2017年7月11日

KTM 1090 ADVENTURE R試乗
『オフ車としてお奨めしたい、 アドベンチャーバイク見参!』

■試乗&文:松井 勉 ■写真:KTM ■協力:KTM JAPAN http://www.ktm.com/jp/

 
 そうなのである。これはオフ車としてお奨めできるのである。KTMはこういうモデルを造らせるとどうしてこんなにスッパリ解りやすいバイク造るんだろう? 迷いがない。免許があって、オフロード好き、という人、コイツで遠出して、山、川、海が織りなす風景を見たら、人生また別の楽しみを見つけられるに違いない。そんな勢いで造られた正真正銘、旅姿ビッグエンデューロマシンなのである。

 
iK_KTM_2017-ADV-0933.jpg

 すでにお伝えした1090アドベンチャー( http://www.mr-bike.jp/?p=130506 )の兄弟モデル、1090アドベンチャーRは、よりオフロードでの走破性にフォーカスし、KTMらしさをたっぷりと封入したバイクだ。新型スモールデューク投入や、MOTO GP各クラスへの挑戦など、オンロードスポーツファンに香ばしい話題を提供するKTMだが、軸足はやっぱりこっちだね、そう思わず頷くその出来映えに、口元が緩むのである。
 
 1090アドベンチャーRは、前輪に21インチ、後輪に18インチを履き、前後とも220mmという長いストロークを持つWPサスペンションを装着。結果的に、オフロードでの走破性に欠かせない最低地上高を250mm確保。トレードオフとして、シート高は890mmと高いのが、スポーツするためのディメンションを優先するとこうなる、という機能美だととらえればこの数値は麗しい。
 
 タイヤサイズは前輪が90/90-21 、リアは150/70-18 。前輪こそ普遍的なオフ車サイズだが、後輪はワイドなサイズで、このクラス用のバイクに向けたオンオフ用タイヤからチョイスができる。今回、試乗車にはコンチネンタル製TKC80というブロックタイヤを装着していた。オフ向けにブロックハイトの高いタイヤで、舗装路30、ダート70というイメージだろうか。
 
 国内ではそのタイヤで販売する計画ということだが、タイヤの供給により変更もあるとのこと。具現化すればこれまた割り切った方向を打ち出すだろう。
 贅沢を言わせてもらえれば、3000kmも走れば後輪のライフが寂しくなるダート向けタイヤか、巧くのれば1万キロ近く持つロードコンシャスなタイヤか選択が出来ると嬉しいのだけど。
 
 クロモリ鋼管で形作られたトレリスフレームは、単体で10キロを切る重量だ。いまやKTMお馴染みのシャーシ形状といえる。そこに125psを生み出す水冷DOHC4バルブ75°Vツインエンジンを釣りさげるようにマウントする。
 このエンジンはオイルタンク別体のドライサンプ方式を採り、エンジン下部がフラット、突出がないデザインで有ることもマスの集中化やコンパクト化に貢献。前後重量バランスの最適な位置に重量物であるエンジンを搭載可能なことも、トレリスフレームとしたレイアウトの美点だ、とは以前エンジニアに教えて貰った話しだ。
 
 クラッシュバーを備えたオレンジ色のフレームがどこかタフさを強調するフレーム回り。そこに載るボディー回りは、23リットルの燃料タンクや、フェアリング、一体式ながらライダー、パッセンジャーパートで段付きになるシートなど、ダートバイク風味のデザインだ。
 跨がると、タンクの質量を感じるものの、ニーグリップエリアは細身に仕上げ、シート高890mmというスペックから想像するより足をまっすぐ落とせるシート形状で足付き感は悪くない。これは身長や体格によって印象が異なるのでこの部分の確認はディーラーで各自が確認をしてみて欲しい。
 
 肩から斜め下に腕を下ろした理想の位置に左右のグリップがあり、KTMらしくハンドルバーはそれほどワイドではない。あえて上半身を捻らなくても、左右のロックtoロックまで一体感あるままハンドルを切ることができた。
 フロントブレーキはラジアルポンプ式マスターを採用し、タッチに質感があり、実際に走らせても遊びが少ない扱いやすいものだった。パワーアシストスリッパークラッチ(PASC)を採用するクラッチレバーも操作力が軽い。
 
 大柄なバイクながら、各部の操作感、足付き感など総合的に一体感があるため動き出し前からバイク各部に神経が通うような気分になれる。これはスポーツバイクにとって大切な資質だ。
 
iK_KTM_2017-ADV-0180.jpg

 
やっぱり天性のダートマシン。

 市街地を走り、ダートの道に向かう。TKC80を履くため、アスファルトでの接地感は1090アドベンチャーのようにしっかり感があるわけではない。それでも、ハンドリングとしてはブロックタイヤながらしっかりとフロントから曲がり、アクセルを合わせればその旋回性をコントロール出来るものだった。 
 以前乗った1190スーパーアドベンチャーR(ロード系タイヤのコンチネンタルトレールアタックを履いていた)で体験した、寝るけどあまり旋回性が高まらない、というややオフ車っぽいキャラクターだったものとはことなり、おそらく前後サスのセットアップなどを煮詰めたのだろう。
 
 ツーリングでも一体感あるハンドリングをもっていたいし、この辺はTKC80だったので、コンチネンタルトレールアタックなどを履けば、さらに印象は好転するはず。
 市街地から郊外へ。そしてその先に林道のようなダートがまっていた。ハンドルスイッチでオフロードモードを選択し、スローペースから自分とのチューニングを合わせて行く。つもりだったが、スタンディングで旋回性の引き出しやすさ、3000rpmほどから6000rpmほどまでのエンジン特性がとても引き出しやすいところもあり、バイクとの距離感はコーナー毎に縮まってゆく。
 オフロードモードにすると、最高出力が100psに制限されるが、フルパワーをぶつけるほど広くも無いし、直線も長くない。全くパワー不足を感じることはない。
 
 というか、すでにトラクションコントロールが頻繁に介入する。開け過ぎて無駄にトラクションコントロールを働かせるよりも、適度な開度で維持すると、トラコンの介入はあるものの、増速感がしっかりある加速をしてくれる。それでいて、介入間隔も適度にリアを旋回に有利なようにスライドを許容するので、アンダーステアが強くて困る、ということもない。
 
 ペースを上げ、寝かすと同時にリアブレーキをコントロールすると、ABSは残っているのに慣性でスライドさせることもできる。その僅かにテールが出たアングルを維持する程度にアクセルコントロールもできる。このあたりまで引き出せると最高に楽しめるダートバイクだ。トラコン味方に付ける開け方に徹すれば、無駄な挙動を抑えた走りが楽しめる。
 
 こんな時、フロントフォークの吸収性の確かさが嬉しい。ビギニングからスムーズ。そしてしっかりと減衰圧が立ち上がる印象。だから、かまぼこ状の固い土のみちに時折バラスのような小石や埋まった岩がある道をしっかりと舐めてグリップ力を発揮してくれる。
 リアサスも、リンクを持たないがビギニングはソフトに吸収力を海だし、ストロークスピードの速さを求められる場合でも、追従性が良いのでバイクをコントロールすることに集中できる。
 
 板チョコパターンのTKC80のグリップがぐっとよくなったような印象なのも、操縦性のよいシャーシと、このサスペンション設定の恩恵だ。安心して飛ばせるし、アクセルを開けた時のリアクション、バイクの重さを利して楽しむ走りを模索できる。
 
 シフトペダルのストロークもやっぱりオフ系ブーツでちょうどよいし、リアブレーキのタッチも、踏みはじめのじわっとリアを引っ張る感じから、ABSが介入するまでの時間を調整できる。こうしたバイクとの直接対話をハイペースの中で楽しめるのがいかにもKTMらしい。スポーツしている、という歓びに心が満たされる。アスファルトながらローカルな道を100キロちょい、市街地、ダートを走った印象では、どんな場面でも一体感ある操縦性が楽しめたこと、1090アドベンチャーが見せたリッターバイクにして、この軽快さ、という走りをホイールサイズが変わっても同質のものを持っている事などから、コイツとの旅はさぞや楽しいだろう、と想像することができる。
 
 タカタカタカ、と軽く吹き上がるKTMのLC8エンジン。スペックから想像する取っつきにくさがなく、人には黙っておきたいぐらい実はフレンドリーに感じた。ハンドガードも実戦的で、しっかりコントロール系を守ってくれるだろう。本気でダートバイクとしてオススメできるツアラー。軽快さが生きる分、前後荷重バランスはしっかりとライダーが掛けてあげる必要はあるが、それでも本来の重量があるから、250ほどシビアじゃない。
 
 この手のバイクになれていて、オフ性能を求めたい、と言う人には最高のパートナーとなる一台だ。
 
(試乗・文:松井 勉)

 
ph02_iK_KTM_2017-ADV-7042.jpg

ph03_iK_KTM_2017-ADV-7048.jpg

φ320mmのディスクプレートとラジアルマウントされた対向4ピストンキャリパーを組み合わせる。フロントブレーキ。そのタッチはTKC80のようなタイヤを履いていても扱いやすいもの。ダートでの減速も初期の聞き始めからフロントフォークの減衰の立ち上がりとともに、路面を捕らえてくれるため自信を持ってコントロールができる。

ph04_iK_KTM_2017-ADV-7047.jpg

φ267mmのディスクプレートと2ピストンキャリパーを備えるリアブレーキシステム。ダートでリアを主体に使っていても、全くへこたれない。コントロール性に幅を持たせた印象で、ピーキーさが無い。ライダーの姿勢が変わっても安心して操作できるのも魅力。

ph05_iK_KTM_2017-ADV-7026.jpg

プログレッシブ・ダンピング・システムを名乗るショックユニットを装備するリアサスペンション。このPDSはリンクを持たないが、プログレッシブな特性を生みだし、パーツの削減や理想的なスイングアーム形状を生み出すなどの効果をもたらす。エンデューロモデルから使われ始めたもの。プリロードアジャスターはクリック感の明瞭なダイヤル式。伸び、圧側とも調整が可能だ。

ph06_iK_KTM_2017-ADV-7027.jpg

水冷DOHC4バルブのVツインエンジンはレスポンスの良いエンジンながら、扱いやすいトルク特性で軽快な印象ながら低回転からミドル域を多用した走りでも存分に楽しめるパワーユニットだ。先代の1050から30psアップの125psを生み出すが、無理矢理高出力を引っ張りだした気むずかしさは皆無。

ph08_iK_KTM_2017-ADV-7030.jpg

ユニークな造形のリアスイングアーム形状がよくわかる。チェーンカバーのエンドがリアホイールを取り出しやすい形状。また、ホイール脱着の時にチェーンを引っかけておく便利なホールダーを装備するなど、オフロードのKTMらしいディテールが見える。チェーンアジャスターの造形などもシンプルながら機能的。

ph09_iK_KTM_2017-ADV-7031.jpg

メーターはVDO製。左のモニターにライディングモードなどの表示をする。ハンドルスイッチ左側にある4つのメニュースイッチで選択、決定ができる。ハンドガードは樹脂製ながら肉厚でエンデューロバイク用アフターマーケット品のような頑強さを持つ。

ph10_iK_KTM_2017-ADV-7033.jpg

リアキャリア下のテールランプはLEDを光源とする。ウインカーは白熱球だ。各部にまで隙のないデザインをほどこしている。

ph11_iK_KTM_2017-ADV-7046.jpg

フレーム同色のクラッシュバーを標準装備。フレームの取材はクロモリだが、このパイプはスチール製となる。

ph12_iK_KTM_2017-ADV-7049.jpg

一体型のシートを装備する。シッティングでもスタンディングでもともにコントロールがしやすいシート形状だった。

ph13_iK_KTM_2017-ADV-7050.jpg

上下2灯式のヘッドライトはハロゲンバルブ。ライト下部にLEDのデイランニングライトを装備する。

ph14_iK_KTM_2017-ADV-7053.jpg

今回、テスト車にはアクラポビッチの純正アクセサリーのマフラーが装着されていた。低音の効いたアイドリング、回すと乾いた感じの音を奏でる。チタンアウターなのでノーマルよりも軽量かつなによりルックスがよい。

ph15_iK_KTM_2017-ADV-7051.jpg

アドベンチャーRが装備するスクリーンはやや低いもの。ボディーアクションを採っても邪魔になりにくいもの。胸あたりまでは充分にカバーする快適性を持っている。左右のレバーを緩め、高さ調整が可能。

 

iK_KTM_2017-ADV-7057.jpg

●KTM 1090 ADVENTURE R 主要諸元
■ホイールベース:1,580(±15.5)mm、最低地上高:250mm、シート高:890mm、乾燥重量:207kg■エンジン種類:水冷4ストローク75°V型2気筒、総排気量:1,050cm3、ボア×ストローク:103×63mm、最高出力:92kw、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:23L、変速機形式:常時噛合式6速リターン■フレーム形式:クロモリ鋼製トレリスフレーム、キャスター角:64°、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク、懸架方式(前×後):WP製倒立φ48㎜ × WP-PDSモノショック

 


| 『KTM 1090 ADVENTURE/1290 SUPER ADVENTURE S試乗』のページへ(PCサイトへ移動します) |

| KTM JAPANのWEBサイトへ(外部のサイトへ移動します) |