐亮さん野口功さん

芝生の生産管理をおこなっているガイナーレ鳥取経営企画本部長 高島祐亮さん(左)と、地域事業部部長の野口功さん(右)。今回の取材でいろいろ説明していただいた野口さんは元高校の生物教員。芝生生産は素人であったが、生物の知識を生かすなどによって今では芝生のプロからも、「野口さんは芝生の天才だ」と言われるほどの凄腕に。

スタジアム

スタジアムの芝生は2台のミーモにより管理されている。一台はカタログスペックの限界である3000平米を、もう一台はテストも兼ねその倍の6000平米を担当しているが、特に問題は起きていないそうだ。

圃場

スタジアムに隣接して設けられた圃場では芝生が生産されている。もちろんここでも日夜ミーモが活躍している。ちなみに写真の上側の白い部分が地面で、色からも砂地であることがわかる。芝生生産に欠かせない水は、ちょっと掘り下げれば豊富に出るそうだ。

ミーモ

ミーモはあらかじめ設定されたエリアワイヤー内で芝刈りを行う。芝刈りを行っているエリアの内側部分と行わない外側部分ではこれだけの差が出るのがよくわかる。ちなみに1エリア内では1台しか作業できない。

境界線

スタジアムのピッチを3000平米と6000平米に2分割している境界部分。エリアワイヤーが通してある部分はミーモが作業できないので、このように芝が伸びてしまう。現在はこの部分は手動で刈っているそうだ。

セットパネル

最初にセットパネルで各種の設定を行えば、芝刈り作業はもちろん、充電もすべて自動で行う。基本的には防水仕様(ひっくりかえしての水洗いは不可)なので雨天でもしまう必要はない。

3枚の刃

ある程度伸びた芝を大きな刃で刈る歩行型芝刈機とは異なり、ミーモはカッターナイフの刃のような小さな3枚の刃でまんべんなく芝をカットするため、刈った芝は細かく、回収する必要がなくそのまま肥料にもなる。

しばふる君がんばって~!

 実は先日、しばふるプロジェクト出荷第一号が行われた。新しく芝生が貼られたのは鳥取県境港市のつばさ保育園。ミーモとセットで芝生となった園庭を見て園長の武良淳子先生は目を細める。
「やっぱり芝生は憧れでしたけど、値も張りますし管理が大変だと聞いていて……。他に芝生の園庭を持つ園を知っていますが、刈るのが大変だし刈っていると音がしたり芝生が舞ったりするため苦情が出ているなんていう話も聞きます。ところがミーモのおかげで管理の問題がクリアされて、夢のような話です」
 効果的に芝生を管理してくれるだけでなく、静かで誰にも迷惑をかけず、かつ安全であることが街中にある保育園にとっては大切なこと。しかもこの芝生とミーモは地元の青果店とスーパーがスポンサーについてくれたことで園の持ち出しはなし。武良先生も「こんなラッキーなことはない」という。「芝生のある生活って、ホントに良いですよねぇ! 子供たちも芝生の上で思いっきり遊んでくれますし、園児が室内で遊んでいる午前中に黙々と仕事をしてくれるミーモを、園児が中から『しばふる君がんばって〜』と応援してるんです。ミーモは子供たちのアイドルですね(笑)」

園庭

園庭の芝生化によって園児たちは今まで以上に元気いっぱいに園庭で遊べるようになった。そして、けなげに芝刈りをするしばふる君の活躍にも大喜び。ミーモは子供たちのアイドルでもある。

しばふる君

「しばふる君」と名前がつけられたつばさ保育園のミーモは、ガイナーレ鳥取のデザイナーの手によるイラスト入り、これだけでミーモへの愛着が大幅にアップすることがよくわかる。

充電ステーション

ミーモは全天候型なので屋根付きのガレージまでは必要ないが、充電ステーションには手作りのミーモ小屋?も。これも愛着あればこそ。

つばさ保育園

つばさ保育園

●つばさ保育園
しばふるプロジェクトの第一号となった境港市のつばさ保育園。園庭の芝生化はしたかったが、管理に割ける人員や導入コストの面で断念していたところ、管理はミーモが、そしてコストは地元の青果店やスーパーがスポンサーとなってくれることで解決。つばさ保育園のミーモには愛らしい目玉と、スポンサーのロゴがあしらわれていた。園も、子供たちも、スポンサーも、そしてしばふるプロジェクトも、みんなが幸せになれた好例だ。

ミーモが下げた芝生のハードル

 芝生の可能性を広げていきたいガイナーレ鳥取の想いとマッチしたミーモ。高いクオリティの芝生を作りだすだけでなく、出荷時にミーモをセットすることで手間いらずの芝生管理を提供するというシステムを作ったことで、芝生のハードルを大きく下げることに成功した。
「保育園がまだ一例目ですからまだまだこれからです。休耕地もどんどん借りて、このプロジェクトを加速させたいですね」と塚野さん。芝生に対するノウハウとミーモの組み合わせによって、今まで本当は芝生に憧れていたものの管理を考えるとあきらめていた人にアピールできるだろう。日本ではなかなか浸透していない芝生文化が一気に加速する可能性がある。
「みんな芝生で遊ぶと良いんです! 裸足で芝生の上を思いっきり走り回る。子供のうちにそんな体験ができれば、野生児みたいな元気な子供だらけになるはずです!」と岡野さん。
 憧れの芝生を身近に、そして管理の面で現実的にしてくれるミーモ。これの普及と共に日本には芝生がどんどん増えそうである。


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