2017年7月31日

バイアスか、ラジアルか。ツーリングなのか、サーキットなのか。『250ユーザーは幸せ者だ!』

 
タイヤの選択肢はたくさんあれど、250ccクラスなら銘柄の選択以前に、ほとんどのモデルが純正装着しているバイアスか、それともアフターマーケットのラジアルかという選択肢が、まず用意されている。地面と接する唯一のパーツであるタイヤ、これの交換はバイクの性格を大きく変える可能性を持つ。そんな体験をさせてくれたDUNLOPの試乗会からレポート!

 

■試乗・文:ノア セレン ■撮影:依田 麗
■協力:ダンロップ DUNLOP Rider’s Navi

バイアスとラジアルを選べるという幸せ

 趣味としてのバイク、という意味では、良くも悪くも業界は大型二輪車へと傾倒しているように思える。がしかし、雑誌などでいくら大型車がもてはやされようとも、新車販売台数で元気なのは250ccクラスだ。大きなバイクが億劫になったリターンライダーも、そしてこれからバイクライフを始めていくヤングライダーも、はたまた経済的優位性という点に着目する人もいてか、とにかく250ccが元気なのだ。
 そのおかげもあって、250ccクラスはアフターパーツや消耗品関係のラインナップも充実の一途をたどり、それにより実用性、経済性を中心とした商品だけでなく趣味性もさらに高める商品も増えてきていると言える。
 中でもタイヤだが、多くの大型モデルが高価な幅広ラジアルタイヤを装着するのに対し、250ccクラススポーツモデルのほとんどは出荷時タイヤがバイアス。これは廉価という面もあるが、しかし250ccクラスのパワーや車重、主な使われ方を考えると必要にして十分という理由での採用だろう。
 
 ところが多くの250ccスポーツが装着しているフロント110、リア140サイズ(いずれも17インチ径)のタイヤは、実は今非常にラインナップが豊富になっているのだ。ベーシックなツーリングモデルから超がつくハイグリップモデルまであり、そしてさらにラジアルタイヤもバイアスタイヤも用意されているため悩ましいほどの選択肢がある。これはある意味大型車種よりも選ぶ楽しみがあるというもの。バイクの性格を大きく変えることができる消耗品であるタイヤでこれだけ遊べる排気量帯もないだろう。
 
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そもそも何が違うのか。

 ラジアルとバイアス、一体何が違うのか。大まかに言えば、バイアスは内部を構成するベルト、カーカスが斜めに張り合わされているのに対し、ラジアルは進行方向に対してほぼ垂直に張られている上にベルトで締め付けている、という構造上の違いがある。しかしこれは時代によってさまざまで、「ラジアルっぽいバイアス」だとか「バイアスっぽいラジアル」といったイレギュラーも起きる。今回試乗できたダンロップのラジアルタイヤα-14のベルトは、実は垂直には張られていない。いくらか斜めなのだから、バイアスっぽい性格付けがされているわけだ。もちろん、これだけでタイヤの性格が決定づけられるわけではないが、事実ダンロップでは「バイアスらしい素直さ」をラジアルタイヤにも求めているのだから、あながち外れているわけでもない。
 
 日進月歩で様々な変更が行われている構造について詳しく知ることももちろん面白いが、書き始めたら終わりがなさそうなので、大まかな外枠を非常に簡潔にまとめよう。
 
・バイアスは、操作感が軽くて、万能で、いい意味でファジーさがあり、そして安価。
・ラジアルは、手応えがあり、限界域が高く、大きな入力に対してのレスポンスが良い、そして高価。
 
 250ccクラスのこういったタイヤにおいては、こんな感じの認識でほぼ間違いないだろう。もちろん、さらにその先にバイアス/ラジアルそれぞれの中での銘柄の違いもあるが。
 

ダンロップにより試乗の機会が設けられた

 各社ともこのクラスのタイヤには力を入れているが、特にダンロップは5ブランドも展開するほどである。バイアスではスタンダードなGT601と、よりハイグリップなTT900GP、ラジアルではスタンダードなGPR300とスポーティなα-14と、さらにサーキットに特化したα-13SPである。
 今回の試乗は同一車種に別銘柄のタイヤを装着したという、まさに同条件下で比較ができるという贅沢なものとなった。試すことができたのはGT601とGPR300、そしてα-14だ。試乗車両はYZF-R25(及び3)、MT-25(及び03)、CBR250R、VTR250であり、市街地を想定したコースでの試乗となった。限られた時間の中で、MTシリーズ及びVTRでの比較試乗となったのだが、その印象をレポートしよう。
 

MTでは大きく違うと感じた3銘柄

 最初に走り出したのは、スタンダードなバイアスGT601を装着したMT-03。250ccの車体に320ccエンジンを搭載したこのバイクの速さにまずは驚き、タイヤとは関係ない所で申し訳ないが、改めて良いバイクだな、などと感心する。
 GT601の印象は、いい意味でとても普通だ。250cc(クラスの車体)に良く合った性格で、気負わず走り出せて舵の入り方や取り回しに一切の違和感がない。ペースを上げていくとフロントが特にヒラヒラしていて軽快なことに気付く。このクラスのバイクを振り回すには好都合で、ライダーが思いのままに操っている印象が強い。
 一方でフロントの軽さは逆に捉えれば接地感の薄さと受け取れてしまうこともあるかもしれない。接地面積が少なく感じ、試乗当日はとても気温が高かったためグリップは申し分なかったものの、より気温が低い場面だったならもう少し路面をしっかりと捉えているような手応えを感じられた方が、より高い安心感を得られる人もいることだろう。
 

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スタンダードなバイアスタイヤ、GT601は素直で軽快な操作性が魅力。ショック吸収性も高く乗り心地も追及されているため、万能タイヤとして魅力的だ。価格も抑えられているため、純正からのリプレイスタイヤとしては第一候補となるだろう。ダンロップではバイアスカテゴリーにこの他TT900GPというハイグリップモデルもラインナップする。


 
 次にGPR300を履いたMTに乗り換える。これが全く違う操作性をもっていて驚かされた。ネットリと路面に吸い付いていて、軽快なGT601から乗り換えると非常に寝かし込みにくいという第一印象。軽快さをウリにしているGPR300だが、バイアスに比べるとしっかりとした手応えがあり、走り始めてすぐは、フロントはハンドルが重く、リアは直立したがる印象が強かった。GT601の軽快さを楽しんでいた直後だけに、GPR300はよく言えば落ち着いていて、悪く言えば寝かし込みにくく、鈍重な印象となったのだが、しばらく走っているとマイナスに思えていた面がそう感じなくなるのだから不思議である。
 重ったるいと思ったフロントはむしろあらゆるバンク角でしっかりと路面を捉えているように感じられるようになり、慣れてくるとリアも自然に曲がってくれるようになった。このドッシリとした印象は安心感につながり、まるでもっと大きな排気量のモデルに乗っているかのよう。そのシットリ・ドッシリとした操作性は、スポーティさよりもあらゆる場面での変わらぬ操作感を求めるツーリングシーンなどでは、GT601よりも適している場面が容易に想像できた。
 
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ラジアルタイヤの中で、スタンダードな位置づけとなるGPR300。軽快な乗り心地とロングライフを謳うが、今回の試乗ではGT601に比べるとドッシリとした安定感が目立った。乗り始めは寝かし込みにくいと感じることもあるかもしれないが、慣れるとそれがクラスを超えた安定感に感じるはずで、ツーリングシーンに向くのではないかと感じる。


 
 最後にα-14なのだが、さすがハイエンドタイヤである。直立状態からスッと寝かせる領域ではバイアスのような軽快感があるのに、バンクしてバイクが旋回を始める領域になるとラジアルらしい手ごたえがあり、接地面に高い負荷をかけていける自信を持たせてくれる。今回は市街地を想定したコースだったわけだが、こういう場面でもその良さはわかったのだから、一般ライダーにとってはハードルが高いこともあるサーキット走行などしなくても、この高い技術が詰め込まれたタイヤの良さを楽しめることだろう。
 
 こうして3銘柄を直接乗り比べたところ、オールマイティに使いたいのなら純正装着相当のGT601で全く問題なく、ツーリングシーンなどで250ccのクラスを超えたドッシリとした安定感やそれがもたらす安心感を求めるならGPR300、そしてハイエンドタイヤとは何たるかを知り、最新のタイヤ技術をしっかりと楽しみたいのならα-14という結論であった。もちろん、α-14に向かうにしたがって値段は高くなり、ライフも同銘柄の前モデルに対して伸びているとはいえ相対的に短い。よってラジアルに、そしてラジアルの中でもハイエンドなものを選ぶならそれと引き換えに価格やライフを失うのはトレードオフとして仕方がないことだ。しかしそれを踏まえて、タイヤ一つで自分のバイクがこれほど変わるんだ、という経験は面白い経験となるはずだ。カスタムパーツの装着などよりも明確に変化が楽しめる変更になることだろう。
 
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ハイパースポーツと名付けられ、サーキット走行会も許容するドライグリップを確保するα14は、前作α13からライフを伸ばしたのも魅力的な進歩。本日試乗の他銘柄に比べ軽いハンドリング、そしてバンク中の確かなグリップ力が印象的だった。サーキットでタイムを追求するなら、α13SPというモデルも用意されている。

 
意外と変わらなかったVTR

 MTと同じように、VTRでも3銘柄を順に試乗したのだが、これが不思議とMTほどの差が感じられなかった。特にMTではGT601とGPR300ではまるで違う性格だったのに、VTRではほぼ違和感なく乗り換えられたのが意外だ。車体の姿勢やディメンションなどによって、タイヤ銘柄を換えてもそれほどハンドリングに影響しないモデルもある、という証明にもなったように思うが、いずれのタイヤ銘柄でも変わらず気持ちよく乗れるのは熟成を極めているVTRの車体の性格によるところも大きいのかもしれない。
 そんなVTRでも、α-14ではやはり差が感じられ、ヒラリと切り返して、深いバンク角でビタッとした接地感を感じながら積極的にアクセルを開けていける感覚は明らかに上だ。VTRオーナーに限らず、車種によってはタイヤ銘柄の差はあまり明確にならないかもしれないが、それでもハイエンドはやっぱりスゴイ、というわけだ。

なくなってから、ではなく、減ってきたら

 タイヤ交換によるバイクの性格の変化を感じるは、実は一般ライダーにとって難しい。というのは、タイヤ交換をするタイミングというのは大抵、これまで履いてきたタイヤが摩耗した時だからだ。摩耗したタイヤから新品タイヤに交換すれば、その銘柄に関わらず「凄く良い!」と感じるのは自然なこと。特に銘柄によっては偏摩耗がハンドリングに影響することも多いため、完全にすり減ってしまう前に、なんだか乗りにくくなったな、と思った頃に交換するのがベストだろう。手放しした時にハンドルがフルフルと触れたりするのも偏摩耗のサイン。タイヤの交換時期だ。その際にせっかくなのだから他の銘柄も楽しんでいただけたらと思う。タイヤ交換は大掛かりなカスタムのように、一度やってしまったら後には引けない、という性格のものではなく、たとえ新たに試した銘柄が好みでなくとも、意外とすぐに慣れて「これも良いかも」と思えることが多いし、たとえそうでなくとも数千キロ我慢すればまた交換してしまう消耗品なのだ。気軽に遊べるバイクのカスタムと捉えて欲しい。
 
 最初に書いたが、どんなに素晴らしいバイクでも路面と接しているのはタイヤだけなのだ。ここは決してケチってはいけない部分。予算に合わないのならバイアスでもいいし、ベーシックな銘柄でもいい。安全のために、決しておろそかにして欲しくない消耗品である。
 
 なお、タイヤの空気圧はとても大切なこと。バイクの操作性が「何かヘン」と思ったらまずは空気圧を見ることをお忘れなく。
 

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■ノア セレン■
タイヤこそバイクの部品の中で最も大切だと思い、普段からタイヤが大好きな二輪雑誌ライター。「ハイエンドなタイヤにはもちろん魅力もあるが、一方でベーシックタイヤも十分楽しめると再認識。とにかくタイヤはケチらず、スタンダードな銘柄でも良いのでフレッシュなものを装着してほしい」。

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