2017年4月11日

MBHCC E1 西村 章 MotoGPはいらんかね

第114回 第2戦 アルゼンチンGP La Fuente del Ritmo

第114回 第2戦 アルゼンチンGP La Fuente del Ritmo
 やってきました第2戦アルゼンチンGP。日本から見てちょうど地球の裏側である。サーキットのあるテルマス・デ・リオ・オンドは、同国内陸部に位置するのどかな風情の田舎町で、百年くらいタイムスリップしたかのようなひなびた景色は旅情をそこはかとなくかき立てるのだが、そんな呑気なことを言っている場合ではない。レースである。
 勝ったのは今回もマーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)。落ち着き払ったレース展開で開幕2連勝を遂げたわけだが、今回は〈速さ〉というよりもむしろ〈強さ〉を感じさせる勝利で、次戦あたりはひょっとしたら〈凄み〉のようなものも垣間見えたりするかもしれない。まだ移籍直後なのに、というか、まだ22歳なのに、この走りなのだから舌を巻くほかない。水を張った器へ入れておけばどんどん膨らんでゆく、まるで「でっ怪獣」(憶えてる人、いますかね?)のような才能が、本格的に開花しているのは誰の目にも明らかで、今回は惜しくも転倒に終わってしまったマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)との真っ向勝負を、一刻も早く見たいものである。

#25


50ポイントでランキング首位。

#46


昨年も2位、今年も2位。


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 2位はバレンティーノ・ロッシで、これによりヤマハファクトリーは開幕戦で1-3、今回は1-2フィニッシュとなった。それにしても、チームメイトのピチピチした若さとは対照的にロッシは当年とって38歳。世界選手権350戦目で堂々の2位表彰台という事実には、これもまた舌を巻く。
「プレシーズンは悪夢のようだったけど、大事なのは日曜の午後にゴールラインを超えたとき。長い経験で、あきらめずに集中すれば可能だということを学んできたんだ。今年は去年よりもたくさんポイントを取れているし、カタールもアルゼンチンも、去年よりよいレースをできた」
 なかなか好タイムを出せずに苦しんでいた開幕前には、さすがのロッシも寄る年波には勝てないかとも見えたものの、シーズンがスタートすれば、しかもレースウィークの決勝日にしっかり帳尻を合わせて連続表彰台を獲得するのだから、さすがにたいしたものである。ベテランならではのしたたたかな戦いかたでどんなふうに若い才能に対抗してゆくのか、これも楽しみに見せてもらうといたしましょう。

#35

#93

#26

ダッシュボードの警告灯が点灯しても冷静に対処して3位フィニッシュのクラッチロー(左上)。「なんだかなー」という表情(偶然です)のマルケス(右上)。そして、自己ベストタイムを記録した次の周回で転倒したペドロサ(左下)。

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 3位はカル・クラッチロー(LCRホンダ)。「前回のカタールでも調子は良かったけれども、転倒してしまった。2戦目で表彰台を獲得できたのは、チームのためにも良い結果になった。なにせ前回の完走は、去年のオーストラリアの表彰台だったから」とやや自虐的な笑いを取りつつも、週末を通してレベルの高い走りを見せていただけに、得るべくして得た表彰台、ともいえるだろう。
 ホンダ陣営は、ポールポジションでスタートしてレース序盤にトップを快走していたマルク・マルケスが4周目の2コーナーで転倒。ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)も14周目に同じ場所で転倒して、ファクトリー両選手がともにリタイアに終わった。
 レース後にマルケスは
「正直なところ、どうして転んだのかわからない。ブレーキングポイントまでまっすぐ入ったところで、フロントがロックした。バイクのフィーリングはよかったし、そんなに攻めていたわけでもない。でも、これは完璧に自分のミス。自分にがっかりしている。とはいえ終わったことだし、次のことを考えたい。ポジティブな点は、これがなければ勝利を目指して戦えることがわかったということ」
 と話し、ペドロサもやや憮然とした様子ながら以下のように述べた。
「2コーナーはバンピーで、フロントが切れこんでしまった。自分たちのバイクはバンプのコントロールが難しく、今週はこの問題の対応に苦労した。ただ、バイクへの理解が深まったことはポジティブだし、転倒は残念だけど、前のグループを追いかけることができたのも好材料。次のレースに向けてモチベーションを高め、アジャストしていきたい」
 次戦でどこまで修正を施してくるのか、ホンダの底力にもちょっと注目をしておきましょう。
#99

#08

#41


まともなレースをできなかったロレンソ(左上)。追突原因を作った某選手に鋭い釘を刺すドヴィツィオーゾ(右上)。転倒後、即座にドビに駆け寄って謝罪するスポーツマンシップが潔い兄エスパルガロ(左下)。


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 ドゥカティ陣営も、サテライトのアルバロ・バウティスタ(プル&ベア・アスパル MotoGP)が表彰台に迫る4位で終えたのに対し、ファクトリー2台がともにノーポイントで終わっている。ホルヘ・ロレンソはスタート直後の1周目1コーナーで転倒。
「1コーナーでレースが終わったのは、2009年のオーストラリア以来かもしれない。ウォームアップでブレーキもよくなっていたので、(今後のバイクの)改善のためにも、もっと走りたかった」
 とわずか数百メートルで終わってしまったレースを振り返った。セットアップの方向性に関して「プレシーズンから車高を下げる方向で進めてきたのは間違いだったことが、やっとわかった。今頃になって気づくのは、少し遅すぎた感があるけど」とも話した。「序盤に問題がなければ、4番手から5番手争いくらいをできていたのではないかと思う。オースティンからシーズンが始まると思いたいね」
 一方のアンドレア・ドヴィツィオーゾは、二年連続のもらい事故でリタイア。アレイシ・エスパルガロと接触した結果の転倒だが、その原因を作ったのはダニロ・ペトルッチにある、と冷静な口調ながら厳しく批判した。
「序盤から順位を上げて行けたのは良かったけれども、リアのグリップ不足で充分なスピードを発揮できなかった。それでも5番手争いをできていたものの、ダニロの乗り方のせいで多くのライダーが影響を受けた。皆それぞれのスタイルがあるとはいえ、あれは良くない。ブレーキでイン側を完全に塞いでしまうので、自分も彼に追突しそうになった。アレイシのミスから転倒する結果になってしまったけれども、アレイシがミスをする原因を作ったのはダニロなんだ」
 そして、こう締めくくった。
「大事なことはふたつ。ひとつは、今回(のリアのグリップ不足)から教訓を得ること。もうひとつは、決勝レースの戦いかた。13番グリッドから、かなり良い追い上げをできたと思う」
#5


今季のこの人は、要注目である。

#94


じつは腹痛で体調がいまいちでした。

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 さらに今回のレースでは、ヤマハサテライトチームのモンスターヤマハ Tech3でMotoGPルーキーのヨハン・ザルコとヨナス・フォルガーが、5位と6位という好リザルトで終えた。
 ザルコは前戦のカタールGPで、MotoGPデビューにもかかわらず序盤にトップを快走して皆の度肝を抜いたものの、経験不足からかフロントを切れ込ませて転倒リタイア。今回はその教訓が生きたのか、状況を見据えつつしっかりと最後まで走りきってトップファイブフィニッシュ。
「5位はマルケスやペドロサがクラッシュした結果だと思うけど、それでも14位スタートの厳しい順位から、うまくマネージして良いフィーリングで走ることができた。弱点はあったけど、チームがうまく対応してくれて、それ以外の場所ではうまく走れた。バウティスタとの戦いになった際には、彼のペースが良くてついて行けなかった。トライはしたけど、カタールの転倒があったので、今回はレースを終えることを優先した。完走したことで自信も深まった。ウィークポイントを良くしてくのは時間がかかると思うけど、がんばりたい」
 ちなみに、そのウィークポイントとは何なのかと訊ねてみると、こんな回答だった。
「立ち上がりのトラクション。旋回はいいしブレーキングから進入も良いけど、コーナーの出口でロスをしてしまうんだ」
 チームメイトのフォルガーも、今回の好結果でさらに何かを掴んだ様子である。
「レース序盤はカタールみたいに遠慮しなかったことがうまくいって、順位を落とさずにすんだ。位置をキープできたので、自信にも繋がった。タイヤの温存やマッピングの勉強にもなった。終盤にも学ぶことがあって、乗り方を少し変えることでまた速く走れるようにもなった。いろんなことを学習して、MotoGPライダーとしての自信も深まったレースだった」

#29

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厳しい結果に終わったスズキと、共に初ポイントのKTM。

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 次回は、米国テキサス州オースティンのアメリカズGP。2013年の初開催以来、マルケスが完全制覇している会場である。一方のヴィニャーレスも、ここは得意コース。このふたりがサーキット・オブ・ジ・アメリカズを舞台にいったいどのような熾烈なバトルを繰り広げるのか、いまからじつに愉しみである。というわけでまた次回。それではスティーヴィー・レイ・ヴォーンによろしく。

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決勝日は、ピリッとしない天気でした。



■2017年4月9日 
第2戦 アルゼンチンGP 
テルマス・デ・リオ・オンドサーキット
順位 No. ライダー チーム名 車両
1 #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA
2 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA
3 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA
4 #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI
5 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA
6 #94 Jonas Folger Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
7 #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI
8 #45 Scott Redding/td>

OCTO Pramac Yakhnich DUCATI
9 #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA
10 #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI
11 #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI
12 #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA
13 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI
14 #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM
15 #38 Bradley Smith Red Bull KTM Factory Racing KTM
16 #29 Andrea Iannone Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI
Not Classified #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
Not Classified #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini APRILIA
Not Classified #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
Not Classified #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini APRILIA
Not Classified #42 Alex Rins Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI
Not Classified #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
Not Classified #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI

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