2017年12月29日

2017 EICMAを振り返る Part2 海外メーカー編 Vol.2 『ARCHやBrough Superior、 話題のVinsにも注目したい!』

■レポート&写真:河野正士

 
 2017EICMAの振り返り。今回は海外メーカー編の第2弾。すこしマニアックなブランドも入れてみました。日本では馴染みのないメーカーも多いですが、こういった車両を生で見ることができ、また開発者などから直接話が聞けるのも、EICMAの楽しみでもあるのです。

■ARCH MOTORCYCLE

 米国カリフォルニアがベースのアーチ・モーターサイクル。俳優キアヌ・リーブスが参画しているブランドとして、日本でもさまざまなメディアで取り上げられていますね。キアヌは、アーチ・モーターサイクルのプロモーションのために2015年に来日した際、鈴鹿8耐に出向き、予選やイベントが行われている合間をぬって、同ブランド初のプロダクト「KRGT-1」に乗って鈴鹿サーキットを走りました。
 
 プレスカンファレンスにはキアヌ自身がブースにいたようですが、大混雑が予想されたので、カンファレンス翌日にブースに伺いました。そしてマーケティング担当のヒースさんに話を聞くことができました。

01_Arch_J0A1097.jpg

アーチ・モーターサイクルは、このEICMAをもってヨーロッパ初上陸。それにあわせ排気量2032ccのVツインエンジンを搭載するファーストプロダクト「KRGT-1」のユーロ4規制をクリアした2018モデル、その発展型でありアルミフレームやアルミ&カーボン製タンク、新デザインのカーボンホイールなどを採用した「1S」、そして排気量2343ccの新型エンジンを搭載した新型&限定モデル「METHOD143」を発表しました。


 
 アーチ・モーターサイクルは、キアヌ・リーブスが起ち上げたラグジュアリーなバイクブランド、というイメージですが、マーケティング担当ヒースさんは、それだけじゃないと言います。彼らはクラフトマンシップとテクノロジーにこだわり、専用の開発スタッフが日夜マシンをブラッシュアップしているそうです。またバイクである以上スポーティでなければならない、と言うことを信条に、パフォーマンスも磨きに磨いているそうです。

02_Arch_J0A1093.jpg
 
03_Arch_J0A1106.jpg
 
04_Arch_J0A1115.jpg
 
05_Arch_J0A1140.jpg
 

06_Arch_J0A1136.jpg

こちらが「METHOD143」。23台限定のスペシャルモデルです。フレームはカーボン製一体型。シート下のピボット周り&リアサス取付位置周りがアルミ製となっています。スイングアームはアーチがデザインし、Moto2マシンの製作などで知られるスッターが製作を手掛けたアルミ削り出しの片持ちタイプ。それをカーボンでカバーしています。また一体型のタンクカバー&シートカバーはアルミ削り出しとレザーのレイヤード構造。ヘッドライト脇はエアダクトになっています。


 
07_Arch_J0A1175.jpg
 
08_Arch_J0A1124.jpg

メインスイッチは、なんとiPhoneと専用アプリです。専用アカウントでログイン状態にあるiPhoneを車体にセットするとエンジン始動準備OKです。専用アプリには、インジケーター機能やナビ機能など、多彩なメニューが用意されています。


 
09_Arch_J0A1166.jpg
 
10_Arch_J0A1172.jpg

こちらがオーナーKIT。専用のエマージェンシーキーやセッティング変更ツール、サービスマニュアルなどもセットされています。また納車後にプロ写真家がオーナーと車両を撮影。それをフォトブックにして提供するといいます。彼ら曰く、我々はバイクメーカーであると同時にコミュニケーションカンパニーだ、と。オーナーに、アーチ・モーターサイクルのプロダクトを使ってリッチな体験をしてもらい、それを共有する。それによってブランド力やブランドイメージを作り上げていきたいと、語っていました。


 

■Royal Enfield

 欧州のカスタム系イベントに行くと、かなりの頻度で遭遇するロイヤルエンフィールドのオフィシャルブース。アーティストを絡めたアートエキシビションを開催していたり、ビルダーたちと組んで新しいカスタムバイクを製作していたりと、積極的にカスタムシーンにアプローチしています。
 
 そのロイヤルエンフィールドは、新設計の空冷SOHC2気筒648ccエンジンを搭載した2つのモデルを発表しました。それがアップハンドルにダブルシートを装着した「インターセプターINT650」と、セパレートハンドルにシングルシートを装着した「コンチネンタルGT650」です。
 
11_Enfield_J0A8189.jpg
 
14_Enfield_J0A8196.jpg
 
15_Enfield_J0A8194.jpg
 

16_Enfield_J0A8179.jpg

こちらが「インターセプターINT650」。ダブルクレードルの新設計フレームに、新設計の2気筒エンジンを搭載した、まさにバイクらしいバイクでした。


 
18_Enfield_J0A8144.jpg
 
19_Enfield_J0A8149.jpg

こちらが新設計された空冷SOHC2気筒648ccエンジン。270度クランクを採用、バランサーも内蔵されています。丸みを帯びたケースカバー類もイイ感じですね。


 
20_Enfield_J0A8187.jpg
 
21_Enfield_J0A8203.jpg
 
22_Enfield_J0A8204.jpg
 
23_Enfield_J0A8211.jpg
 
24_Enfield_J0A8217.jpg

「コンチネンタルGT650」。ここまでド直球なカフェスタイル、気持ちが良いです。そして格好いいです。


 

■MotoGuzzi

 コンセプトモデルとして発表された「コンセプトV85」、なんでこのまま、いますぐ市販しちゃわないの?と思ってしまいました。最初、またV7シリーズのプラットフォームを使ったバリエーションモデルか……と思ったのですが、フレームが新作されていることでテンションが上がりました。ここのところ、V7系の古いプラットフォームを使ったバリエーションモデルか、1400ccエンジンをベースにした極端に新しい&大柄なモデルの発表ばかりが続いたモトグッツィ。ぼちぼち新しいトピックスが欲しいと思っていたタイミングにピタリと合ったのです。
 
 同排気量の、ライバルメーカーがラインナップするアドベンチャーモデルとは違い、どこかビンテージ感のあるスタイルを採用した「コンセプトV85」。欧州は近年、ビンテージエンデューロ系(ラリー系含む)モデルやイベントの人気が高まっているだけに、そんなトレンドをキャッチしたのでしょうか。
 
25_Guzzi_J0A2278.jpg
 
26_Guzzi_J0A2288.jpg
 
27_Guzzi_J0A2297.jpg
 
28_Guzzi_J0A2346.jpg
 

29_Guzzi_J0A2348.jpg

現行V7シリーズやV9シリーズは、1980年代から続くスモールブロックVツインエンジン搭載モデルのフレーム形式を継承してきました。見た目で分かりやすく言うと、ステアリングヘッド下側からシートレールエンドまで、直線的に伸びる水平基調のフレームが特徴でした。そのシート下部分にコの字型のフレームが追加され、それがミッションケース上のケースハンガーとなっていました。しかしこの「コンセプトV85」用フレームは直線基調だったフレームが複雑に曲線を形成し、シート下にはレの字型フレームが追加されています。どちらかというと日本には導入されなかった「940ベラージオ」に近い、と感じました。いずれにしても、楽しみです。


 

■Moto Morini

 イタリアの老舗ブランドであるモトモリーニも、ネオクラシック系に参入です。今回のEICMAでロードスターモデルの「ミラノ」、スクランブラーモデルの「スクランブラー」を発表。2018年春の市販化を目指し、現在開発を進めているそうです。
 
 デザインを担当したのはエンジェル・ルシアーノ。2015年のEICMAで、発表されたばかりのカワサキNinja H2をベースに、未来的なデザインコンセプトモデル<http://www.mr-bike.jp/?p=108285>を発表していた、あの人物だったのです。そのエンジェルさんにインタビューすることができました。
 

30_Morini_J0A9241.jpg

’70年代初頭に登場したモトモリーニ・31/2(トレ・エ・メッツォ)は、イタリアン・デザインによるスポーツバイクのアイコン的存在。それをコピーするのではなく、その雰囲気を感じながらも、新しいテクノロジーによるライディングフィーリングを表現するデザインを心がけた。


 
『自分はデザインを手掛ける前に、そのバイクに徹底的に乗り込む。今回も街乗りからワインディング、ツーリングまで、あらゆるシチューションで、モトモリーニ社の車両にたっぷりと乗り込み、その後デザインに取りかかった。その結果がこの2台だ。すべてのディテールを美しく仕上げることができた。
 
 エンジンとフレームの一部は現行モリーニの1200ccモデルと同じ。しかしスイングアームは、スチール製のトレリス型スイングアームへと変更。コルサーロ1200に比べスイングアーム長を30mm以上延長している。クイックなハンドリングを求めたコルサーロ1200に対し、車体の反応を穏やかにすることで快適な乗り心地を求めた。足回りの変更に合わせサスペンションセッティングを変更。現在はプロトタイプであるため、その詳細は決定していないが、製品化に向け、これから細部をつめていく。スタイリングに関しては、このプロトタイプと製品の差はほとんど無いだろう。またモトモリーニは手作りを信条としているが、そのフィロソフィーを受け継ぎタンクはアルミから、シートは本革とアルカンターラから製作している。
 
 ロードスターであるミラノに対し、「スクランブラー」はコインの裏側のような存在。より気楽に乗ることができるスタイルを目指した。「ミラノ」ではエレガントさを追求し、「スクランブラー」では気軽さ/カジュアルさを強調した。
 
 じつは自分が若いとき、トレ・エ・メッツォに乗っていたことがある。だからかつてのモトモリーニの姿も、新しいモリーニの姿もすぐにイメージすることができた。それに自分はイタリア人だ。イタリア人にとってモトモリーニは重要なブランドであり、そのブランドとともに新しいプロジェクトに携われたことに大いなる喜びを感じている。さらに、ここで発表した2台のバイクを見るために多くの人がブースを訪れ、たくさんの写真を撮り、みな笑顔になっている。これ以上の喜びはない。』(エンジェル・ルシアーノ)
 
31_Morini_J0A9247.jpg
 
32_Morini_J0A9267.jpg
 
33_Morini_J0A9233.jpg
 
34_Morini_J0A9296.jpg
 
5_Morini_J0A9299.jpg

ロードスターモデルの「ミラノ」。エンジンやフレームは、モトモリーニ社の車両が採用する87度V型2気筒1187ccエンジンとトレリスフレームを継承。スイングアーム周りとともに、ボディワークを一新しています。


 
36_Morini_J0A9269.jpg
 
37_Morini_J0A9275.jpg
 
38_Morini_J0A9290.jpg

スクランブラーモデルの「スクランブラー」。エンジンやシャシー周りを含むプラットフォームは「ミラノ」と同じです。


 

■Norton

 ノートンも格好良かったですね。新型2気筒エンジンモデルであるコマンド921が日本でも人気ですね。でも、僕が注目したのは2017年のマン島TTマシン/SG6とDNAをともにするストリートモデル「V4RR」ですね。昨年、ノートンのマン島レーサー/SG5はアプリリア製のエンジンを使用していました。しかしSG6は「V4RR」がベース。新型のアルミフレームに、自社製の新型オリジナルV4エンジンを搭載。2017年マン島TTスーパーバイククラスで7位&8位でフィニッシュしています。
 

39_Norton_J0A1804.jpg

「V4RR」。ボディは写真のカーボンタイプのほか、全身鏡のようなクロームタイプもラインナップされるようです。


 
40_Norton_J0A1834.jpg

こちらもニューモデル。コマンド921をベースにしたクルーザーモデル「コマンド921カリフォルニア」。プルバックしたハンドルに、1970年代にアメリカで流行したボートテイルを採用しています。


 

■Brough Superior

 新生ブラフシューペリアのスタンダードモデルである「SS1000MK1」は、3年間の開発の後に生産がスタートし、2016年後半から2017年にかけてデリバリーされたようです。今年のEICMAではユーロ4に対応し、ABSも装備した2018年モデル「SS1000MK2」を発表。また新型車「ペンディンMK1」を発表しました。いや、ずっと見ていても飽きないほど、美しいです。
 
41_Superior_J0A2004.jpg
 

44_Superior_J0A1966.jpg

「ペンディンMK1」。SS1000MK2をベースに、新設計の片側リアショックのスイングアームやフロント:19インチ/リア17インチの前後ホイールを採用し、ポジションやエキゾースト形状を変更。スポーツ仕様の「S」と、デザート仕様の「D」がラインナップされています。ウェールズにあるペンディン海岸は、かつて最高速チャレンジが行われていたサンドコース(ウェールズTTと呼ばれていたそうです)。ブラフシューペリアの創始者であるジョージ・ブラフは、そこでのレースに熱中していたそう。この車名は、そこに地にちなんで名付けられています。


 
45_Superior_J0A2000.jpg
 
46_Superior_J0A2055.jpg

ユーロ4に対応した2018年モデル「SS1000MK2」です。アクセサリーやオプションパーツの装着、また個別のスペシャルなオーダーにも応えるビスポークサービスを行っているそうです。


 

■Vins Motors

 偶然見つけたヴィンス。EICMA終了後、各国のメディアで取り上げられていますね。それもそのはず。ヴィンスが造り上げたのは、オリジナルのカーボンモノコックフレームに、ダブルウィッシュボーン・フロントサスペンション、フォーミュラーカーなどが採用するパラレルサスペンションをスイングアーム上にセットしたリアサスペンションを採用したオリジナルマシン。しかもオリジナルの2ストロークV型2気筒エンジンも搭載しています。Duecinquanta(デゥエ・チンクアンタ/250みたいな意味でしょうか)と名付けられたマシンは、排気量が異なるストリート用とレーストラック用の2モデルをラインナップしています。
 
47_Vins_J0A2522.jpg
 
 そしてオーナーであり、デザイナーであり、エンジニアであるヴィンチェンツォ・マッティアにインタビューすることができました。
 
『フェラーリ社を辞め、すべてのコストと時間をこのプロジェクトに捧げてきた。そして約6ヶ月前にファクトリーを起ち上げたが、それまでは自宅のガレージとコンピューターのみで、プロジェクトを進めていた。そう、僕のヒーローであるジョン・ブリッテンと同じだ。ホンダの創始者である本田宗一郎も、同じく僕が目標とする人物だ。彼らは自分を信じ、前に進んでいくと決意した人たち。だから自分も、そうやって前に進むことを選んだ。失敗を含めたそこでの経験は、じつに素晴らしいものだった。
 
 ボディはフレームを兼ねたカーボン製モノコックシャーシ。航空機用ボディと同じ構造で製作している。そしてフロントから取り入れた走行風はエアインテークに導入するとともに、ボディ内を通ってリアに抜く、航空機のダクトのような構造になっている。ボディ内の形状を造り込むことで、走行風を利用しダウンフォースを得ることができる。それによってスタビリティーを向上させることができるのだ。その構造を確立したことで、高い剛性を保ちながらボディも軽量に仕上げられた。重量は85kgだ。
 
 フロントは、四輪のダブルウィッシュボーンのようなサスペンションシステムを採用。またリアサスペンションは”パラレルサスペンション”というフォーミュラーカーにも採用されるサスペンションシステムを採用している。スイングアームが上下したとき、スイングアームから伸びたロッドが、スイングアーム上/ピポット上部に設置したリアサスペンションユニットを、同タイミングで、左右から押し縮める構造だ。
 
 わずかな排気量差でレーストラック用とストリート用の2つのエンジンを用意した。より負担が掛かるレーシングエンジンでは、わずかでも排気量を上げることでエンジンの耐久性や信頼性を高めることができるからだ。
 
 新たに2ストロークエンジンを造り上げるのは、あらゆる面でチャレンジだった。とくに排気ガスのレギュレーションをクリアするのは非常に難しい。じつはストリート用エンジンに関して、まだはユーロ4のレギュレーションはクリアできていない。しかしいまのところ、その前である段階の耐久テストや、メンテナンスポイントの洗い出しとメンテナンスサイクルに関するテストを終えることを優先している。もちろん2ストロークエンジンらしい、軽量ハイパワーを維持したままで、だ。ハイパワーと信頼性を維持したまま、高性能な2ストロークエンジンでユーロ4をクリアするのは容易ではないが、不可能では無い。』(ヴィンチェンツォ・マッティア)
 
49_Vins_J0A2520.jpg
 
50_Vins_J0A2537.jpg
 
51_Vins_J0A2480.jpg
 
52_Vins_J0A2517.jpg
 

53_Vins_J0A2534.jpg

「Duecinquanta/デゥエ・チンクアンタ(ストリート仕様車)」。排気量249cc。2018年春に販売することを目標に、現在、市販化に向けた最終段階の開発を行っている。価格は40000ユーロ(約533万円)、約20台を生産予定。すべてハンドメイドであり、その技術はフェラーリで学んだもの。製品はフェラーリ・クオリティで製造するそうです。


 
54_Vins_J0A2491.jpg
 
55_Vins_J0A2484.jpg
 
56_Vins_J0A2589.jpg
 
57_Vins_J0A2594.jpg

ダブルウィッシュボーンタイプのフロントサスペンション。ふたつのウィッシュボーンを支えるボディ側は下段の2つの写真のように、アルミキャスティングパーツを製作し使用している。


 
58_Vins_J0A2501.jpg
 
59_Vins_J0A2505.jpg

スイングアーム上にセットされたリアサスペンション。サスペンションユニットの左右マウント部分には、ロッカーアームのようなリンクを介しています。一般的なモノショックシステムの場合、スイングアームピポッド付近にサスペンションユニットの装着スペースを確保する必要があり、そのために構造が複雑化&重量が増えてしまう。この”パラレルサスペンション”を採用することでピボット周りをシンプル&軽量に仕上げられたそうです。スイングアームもカーボン製。


 
61_Vins_J0A2566.jpg
 
62_Vins_J0A2557.jpg
 
63_Vins_J0A2572.jpg
 
64_Vins_J0A2560.jpg

「Duecinquanta Competizione/デゥエ・チンクアンタ・コンペティツィオーネ(レーストラック仕様車)」。排気量288cc。製造方法やクオリティは、ストリートモデルと同様。生産台数も約20台。価格は50000ユーロ(約633万円)を予定しているそうです。


 
 次回に続きます。もう少し、お付き合い下さい!



| 『2017EICMA/ミラノショー速報!』HONDA/YAMAHA編へ |


| 『2017EICMA/ミラノショー速報!』DUCATI編へ |


| 『2017 EICMAを振り返る Part1』国内メーカー編へ |


| 『2017 EICMAを振り返る Part2』海外メーカー編 Vol.1へ |